全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十七部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 赤子の光の混沌の女神様 第五章
特級呪物よりも特級なものを修二さんは出したのだ。
婚姻届け。
それはたった一つの許嫁達の皆が欲しがるもの。
決して、獅子の軍団は好きで全員が一夫多妻を受け入れているのではない。
あくまで妥協の結果であった。
それを壊してしまうような特級呪物。
『貴方は! 貴方は自分が何をしたのか分かっているのですか? 』
あまりの事に半狂乱になったように光の混沌の女神様の赤ちゃんが叫ぶ。
「いや、一人嫁さんを増やすだけじゃないですか? 」
などと修二さんが笑う。
修二さんは一夫多妻ではない一夫一妻の婚姻届けを見せる自体が間違っているのに気が付いていない。
だが、その馬鹿な行為によって、獅子の軍団の協調性が壊れた。
妥協の産物として獅子の軍団であった許嫁達に、その婚姻届けが亀裂を与えたようなものだ。
一人で御堂祐樹と結婚したらいいじゃんと。
「怖い怖い怖い! 」
「ひぃぃぃぃっ! 」
次々と他の皆から悲鳴が上がる。
確かに、一夫多妻になれたヤマトの皇族はそれほどでもないが、ここにはそうではない大妃さんやゼブさんや龍女さんや燐女さんがいる。
この馬鹿な人は彼らの前にこんな答えもあるよって感じで見せてしまったに等しい。
別に一夫多妻じゃなくても良いじゃん、独り占めしちゃえよと囁いている超特級呪物である。
妥協として我慢している者もいるのに、気がつけよ、この馬鹿と許嫁達以外の皆の目が言っている。
一度世界を全く無意識で破壊した男は沢山の経験を積んだはずなのに、全然変わらず同じことをしやがった。
空気が読めないもほどがある。
「いやいや、一人増やすだけじゃん。それで戦わずに済むんだから……」
などと火に油を注ぐような事を修二さんが微笑んで話す。
駄目だ、この人。
空気が一夫多妻を妥協しているような時に出すならともかく、そうでない時に出して、強烈に別の事を考えている者が現れてしまった。
「何、考えてんですかね……」
涼月東が呻く。
それは同感だ。
何という獅子の威圧感。
全部ではないが、数名がそういう空気に変わった途端に、反射的に彼女たちは同じように同調し始めた。
まるで弱肉強食を思い出した混沌の女神様の後継者の少女の魂が導くように。
凄まじい殺気が殺気を呼んで、世界は弱肉強食こそ本来の姿である事を気が付かせる。
お前は本当に、その男を皆で共有で良いのか。
本当はただ一人の妻になりたいのではないのか。
お前は多数いる御堂祐樹の愛する人の一人になりたいのか?
それともただ一人の妻になりたいのかと……。
「いや、お前っ! お前まで煽っとるやんけぇぇぇぇぇ! 」
御堂祐樹の魂の叫びが俺に届くと同時に戦いが始まった。
「ちくしょおおぉおぉおぉおぉぉぉぉおおぉぉ! 」
御堂祐樹が泣き叫ぶ。
その頑強な呪物の鎧と盾で一部が本気で他の獅子の軍団を攻撃し始めるのを阻止して吹き飛ばされても吹き飛ばされても盾を続けている。
御堂祐樹はそれでも盾として許嫁達を守るのだ。
「いや、君が言う事じゃないな! 」
「あのヒモと変わらんやん! 余計な火をつけるなや! 」
などとアポリトさんと祝融さんが怒鳴る。
心の師匠のカルロス一世は穴の中に引っ込んで、姿が消えたままだ。
「いや、真面目に、貴方が実況しちゃっているから、火に油を注いでんですが」
などと涼月東まで俺を睨んでいた。
『貴方達は協力し合って、もう一人のミツキさんと修二さんを倒してもらわないといけないのに! 』
泣きそうなテレパスが光の混沌の女神様の赤ちゃんから発せられる。
だが、一度ついた火はなかなか消えなかった。
誰しも、一夫多妻なんて認めたくない。
そうでない人達もいたのだが、そう思ってた人達に火がついた。
「いや、だから、お前の実況はやばいから止めろっ! 喋るのを止めるんだ! 」
などと祝融さんが叫ぶ。
どうやら、俺の全部喋ってしまうという呪いが、プロレスとかの煽るような実況になって、さらに皆の戦いを加速させているらしい。
「文月家を追放されたら、実況系のユーチューバーになるかな? 」
自分にこんな才能があるなんて……。
「良いかもしれないぞ? 」
などと修二さんが俺の肩をポンと叩いて微笑んでくれた。