第二部 第十章 エピローグ
十頭のワイバーンを従えた三つの首を持つドラゴンの上に仮面の少女は立っていた。
高空からユウキ達の様子を見ていた。
大量のサラマンダーと大量のヘル・ハウンドを引きつけながら、コンチュエ中央の山脈へとユウキ達がスキル逃走を使いながら逃げていく。
随分とスキルもパワーアップしているようで、ツルなどの植物が邪魔するので、サラマンダーもヘル・ハウンドもユウキ達に全く近づけない。
「嘘? まさか、このまま逃げる気? 」
仮面の少女が仮面を外して呟いた。
相当な美少女だが、顔立ちがどこかユウキに似ている。
「嘘でしょ? 戦わないの? 」
ユウキ達が、ある程度人気のない山の方に入った途端、突然高速で逃げるスピードが上がる。
スキル高速逃亡を使用したのだろう。
ユウキ達が早すぎて、サラマンダーもヘル・ハウンドも全くついていけない。
「進化出来るのよ。強く願えば強く願うほど、強くなるのよ」
「その気になればリヴァイアサンや爆龍王ゴウオウなんて一撃で倒せるし、無限に強くなれるのよ」
「その戦う意志が強ければ強いほど、スキルが……身体が戦闘型に進化していくのに……」
相当動揺してるのか、仮面を外した少女が何度も呟く。
「--なんで逃げる方に進化してんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」
仮面を被ってた少女が、さっき外した仮面をドラゴンに叩きつけた。
「どうすんの? どうすんの? もうすぐあちらの世界とこちらの世界がつながって、戦って勝った世界だけが生き残る<結末の時>が目の前なのよ! あちらの方が戦力あるのに、こっちの世界の切り札が全然駄目じゃない! 」
「大体、守護神が敵を焼き払う不動明王なのに、なんで逃げるスキル特化になんのよ! 」
仮面を被ってた少女が当り散らしてる。
必死になってボロボロになりながら山に向かって走ってたリヴァイアサンが、遠くの山脈を仰ぎ見て、もう追いかけても無理なのを理解したのか、がっくりと首を落として、とぼとぼと海へ帰っていくのが仮面を外した少女に見えた。
ユウキ達をモンスター達と戦わせる事で、ユウキの戦闘進化を即す計画は完全に失敗してしまった。
少女が目を瞑って回想した。
目の前に同じような仮面をつけた初老の老人がいる。
「ユウキはエ〇ァの映画とかテレビとか見てたんだろ? 」
仮面の老人が少女に聞いた。
「いや、見てたけど、友達のつきあいで見てた感じだったけど……」
少女が答えた。
「なら、分かるはずだ。我々がエ〇ァ押しして娘達にア〇カと綾〇レイのコスプレをさせる理由が」
確信を持ったように仮面の老人が熱く語った。
「きっとシ〇ジのあのセリフを思い出すはずだ! 間違いない! ちゃんと我々の意図が分かるはずだ! 」
仮面の老人ががっしりと少女の肩を持った。
そして、言った。
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ! 」
それが仮面を外した少女には呪いの言葉の様に聞こえた。
仮面を外した少女が悪夢から醒める様に回想から現実に引き戻されて、思いっきりドラゴンの背を蹴りながら言った。
「そんなの分かるわけないでしょおおおお! 」