第二部 第五章 首都フェイツィの王城の謁見の間
長い長い苦行だった。
あの豪奢な馬車は屋根が折りたためるようになっていて、上が開くようになっていた。
馬車に乗ってるものが、馬車から姿を現して、コンチュエの国民達に手を振れるようにする為だろう。
しなくても良いのに、たくさんの旗を振る国民達が並んでる道をわざわざ選んで王城へ向かって、俺達を乗せた馬車が屋根を大きく開いて走る。
俺達の貧相な姿と人数を見て、旗を振っていたコンチュエの国民達の空気がドンドン変わっていく。
旗を振る人がいなくなった。
歓声が消えていく。
ひそひそとコンチュエの国民達がこちらを見ながら話している。
空気が凄く重い。
いくらぼっちのスペシャリストの俺とは言え、この空気はキツイ。
すでに、クニヒト少佐どころかヨシアキ中佐まで白目をむいている。
座ったまま気絶しているみたいだ。
ミヤビ王女は手を振りあげた形で固まっていた。
ムラカミ兄弟ですら固まっていた。
ムラサキ中尉だけは手を振っていた。
殆どファンが来なかったコンサートで売れないアイドルが必死に数人のファンに手を振ってる感じだ。
「ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの」
「ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの」
「ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの」
アオイも壊れてるのだろう。綾〇レイのセリフを小声でリピートし続けてる。
俺も壊れてるんだと思う。
「笑えばいいと思うよ」
ってアオイに返事しちゃった。
やっと王城についたが、すっかり噂が先回りして王城内の空気も重い。
何だか懐かしい。
まるでヤマトに帰ってきたような気分だ。
王城の衛士が先導する中、俺以外の人間は江戸時代のからくり人形みたいにカクカク歩いてついてくる。
もう、皆、壊れちゃったな。
王城の謁見の間への扉が開いた。
ヤマトの王宮より一回り大きな謁見の間の中央に待ちかねたように、元の世界で言う漢服に似た服装の四十くらいの威厳のある女性が立っている。
このコンチュエの女帝であるシーハンであった。
「ようこそ、救世主殿。良く来てくださいました」
にこやかに女帝がほほ笑んだ。
ニートなのに救世主とか言われて、さっきまでの惨状を考えると土下座したい気分である。
「すいません。本音の話でいいますが、救世主とか間違いだと思います」
周りが壊れたままなんで、喋れるのが俺しかいないんで仕方ないから、まず謝った。
すると、いきなり女帝が笑い出した。
「いえ、貴方が聖樹様から救世主と見なされてるのは間違いないと思いますよ。何しろ、この世界にある聖樹様が四十八柱いらっしゃるのですが、ヤマトを中心に四十柱の聖樹様が貴方を救世主様として認めております。これは間違いのない事実ですから」
女帝がにっこりとほほ笑んで答えた。
「いや、しかし、いくらなんでも」
「それは、明日の朝、我らの聖樹様にお会いすれば分かると思います」
「はあ」
例え、聖樹様のおっしゃる事でもアレクシアの戦いで勇者からニート扱いになった俺としたら、今回は救世主だと最後は奴隷あたりになるんだろうか。
あまり、笑えんな。
その時、王城の外で爆発音がした。
それも何度も。
甲冑姿の衛士が慌てて、謁見の間に入って来て跪いた。
「反乱でございます」
女帝が眉をひそめる。
壊れてた俺の仲間達も夢から醒めたように、あたりを見回した。
「誰が反乱をおこしたのですか? 」
「皇族のガクシュン公です」
「何故!」
「は、あのような救世主を聖樹様にあわせてはならぬとの事で……」
み、耳が痛い。
今日のしょぼいの見たら、余計にそう思うわな。
「はやく鎮圧しなさい!」
「そ、それが宮廷を守るべき衛将軍のグォクイ将軍が刺されまして」
「な、何っ!」
「衛士達の一部がガクシュン公を支持しているようです」
「ば、馬鹿な事を!」
女帝が頭を抱えて項垂れた。
「とにかく、今は一度、この城を離れて避難するべきです。救世主殿の轟天を警戒しているようで、敵はバラバラに地下に張り巡らされた水路を使い、こちらを攻めてるようです」
「もしもを考えて鎮西将軍に準備をさせておる。至急、鎮西将軍のリィシン将軍を鎮圧に来させるのだ」
「しかし、時間がかかります。とにかく、御身の為にも一度、避難を」
衛士が必死に女帝に勧めている。
「では、まず救世主殿を避難させよ。これは聖樹様同士の約束なのだ。ここで、何かあれば、我らの信義がなりたたない」
俺の仲間の顔が状況の厳しさを察して、引き締まる。
「すいません。とりあえず、敵は地下の水路だけにいるんですか? 」
俺が衛士に聞いた。
「はい、それは間違いありません」
衛士が厳しい顔で答えた。
「敵の総数は?」
「はっきりはしませんが千名前後かと。反乱軍の数は少ないのですが、いかんせん地下の水路を利用してバラバラに別れて攻めて来ており、倒すのにもかなりの時間と被害が出そうで……」
「わかりました。では、お聞きしますが、全部殺しても良いんですかね?」
「は? 」
衛士の顔が唖然とした。
「いや、捕まえろとかなら無理ですが、全部殺していいなら、良い方法があるんですが」
俺が女帝に提案した。
「反乱は死刑なので、別に殺すのは問題ないですが、一体何が?」
女帝が首を傾げて俺を見た。