全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第五十九部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 北派 第七章
「しかし、あんたは元々混沌の女神様の創造物だ。それなら何もまつろわぬものの血など入れなくても子供にはそのままでいいのではないか? あんたの身体はそのままなんだろ? 」
カエサル・アエリウス・アウドニア・アウレリウス・エクセニウス・アウレウス・クトゥルスンさんがそう言えば確かにそうだよなって話をした。
「いや、混沌の女神様の血にまつろわぬもの血が流れているのは君が知らなかったように極秘なんだ。だから、混沌の女神様とその後継者の肉体しかまつろわぬものの血は流れていなかった。そうでなければ隠し通せないだろう? この極秘の話が」
「何か意味があるのか? 」
カエサル・アエリウス・アウドニア・アウレリウス・エクセニウス・アウレウス・クトゥルスンさんが少し訝し気に聞いた。
「うううむ。言って良い話なのかどうか……本来の創造主の血にまつろわぬものの血が混血になることで、いろんな世界へのアクセスする扉が開くのだ。あらゆる集合無意識につながるというべきか。これは創造主の血だけではだめだ。まつろわぬものの血が必要なのだ。言われてみれば当たり前の話だが、だから混沌の女神様の後継者の少女は何の知恵も与えられず、楽園でただ幸せに暮らしていたのだ。下手に知恵というか心を与えるとその心があらゆる集合無意識に繋がり、私や息子のように分離したり、いろんなものに影響を与えたりしてしまう。無垢に育てていたのは理由があったのだ」
などと驚くべき話を始める。
なんとなく、密教の僧侶から聞いた、神仏は外にいらっしゃるのではなく、それぞれの人の心の中にいるんだという話を思い出した。
その信仰によって心の中にいる神仏が、自分の思いと繋がることで、その結果、集合無意識にある神仏というものとさらに繋がって奇跡など験が起きるという話だ。
お札も仏像もあくまで単なる受信機で、より神仏にアクセスをしやすくするための道具でしかなく、その人の信仰によって作られた心の中の神仏が、あらゆる人々の心の中によって作られた集合無意識の中の神仏と繋がることが真髄なのだと。
つまりは奇麗な修二さんが言うのは、心というものが形作る問題であり、心の状況によっては変な集合無意識と繋がってしまい、それによって分離とかトラブルが起きるという事なのではないかと思う。
実際に、御堂祐樹は分離した自分と戦ったりしていたわけで。
「君が思ってしゃべっている事に近い。なまじ、心がしっかりと出来るまでに力というものを無意識でも使ってしまえば、それは世界をも巻き込むことになってしまう。だからこそ、知恵を与えずに無垢でいる時間がたくさんいるようだ。私は自分でそのまつろわぬものの血を受け入れるまで、その事実に気が付かなかった。表面しか見ていなかったのだよ。なんの現実も知らず楽園で過ごして、ただ笑って暮らしている混沌の女神様の後継者の少女に対して、そのあたりの配慮もなく、私と彼はいきなり知恵を与えてしまったのだ。知恵ということは心を持たせるのに等しい。生きるために必要なものだと思ったが、楽園にいる間は必要のないものだったのだ」
奇麗な修二さんが辛そうに呻いた。
「いや、でも、現実は何も知らないというのは正しくないとは思いますよ。誰だって、どうなるのか、どうしてかって事は知っておきたいと思いますし。例え強制だとしても、何も知らずにこんな地獄に放り込まれたら、納得できないですし」
などと一言多い涼月東が途中までは良かったのに、ちらちらと俺を見て話す。
今回の任務について文月家の事で恨みがたまっているのだろう。
「心配するな。俺もこんな目にあって、結果として文月家から逃げないといけないし、十分地獄に放り込まれているから」
しょうがないので涼月東にそう微笑んだ。
俺だってムカついてんだよと!