第十部 第二章 ヴァンパイア
「はははははは、お前が<終末の子>だと? 笑わせる」
豪華高速帆船のマストの方から声がした。
そちらを見ると、なんか美少女のような容姿をした男が立っている。
容姿は中性的で髪は金髪で碧眼だ。
こんな夕暮れにマストの上から声をかけてくるとは。
「なんだろう。とりあえず、無視しましょうか? 」
俺が言って、皆を連れて船室に帰ろうとした。
「待て! なぜ、逃げる! 」
「いや、危ない人と付き合ったら駄目だと学校で先生に教えられて育ってまして」
「危なくないだろ! 」
「いや、こんな夕暮れにいきなりマストにわざわざ登って声をかける事態、凄く危ない」
「ここに、飛んできて、マストにたまたま乗っただけだ」
「飛ぶ? 」
なんでしょう。
ますます危ない。
「ああ、あれ、人間じゃ無いわ」
ミツキが横で呟いた。
「なんだと? 」
国王が驚いた。
「人間に見えるけど、人間じゃ無い。人間モドキ? 」
宰相が横で続ける。
「なんだよ! 人間モドキって! 」
マストの男が傷ついたようだ。
「で、あんたはなんなの? 」
「私は真祖たるヴァンパイアだ! 」
「え? 吸血鬼? 」
「そうだ! しかも真祖たる根源のヴァンパイアだ! 」
マストの男……ヴァンパイアが胸を張って言った。
「ええ、いまさら吸血鬼なん? 」
俺が呆れ果てたような顔をした。
「ど、どういう事だ? 何だ、その呆れ果てた顔は? 」
「だって、もっと早く出てくりゃインパクトあったのに、爆龍王ゴウオウとかドラゴンの王が出たり、聖書にもあるリヴァイアサンのリヴァイアとか出てるのに、いまさら、ヴァンパイアは無いでしょう」
俺が嘲笑うように説明した。
「まあ、確かに、インパクト無いわな」
横で国王が頷いた。
「出番を考えないと駄目な例ですね」
宰相も隣で駄目だしした。
「だって、人を操るなんて言っても豆柴モドキにも勝てないし、血を吸うだけなら、蚊と一緒でしょ」
俺が呆れ果てたように答えた。
「蚊は失礼だから、虻にしたら? 」
国王が横で突っ込む。
「とりあえず、夕暮れ時に来たと言う事は太陽は駄目なんでしょ。全然駄目じゃん」
「おい、震えてるぞ」
マストでぶるぶる怒りで震えてるヴァンパイアを見て、クニヒト大佐が言った。
「もう少し、考えたげないと、せっかく飛んできてくれたんだから」
ミヤビ王女が俺を肘で突く。
「いや、めんどくさいから別に飛んでこなくてもいいんだけど」
俺が凄い嫌な顔をした。
「とりあえず、弱点って十字架なのか? 」
宰相が聞いた。
「こっちのヴァンパイアてどうなんだろう? 」
「さあ、わかんない」
ミツキが首を振る。
「そういや、向うのヴァンパイアってヴラド三世とか言う通称ドラキュラ公がモデルなんだけど、あの人キリスト教徒なんだよね」
「あ、そうなんだ」
「だから、別に十字架なんか怖くないよね。信仰してんだし」
俺が不思議そうに呟いた。
「串刺しとかしたから、血を好むんでモデルになったんでしょ」
宰相が俺を見た。
「でも、キリストも磔だし」
「ああ、原罪と言っても、神様が自分の子が磔にされてるのを聖なるものにするってどうなんだろうな」
国王も不思議そうな顔をした。
「おい、すごく、震えてるぞ」
クニヒト大佐が言った。
「あ、十字架怖いんだ」
俺が驚いた顔でヴァンパイアを見た。
「違うわ! 糞、馬鹿にしやがって! 」
ヴァンパイアがブチ切れて叫んだ。
「貴様らに真祖たる私の力を見せてやる! 」
ヴァンパイアが怒りに震えながら俺を睨んだ。
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