全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十三部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 崩壊 第四章
「じゃあ、俺は光の混沌の女神様の援護をするのでいいんだな? 」
神子が素直に受け入れたらしい。
何だろう、最初の戦闘狂って感じじゃない。
「簡単だ。完全に負けたんだよ。一部吸収されただけで無く。あれは異常だ。そして、その後に来た獅子の軍団とか言う連中の戦い方も見てた。あの連中が来てくれなかったら、俺は完全に吸収されて消えていたはず。自分は今まで自分が絶対的な強者だと思っていたのが恥ずかしいくらいだ。次元が違い過ぎる」
そう神子が悲しそうな顔をした。
それほど戦闘力が違うんだ。
「ああ、分かる分かる。俺の嫁たちのあの獅子の軍団の叔母だけでも、俺は全く戦っても勝てなかったからな。俺もそれまでは最強と呼ばれていたのでうぬぼれていたが、全然レベルの違いを見せられて自信を喪失したし」
そう言いながら、聖樹装兵の手の甲の赤い部分で次々と一条和馬が兵士ごと破壊した建物の陰から、さらに出てくる兵士を次々と倒した。
その狙いは正確でまるで兵士達が当たりにわざわざ出てきているようにすら見える。
「まあ、俺もミツキさんに会う前はそんな感じだから」
そう一条和馬もしみじみと話した。
二人とも、聖樹装兵を着装しているが、外の動きをよく確認するために、頭部までは聖樹装兵をまとっていないので、顔が見えるから表情に出たやるせなさが良く分かる。
それで微妙な一体感が出来た。
「負け犬同士の連帯感と言う事ですか? 」
「お前っ! なんてことをッ! 」
「いや、俺も負け犬ですから」
などと涼月東も寂しい顔をした。
「そう言えば、俺もそうだな。頑張ったのに、全部思っている事を喋っているせいで文月家は追放だろうし」
「でしょう? 」
などと涼月東が生暖かい目で俺を見ていた。
それで二人で同じように神無月涼さんを見た。
「俺もかいっ! いや、そりゃそうだけどさ! 」
ここは負け犬が集まった場所なのだ。
言わば負け犬の軍団だ。
「俺は違うぞっ! 俺は違うからぁぁっ! 」
などと祝融さんが叫ぶが、そうはいかない。
ここにいるだけで皆が負け犬なんだ。
だって、巻き込まれて地獄なんだし。
「まあ、あれよりはマシじゃね? 」
などと建物が崩れたせいで、獅子の軍団と向こうのミツキさんとの戦っている場所が遠くに見える。
馬鹿な兵士達がそこにわらわらと近づいてはエネルギーの奔流を浴びて塵に変わっていた。
本当に綺麗に塵になっている。
「凄いな。もう、攻撃する必要すらないのか」
アポリトさんが唖然としていた。
心の師匠のカルロス一世の解説だともう一人のミツキさんと獅子の軍団が威嚇するために、力の奔流を互いに見せつけているせいで、それを良く分からないで兵士が突撃して触れる為に塵になっているそうだ。
普通なら、そんなとこに行かないのだが、よく見たら兵士達の背後に督戦隊がいた。
兵士が逃げてきたら撃ち殺すって奴だ。
我々の世界では、どこかの国くらいしか今では残ってない、古いやり方だ。
あれをやられると確かに兵士は突撃するしか無いもんな。
そんな中で、バッタのように飛びまくって、双方の危険な攻撃を一人で誰かが受け続けていた。
それは服はびりびりに破けて、ボロボロで半裸に近いが御堂祐樹だった。
その状況でも必死に必死にミツキさん達の攻撃に当たりながら、やばい攻撃が出せないように、獅子の軍団にももう一人のミツキさんにも致命的な一撃が当たらないようにと、バッタのように飛んでは当たり、まるで殺虫剤を受けて死ぬゴキブリのように死んだように落ちては、また飛び上がって盾になる。
全員がそのいじらしい姿を見て、自然と涙が流れてくる。
そこまでするのかと思うが、必死なのだろう。
祝融さんがまた敬礼をしたので、皆で敬礼した。
獅子の軍団にも向こうのミツキさんにも誰も致命傷がいないのはひとえにバッタのように飛んで攻撃を受けている御堂祐樹のおかげであった。
涙ぐましい。
あまりに涙ぐましい姿であった。
「あれが俺の兄なんだな」
そうポツリと呟いた神子の言葉には尊敬の念すら漂っていた。
こうして、御堂祐樹はその自己犠牲の姿で弟の心すら変えてしまった。
何という事だろうか。
一つの奇跡を起こしたと言って良い。
本気でそう思った。