かかってきなさい!お嬢様。
私はしがないカーライル子爵令嬢。
我が領の説明を簡潔にしたいと思う。
お金がねぇ、地位もねえ、交易商もそれほど来ねえ。カフェがねぇ、産業がねぇ、毎日畑仕事ぐーるぐる。おらこんな領いやだ。都さ出る。
と若い人ほど出て行ってしまう。
辺鄙な場所にある我が領土は交通の便の悪さゆえ、貿易なども向かない。ただ拓けた豊かな農地があるだけ。土壌は肥沃なため作物はとれるものの、領内で消費するだけのため儲けにはならなかった。まあ領民が飢える心配はないだけマシだと思う。しかし、このままだと高齢化と過疎化が進んでしまう。どうにかして産業を誘致しなければならない。
悪いところばっかり挙げたけど、別に悪くない領土だとは思っている。のどかだし、穏やかだし、領民は優しいし。
しかし、それだけではやっていけないのだ。
余った作物を買い上げているため、倉庫は備蓄の山。他領への売却ルートなどを持たないため溜まっていく一方だ。災害には困らないけれど、買い上げが祟り我が家は火の車状態。でも買い上げなければ領民は暮らしていけない。そんな辺鄙な領地の次女たる私は、働き口を探すこととなった。こんな経済状況じゃ学校も社交界も夢のまた夢だしね。長男でも長女でもないのだから。
ひょんなことからかの有名な公爵家のご令嬢の侍女になることになった私。この物語は、そのご令嬢との身分を超えた友情物語である。
な、わけあるかーい!!
やんごとなきご令嬢はとんでもない美貌とこれまたとんでもないワガママで有名だった。切り捨てた召使いは両手両足でも足りないとか。辺鄙な我が領地にさえその噂は流れるのだから推して知るべしってところ。
やんごとなき子息令嬢には貴族の子女の召使いが付くことが習わしなのだが、かのお方は召使いがころころ変わり、とうとう辺鄙な私のところにお役目が回って来た。
お嬢様に気に入られるなんて無理無理!
とか言ってられない。
だってとんでもなく給料がいいんだもの。街の工場だって、手習い場だって、ベビーシッターだって目じゃない。桁が3桁も違う。最初見たときには目が飛び出るかと思ったわ。
やってやろうじゃないの!
魔女だろうが、怪物だろうが関係ないわ!
お金を貯めて、貿易のための船を買って我が領を豊かにしてみせる!
待ってなさい、わがままお嬢様!
気にいられなくてもいい、靴を舐めても、鞭で叩かれたとしてもやってやるわ。
そんな覚悟を決めてきたのだけど、あれれ?どうしてこうなったのかしら。