全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第六十二部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 突撃 第三章
「その呪具を見せて」
ミツキさんが禊さんに聞いた。
それはペンダントみたいな呪具だった。
異様な文字と何かの図形が彫られている。
それにミツキさんが手をかざした。
急にペンダントが光りだす。
「やっぱり。混沌の女神様の後継者の少女って何が何だか分かんないけど、多分、そうじゃないかと思った通り。力の質が同じだ。だから、このペンダントに私達の力を補給すればいけるわよ」
などとミツキさんが宣った。
そりゃそうだろ。
直系だもんな……混沌の女神様の後継者だったわけだから。
「なるほど、奇襲はやはり相手が驚くべき事をするべきだしな」
などと大妃さんが頷いた。
いやいや、同じミツキさんが敵だからそういうのって読んでいるのではと……まあ、この時間の止まった格納庫を知っていればだけど。
「もう一人の俺が来てたから知ってるんじゃないか? 」
などと修二さんが俺の喋っていた話に突っ込んでくる。
「じゃあ、バレバレだよね」
「難しいでしょうね」
などと心の師匠のカルロス一世と涼月東が必死に断念させようとしていた。
俺達の大事なシェルターが近所の人に使われてしまう並の状況なのだ。
最前線にこれで行くなら、それはシェルターじゃない。
単なる盾だ。
言葉に出しては言えないみたいだが、神無月涼さんも叢雲さんも必死だ。
行けば死ぬ。
この言葉が頭にちらつく。
特に神無月涼さんは結婚して子供が出来たばかりで、こんなところで死ねないだろう。
変な当主代理が無茶苦茶しているんだし。
余計に妻子が不安なはずだ。
「そんな事言うなよぉぉぉ」
神無月涼さんが思い出したらしくて、泣きそうな声を出した。
もう、皆が必死だ。
表情にそれが出ている。
だが、獅子の軍団は一切、それらを見ていなかった。
これから起こる戦闘にウキウキしている。
楽しそうに、その話をしている。
戦闘はピクニックかなんかですか?
御堂祐樹がさっきまで家族を救うとか言ってたのに、悲しい顔をして小さく見えた。
こら、どうしょうも無いわ。
「これが獅子の軍団なんですね」
マジ、ヒャッハーでやんの。
「奥に行こうか……」
囁くような声で心の師匠のカルロス一世が話す。
流石に身内がいっぱいいる状態で、大きな声で言えなかったのと、それを自分一人で実行して叩かれたりしたくなかったのだろう。
「こういう時はな。存在を消すんだ」
さらに囁くように心の師匠のカルロス一世が話す。
それは自らの体験から来る金言なのだろう。
すでに、心の師匠のカルロス一世の次にそういうのを体験している一条和馬は見事なくらい、奇麗に奥の方へ後退りしながら下がっている。
見事なフェードアウトだ。
かって、超大物政治家が自分の立てた神輿が馬鹿やったせいで、アメリカとかとの問題が収拾がつかなくなり、『ここは俺が出るしかないか』などと言って表に出て来て、それを応援するマスコミとかいよいよってそれを喧伝していたのに、自分が出て、こりゃ駄目だと思ったらしくて、見事に存在を消してフェードアウトして自分が収拾をつけるような話は最初から無かったことのように振舞った。
それを見ているかのようだ。
まさに神のごとし。
「まあ、最前線には行くけどね」
俺が喋っていたのか失笑しながらレイナさんが突っ込んできた。
あぅぅぅぅ。
「じゃあ、行くよ」
などとミツキさんが話す。
まるで時限爆弾を爆発寸前に止めるんだって感じで修二さんが止めようと前に仁王立ちして立つが見事にスルーされた。
悉く、やっている事を相手にしてもらえない。
いや、これはきついわ。
「混沌の女神様の主宰者ポジションになっても、こんな感じなら心が折れますね」
などと涼月東が呟くと、御堂祐樹の姿がさらに小さくなっていた。