全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十四部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 死闘 第七章
なまじ無敵の身体と力を持つだけに自分は平気だから、周りの事なんて気にもならないのだ。
まさに、上級国民だ。
米が値上がりして庶民が困っているのに、私は農家の支援者から貰っているから米なんか買ったことが無いとか、米が無いならパンを食べればいいのよとか、パンで無いならスパゲティーを食べればいいとか……。まさか、令和の時代にマリーアントワネットが現れるとは思わなかった。
しかも、あれは革命側がマリーアントワネットを悪く言うための嘘で、元の話は中国の女帝の時代の話だとか。
そういや、シンデレラも実は元ネタは中国の話だとかで、ヨーロッパでは貴族階級とか頑強なので身分の低い女性が王子と結婚して、のちに王妃になるとかは無いそうな。
「八百屋の娘がのちの将軍を産んで、その八百屋の親が商人なのに大名に取り立てられたって話は日本にはありますけどね。だから、家紋が大根になっているとか」
「俺達の世界でも昔はあったらしい」
心の師匠のカルロス一世が苦笑した。
「今は無いんですか? 」
俺が興味を持って聞いてみた。
「今は俺みたいにヤマトの猛禽とか修羅とか奥の院に次々と侵略されているからなぁ」
などと涙が出そうな顔で俺に話す。
泣ける……。
実際に体感しているせいか、凄いしみじみと感じた。
現実って怖い。
「いや、生きるか死ぬかの状況で、よくも全然違う話を出来るな」
一条和馬が苦笑した。
アポリトさんの索敵画像で爆龍王ゴウオウは爆炎をはき続けていた。
そのせいで、画面が真っ赤である。
「意味が無いってわかんないのかな? 」
「多分、身体が重くて登れないんだと思う」
叢雲さんの疑問を冷ややかに一条和馬が話す。
たしかに、さっきは登ろうとしていた動きがあったけど、階層が崩れ落ちて駄目だったようだ。
「今、全長が1キロメートルくらいあるんですかね? それぞれの階層とかと比べると大きさが違い過ぎるのでは……」
「多分、そう」
「重さがどうなるか分かりませんが、身体を小さくして30メートルでしたっけ? そのサイズにしないと巨大すぎて登れないのでは? 」
「多分、そういう事を思いつかないんじゃないかな? 馬鹿だから」
俺の疑問に冷ややかにアポリトさんが答えてくれた。
そうか、本当に馬鹿なんだ。
「つまり、あれは登れないから当たり散らしてんだ。地上に降りたつもりなのに地下になってるので出れないから」
次々と真っ赤に染まっていく、索敵画像を見ながら、心の師匠のカルロス一世の解説が切ない。
切ないけど、俺達にとっては命がけである。
階層の奥深いとことか何が燃えているのか分からないが、大火事になりつつある。
災害が襲ってきたようなものである。
「これだけなら、良いんだけどな……」
「確かにな……」
アポリトさんの言葉に心の師匠のカルロス一世が同じように同意した。
「「馬鹿だからなぁ」」
などとしばらく二人とも無言で考え込んだ後で、同時に呟いて結論付けた。
「どうしようか? どうしょうか? 」
何かを察したように一条和馬が途方に暮れた。
「これから何があるんだ? 」
祝融さんが心配そうに聞いた。
俺達はまだ爆龍王ゴウオウが馬鹿だと言う話を甘く見ていた。
つくづく、信じがたい馬鹿はいるモノなのだ。
現実とはいつだって最悪になる。
そう、爆龍王ゴウオウが火を吐くのを止めたら、何をするのかと思えば、こちらに向かって地下の階層を破壊しながら直進を始めた。
全員の顔が歪む。
想像を超えた馬鹿の真髄を見たような気がした。
無敵の肉体とはなんと恐ろしい事か。
最下層の地下から横に移動を始めたせいで全てが崩れ始める。
こんな脆い構造の底でそういう事をしたら駄目だろうと誰もが考える最悪の動きに出た。
全員が絶句して言葉が出せなかった。