第三部 第三章 ファミリア
俺達は、まるで城のような邸宅の豪奢な貴賓室に案内された。
勿論、シーサーペントは連れてけないので、海で待ってもらってる。
俺達が貴賓室に入ると中にダンディなご老人が立っている。
このパトリダを支配しイコゲニアと呼ばれている五大家族の一つであるニコス家のカザンザキスだ。
アオイを見ると嬉しそうに抱きしめた。
「良く来たアオイ。三年ぶりだな」
カザンザキスさんが嬉しそうに目を細めた。
「娘から婚約したとか手紙が来たが、なんか相手の名前もわからんし、酷い愚痴ばかりでな。一体誰と婚約したんだ? 」
カザンザキスさんが俺をちらりと見た。
「ひょっとして、彼か? 」
カザンザキスさんの目が少し怖い。
まあ、形だけだしな。
大丈夫だろう。
とりあえず、御付の人間とでもって言ったらいいかと思ってたら、少し頬を染めてアオイが頷いた。
「はあああああああああ! お前がかぁぁぁぁぁ! 」
カザンザキスさんが鬼のように叫んだ。
ヤバイ。
やはり、孫命かっ!
否定するのもアオイに悪いし、かといってこの状況じゃ殺されそうだ。
なぜ、人生初めてのモテ期がこのタイミングで!
と、そのタイミングでカザンザキスさんが笑い出した。
「まあ、無いよな。ヤマトの宰相の娘だし。あの宰相がアオイの事を可愛がってるのは知ってるから、まあいくらなんでも、この貧乏そうな男はあり得ないだろ」
「貧乏そうですか? 」
「ああ、服はボロボロだし、なんだか臭いし。いくらなんでも、そんな奴と婚約なんかさせんだろう? 」
カザンザキスさんが笑いながら、豪奢な椅子に腰かけた。
そういや、掃除用具置き場で寝てたし、残飯食ってたしなぁ。
毛布もくっさい奴だったし、そりゃ、貧乏くさいわな。
「そうだな、当ててみようか。どちらかと言うと、アオイか娘が婚約を嫌がって、アオイが宰相の所から抜け出しててきたので、ついて来た護衛の人かな? 」
そう言って来たので、思わず頷いた。
なんか、アオイの目が怖い。
「コゴロウと申します」
本名言うのも怖いので適当な名前を言った。
尊敬する桂小五郎から取ったのだ。
「ほう、コ、コゴロウさん? ですか? ヤマトの名前は難しいですな」
続けて、カザンザキスさんが聞いてきた。
「そう言えば、ヤマトと言えば救世主でしたっけ? ユウキとか言う人物はどうなんですか? 」
え?
ここで、俺の名前が来る?
どうしょうかな?
「私も、はっきり知らないのですが、どんなふうに言われてるんでしょうか? 」
恐る恐る聞いてみた。
「まあ、最初の話の時の噂では化け物ですな」
いきなり、心がおれそう。
「我々の方も詳しく調べたのですが、裏切った公爵の軍に居ながら、策略で公爵の軍を壊滅させ、その後も数百の兵を率いて補給路を断ち、さらには十万を超えるアレクシア軍の主力を爆龍王ゴウオウを利用してアレクシアと言う国家ごと滅ぼしてしまうなんて、ありえませんよ。しかも、噂の神器とやらも数回しか使ってない。まさに本当の化け物です。皆も恐れてましたよ。」
身体が震える。
そりゃ、あの王宮の扱いも仕方ないか。
「でもね。コンチュエで流れが変わりました。救世主を狙って大量のモンスターが現われて、皆が死んでしまうかもしれない状況で、皆を助けるために、おとりになって山へ行くなんてね。まあ、今もコンチュエでは捜索隊が出て救世主を探してるようですが……」
え?
捜索隊なんて出したの?
俺、実はめんどくさくなって逃げただけなんだけど。
「で、では亡くなられたのでしょうね……」
とりあえず、死んだことになって欲しい。
思わず、本音で言っちゃった。
「いや、生きてるでしょう。アレクシアを一人で滅ぼした男です。このくらいでは死なないでしょう。それよりも、これからですね」
「これからと言いますと? 」
「正直、皆が恐れていたので、救世主の元に誰も集まろうとしませんでしたが、今回、自分を犠牲にして皆を助ける姿を見せた。どの国も救世主の元に参陣しようと兵を募ってますよ」
「は? 」
やべっ、思わず変な声が出てしまった。
「どうかしましたか? 」
「参陣とは? 」
「この世界の危機が起こると、どの聖樹様からも神託が出ております。救世主の元に集まって戦うのは当たり前でしょう。最終的には百万を超える兵が集まると思いますよ」
「はぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ? 」
立ち上がって思わず、叫ぶ。
「どうしました? 」
「いや、百万とか、驚いてしまって」
「もうすでに各国からヤマトの方には、一万近い志願兵が来てるそうですよ」
「ええええええ! 」
ヤマトに帰ってきた船に救世主いないんだけど……。
どうしょうか。
「どうかしましたか? 」
「いえ、凄いですね。まあ、私には関係ない話ですが……」
よし決めた。
忘れよう。
俺は今日からコゴロウだ。
決めた、本気で改名しよう。
昔の俺は死んだんだ。
「それで、私に話と言うのは? 」
ガザンザキスさんが話を変える様に聞いてきた。
「実は、私がこの国で事業をやる為に、後ろ盾になって欲しいのです」
俺が身を乗り出してカザンザキスさんを見た。
少し、カザンザキスさんの顔が引いてる。
まあ、貧乏くさいのに言われても嫌だろうしなぁ
「かわりと言ってはなんですが、この近辺のピラティスのヤバイ奴らを全部始末しようと思います」
「はああああ? 君がか? 」
まあ、そう言うわな。
貧乏くさいって言われたし。
「出来ると思うのか? 」
カザンザキスさんがアオイに聞いた。
「余裕だと思います」
アオイが自信満々に答えた。
「……仲間はいるのか? 」
カザンザキスさんが少し悩んだ顔をした。
「はい、三百匹くらい」
俺が答えた。
「匹? 」
カザンザキスさんが驚いた。
やべっ、つい本当の事を言ってしまった。
「いえ、恐らく五百匹はいると思います」
アオイが自信満々に答えた。
「匹なの? 」
カザンザキスさんが凄い顔してる。
「はい」
良い笑顔でアオイが答えた。
こりゃー駄目だ。
やっちまったなぁ。
「うーん。アオイは不思議な子で言った事は、絶対に当たるんだ。匹とか言うのが気になるが……」
カザンザキスさんが悩んでる。
「それでは、やばいピラティスを潰して、その後はどう考えてるのかな? 」
カザンザキスさんがじっと俺を見て聞いてきた。
「はい。誰か、まとめれるピラティスがいれば、それにすべてピラティスをまとめて貰って、通行税か何かで彼らを食べれるようにしようと思います。さらに、海運にも彼らが乗り出せるようにしてくれれば……」
「なるほどな、先も考えてるわけか……」
「後、できれば、すべてのピラティスをまとめれそうなピラティスの頭領をおしえていだだけませんか? その人と話しあいをしようと思います」
「ふむ。それは分かったが、結局、君はこの国で一体何をする気なのかね」
「はい、商人になろうと思います」
「はあっ? 何かあったわけ? 」
「いえ、ちょっと人生の軌道修正を……」
「ははははははは、なるほどね」
カザンザキスさんが笑いだした。
そんなに笑われることなんだろうか。
「大体、分かったよ。全面的に協力させてもらおう」
「おじい様っ! 」
アオイが喜んでカザンザキスさんに抱きついた。
「聞かないけど、本当の名前じゃないんだよね。なるほどねぇ。」
こちらを見て意味ありげにカザンザキスさんが笑った。
あれ、これ、ばれてる?
少し、不安になった俺だった。
追記
知らない振りで逃げようとと思いましたが、耐えれませんでした。
すいません。カサンザキス家のニコスでは無く、ニコス家のカザンザキスでした。
訂正いたします。
すいません。