全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十四部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 死闘 第二章
「大体、全てのクライマックスが近づいている戦いで、全然、その主体になっている御堂祐樹とかを話の中心に入れてないってのも凄いよね」
「いや、まずは自分達の命でしょ? 」
叢雲さんの言葉に即座に俺が返答する。
当たり前の話だと思う。
たとえ、どれほど大事な人物だとして、もし主人公があちらだとしても、現実は俺がどうなるかが一番大事である。
そもそも文月家から追放されるのに、御堂祐樹がどうのとか俺には関係ない。
生き残るのが全てだ。
俺達みたいに、これが一回目で無ければ、一条和馬のように特殊な技能と経験で自分は助かると確信はあるかもしれないが。
「いや、確信は無いぞ。助かるかどうかはわからん」
などと一条和馬に即答されて、もう一度崩れた場所から下を覗いて階層が幾重にも重なって底がどこか分からないのを見て金玉キューである。
「金玉キューなんですか? 」
「恐怖から金玉キューするだろ? どちらかと言うと俺は高所恐怖症だし」
涼月東に突っ込まれて、強く俺が返答した。
大体、DNA解析で世界で一番恐怖遺伝子が少ないロシア民族ではないのだ。
そんなロシアの怖いもの知らずの超高層ビルの屋上の柵の上を歩く動画を見て、よくやるな、落ちたらどうすんの? とか思ってたら、本当に落ちて終わったりしたの見たことがあるから、余計に怖い。
「節々に変な話を突っ込んでくるな? 」
「いや、もうパニックになってんですよ」
心の師匠のカルロス一世突っ込みに俺が言い返す。
怖くたって良いじゃないか。
普通の人間なのだ。
まして、何のメリットもないこんな場所に強制的に行かされて、文月家の当主になるならともかく、追放されるのだ。
「こんな罰ゲームってある? 」
「いや、私に言われても、私だって、その護衛で選ばれたんですけど、貴方が当主になられるならメリットあるんだけど、貴方が追放されるんだったら、文月家に戻ったって守り切れなかった護衛って言われるんですよ? 」
「良いじゃん、辞めれるから! 」
「12月家の文月家が辞めた後の人間に何するか分かってんじゃないですか! 」
「俺こそ、叔父が檻から出されて、俺を殺しに来るんだよ! 」
「変わんないですよ! 」
などと涼月東と俺で叫び続けていた。
実際、やけくそである。
叫んで、崩れていく階層の轟音を聞かないようにしていると言うか。
この恐怖感よ。
「真面目に、義兄が光の混沌の女神様に頼んで、甥の時間操作を復活させてくれれば、それで終わるのにな」
心の師匠のカルロス一世の言葉に思わず深く頷いてしまう。
その通りだ。
ミツキさんも持っていない特別な時間操作の巻き戻しがあるのだ。
かって、御堂祐樹から聞いた話だと、殺人事件の犯人の推理の途中で巻き戻しで犯人を特定したけど、まだ殺して無いから殺人事件が無くなっちゃったとか言うくらい馬鹿馬鹿しいくらいな異常な能力なのだ。
死すら簡単に解放される。
それならば、皆も助かる。
もう一人のミツキさんと戦う前に皆で戻ればいいし。
もっと戻してもいい。
あの監視で行っていた大学時代まで戻ってもいい。
そうしたら、俺はこの度の記憶のあるだろう御堂祐樹に「普通にそのまま異世界に行きましょう」と説得するのだ。
それで俺の役目も終わるし、次期当主の立場も安泰だ
こんな大混乱は無くなる。
「いやー多分。元の混沌の女神様は解除出来て、分離した光の混沌の女神様だけでは無理なんてじゃないかな? 」
祝融さんが淡々と話す。
えええええええ?
「その可能性が高いと思う」
アポリトさんもそう話す。
「助かる道が無いじゃん! 」
俺が逆切れして叫んだ。
「あぁあぁああぁぁああぁぁぁ、妻よ、子供よ」
などと黙って聞いていた神無月涼さんが絞り出すように呟いた。
普通の人間なら悲観的になるよな。
死んじゃうしかないじゃん。
「でだが……もう一つやばい話が出てきたんだが、聞くか? 」
アポリトさんが気まずい顔で話す。
「「「聞きません」」」
俺と涼月東と神無月涼さんが同時に拒否した。
聞いてたまるもんかと。