全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第五十八部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 秘密 第九章
「やれやれ、同族には気がつかれてしまうようだな」
<大いなる口>がそう呟いた。
「同族って……暗殺者って事か? 」
御堂祐樹が珍しく聞いた。
「それもあるが、まつろわぬものの混血同士という事だ」
「え? 」
御堂祐樹が初めて聞く話に絶句する。
「いや、まつろわぬものの混血って御堂祐樹と修二さんだけなんじゃ? 」
「ヤマトの皇家は全部混血化している」
涼月東が<大いなる口>の言葉に衝撃を受けた。
もちろん、俺達もだ。
「いや、しかし、貴様は北派だよな。気配でそう感じるが……」
エリンギさんが動揺して叫ぶ。
「まあ、北派だの南派だの古い話だろ。もう古すぎて今更の古い古い話だがな。そんなのでもまだいろいろと騒ぐから厄介だな。ご老人は」
そう大いなる口が苦笑した。
「エリンギさんは老人なんだ」
「良く見た目で分からんな」
そう御堂祐樹とか一条和馬が突っ込んだ。
「えーと、何? 俺を救出に来たの? それともまさか暗殺? 」
修二さんが途方に暮れた顔をした。
「暗殺はねぇわ。あんたがいなくなったら、まつろわぬものの未来は無くなるのに」
大いなる口が苦笑した。
「そうか、やはり、こいつが原因なのか……」
横で聞いていたフリヒリムスがブチ切れた。
それで修二さんを掴もうとすると、<大いなる口>が物凄い分身するようなスピードで修二さんを咥えると一目散に天空を登って走っていく。
「なめるなよ! まつろわぬもの風情がっ! 」
フリヒリムスが全身から光を迸らせて、天空にいる<大いなる口>を貫こうとした。
それは千を超える光の槍に見えた。
凄まじい力の放出である。
「あーあーあーあー、あれ幻覚ですよ。本体はさっさとまっすぐに走って行っちゃってるから」
などとアオイさんが冷ややかにフリヒリムスさんに話す。
「やっぱりまつろわぬものって力の使い方が違うから、創造主とかでも難しいよな。戦うのって……」
などとカエサル・アエリウス・アウドニア・アウレリウス・エクセニウス・アウレウス・クトゥルスンさんが今更のように呟いた。
「いや、本気で幻影とかわかんなかったわ」
ドラクネスさんがそう首を傾げた。
「あああああああああああ! 親父がいないと交渉とか振れないじゃん! 」
御堂祐樹が今更のように騒いだ。
「いや、本来はお前が交渉すべきだろ。当事者なんだし」
「いや、叔父さん、冷たいじゃん」
「当たり前だろ? 義兄も元凶だろうが、お前も立派な元凶なんだよ! 」
「だから、それは親父の教育の結果であってだね」
「そればっかりだな」
「そうとしか言えないし」
御堂祐樹と心の師匠のカルロス一世の醜い言い合いが続いていた。
「というか、やっぱりお義父さん、いろいろと関わってたんですね。<大いなる口>って相当な気配を消すのが得意な暗殺者なんで、実は護衛とかしたりするときもあるんですが……」
などとアオイさんが感心していた。
「しかし、ここで北派とか出てくると思わなかった」
「参ったな。となると根が深いな。ツキヨ様が関係しているのは間違いないとして、ひょっとしたら、混沌の女神も関わってんのかもしれない。そう考えるのが不思議ではない」
ガマガエルのような鬼さんとエリンギさんがひそひそと話をしている。
「いや、そんな馬鹿な。御堂祐樹の手伝いをって俺が呼ばれてきたんだぞ? わざわざ、自分の世界もほっといてだな! 」
カエサル・アエリウス・アウドニア・アウレリウス・エクセニウス・アウレウス・クトゥルスンさんが叫ぶ。
「ほら来た! 北派はこれだからっ! 」
そうエリンギさんが突然に言うと凄いスピードで格納庫に飛び込んで行く。
「あああああ……」
それはフリヒリムスさんが出したように光の槍のように見えた。
まるで振り注ぐ矢のように大地に向かって数万も向かって来る。
「なんじゃ、こりゃあああ! 」
フリヒリムスさんがブチ切れた。