全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十二部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 突撃 第七章
「カルロス一世さん、聖樹装兵の着装を! それで俺があの鉄骨を上の支えに回しますから、それ以外の鉄骨であの崩れている当たりを……」
てきぱきと一条和馬が指示をだす。
なるほど、鉄骨で補強して空間を作るわけか。
「いや、バリアで良いのでは? 」
「駄目です。ミツキさんはこういうのをすぐ発見するんです。ここにいるともう一人のミツキさんにバレてしまう」
「なるほど、力を使っているからか」
「それに、こちらのミツキさんも本来の性質を考えると、戦いが上手くいかなかったり、敵が逃げたりすると間違いなく、所かまわず周辺に当たりまくるので、少しでも補強しないと……」
「くっ! 」
全員が一条和馬の言葉に涙を流す。
どれほど彼が虐げられていたか分かる。
全員の目頭が熱くなった。
とりあえず戦いから自分が回避するだけでも命がけなのだ。
「あくまで、ここは仮です。アポリトさんが今後の大丈夫な場所を索敵してくれるはずです。そこを瓦礫を盾にする事で移動して逃げるのです」
「ふふふふふ、なるほど、第一回の国際会議の惨劇の時の話だな。懐かしいな」
などとアポリトさんが懐かしそうに話す。
もう、碌な話でないの間違いない。
なんだよ、国際会議の惨劇って。
「向こうの世界の首脳が集まった初めての会議で、コンチュエのチアンウェイさんとアマゾネスのメーデイアさんとか喧嘩になりだして、皇帝のミツキさんが喧嘩を止めさせるために、会場を完全に破壊したんだ」
一条和馬の話に顔が引きつる。
「それって仲裁じゃないよね」
「本人は仲裁したつもりなんだ」
全員の顔が歪む。
「喧嘩が終わらないから、カザンザキスさんと俺と一条和馬君とで逃げたんだよ。あの時は助かったよ。いつまでも戦闘が終わらないからさ。君は慣れている感じだったから逃げ続けて数日経っても冷静だったよな。カザンザキスさんが凄く感心してたし」
カザンザキスさんと言うのはアオイさんの祖父でパトリダの重鎮だったはず。
なるほど、賓客を主君の暴挙から守り通したって事か。
大したものだ。
「いつもの事だからな。交渉しに来た奴が気に食わないと、その場で潰そうとするから」
「それって、どんな暴君? 」
涼月東の顔が歪んだ。
ありえない。
ありえないけど、それが普通にあるのがこの世界なんだ。
「いや、ミツキさんだけだよ」
「そーそー」
「無茶苦茶ですね」
笑えねぇよ。
「そろそろ。バリアはいいか? 」
「ええ、そっと外してください」
そう一条和馬が頼むと心の師匠のカルロス一世と祝融さんがバリアを外した。
一部崩れたが、流石のベテランだ。
見事に鉄骨で支え合う場所を選んでいるから、奇麗に本体は崩れずに空間は出来た。
さきほどの外を影絵のような索敵映像でアポリトさんが確認した。
「実はあの国際会議の時に出来るようになったんだ。これ」
そうアポリトさんが索敵映像を指差して一条和馬に苦笑した。
なるほど、逃げるのに状況確認は必要だから。
それを見ると凄い戦いが北の方で起きていてる。
「ここが激しいから、多分、ここにもう一人のミツキさんがいるな。獅子の軍団らしいえげつない戦い方が続いている」
アポリトさんが解説する。
索敵映像の中で、誰かが獅子の軍団の攻撃を一人で防いでいた。
それも自らの肉体を使ってだ。
そして、いきなり守っているらしいものの攻撃も自分の身体で受けた。
「え? 」
「なんで? 」
神無月涼さんや叢雲さんが驚いた。
「多分、義兄弟だろ。双方の攻撃でやばいのを全部自分の身体で受けることで防いでいるんだ」
「ああ、そういえば、獅子の軍団でいざこざが起きると、良く同じようにしていましたね」
などとアポリトさんと一条和馬が懐かしそうに話す。
戦いを止める為に双方の攻撃を受け続けるとか……。
自然に祝融さんがその索敵映像に向かって敬礼をした。
その苦労を感じて称賛しているのだろう。
そして、俺達も敬礼していた。
頑張れと。
一夫多妻だけど、全然幸せに見えないや。