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第八話 戦いの始まり 前編

 ピールスリン港までの間、太郎はずっと苦しんだ。

 何があったのかというと、サウジリーフ港からピールスリン行きの船はあの船長だったのだ。


 わざとか知らないが、激しく揺れる船内。当然船酔いに苦しんだ。

 

「どうした? 酔い止め買うか? 3ネスだ」


「上がってない?」


「気の所為だ」


 結局、船長の執拗な口攻撃を受けて、太郎は酔い止めを買おうとした。だが、ここでも船長の口角が上がる。

 用意されていたのは、100個セットだったのだ。

 おまけに、1回に付き10粒服用で1時間持つというカスみたいな効能。


「クソッ。こんな船長の策略に嵌まる訳にはうぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 最終的に、吐き気には抗えなかったのだ。

 700個セット2100ネスをおまけしてもらい、2000ネスで売ってもらった。

 

 またしても財布は空っぽになりピールスリン港へと到着する。

 


「ハンガー君の様な人が居なかっただけ、よかったですよ」


 アマラがそう口にした。確かにそうだと皆が頷く。しかし、それと同時にステフィーと一緒に居るくらいだったらまだ事件を解決していた方がましだったとも考える。

 ピールスリン港に到着し荷物を整理していると、船長室から船長が一目散で飛び出してきた。


「ああああ! 定時を五分も過ぎてしまった!急いで帰らなければ。じゃあ、後始末よろしく!」


「船長!まだ船の掃除が……。」


 船長室から、船員が船長を静止しようとする。しかし船長は醜い剣幕で「うるせぇ!話しかけんじゃねぇ!」と一喝。

 

 怯えた船員は渋々ゆっくりと船長室から掃除用具を取り出し涙ながらに床を拭く。


「ここの船って公営ですよね?ピールスリンの公務員ってあんなのしか居ないんですね」


 乗員の殆どが、遠ざかっていく船長に軽蔑の目を送る。


「取り敢えず、降りようか」


「はい」


「うむ」


 三人で埠頭に降りると、二人でステフィーの方を見る。


「というか、いつまで居るんです?」


 平然と、同じパーティーかの如くステフィーは太郎たち二人の後を着いてきた。


「我が眷属よ、伝道師は一人前になるまで信託の習得に──」


「さて、ピールスリンに戻ってきたけどどうする?」


「私はお腹が空きました。船の食事って高い、まずい、しょっぱいですからね」


 途中空腹に耐えきれなくなり料理を少し食べたが、保存のためではあるが流石にしょっぱすぎると思えたのだ。

 当然お金はないので、太郎が船内でしばらくの間酔いと戦いながら掃除していたのである。最低賃金以下だったが、国を跨ぐ船に消費税は適用されないのと同様で、最低賃金法は適用されないとの御高説を賜った。

 多分違うが。


「我はピールスリンに伝道拠点を」


「そうか。じゃあ、近いしギルド直営の料理店でも行くか。まだお金余ってるし」


「うむ。では、我が名の基に於いて食事を許そう」


「うざいです」


 太郎たちは、ギルド附設のレストランに向かうことにした。

 太郎が酔いながら汗水垂らして手に入れたお金がさも共有財産のように扱われることになんの躊躇もないが、そういう文化なのだろう。太郎は納得し、アマラたちの後を追う。


「ところで……」

「ええ」


 レストランにまで歩いているが、どうもこちらを一瞥する人が多いように感じた。女騎士が不用意に目立っているのはいつものことだが、それとは別の哀れみに近い目線であった。


「ステフィーさん。またやらかしたんですかね?」


 アマラは太郎に理由を聞いた。それもそのはず、彼女に聞いたところで妄言しか吐かないのだから。

 しかし、太郎は考え込むが、どうも理由が思い浮かばなかった。ここに来てからはそれらしい言動をしていないのだから。

 もしかしたら、ステフィーの奇々怪々な言動に慣れすぎてて気づかないだけかもしれないが。

 

 暫くして料理店についたが、太郎がふと扉に書かれた紙を見るが、すぐに太郎の顔色が変わる。

 

「……なんだよ、これ」


 料理店の入り口に貼られた一枚の紙。それは『報酬5000ネス!奴隷が脱走!この顔にピンときたら貴族居住区の門番まで』という張り紙だった。

 

 そして、その張り紙に描かれている似顔絵は──


「ふむ。この顔、アマラにそっくりではないか。世界は広い。まさか、似ている他人が指名手配犯とは、前世でどんなカルマを──」


 赤の他人だと勝手に納得するステフィーを横目に、アマラの呼吸が荒くなる。

 哀れみの目線を感じたのもそれが原因だったのだろう。

 

 アマラからすれば、逃げたいに決まっている。

 だが、太郎はどうすればいいのかわからなかった。

 所詮は保護した奴隷の少女。持ち主に返すべきなのか、或いは奴隷を解放するのか。しかも持ち主が貴族となっては穏便には済まされることはない。できれば、太郎は彼女の力になりたかった。彼女の方を向き、様子を伺う。


「……許さない」


 アマラが呟くと、周りに殺気が漂った。並大抵の殺気ではない。地の果てまで追い詰めて、この不倶戴天の敵を嬲り殺す。アマラを見ていた周りの通行人はよそを向いてそそくさと足を速める。


「そうか。なら、僕は止めないよ」


「前世のカルマはついてくるもの。だが、今世であっても浄化する方法はいくらでも──」


「殺す雰囲気だけど相手は貴族だよ? 殺したりしたら大変なことになると思うけど……??」


 アマラだって馬鹿ではないのだ。当然、そんなこと理解しているはずである。それでも、殺意は治まらない。


「貴族? 家が名家だからとか言って威張ってる精神未熟児のことですか?」


 そう語るアマラの目は、どこか焦点が定まっていない。

 何でもやりかねない、狂人の目だ。


 太郎はアマラのことをまだ知らないこともある。だが、彼女の心中は概ね察することができた。

 貴族に買われ、一体どれくらい酷い思いをしたのか。平和ボケした日本人だった太郎には、到底理解できない。

 しかし、ここでは常日頃から多くの人間が無碍に扱われている。それでいいのだろうか? 

 ここに来ても、政府に散々媚を売れば将来安泰だと思っていた。でも、違うのだ。

 太郎は特異な存在。彼女は普通の存在。普通の彼女に、太郎の特異はわからないだろうから。

 折角転生できたのに、太郎は一生既存社会を動かす歯車で良いのか? 

 否、彼女のためにも、立ち上がろう。この古い社会を倒すために。太郎は決意を固める。


「タローさん。お願いがあります」


 太郎が決意を固めたと同時に、アマラが暗い声で語りかける。

 続きを言いかけるアマラよりも先に、太郎は間髪を入れず告げた。


「殺そう。いや、滅ぼそう。社会を牛耳る悪そのものを」


 貴族全員が悪いとは太郎も考えていない。貴族の中には貴族としての責務を果たそうと頑張っている人が居るのは百も承知だ。しかし、一部の貴族の所為で社会が弄ばれてはいけないのだ。


「いいんですか?大変なことになりますよ?」


「覚悟は出来てるさ」


「……やりましょう」


 そう呟いた。その瞳にはいつに増して光を孕んでいる。


 こうして、太郎たちは食事の前にゴミ掃除をすることとなった。近くで布を買うと、見つかるのを防ぐためアマラの顔に巻く。完全に隠しきれたとは微塵も思っていない。出来れば早めに、隠密に、人を無碍に扱う貴族を平和的に了承させたいのだ。

 ここから貴族の居住区までは同じピールスリンの区画であるため、そう遠くなかった。


 ピールスリンの中心部に存在する貴族用の居住区、貴族には無償で政府から世話係と共に貸し出されている住居だ。一般居住区に住んでいる貴族も居るようだが、貴族居住区とだけあって防犯面ではほぼ完璧である。建物の周りを囲む有刺鉄線、門扉で警備する警備員など明らかに住んだほうが得なのである。

 そして太郎達もこの居住区の前に立っていた。


「ここが居住区ですか。警備がしっかりしてますね。おまけに柵には魔力センサーが埋め込まれていて、飛び越えても地面を掘って入ろうとしても感づかれます。堂々と正門から入るしか……」


 忍び込む策を考えていると、門扉に一人だけ居る警備員が太郎たちに気づく。


「あそこの警備員が向かってきています。ステフィーさんが変な格好をしてるからですよ」


「愚かな。これこそ我が究極の正装。貴族の警備員たる者がこの程度では、この国の先が思いやられる」


「私は、あなたとの今後に思いやられます」


 ステフィーを罵倒していると、警備員が間近にまで来ていた。だが、どこか警戒心を感じない。

 先制攻撃するか太郎が迷っていると、警備員が話しかけてくる。


「おい、お前たち。ここは崇高なる貴族の方々が住まう神聖な地区だ。お前らみたいな一般人に用はない。立ち去るがよい」


 警備員はどこか頼りなさげというか、眠そうな顔をしながらそう警告した。こちらを見てはいるが、アマラに気付く気配はなかった。


「あのー」


 アマラが謙りながら話しかける。『似ている人がいる』と通報すれば、確認に来た貴族を簡単に見つけられる。ただ、騒動になれば多くの警備員が動員され平和的な解決は難しい。しかし、謙るというのはどうもいつもの彼女からは想像できない。

 警備員はアマラの顔を凝視する。


「なんだ?そういやあんたどっかで……。あ! お前ポスターの奴と似ているな。世界中によく似た人は3人いるっていうけど、本当によく似たやつがいるんだな。ポスターの奴と間違われたりしただろ、大変だよな。この世の中」


 警備員は本人だとは疑わず、よく似た顔立ちの別人ということで納得してしまった。それどころか、顔が似ているから受けるであろう被害も心配してくれている。

 中にいる悪徳貴族に比べると、だいぶ純真無垢な良い人のようである。さすがの太郎も、こんな人に攻撃はできまい。

 ピールスリンの公務員にもまだ光はあると太郎は内心感激した。


「あ!」


 警備員が何かに気がついたような声を上げる。


「俺の警備時間終わってるのに、次のシフトの奴が来ない! あの野郎さては昼寝してるな?おい、そこのお前! 交代の奴が来るまで代わりに見張ってろ」


 ここの公務員は、ぼったくりと定時帰宅が大好きなようだった。

 しかし、これは幸運だである。感づかれること無く居住区に堂々と忍び込めたのだから。柵を飛び越えて入ろうものなら、柵に付けられている魔力センサーが感づいていたことだろう。居住区に堂々として入れば、居住区に入る許可を得たものだと思われ、周りからの警戒は回避されるだろう。中に入れば入館許可証などの提示を要求されるかもしれないが、そのときはそのときだ。

 警備員には悪いが、太郎たちは貴族居住区の建物内に入り込んだ。

改訂 2025/08/07

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