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全部社会が悪いんやっ! 〜ある救世主として召喚された男の話   作者: 平 一悟
人物紹介は470から475のあたりにあります。
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第一章 第一部 プロローグ

「偉大なる<終末(おわり)の子>よ。汝は二つの世界のどちらを選ぶか。一つは生き、一つは滅びる。これはこの世界の始まりから決まっている事である」


 十二の異様な怪物の陰が並ぶ中に、ただ一人だけ俺が立っている。


 異様な光景だ。


「我らは汝の意志に従い、どちらか一つを滅ぼすものなり、偉大なる<終末(おわり)の子>よ。我らが十二の使徒に命ぜよ」


 彼らの威圧を受けて、俺がただ一人考える。


「偉大なる<終末(おわり)の子>よ。汝の答えはいかに」


 さらに威圧を強めながら彼らが俺に問う。


「とりあえず、これは夢だな」


 俺……御堂祐樹(みどうゆうき)はその場から逃げた。


 これは多分、幻覚だろう。


 俺には良く分かる。


 それとも新興宗教かな?


 なんだよ、<終末(おわり)の子>って。


 十六歳の時に、俺は両親と妹をバス事故で亡くした。


 学校のクラスメートからも、元々避けられてる方だったが、さらに腫物扱いでぼっちになった。


 そのくせ、慰謝料など大きな額のお金が入った俺に宗教団体とか訳の分かんない連中が寄りついてくる。


 多分、この人達もそう言うたぐいの人達だろう。


 わざわざそう言うのが嫌で家族の住んでた家を売り払って遠くの大学に進学したのに、何でこんなことになるんだ。


 世の中は本当に碌でもない。


 大体、いきなりこんな良く分からん夜の路地裏で聞いてくるような話じゃないし。


 とりあえず、逃げるのは得意なんで、ひたすら走った。


 その時、突然に右手の甲に激痛が走った途端、俺の右手の甲に樹のような植物が円形に薄く盛り上がるように現れて、その真ん中にルビーのような宝石が現われた。


 まるで何かの紋章の様だ。


 その赤い宝石--紋章から細い触手のようなものが俺の身体の中に伸びてきて、全身にまるで神経の様にぞわぞわと拡がっていった。


 そして、その紋章のある右手を中心に空間に渦が出来て、少しずつ俺の身体が呑まれるように消えていく。


「何これ? 最近の幻覚は随分派手なんだな」


「そうか、呼ばれたか。行きたまえ、我が親友(とも)よ」


 いきなり、遠くの方に一人だけ背広を着て立っている長身の人物がそう呼びかけてきた。


 誰と間違えてんだ?


 親友なんかいたら、ぼっちにはならんのだが。


 顔が見えないが、変態かもしれない。


「それにしても、逃げるとは君は変わらないな」


 長身の人物が笑ってる。


 マジで気味が悪い。


 しかし、身体が渦に巻き込まれていて、それどころでは無い。 


 あがいていたが、とうとう渦が俺を呑み込んだ。


 ええ、こんな最後なん?


 彼女を作ったりして見たかった。


 ぼっちで終わっちゃったよ。


「あーあ」


 溜息をついた所で気絶した。




 パンパンパーン!




 いくつもの炸裂音が聞こえた。


 あれから意識を失って、俺は倒れていたようだ。


 慌てて目を開けると目の前に王宮の謁見の間があった。


 かなり巨大な城のようだ。


 トラックにも轢かれてないのに異界転生だと?


 まあ、痛くないだけ良かったか。


 廻りを見回すと左右に並んでいた女性達がクラッカーのようなものを鳴らして拍手していた。


 ちょっとした大学の講堂くらいの広さの謁見の間に、煌びやかな玉座があり、やや疲れたような初老の老人が座っている。


 この世界の国の国王なのだろうか。


 玉座の下で控えてる宰相らしい初老の老人も疲れた顔をしていた。


 両方とも明治の元勲みたいな軍服を着ている。


 そして、国王の御前へと謁見の間の入り口から引かれた赤い豪奢なカーペットの上に倒れていた俺を挟むように、たくさんの美女が美しく着飾って並んで拍手している。



 皆、どうも身分の高い--貴族のようだ。服装的には洋風のドレスなんだが、和風のテイストもあり、なんだか明治か大正にタイムスリップしたような感覚を覚えた。


 皆、微笑みながらも、どこかこちらを値踏みするような目で見ていた。


 玉座にいた王が立ちあがった。


 かなり疲れているようだったが、良く見るとなかなか整った顔立ちをしていた。


「私は、このヤマトの国の王でスメラギ ユキヒトと言う。初めまして、我が甥よ」


 そのヤマトの王がニッコリ笑った。


「は? 甥? 」 


 困惑する俺を見て、王が困ったような顔をした。


「ええと、弟から何か聞いてないか? 」


「弟と言いますと? 」


「君の父上の事だ」


「いや、聞いてません。父は俺が十六歳の時に亡くなりましたので」


「そ、そうか……」


 困ったような顔をして王が隣の宰相らしい人物を見る。


 宰相らしい初老の老人が一歩前に進み出た。


「初めまして、私はこの国の宰相をしているスメラギ ムラシゲだ。私も君の叔父にあたる。わが国では、聖樹様の力によって、王家や貴族の選ばれたものの男性だけが、あちらの世界の日本国に転生できる力を持っており、あちらで技術や何かを学んでこちらに戻ってくるのが、通例なんだ」


「聖樹様とは? 」


「そこの窓から見えるだろう。我々の世界は国ごとにそれぞれの聖樹様がおられ、それぞれの国がそれぞれの聖樹様の御加護を受けながら生活してるのだよ」


 宰相が王宮の窓から見える、樹齢数千年もあろうかと言う、大きな泉の中から生えている巨大な樹を見つめている。


 樹が真昼でもライトアップされたかのように、赤や青や黄色の光が実のように輝いている。


「どの国の聖樹様も、それぞれ不思議な力を持っておられて、我が国の聖樹様は他の世界の国である日本への転生と召還をする事が出来る。これは我が国の聖樹様だけが持つ力なのだ」


 宰相が振り返って俺を見た。


「わが国は聖樹様のおかげで、あちらの日本で学んだ技術で、この国を発展させて来たわけだ。まあ、君の場合は珍しい例だが、弟の父が向こうで結婚してこちらに戻るのを拒否したのでね。恐らく聖樹様が代わりに君を召喚したのだと思う。我々は聖樹様の御神示でここで待っていたのだ。そんな訳なんだが、君は詳しい話を知らないようだな。それでは聞くが、君は何か技術など学んでいたのかな? こちらの世界で使える技術だと良いのだが……」


「いや、普通に学校で学んだだけでして、特に使える技術と言うのは……」


 そうか、それで親父が手に職、手に職と騒いでいたのか。


 そう言えば、親父はずっと左手に怪我があると手袋をしていたっけ。


 そう思いながら答えたのだが、まわりの女性達がザワリと騒いだ。今までの好意的な視線が変わり、皆の顔が少し引きつっている。


「うっそ、外れ?」


「うわぁ、最悪」


「王子ならともかく、王族なだけだからね」


 そこに居並ぶ女性達から、あからさまな軽蔑のまなざしが向けられる。


 なんだ、これ。


「陛下、ちょっと用事かあるので、これで退席させていただきますわ」


 一人の貴族の女性がそう言うと踵を返し王宮から出ていく、それと同時に貴族の女性達皆が同調して王宮から出ていった。


 誰も女性は残っていない。


 結局、王と宰相と俺と護衛の騎士達の男達だけが広い王宮に残された。


「すまんな。貴族の娘は注文が五月蠅くてな」


 王が申し訳なさそうな顔をした。


「貴族の娘で無ければ、一応、王族ですので、まだ残るものもいたのでしょうが……」


「まあ、逆に、これでユウキには良かったのかもしれんがな」


「ど、どういう事なんですか」


 俺の疑問に王が教えてくれた。


 この世界は圧倒的に女性が多く、男性一人に女性が三人くらいの比率で生まれるらしい。


 それで、男性の取り合いが激しく、それなのに男性に対する女性のこうあるべきという要求が高く、特に貴族は相手の男性の地位とともに、それなりの領土か特殊な技術持ちなど高く稼げる男性を狙うと言う。


 一夫多妻制もあって王族からそれなりの数の男性が産まれるが、何も技術など特技が無かったりすると、貴族の女性は蔑んで相手にしないらしい。


 王族は王の力を分散させない為に領土は持てないし、何らかの技術があれば、それなりの給金出て地位も持てるが、それ以外の人間は捨扶持程度のわずかばかりの年金が出るだけなんだそうな。


 それで、技術の無い俺は外れと見なされて全員貴族の女性は出ていっちゃったらしい。


 何だ、それ。


「それと、嫁達の家格で本妻と側室の順位が決まり、それにより産まれた子供の身分や継承権は決まるのだけど、それ以外の部分では妻と側室を平等に愛せという聖樹様の教えがあって、これが厄介なんですよ」


 宰相が声を潜めた。


「え? それが何か問題でも? 」


「私の嫁は側室合わせて二十人いるんだぞ。それを毎日全員夜の相手をする事を考えてみろ」


「ま、毎日、全員相手にしないと駄目なんですか? 」


「そうしないと平等にならないって言うんだ」


 震える様に王が答えた。


「スキル回復という回復魔法とかが悪いんですよ」


 宰相が唇を噛みしめた。


「血が出るまでやって回復魔法。 血が出るまでやって回復魔法……」


 王が呪いの言葉を紡ぐように呟いた。


 斬新だ。


 回復魔法を使ってる場所が違うような気がするんだが……。


「まだ、初々しい嫁ならいいんだ。十年経ってみろ、体型も変わるし、慣れちゃうし、それを魔法で無理矢理立たせるんだ。しかも、毎日だぞ。もはや、ボランティアでしかないし」


 宰相が吐き捨てるような顔だ。


「なんだかんだで、本妻や側室間で陰湿な暗闘があるしなぁ。落ち着ける場所なんか無いよ……」


 王が悲しそうに呟いた。


「す、すいません。ドロドロしすぎて、話がキツイんですけど」


 俺がドン引きして答えた。


「ユウキは私がいくつに見える? 」


 王が聞いてきた。かなり白髪が目立ち、老いが目立ってきてる。


「そうですね。六十歳くらいですか? 」


「四十歳なんだ」


 びびる。マジでびびる。何という老け方。


「私は三十六歳だ」


「えええええええええええええええええ! 」


「ちなみに君の父上は私の兄にあたるんだけどね」


 宰相が咳払いをして答えた。


「見えない。とてもそんな年には見えない」


 首を振りながら、俺が答えた。


「おかげで王家は皆早死にだよ」


 王が俺に近ずくとがっしりと肩を掴んだ。


「お前は良く考えるんだぞ。安易に嫁を作るな」


「夜は必ず、厳重に部屋に鍵をかけるんだ。奴らは平気で部屋に入ってくる」


 王と宰相の目がマジだ。


「ゾ、ゾンビかなんかですか」


「ゾンビは手を縛らないだろ」


「ゾンビは薬を使わない」


 王も宰相も同じように日本にいた過去があるのだろう。ゾンビが何か分かるらしく話が通じる。


 両者とも遠い目をして言ってる事はヤバイけど。


「実を言うと、これから隣国と戦争になる可能性が高い。王族の子弟は戦争に参加しないとならない。これから、いろいろと勉強して貰う事になるが、とりあえずお前の為に護衛と身の回りの世話をしてくれるものを決めてある」


「護衛兼世話係ですか」


「ああ、ムラサキ、ここに来なさい」


 呼ばれて、ショートカットにした、凄く可愛らしいボーイッシュな格好をした十六歳の子が王座の前に来て跪く。


 かなりの美少女だ。


「えーと、女性に気を付けるんじゃなかったんですか? 」


 俺が困ったように王に聞いた。


「ああ、心配ない」


「向こうで生活してた君なら分かるだろう」


「なるほど、仕える人間には変なことしないと言う事ですか」


「「いや、男の娘だ」」


 おいいいいいいいいいいいっ!










 


 

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