第十五部 第九章 和真と恋(れん)と紅葉(もみじ)
「いや、モニターで見てたけど、何があったの? 」
潜水艦の中で和真にシュウジが聞いた。
「いや、その」
和真が言いよどむ。
「いや、ミツキとか言う女が! ミツキとか言う女が! 私の事をデートだけの遊びの女だって! 」
横で恋がポロポロ泣いて答えた。
「……いや、そのすまん」
「シュウジ様が謝ること無いんです。あのミツキとか言う女が! あの女狐が! 」
「いや、そのミツキって、俺の娘なんだ」
シュウジが困った顔をした。
「女媧様の娘だよ」
ルイス中尉も答えた。
「はぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ? だってやりまくってるって! 」
恋が驚いて叫んだ。
「ああ、こっちは兄妹で結婚できるんだ」
「はぁあああぁぁぁぁぁぁぁ? あいつ、そんな変態行為を! 」
今度は和真がキレた。
「いや、圧倒的に女性の方が多いんだよ。聖樹装兵を着装できるのが、こちら側は女性が多いだろ? 」
シュウジがとりあえず説明した。
「いや、女媧様はどう言ってるんですか? ああいう文化はお嫌いのはずでは」
和真が問いただすように聞く。
「いや、それが、孫が生まれるとか聞いたら怒ってたけど、何か産着を手縫いしてた」
「え? 女媧様が手縫い? 」
「ああ、手縫い」
「何か似合いませんね。世界の支配者にして創造神が手縫い」
「しょうがないだろ。意外と家庭的なんだよ」
「家庭的って……」
和真が微妙な顔をした。
「しかし、変ですね。子供がお腹にいるなら、聖樹装兵になんか乗りますか? 」
ルイス中尉が聞いた。
「確かにな」
「でも、もうすぐ赤ちゃんが出来るんだからって言ってましたよ」
恋が言いつけるように言った。
「出来るんだからって言った? あれ? まだ出来てないのか? 」
シュウジが動揺してる。
「そりゃ、普通に赤ちゃんが出来てたら、聖樹装兵なんかに乗りませんよね」
ルイス中尉が納得したような顔をした。
「あちゃー」
シュウジが苦い顔をした。
「それならば、私がユウキ君を本来の道に戻してみせます」
きっぱりと恋が急に決意表明の様に言った。
「「「お、おぅ」」」
シュウジと和真とルイス中尉が恋の気迫に押されて思わず答えた。
「オバサンには無理なんじゃないかなぁ」
恋の後ろから声がかかる。
振り返ると、ポニーテールをした可愛い十六歳くらいの女の子が立ってる。
如月紅葉だ。
如月恋の妹である。
「何よ! 」
「私も聖樹装兵のモニターで見ちゃった。ミツキさんにババアって言われてたよね」
「はぁぁぁあああ? 」
恋と紅葉が睨み合う。
「あの、男性の聖樹装兵の人は居ないんですかね」
小声で相談するように和真が囁いた。
「今、こっちに来てないからな」
シュウジが渋い顔で答えた。
「それにしても、あいつ、何であんなにモテるんですかね? 」
「おかしいよな。モテてた話は聞いてないんだけど」
「「とにかく祐樹君は私が貰います」」
恋と紅葉が同時に叫んだ。
「女難の相ですかね」
ルイス中尉が難しい顔してる。
女難の相とかルイス中尉はアニオタなんで、それで変な言葉を知ったようだ。
「それよりも、赤ちゃんいないなら、嫁にどう言おう」
シュウジが深いため息をついた。
「おい、厄介な事になった」
艦長であるスコット中佐がシュウジに言ってきた。
「へ? どうしました? 」
「ウィリアム=マーシャル。あのスカーフェイスがこっちに来たようだ」
スコット中佐が渋い顔をしている。
「え? なんで? 」
「分からん。豆柴モドキの件でキレてる連中も多いからな。我々はどちらかと言うと穏健派だし」
「厄介な事になりましたね」
ルイス中尉が困ったような顔をした。
「とりあえず、向こうと連絡は取れますか? 」
シュウジが聞いた。
「スカーフェイスが応じるかどうかは分からないがやってみよう」
スコット中佐がため息をついた。
徹夜明けで、何が何だかわかりません。
頭がくるくるします。