全部社会が悪いんやっ! ONCE AGAIN第五十六部 文月凪(ふみつきなぎ)視点 恐るべし予言 第六章
ガマガエルみたいな鬼の婆様が背中にどでかい刀を背負っていたらしい。
それをするりと抜くと、鞘を投げ捨てた。
「婆様、鞘を捨てたなっ! 破れたり! 勝つつもりなら鞘を捨てるはずがないっ! 」
修二さんが叫ぶ。
それで見るからに皆がしらっとした。
宮本武蔵の真似である。
「いや、鞘は普通邪魔だから捨てるだろ」
「捨てるよね」
ガマガエルみたいな鬼さんと御堂祐樹が冷ややかに突っ込んだ。
鞘なんて、木を合せたもので、実は刀を受けたりすると一発で破壊されてしまう非常に脆いものなのだ。
だから、普通に捨てて、戦いが終わって、後で拾うものなのだ。
司馬遼太郎の宮本武蔵のイメージが強すぎるのだろう。
「なるほど、向こうのヤマトの剣豪とかいう宮本武蔵の真似をしてみたかっただけだね」
エリンギさんが苦笑している。
「ヒモは六韜の真似なんかせんでも良いぞ」
修二さんがもっと容赦ない。
元ネタは六韜なのだ。
「あんなので効くのかな? 昔から宮本武蔵の映画見て思ってたけど……」
叢雲さんが苦笑している。
「いや、まあ、ヤクザも同じような感じでかけあいってやりますからね。交渉の時に。戦争になるかもしれない話し合いでいきなり相手に菓子折りを渡して、それで向こうが何も持ってきてなかったら、相手に会うのに何も持ってこない不調法とかするのかってなじるわけですよ。そうするとその後の交渉で心理的に相手に有利に出来るから」
涼月東が解説している。
まあ、文月家のデータにある話だが。
「ある人の昔の上司が、こいつは忘れそうだって言うさらに上の上司に、それとなく何回かこれを頼みますよって仕事の話をしといて、やはり相手が忘れるのよ。そうしたら、豹変して机をバンバンしながら、『なんであれだけ頼んでいたのに忘れるんだぁ! 』って怒鳴りまくるの。普段は笑顔で凄い豹変するから、相手の上司もびひちゃって、それでその後ずっとそのある人の上司にいや、そのさらに上の上司が頭が上がらなくなるって言うテクニックをしていたんだそうで。んで、、ヤクザの掛け合いみたいなことするなぁって感心していたら、後で聞いたら某日本最大の暴力団の武闘派で無茶苦茶有名だった直参組長の親戚やった」
「ああ、昔はあるあるですよね。百貨店とかスーパーとかバックマージンが入ってお金になるとこは大体しれっと本物が混ざってましたから」
修二さんの意味不明のある人の話で涼月東が成るほどと言う感じで解説していた。
「いや、昔は意外とポロポロいるよ。ある人の小学校時代の友達がたばこ吸ってたんだけど、親のたばこを盗んで吸ってたら、酔っちゃって、何で? って騒いでたら、マリファナ入りだったらしい」
「いや、なんで、そんなダークな話が……」
「昔は結構そう言うやばい話があるんだよ。ヤクザ全盛の時だったし。友達が彼女と性格が合わなくて別れたら、『なんで捨てるんじゃあ! 』って右翼が家に来た。友達が呆然として途方に暮れたらしいけど」
などと修二さんが意味不明な話を始める。
「悪いんだけどね。引っかからないから」
そうガマガエルのような鬼さんが苦笑した。
「同流なんだから、引っかかる訳が無いじゃない」
エリンギさんも苦笑していた。
やはりか。
つまらない雑談に持ち込んで隙をついて奇襲をする為なんだ。
どういう流派なんだか。
普通に戦いだけじゃないものな。
「元々はね。仲直りって感じで相手を油断させてから一気に攻め落とすって手から始まってんだ。雑談と言うよりはね。まあ、一度しか使えないけどね。相手に時間をかけて何度かちゃんとた対応をして、相手がこいつはそう言う卑怯な事をしないって信用させてから、和解の話をして油断させて一気に倒すのさ。使う時は敵を殺しつくすときでしか使えないけど。何しろ、散々、相手に信頼させるだけさせるから、それが他所にばれたら次から使えないから、全部実際を知っているものは消えてもらわないとならない」
「そうそう、それで相手を全部殺しつくしても、他所とも信頼を築いてるから、他の知らない奴らはあいつらが怒るくらいだからって勝手に思ってくれるから、とにかく敵の真実を知る人は居なくしないと駄目だから」
えげつな。