第二部 第七章 仮面の女
「あのさぁ、リヴァイアサンを貸すって言ってあったよね」
郊外のそれなりの屋敷の中で、黒い鎧と黒いローブを着て口元だけ開いた仮面をつけた若い女が、老境にある豪奢な漢服を着た男に怒っている。
反乱を起こしたガクシュン公であった。
「貴様っ、ガクシュン公に無礼だぞっ! 」
ガクシュン公の横にいる護衛の兵士が叫んだと同時に首が落ちた。
それも、そこにいた十人の護衛の全員の首が同時に飛ぶ。
仮面をつけた若い女は動いてもいない。
「勝手にドウシュアをぶつけるしさ。何で段取りを考えないの? 本当に使えないカスだよね」
ガクシュン公が項垂れる。
「おかげでシーサーペントが全部子分になっちゃったじゃん。そりゃまあ、最上位種だからね。シーサーペント程度じゃ従う事しか出来ないだろうけど」
仮面をつけた若い女が愚痴る。
「それにしても、おじ様達が困るはずだわ。いつまでたっても戦闘型に進化しないし。これじゃ、<結末の時>が目の前なのに、どうしょうもないじゃない。」
仮面をつけた若い女が小声で愚痴った。
「ところで、あんた、後をつけられてるじゃない。どうしょうもないわね」
仮面をつけた若い女が屋敷の外を見る。
「まあ、自分の不始末は自分で何とかしなさいな」
「ま、待ってくれ。助けてくれないのか? 」
「助けてあげるわよ」
若い仮面の女がニッコリと笑って、ガクシュン公に手をかざした。
それと同時にガクシュン公の身体が変形して老人の顔のまま身体は獅子に尾はサソリのような毒針を持ったマンティコアにかわる。
「あぐぐぐぐ」
マンティコアに変わったガクシュン公はもう喋る事も出来ない。
「さあ、貴方の敵を食べてきなさい。これなら、屋敷の外の連中も簡単に殺せるでしょ」
マンティコアになったガクシュン公が窓を破壊して屋敷の外に飛び出すと、屋敷の外から激しい剣音と悲鳴と叫び声が聞こえる。
若い仮面の女が薄笑いを浮かべた。
「まあ、ここからは思案のしどころよね。ゴウオウもぶつけるつもりだったのに、口先三寸で状況をひっくり返しちゃうし、リヴァイアサンも単体でぶつけても同じ事になるかもしれないなぁ。本当に頭が痛い」
そう言いながら、静かに闇に消えていく。
ただ、本当にうれしそうに笑いながら一言ぽつりと最後に言った。
「本当に困ったお兄ちゃんだこと……」