第十七部 第七章 毒刀
はっきり言って、痛い。
凄く痛い。
泣きたい。
腹が焼けるようだ。
だが、まず毒が身体に流れないようにしないと。
身体が震える。
「結構な毒を使ったんだがな。まさか、そんな手を使うとは面白い奴だ」
ホアンが楽しそうに笑った。
血が噴き出るのを覚悟して、俺が腹から直刀を抜く。
抜かないと毒が廻ってしまう。
抜いた後、腸が出ないように手で抑えた。
「お前、女媧様の子に何をするんだ」
ケネスがホアンの前に立った。
「あー、邪魔なんだがな」
ホアンの両手から鉤爪のようなものが突き出た。
「ほう、やるわけか」
ケネスがホアンに殺気を放つ。
「ホアン! 貴方は一体! 」
シャーロットが叫んだ。
「分かるでしょ。貴方達の言う急進派ですよ。貴方の配下にまぎれてれば、どこかで<終末の子>に会えると読んでた訳ですよ」
ホアンが笑いながら答えた。
「貴方は! 」
シャーロットが歯噛みをした。
ホアンの背後から傷だらけの顔の男が現われた。
ウィリアム少佐だ。
最悪だ。
「私にやらせてくれる約束では無かったのか? 」
ウィリアム少佐がホアンに言った。
「すまんな。やれる時にやっておく性格なんだ」
ホアンが俺の腹に蹴りを入れてきた。
「ぐはっ! 」
俺がのたうちまわる。
「ほらほら。手で抑えないと内臓が出るぞ」
ホアンがニタニタと楽しそうだ。
「よせ! 」
ケネスが光の剣を出して、ホアンに斬りつけた。
が、それはあっさり空を切った。
でかい図体で恐ろしく身が軽い。
そして、光の剣をケネスが振り下ろした瞬間にあわせてウィリアム少佐がケネスの顔面を蹴りあげた。
たいした連携だ。
とりあえず、ミツキやアオイがやっていた回復魔法を真似てみる。
勃起しなくなったものを勃起させるだけでは無いはず。
これで治るはずなんだ。
だって、尿道から血が出まくってたの止まってたし。
思い出しながらせつない。
「け、警察を」
さくらがスマホをポケットから取り出してかけようとするが圏外になっていた。
「スマホの基地局の方は妨害してるから、無理だと思うがね」
ホアンが薄笑いを浮かべた。
俺の前にウィリアム少佐が仁王立ちした。
「回復魔法なんて使えたんだな。待っててやる。早く治せ」
ウィリアム少佐が殺気を漲らせた。
むう、ばればーれ。
不意打ちすら出来そうにない。
ホアンとか言うおっさんも、しれっと俺の背後に廻って退路を断つなんて厄介すぎる。
ああ、俺、逃げるスキル以外は碌なものが無い。
後は聖樹装兵か。
あれは着装にタイムラグがあるので、その瞬間に首を斬られてしまう。
さあ、どうしょうか。
「止めて! 怪我してるでしょ! 」
深雪がホアンの前に立ちはだかった。
だが、ホアンは相手にもしてない。
「おい、もう治ってるだろ? 」
ホアンが薄笑いを浮かべた。
「止めなさい! 」
シャーロットが叫んだ。
「と、とりあえず、場所を変えないか? 」
俺が提案した。
「駄目だね。 お前逃げるだろ? 」
ホアンが笑った。
こいつ、いちいち先を読むんでやだ。
ん?
まさか、こいつサトリ?
人の心が読める?
まさか?
よし、一か八かやって見るか。
「……お前、踊ってどーする? 」
ホアンが怒鳴った。
「あ、やっぱり、心が読めるんだ」
「くっ」
ホアンが舌打ちした。
本当に厄介だな。
このタイミングで俺が踊るなんて、心が読めてないと分かる訳がない。
斜め上の行動だからな。
「で、一騎打ちなの? それとも一対二? 」
俺が立ち上がってホアン達を睨んだ。
腹から手を離すと、傷口が綺麗になってるのを見て深雪とさくらが驚いてる。
「一騎打ちだ! 」
ウィリアム少佐が叫んだ。
「分かった」
と言うと同時にホアンに一気に距離を詰めると蹴りを入れた。