第三部 第二章 パトリダ
結局、島についたのは朝方だった。
船を砂浜に押し上げて、ひもで流されないように固定してから砂浜に座り込んだ。
ムラサキも俺の横に座った。
「さて、ここはどこなのかねぇ? 」
「パトリダですよ」
後ろから声をかけられて、びっくりするとアオイがいた。
「な、なんで、ここに? 」
「あの子たちが貴方が海に出たと教えてくれたんです」
アオイが海を指差した。
そこに数匹のシーサーペントがいる。
「貴方の事が心配で、実は帆船の後ろから、彼らの代表がついて来てたんです」
な、なんてこった。
凄くうれしい。
「お、俺の為に仲間から離れてまで来てくれたのか」
俺が海辺に来たシーサーペント達に抱き着いた。
と言っても、皆、100メートル級なんで太すぎてしがみついてるだけになってるが。
「まあ、私がフェイツィの時に、リュイジンに行くって教えたんですけどね」
「そうだったんだ、ありがとう。ところで、君はどうしたの? まさか、帆船も一緒なの? 」
おれがちょっと困ったように聞いた。
「いいえ。 私だけです。この子たちに乗せて貰って来たので」
「え? なんで? 」
「私もね。実はぼっちなんです」
アオイがくすっと笑った。
「母がアルビノだったし、外国人だったもんで、やっぱりいろいろと距離を開けられてしまって」
「そ、そうなんだ」
「だから、貴方の気持ちも良くわかります。頑張っても頑張っても誰も理解してくれないって辛いですよね。私もとうとう綾〇レイとか言う女の子の真似とかも言われて頑張ってたんだけど、空回りするだけだったし」
ああ、やっぱり無理してたんだ。
「あんなに引かれると思いませんでした」
「なんだか、ごめん」
「いいんですよ。それで、私も疲れちゃったし。だから、ついてきちゃいました」
アオイがにっこり笑った。
ムラサキも横で頷いてる。
「そうか、なんていうか、その、ありがとう。勿論、ムラサキも」
アオイもムラサキもほほ笑んだ。
シーサーペントも俺に喜んでるかのようにクークー鳴いた。
やばっ、涙でそう。
「後、実はここ、私の故郷でもあるんです」
「え? そうなの? 」
「商人にジョブチェンジって聞いちゃいましたから、私の祖父ってここの有力者なんで手伝えると思います」
これはついてる。
アオイが俺達の乗ってきた小舟を見た。
「昨日、小舟がたくさん浮いてたのは、多分、ピラティスの襲撃ですね」
「ピラティス? 」
「ま、ぶっちゃけ海賊です」
「え? そうなの? 」
「じゃあ。俺達の乗ってた帆船も危なかったんだ」
「いえ、あれはピラティスの中で一番大きいアサナトに襲われないように貢物を渡してたんです。アサナトの紋章であるクラーケンの旗を掲げてましたから」
「へー」
「クラーケンの旗を掲げれば、よそのピラティスも攻めてきませんからね」
「なるほど、いろいろあるんだなぁ。ところで、そのピラティスって、全部滅ぼしちゃっていいの? 」
「うーん? 中にはちゃんと筋を通すとこもありますからねぇ。筋を通さない酷いのもいるので、そちらはいいんじゃないんですか? 」
ちょっと驚いたような顔をするが、アオイが笑った。
「なるほど、資金稼ぎですね」
ムラサキが納得したように答えた。
「そーそー、お金は大切だからねぇ。後、シーサーペントが数百匹住んでも大丈夫そうな、海の洞窟とかあるのかな? 」
「全部、あちらから呼ばれるんですか? 」
アオイが聞いた。
「できたら、そうしたいな」
「分かりました。それでは祖父に会って、いろいろと聞いてみましょう。最近のこちらの様子は良くわからないもので」
「そうか、助かるよ」
「それにしても、私は気にしませんが、確かに、普通の人はついてけないかもしれないですね」
凄く楽しそうにアオイが笑った。
楽しそうに笑うアオイを見て微笑みながらも、ちょっと落ち込む俺だった。