全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十三部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 崩壊 第七章
「誰だ? 」
もう一度、ルドラが殺気だった顔で聞いた。
「ヒスイ」
そうエリンギさんが答えた。
そう言うとルドラの顔が綻んだ。
ヒスイってええええ?
「え? 翡翠なんですか? 」
「ああ、あの翡翠とは名が同じだけだけどね」
一言多い涼月東が突っ込んだんでエリンギさんが答えた。
名前をヒスイに変えたいところだが、流石にエリンギさんの方が抵抗がないのでエリンギさんのままでいこうと思う。
「なんでやねん。真名は普通は言わないんだがね。まあ、ルドラと久しぶりに会ったから仕方あるまいが……」
などと複雑な感じでエリンギさんが俺に突っ込んだ。
何か昔にいろいろとありそうだ。
双方が凄く親しげだった。
ルドラさんは北派に近いと言うけど、何か北派ともいろいろとありそうだな、エリンギさん。
などと喋っているのだが、それはスルーされた。
言いたくないのかもしれん。
「それにしても、どうした? その姿は? 」
「祐樹ぼっちゃんにズタズタに削られたんだよ」
「ほう、あのミツキ様の想い人か。なるほど、相当なものだな。ヒスイ殿をそこまで削るとは」
そうルドラの顔が綻んだ。
「強いからね」
「祐樹殿にお会いしてみたいものだ。現在は混沌の女神殿の後継者だそうではないか。さぞかし、武張った良い漢なのであろう」
ルドラがそう高らかに笑った。
もう、会ってんだけどな。
などとバッタのようにボロボロになりながら盾になり続けている御堂祐樹の方をちらと見た。
これは喋ってはいけないから、意識して自分の口を掴んでいたが……。
そうしたら、皆も御堂祐樹の方向を全員が見ていた。
誰も流石にあれがそうですとは言いにくい。
それで、仕方ないから黙ってちらちらと御堂祐樹が戦っている場所を見た。
「確かに凄い戦いだな。なるほど、安易に外側にいる連中を狙おうとして気配を消して近づいたが、どうも雰囲気がおかしくてな。なるほど、もう一人のミツキ殿が含まれているだけあって厄介そうだ」
どうもルドラさんは俺達がちらちら見てたのを、別の意味でとらえているらしい。
流石に、ミツキ様と話すくらいだから崇拝しているのだろう。
その崇拝するミツキ様があんなバッタみたいなボロボロになっている奴に……って思ったら、ちょっと考えられないだろうな?
「ちょっと、口っ! 口っ! 」
涼月東が叫んだ。
途中から口を掴んでなかったので、喋り放題になっていたらしい。
慌てて、再度口を掴む。
やばいやばい。
「ボロボロ? 」
ルドラがそうじっともう一人のミツキさんと獅子の軍団の戦いを見た。
まあ、流石に気が付くか。
「ああ、周りも無茶苦茶だ。俺が連れてきた兵士達も半分くらい消滅してしまったしな」
などと答える。
いや、そっちじゃねぇし。
それにしても、あまり兵士が減ったのは気にしていないらしい。
全然、平然としている。
下の者がどうなろうか知ったものではないのだろうな。
再度、口を掴みながら思う。
上級国民が下々の者が食べるのにも困っても気にしないのにも似ている。
だから余計に最上位のミツキさんしか見ていないから、彼女らを止めようとして必死にボロボロになっている御堂祐樹など眼中に無いらしい。
目の前にあっても、そういう下々ムーブをする奴は気にもならないのだろう。
これはいかんな。
こんな連中に世界を支配させたらいかん。
口を掴んでいて、ものを喋っていないのに、涼月東も俺をちらと見た。
どうやら同意見らしい。
「ふうむ。お前たちを利用しようかと思ったが、残念だが穴だらけだしな」
などルドラがフリヒリムスさん達を見て苦笑した。
「なにぃ! 」
フリヒリムスさんが立ち上がった。
「まあ、先に混沌の女神殿の片割れを狙うか……」
そう言うと消えた。
それでフリヒリムスさん達がルドラが光の混沌の女神様の方に行く前に攻撃しようと動くので、俺が止めた。
「なぜ、止める? 」
フリヒリムスさんが叫んだ。
「いえ、攻めるなら、向こうで修二さんとかとルドラさんと戦闘が始まった時に背後から挟み撃ちで……」
「おお、なるほどな」
とラドウルスさんが呟いた。
「では、攻撃しやすい位置に行こう」
そうアポリトさんが出したままの索敵映像をちらと見てフリヒリムスさん達が転移した。
助かった。
その戦いに俺達は巻き込まれずに済んだのだ