第二部 第四章 首都フェイツィのユエディン港
ようやく、コンチュエの港が水平線に見えてくる。
なるほど、大きな大陸なのは水平線の向こうが全部陸地なので、良くわかる。
俺は、船長に頼み込んで売って貰った塩漬け肉の大きな樽をいくつも海に投げ込んだ。
国王の温情でかなりの年金を貰い。
さらに、大佐としての支度金も貰った。
ニートなだけあって、全然金が減って無いから、結構な金持ちだった。
だから、塩漬け肉の樽をたくさん買えたのだ。
まあ、陸が近いんで、もういらないから、売ってくれたのもあるけど。
なぜ、塩漬け肉を海に投げ込んだかと言うと、余程、海賊達の踊り食いが美味しかったのか、すっかりシーサーペント達が俺に懐いちゃったからだ。
さすがに、コンチュエの首都フェイツィの港ユエディンまでシーサーペントは連れてけないから、お別れに塩漬け肉をプレゼントしたのだ。
美味しそうに塩漬け肉を大きなシーサーペントと小型の数匹のシーサーペントが何度も呑み込むと、名残り惜しそうに何度も何度も海から首を出して、シーサーペントは並んで俺に頭を下げていた。
「元気でやれよ」
俺が笑顔で手を振った。
まあ、船長も船員もドン引きしてたが。
お蔭で誰も話しかけて来なくなった。
どこに行っても、こうなるのは、一つの才能かも知れない。
ほっちの才能なんて嬉しくないんだが。
「女性は誰も相手にしてくれないけど、ゲテモノには好かれるんだね」
ゲロ吐きで吐くものも無くなったか、少し元気になったクニヒト少佐が嫌味っぽくこちらを見た。
「いや、一応、婚約者が……」
俺がミヤビ王女とアオイを見た。
「形だけって何度も言ってるでしょ」
とミヤビ王女がすんごい冷やかに否定した。
「あ、ひょっとしてシーサーペントの中にメスもいたのかな? それなら女性にもモテてるよね」
クニヒト少佐が嬉しそうだ。
こいつも塩漬け肉と一緒に海に落とせば良かったな。
まだ、間に合うかな?
と考えてると、ムラカミ兄弟がこちらに向かってきた。
「襲ってきたモンスターとも仲良くできるってのは凄いと思いますよ」
ヒロタカ中尉が笑顔だ。
顔は怖いけど笑うとチャーミングだ。
いつも、褒めてくれるんで凄くうれしい。
お世辞かもしれないが、このくらいのヨイショくらいして欲しい。
クニヒト少佐はどこかで行方不明になって貰って、ムラカミ兄弟に少佐として補佐して貰おうかな。
すると、ユエディン港の方から豪奢な軍船が二十隻くらいこちらに向かってくる。
それぞれの船が相当でかい。
「なんだあれ? 」
「コンチュエの第一艦隊ですね」
ヨシアキ中佐が答える。
「え? またなんかあるの? 」
クニヒト少佐がおろおろと動揺してる。
船長が第一艦隊の艦船からの手旗の合図を受けている。
「救世主様へのお迎えだそうです」
「は?」
俺が唖然として聞いた。
「何かの間違いじゃないの?」
「いや、手旗信号でユウキ様を歓迎いたしますって出てますが」
「マジで俺かよ」
ムラカミ兄弟とアオイとムラサキ中尉以外の皆がすんごい微妙な表情してる。
「やっぱり、ユウキ様は凄い方だったんですね」
ムラサキ中尉が嬉しそうだ。
「凄いのは認めるけど、凄い方向が違うんだけどね」
ミヤビ王女が小声で呟いた。
「騙されてるのかな? 騙されてるのかな?」
横でクニヒト少佐が動揺してる。
ゲロ吐きは黙って欲しい。
豪奢な軍船が周りを守る中、俺達の乗っていた帆船がユエディン港についた。
何万人と言う人達が旗を振りながら、待っていた。
大きな垂れ幕がいくつもある。
「あれ? 何て書いてあるの?」
俺がミヤビ王女に聞いた。
「救世主ユウキ様を歓迎致します」
ミヤビ王女の顔が凍り付いてる。
俺達の船が接岸すると、俺達の帆船の下船場所から馬車まで赤い豪奢なカーペットが敷かれた。
軍の儀仗兵がカーペットの横に千人単位で並ぶ。
さらに軍楽隊の演奏が始まった。
俺達を運ぶつもりの馬車は黄金で豪奢に飾られており、どう見ても十人以上乗れる大きさだ。
しかも、それが十台以上並んでる。
「……ねぇ、俺達八人しかいないよね」
「ええ」
ミヤビ王女が無表情で答えた。
「あのたくさん並んでる馬車のうちの一台で余裕で全員乗れるよね」
「乗れますね。あの一台でも大きすぎると思います」
ヨシアキ中佐も無表情で答えた。
「私もアオイも凄い簡素なドレスなんですけど、もう着替える時間も無いよね」
ミヤビ王女が両手で顔を覆う。
「ねぇ、これ、罰ゲームかな?」
俺が皆に振り返った。
皆が凄い顔してる。
いよいよ下船かと期待に溢れた観衆が、一斉にヤマトとコンチュエの旗を振って歓声を上げる。
マジで港が揺れるほどだ。
まさか、救世主の一行がしょぼい格好した八人だけとは思うまい。
「国王が特殊作戦部隊とか命名したのがまずかったのかな?」
「可能性ありますね」
ヨシアキ中佐が無表情で答えた。
たった八人の特殊作戦部隊。
たった八人の救世主様御一行。
しかも、二人は女性なのだ。
「ねぇ、ヤマトに、このまま帰っていいかな?」
俺が振りかえったけど、皆は黙ったままだった。