第十一部 第六章 異教(イジャオ)
呪術師のような男が、数千の兵の前に現れた。
黒い僧服を着て、黒ずくめでありながら、異様な目が印象的な老人だ。
名前を教主のルグと言った。
そして、その数千の兵も、装備は思い思いのもので統一されて無い。
だが、荒事を得意としているようで、皆、独特の強者の持つ雰囲気を持っていた。
「おお、我らが異教の教主ルグ様だ」
「ルグ様がいらっしゃったぞ」
「いよいよ、時が来たのだ」
皆が道を開けながら、ルグを通していく。
ルグの目の前には大きな木製の台座が据えられており、ルグはおごそかに、そこに登った。
「皆の者、何千年も待った、我々の悲願である共工様がいよいよ現われになる! 」
ルグが良く響く声で叫んだ。
集った兵たちが一斉にどよめきを上げた。
「首都フェイツィの中央をツァイホンと呼ばれる大河が通っているのは知っているだろう! その大河に洪水を起こしていただき、フェイツィの汚物をすべて海に流し浄化するのだ! 」
「「「おおおおお! 」」」
さらなる歓声が集った兵たちから上がる。
「さらに、共工様の力でツァイホンを溢れさせれば、一番近い鎮西将軍のリィシン将軍も大河を渡れぬ! さらに、奴等の誇る第一艦隊も近づいてはこれぬ! その間に女媧の神殿と聖樹を破壊するのだ! 」
ルグが絶叫した。
「「「「おおおおおおおお! 」」」」
数千の兵が歓喜の声をさらに上げた。
その時、遥か向こうのツァイホンの中流のあたりの山が地響きをあげて崩れ落ちた。
その山の谷間から、全長五百メートルはあるかと思われる巨大な巨神が現われる。
共工であった。
それとともに俄かに天が曇り、雨が降り出す。
それも、滝のような雨だ。
「ぐぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! 」
共工が絶叫をあげて吠えた。
辺り一面に地響きのように響き渡る。
「共工様だ」
「ついに現われになられたぞ」
集まった兵達が、言いながら平伏する。
ルグも皆にあわせて、平伏した。
そして、ルグは立ち上がると、皆を見回した。
「良いか! これは共工様の復活の為の戦いなのだ! 命を惜しむな! 」
ルグが絶叫すると、集まったすべての兵達が首都フェイツィの王城へ向けて雪崩のように南下した。
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