第十部 第七章 狼男
俺達が王城に着くと、女帝の所には衛士とともに樹老人だけが行くことになった。
俺達はとりあえず、迎賓館で待つと言う事で、グォクイ将軍とともにヤマトの国王や宰相だけでなく公爵達の面々と同じに様に迎賓館までの案内をして貰っている。
勿論、カザンザキスさんやアポリトやクニヒト大佐をはじめアオイからミオまで全員いる。
ヤマトの面々と一緒に歩くのが、実に嫌だ。
おまけに、王城の人達の暖かい目も申し訳ない。
「良くぞ御無事で」
「ああ、救世主様以外の方も助かってたんだ」
小声で聞こえる囁きが辛い。
「なんか、辛いんですけど」
クニヒト大佐が暗い顔をしてる。
「静かにして」
ミヤビ王女がクニヒト大佐を制する。
口に出されると、余計に辛いから止めて欲しい。
「とりあえず、冷静に対応しましょう」
ムラサキが横でクニヒト大佐に小声で注文をつけた。
まあ、それしか無いよな。
迎賓館に王城から行く道はセキュリティの為か、地下の回廊を行くようになっている。
それが、どうも裏目に出たようだ。
目の前に二メートル以上の長身で巨漢の男が道をふさいでる。
「おい、お客様の前だぞ、控えんか」
グォクイ将軍が怒鳴るとニヤッとその男は笑って獣化した。
狼男だ。
まさか、真昼間から出てくると思わなかった。
「むむっ、モンスターか」
グォクイ将軍が抜刀しようとすると、サイトウ公爵が前に出た。
「私が相手をしましょう」
サイトウ公爵がスラリと刀を抜いた。
「お待ちなさい。客人である上に、私よりもご高齢の貴方が前に出る事は無い。私も老兵とは言え、まだ五十であるし、貴方よりも私の方が若いのですから、ここはこの私にお任せあれ」
グォクイ将軍が言った。
「え? 私、まだ四十一ですが……」
サイトウ公爵が戸惑うような振る舞いをした。
「はぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ? 」
「私は四十です」
国王が横で呟く。
「私は三十六ですが」
宰相も横で呟いた。
「さんじゅゅゆゆうろくぅぅぅぅぅ? 」
グォクイ将軍が凄い驚いてる。
まあ、見た目は六十近いもんな。
グォクイ将軍が俺に確認するかのようにちらちら見た。
仕方ないので、本当だと言う風に頷いた。
「ぇぇぇぇええええぇぇぇぇえぇえぇぇ! 」
グォクイ将軍がすっごい驚いてる。
「な、何故、こんな事が? 」
グォクイ将軍が完全に目の前の狼男を見てない。
結構、満を持して出てきたのだろう、狼男が相手にされて無くて困ってる。
「いや、猛禽とか修羅を嫁にしてるせいです」
俺がしょうがないので説明した。
「こ、これが、猛禽や修羅のせいなのですかぁぁぁ! 」
グォクイ将軍が絶叫した。
「切ないな」
横でクニヒト大佐がぽつりと言う。
ガチで辛くなるから止めて欲しい。
もう、誰も狼男を見てない。
ちらと見ると、狼男が必死に自分で自分を指差してアピールしてる。
結構、面白い奴なのか?
「とりあえず。ここは私がお相手しましょう」
サイトウ公爵が前に出た。
狼男が相手にされてほっとしてる。
なんか、見てて面白い。
なんだ、この狼男面白いぞ。
そしたら、サイトウ公爵がチラチラと俺を見る。
「……なんですか? 」
俺が不本意ながら聞いた。
「いや、ここで私がやりましょうとか言わないの? 」
サイトウ公爵が困ったような顔をした。
「いや、やる気無いなら、前に出るなよ! 」
全く、呆れ果てるわ。
その時、床が崩れ出した。
巨大なゴーレムの腕が地下から突き出され、地下からゴーレムに攻撃を受けたようだ。
突然、全員の足元が崩れ落ちた。