第十九部 第一章 プロローグ
じっと目を瞑って、女媧が意識を飛ばしている。
ここはニューヨークの彼女の根城である超高層ビルの最上階だ。
「どうですか? 」
横にいる迫力のある古武士のような老年の神が女媧に聞いた。
彼こそ、かって共工を破った火の神である祝融である。
「やっぱり、あちらに戻ってるわね。それにしても<終末の子>を卒業するらしいわよ」
女媧が深いため息をついた。
「え? あれは卒業とかできましたっけ? 」
「無理よ。でも、あの子は本気でするかもしれないけど。困ったなぁ」
「どうなさいます」
「私にお任せくださいますか? 」
そばに控えていた十八歳くらいの少女が言った。
彼女の名前はエレネといい、戦の神アテネの血筋の娘だ。
茶色がかった金髪でブラウンの目が印象的な相当な美少女だ。
「え? いいのよ。貴方には迷惑はかけれないわ」
女媧がすまなさそうに笑った。
「いえ、女媧様には言ってませんでしたが、シュウジ様と私のお父様の約束で、実は私はユウキ殿と婚約者なのです」
エレネがきっぱりと答えた。
「は? え? 」
女媧が驚いたような顔をした。
「シャーロット殿の噂も聞いてますが、私の父とシュウジ様との約束の方が先のはずです」
「え? 」
「いや、待ってください。実は、私の孫娘の麗もシュウジ殿との約束でユウキ殿と婚約が……」
祝融が慌てて聞いた。
「は? ど、どういう事? 」
女媧が動揺してる。
「そ、それは私も初耳です」
エレネが驚いて聞いた。
「ち、ちょっと待って、過去の世から、どういう事か見て来るから。ちょっと待って」
女媧が動揺して再度、目を瞑った。
「……嘘……あの宿六、十二人も息子との婚約の約束してる」
女媧が目を開けた途端、その場に蹲った。
「「はぁああああ? 」」
祝融とエレネが唖然とした。
「ちょっと、馬鹿すぎるでしょ。怒ってやらないと」
女媧がふらふらしながら立ち上がる凄い殺気を放った。
祝融とエレネが震えあがる。
「祝融、うちの馬鹿旦那を私が怒ってると分からないように呼び戻しなさい。絶対、ばれないようにしてよ。私が怒ってると知ると、行方不明になって逃げるから。そうなると簡単に捕まえられなくなるからね」
「は、はい、分かりました」
「それと……流石に馬鹿息子も何とかしないと」
女媧が爪を噛んだ。
「それならば、私がやります。連れ戻してみせます」
エレネが目を輝かせた。
「ち、ちょっと、大丈夫」
女媧がなんだか心配そうだ。
「私に任せてください。彼を絶対に取り戻してみせます」
少し頬を染めてエレネが断言した。
「はあ、あの馬鹿息子のどこがいいのかしらね、全く。仕方ない、貴方は決めたら絶対引かないわね。では、お任せするわ」
「はっ、分かりました。必ず、連れ戻してみせます」
エレネが頭を下げた。
女媧は自分の子や家族のプライバシーは触れまいとあまり覗いていなかった。
とりあえず、禍の種をまいて平気な父親のシュウジと流れるままに無茶苦茶する息子のユウキ。
この二人のせいで、あちらの世界とこちらの世界の衝突がほったらかしで、大きな事が起ころうとしていた。
これから、世界を混乱の渦に巻き込みたくさんの国が滅び、修羅と猛禽とアマゾネスと婚約者が争いあう、あちらの世界もこちらの世界も誰もが震撼した、後の世に言う<婚約者大戦>がはじまろうとしていた。