第二部 第九章 自己犠牲
聖樹の前で悩む将軍達の前でリアンフアンさんが俺をいきなり指差した。
「貴方です。貴方が恐らくモンスターを呼び寄せてるのです」
リアンフアンさんが凄く怖い顔で俺を見た。
なんですと?
「あれほどの聖樹様達の核を持っていれば当然のことです」
リアンフアンさんがじっと敵を見るような冷たい目で俺を見てる。
俺の仲間達まで同じような冷たい目で俺を見た。
お前らまで、どういう事?
「なるほど、救世主殿を潰そうと言うのか」
リィシン将軍が納得したような顔だ。
「余程、救世主殿が奴らモンスターにとって恐ろしいと見える」
グォクイ将軍も深く頷いた。
「え? いや? 」
リアンフアンさんが困ったような顔をした。
「ひょっとして、意味違うんじゃね? 」
クニヒトの野郎が横で呟いた。
「そういう事ならば、我らも命をかけて、救世主殿を守らねばならん」
女帝が意を決したような顔をした。
クニヒトの小声は誰も相手にしてないようだ。
「あ、待ってください。多分、それなら簡単です」
俺が皆に提案した。
「何か、コンチュエの地図はありますか? 」
俺が将軍達に聞いた。
「ああ、ここにあるが」
リィシン将軍が懐から地図を広げて見せた。
コンチュエの左端に首都フェイツィがあり、大陸の真ん中に山脈がコンチュエを左右に分ける様にあって、山脈を越えたコンチュエの右端の海側にシュイジンと言う大きな港のある大都市があるようだ。
「どうする気だ? 」
「連中を引き付けながら、この山脈の方に行きます」
俺が地図の中の山脈を指で示す。
スキル逃亡もすでにスキル高速逃亡までランクアップしてる。
山脈まである程度モンスターをひきつけたら、そっから、スキル高速逃亡で逃げれば良いだけだ。
一度、高速逃亡は試したが、何度か休みながら行っても、三日もあれば大陸なんて横断出来る。
十人程度なら、同じ様にスキル発動出来て、まあ、高速道路をスポーツカーで走るようなもんだし。
「なんだと! 正気か? 」
リィシン将軍が驚いて答えた。
「途中でモンスターどもになぶり殺しにされるぞ! 」
グォクイ将軍も呻いた。
俺のスキル逃亡の話は知らないんだろうしなぁ。
まあ、俺のスキル説明すんのも恥ずかしいし。
仕方あるまい。
必殺の説得と行くか。
「俺達がこの国に来た時に、軍だけで無く、この国の皆さんが救世主が来たと大歓迎してくれました」
目を潤ませるように俺が将軍達に答えた。
まあ、俺達があまりにしょぼかったんで、その後、落差ハンパ無かったけど。
「そんな、俺達の為に皆を犠牲にするわけには行きません! 私は皆を死なせたくない! 」
薄く涙を流しながら声を震わせた。
結構熱演だと思う。
嘘泣きは実は得意な分野だ。
「し、しかし、それでは……」
グォクイ将軍が震える様に答えた。
「大丈夫です。 なんとか逃げ切ってみますよ」
涙が少し流れるままで、軽く微笑んだ。
「なにしろ、救世主ですから」
無理に笑ってるような感じで笑った。
勿論、演技である。
リィシン将軍やグォクイ将軍が身を震わせている。
ふと、俺の仲間達を見ると全員が冷やかな顔だ。
無表情に近い。
呆れ果ててるとも言える。
馬鹿っ!
泣く真似をしろとは言わんが、悲しそうな顔くらいできんのか!
ばれたらどうすんだよ!
しかし、それは杞憂だった。
周りにいる衛士達が号泣をはじめたのだ。
「君は本当の救世主。いや、漢だ」
リィシン将軍が俺の肩を泣きながらかっしりと掴んだ。
「生き延びてくれ! 必ずだぞ! 」
グォクイ将軍が号泣した。
女帝も静かに涙を流してる。
さすがに、この雰囲気でリアンフアンさんも何も言えないみたいだ。
よし、貰ったぁぁぁぁ!
「必ず、約束します。また、会いましょう」
泣きそうなだけど何とも言えない笑顔でグォクイ将軍と堅く握手をした。
「では、奴らを引き付ける様にフェイツィを出て、そこから奴らを山脈に引きずり込んでやりますよ」
俺が強がりを言ってるような雰囲気を見せた。
勿論、これも演技である。
「全員! 救世主様に敬礼!!! 」
リィシン将軍が涙を流しながら号令すると、ぐいっと敬礼した。
リィシン将軍の肩が震えている。
グォクイ将軍や衛士達も涙を流しながら敬礼している。
俺達がその中を歩いて聖樹様の前を去っていく。
城の皆がこの様子を見ていたようだ。
次々と衛士達が左右に並んで敬礼する。
いや、衛士だけでは無いメイドや役人達もだ。
皆、号泣していた。
その中を俺達の仲間とともに歩く。
俺達の仲間は皆、無表情だ。
ムラサキ中尉すら困った顔をしていた。
でも、俺が見る感じだと、送ってる連中からしたら、心を殺して犠牲になる覚悟を示してるように見えてるんじゃないかと思う。
「貴方達は英雄よ」
「本当の勇者っているんだな」
「怖いはずなのに」
「凄い人達だ」
そんな囁き声が聞こえる。
王城を出てもそれは続いた。
延々と続いた人の並みが街の外れに来たことでやっと途切れた
無言で街道を歩いてる俺達。
「ぶっちゃけ、モンスターを誘導するのは、するんだろうけど、本音の話、めんどくさくなって逃げるだけだよね」
クニヒト少佐が小声で呟いた。
察しの悪いゲロ少佐が言うくらいだから、仲間にはバレバレなんだろうな。
突然、ミヤビ王女が両手で顔を覆った。
「もう、私、恥ずかしくて、一生この国に来れない」