第十三部 第十六章 スルト
いきなり、エーデルハイトの王宮が吹き飛んだ。
上空に幾何学模様の封印が現われる。
「いかん! 聖樹が乗っ取られた! 」
樹老人が叫んだ。
それを見て和真が笑い出す。
「はははははは。馬鹿め。とうとうやったな。これで封印は破壊される。エーデルハイトのボンクラごときにスルトがコントロールなど出来るものか」
和真の笑いが止まらない。
「え? どういう事だ? 」
俺が思わず聞いた。
「ははははは、エーデルハイトの国王はな。アレクシアの戦争に乗って、お前にびびって講和を結んだことがコンプレックスになってたのさ。だから、俺がそのコンプレックスを漱ぐ方法として、スルトの封印を解く事を煽って、ニーズヘッグを貸したのさ」
「ニーズヘッグ? 」
「聖樹の元となった素体の一つだ。それを聖樹に埋め込む事で、聖樹のコントロールは破壊された。見ろ、あの封印が破壊された時に、スルトが復活する」
「スルトって? 」
「ラグナロクで世界を焼き尽くすと言われる炎の剣を持った黒い炎の巨神だ」
「世界を焼き尽くす? 」
「そうだ、これでこの世界は終わりだ」
和真が嬉しそうに笑った。
「お前、一体? 」
「俺か? 向こうの世界の破壊工作員だよ。聖樹装兵を見せたら、フリードリヒ四世大帝はころっと騙されやがった」
「な、何で……」
「何でも何もあるか。これは戦争だ。お前だって分かってたから豆柴モドキを俺達の世界にぶち込んだんだろ。これは、その報復だ」
「馬鹿な。この世界を完全に灰にする気か? 」
「綺麗ごとを言うな。お前だってアレクシアを滅ぼし、豆柴モドキをこちらに送って来ただろうに。同じ事だ」
和真が俺を嘲笑った。
「し、しかし」
「お前も早く決めろ。こちら側に戻るのか。それとも、このまま敵でいるのか。お前はあの御方の皇子だし、<終末の子>だ。お前は特別だから、こちら側に来るなら今までの事は全部忘れてくれるだろうよ」
「き、決めろと言われても」
「お前の本当の役目はどちらかに味方するとか、そういう事では無いぞ。そこの樹老人は本当の事を教えていないようだな」
和真がジロリと樹老人を見た。
「役目? 」
俺が樹老人を見た。
「それは、まだ<終末の子>が知るのは早い。今、それを教えるのは約束違反になるぞ」
鋭く樹老人が和真を睨んで言った。
「ははは、古臭い約束だが、神々の決めた事だからな。まあこちらも従わざるを得ないよ」
その時、王宮の上空の幾何学模様の封印が砕け落ちた。
「ほら、始まったぞ。スルト様の復活だ」
和真がにやにやしてる。
王宮が噴火して火山の大爆発のようになる。
流れ出る火砕流がエーデルハイトの首都を呑み込んでいく。
老人も大人も子供も悲鳴を上げて焼き尽くされていった。
その噴火の中から、巨大な共工より一回り大きな燃える巨神スルトが長大な剣を片手に現れた。
「おおぉぉおおぉぉぉぉぉぉおおお! 」
スルトが剣を一振りすると、振った先が数十キロに渡って炎上する。
「火炎系の爆発魔法や攻撃はスルトにはきかん。これで、お前等にも何もできない」
和真が笑いながら断言した。
「お前、一体、何を考えて? 」
俺が叫んだ。
「勘違いするなよ! 祐樹! これが戦争と言うものだ! お前は理解してると思ったのだがな! 」
和真が俺に叫んだ。
「小僧が! 」
爆龍王ゴウオウが和真の聖樹装兵に火を浴びせかける
だが、それを難なく避けると爆龍王ゴウオウに剣を投げつけた。
爆龍王ゴウオウの肩が剣で貫かれる。
「ぐうぅぅぅぅぅ! 」
爆龍王ゴウオウの顔が憤怒で染まる。
「祐樹、早くこちら側に帰るかを決めろ。まあ、どちらにしろ、この世界はスルトで滅ぶだろうがな」
和真が笑いながら、俺に話しかけた。
また、ぐらりと頭に来た。
正直、頭が混乱して、考えられない。
ただ、目の前で大量の人が死んでいくのだけ見えた。
龍女さんが、凄いスビートで剣を構えて上段から下に飛ぶように和真の聖樹装兵を斬りつけた。
しかし、それよりも早く和真の聖樹装兵は回避した。
「ははははははは、俺は、これでおさらばさせていただくよ」
和真が笑いながら、高速で飛び去った。
それをやっとライフルが再生出来たカルロス一世の聖樹装兵が乱射して落とそうとする。
しかし、それはすべて無駄に終わった。
「はははははははははは」
そうして、和真の笑い声があたり一面に響き渡った。
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