全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十八部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 戦え 第八章
御堂祐樹が真剣な顔をしている。
許嫁としてではなく、妹からの切実な願いなので心に届いたのかもしれない。
「まあまあ、あの時の俺にいろいろあるかもしれない。だが、ここは命のかかった時なんだ。そう簡単に結論を出すべきではない」
などと修二さんが慌てて先送りの話を始めた。
ああ、結局は逃げる気だったんだなと真面目に思う。
もちろん、皆にはスルーされていた。
「兄さんはあの時の兄さんのままでいてほしい。いろいろとあり過ぎて逃げる癖がついてしまったけど、それは兄さんの本質じゃないと思う」
そうミツキさんが話す。
昔を懐かしむような、そんな顔だ。
昔の兄を思い出して、憧憬すら感じている目をしていた。
「……それは、貴方をはじめ、いろんな女性が追っかけるからでは……ぐぼぅぅぅうううぉぉおぉぉおおぉ! 」
などと一条和馬が余計な事をささやくと同時に、ミツキさんが憧憬を浮かべた表情で御堂祐樹を見たまま、そちらを見ずに下に落ちていた木切れを蹴って一条和馬の腹に当てたので悶絶していた。
恐ろしや。
「まあまあまあ、落ち着け」
そう修二さんが間に入るが、御堂祐樹とミツキさんは完全にスルーしている。
間に入っているのに見えていないような扱いだ。
「私は、時間を止めた無敵の鉄のゴーレムは便利だけど、そんなのに頼る兄さんは見たくない」
ミツキさんの言葉で空気が変わった。
御堂祐樹がまるで眠っていた猛獣が起きたような顔をした。
「多分、前に兄さんで見ていて思ったけど、兄さんの分身も役目を終えたら魂として兄さんに戻っていた。だから、私たちも倒せば自分の方向性が決まるから一つに戻ると思うの」
ミツキさんが淡々と続ける。
なんという複雑な話だ。
方向性が違うと分離して自分同士で戦って決めるって事か?
「戻っちゃうんだ……」
涼月東も同感なのか呟いた。
その戦いに巻き込まれる自分達を考えると悲しい。
「なるほどなぁ。仕組みがどうなっているかどうか知らないが、修二さんが戦わないのは、戦うを選択した自分と戦わないで逃げる自分が分離したのかもしれないな」
などとアポリトさんが呟いた。
なるほど、それならばここにいる修二さんが戦うを選択しないよなと皆がなんとなく納得した。
「つまり、もう一人のミツキは自分たちで何とかするから、俺はもう一人の親父を倒せって事か? 」
御堂祐樹が真剣な顔で聞くと、ミツキさんが優しくほほ笑んで頷いた。
こんな表情のミツキさんを見たことが無かったから驚いた。
「わかった。確かに、ここで半身で無いのは俺だけだからな。そういう意味では唯一のオリジナルだ。だから、俺が親父を倒そう」
御堂祐樹が真顔で答えて笑った。
「えええ……」
修二さんが横で凄い顔している。
でも、それしかないと思うんだが。
『ありがとう。ミツキさん』
光の混沌の女神様の赤ちゃんがそうテレパスで感激したように話す。
分岐した世界ではミツキさんが倒したとか聞くが、そういうのは関係なしで、御堂祐樹に決心させたのは凄い。
「ええええええ? 本気で倒すのかい? 」
「いや、義兄は俺と二人で隠れて見ていよう。息子の旅立ちじゃないか」
などと動揺する修二さんを心の師匠のカルロス一世が引き離した。
「待て待て待て、多分、どちらも強いって……勢いだけでやるんじゃない? アトラなら最強クラスだし、もう一人の俺も最強クラスのサヨ母さんを倒しているし。ここは様子見してだな、相手の隙を狙うべきだと俺は思うぞ? 」
それでも足掻く修二さんだったが、祝融さんも修二さんのもう片方の肩を持って、引きずって連れていく。
「こういうのって、普通、父親は子供の成長を見守るとかそういうポジションなんじゃないですかね? 」
などと涼月東が呆れたように囁いた。
「でも、ああいう人だしね」
そう俺が答える。
実際にそうだから、どうしょうもない。
しかし、それにしても、やっと……御堂祐樹が戦う方向へ動いた。
これで大きく進展するかもしれない。
ようやく、終わりに向かうなら良いなぁと……。




