第十一話 新たな敵
貴族たちの会話は馬車の中には丸聞こえであった。しかし、ベルトが外れない以上、どうしようもなかった。太郎はベルトを破壊しようと、太郎たち二人に防御魔法を張り、グランドブレイクをベルトに向けて展開する。
しかし、どうも様子がおかしい。無駄に魔力を消費して張れた防御魔法はとても脆く、グランドブレイクも全く威力が出なかったのだ。ベルトには傷どころかシミひとつついていなかった。
「なんだ!?」
「クックック……」
中尉が不気味な笑いを浮かべる。
「フハハハハ。ハーッハッハッハ!!なんと愚かな!所詮英雄気取りだったようだな」
悪役によくある三段笑いを披露した中尉はそれはもう無性に殴りたい顔だった。が、どうにもこうにも殴れない。ただただ太郎は不満を募らせて固定された体で必死に藻掻く。
「この車内には魔法の展開を妨害する工作が幾つもされている。貴族たちを貶したのが仇となったな。死ね」
そう言って中尉は馬車に向かって巨大な魔法を展開し始めた。
太郎は直ぐに脱出方法を考えた。能力アップを受けているとはいえ、中尉クラスの魔法攻撃をもろに受ければ無事では済まない。特にアマラは能力アップを受けていないので本気で心配なのであった。
いかにも大衆的な馬車を装ってはいるが、内部は最新の魔法兵器を搭載している。そう簡単に破壊はできない。必死に足掻いた所でこの車は破壊できない。
──もうだめだ。負けるのか。
太郎はそんなことを確信した。ゆっくりと目を瞑ろうとするが、窓の外から耳にタコができるほど聞き慣れた声が気になり目を瞑れなかった。恐る恐る窓を見ると、窓の向こうから見慣れた人物が急いでやってくる。
「おい、そこにいる貴様!なぜ二人を閉じ込めるのだ!我の信託を聞かせることができないであろうがっ!」
「何?」
ステフィーはその巨大な体を活かして馬車に突撃する。馬車は魔法に対してかなりの細工がされていたが、物理攻撃には脆いようで一瞬で破壊されてしまった。その様子を見ていた中尉は苦虫を噛み潰したような顔をする。
衝撃によりベルト装置も見事に壊れたようで、太郎たちは直ぐに外へ向かった。
「我が眷属よ、そんなところに座っていては信託の未来が開けんぞ。自分で行動するから信託の深い意味がわかるのだ」
馬車に突撃したというのに、ステフィーの体には馬車を破壊したときの埃は被っていたが傷は一つ無かった。
「ありがとうございます。ただの足手まといかと思いましたが、思ったよりもやりますね。信託云々は余計ですが」
「そう褒めるでない。我は信託を庶民に聞かせることができれば本望だ」
アマラの言う通り、信託は余計だが行動は感謝すべきであった。内心粗大ごみと思っていた太郎は考えを改めざるを得なかった。
そんな状況に憤っている中尉は剣を構えて突進してきた。
「貴様!なんてことをしてくれるんだ。せっかく殺害しようとしたのに!」
太郎もさっきの剣を構え直して応戦しようとする。しかし、中尉の速度は人とは思えないほど早かった。真上から円弧を描くように飛んでくる剣を、能力アップを受けているはずの太郎がギリギリで剣を受ける。
「やるな。あんた」
剣を押そうとする力も能力アップを受けた太郎がなんとか耐えきれるほどの力であった。能力アップはあまり効果がなかったのではないかと太郎が疑いを持つくらいに。
しかし、それは中尉からしてみても同様であった。比較的速度と剣を押し切る力には自信があった中尉は受け切られて考え方を変えた。中々に手強い相手になりそうで、最初に強力な魔法を放っておけば良かったと。剣でせめぎ合っている以上、魔法を展開しようとした者の首が撥ねられることは両者ともに理解していた。
途中、太郎はアマラとステフィーが援護してくれるかを考えた。しかし、両者ともに魔法は弱く助太刀になりそうにもない。可能性としてはステフィーが突っ込んでくるのを待つしか無かった。太郎はステフィーを一瞥するが、集まってきた群衆に信託を告げていた。中尉はそんなよそ見を見逃さなかった。
「ぐうぇっ」
太郎がよそ見をした瞬間中尉が足で太郎の腹部を蹴り飛ばす。ただの蹴りだが威力は凄まじく、腹部に強烈な痛みを感じた。内臓のどこかか肋がやられたのだろうと理解する。よそ見をしていたからこそ効果は絶大であり、太郎は剣を落としてしまう。攻撃を覚悟する太郎だったが、直ぐに中尉は姿を消した。
「どこに居る?」
中尉は太郎がよそ見をしていたところを攻撃したとは言え、アマラやステフィーが魔法が弱いとは知らず、援護してくる可能性も中尉は否定できなかったのだ。そのため咄嗟に体勢を立て直そうと一瞬姿を消したのだ。
太郎からして見ても腹部にまた衝撃を食らったら戦えなくなるかもしれない。そんな恐怖を懐き剣を強く握りしめた。
太郎は感覚を研ぎ澄ませ、中尉が現れるのを待つ。
「そこだ」
中尉の声が聞こえた瞬間、中尉とは別の剣が太郎に向かって振り翳される。剣を落としたこともあり直ぐに横に動き攻撃を躱す。早いと言っても中尉ほど早くはなく充分に躱しきれた。落とした剣を拾うと中尉の方に剣を構える。そこに居たのは中尉と剣を持ち軍服を着用した少女だった。見るからに軍の人間だった。休む暇も与えてくれず彼女は攻撃を続ける。
速度自体は中尉よりも遅いが軍仕込みだけあって剣さばきは厄介なものであった。埒が明かないと太郎は思い視界に映った滑らかな剣裁きを受け止める。
「太刀筋が寝ぼけているよ」
「ッ!?馬鹿なっ!」
彼女がそう油断した隙に彼女の剣を振り払い奪い取る。
「剣は盗った。攻撃できないはずだ降参してくれ」
太郎自身としても、攻撃そのものに嫌悪感があるのだ。しかし、彼女には全く聞こえていないのかの如く、どこからか予備の剣を取り出しまた襲いかかってくる。
「残念だったな!こいつは耳が遠いのだ。お前の声など届いておらん。代わりにこちらが説明してやろう!こいつは派遣軍人だ。名前をカルラ・バルツェルというのだ。では私は別の貴族の護衛をするので、任せたぞ」
中尉はまた直ぐに姿を消した。が、太郎にそんなことを確認している余裕など無い。能力アップを受けていると言っても刺されれば普通に痛いのだ。そこで太郎は大きな声で和解を申し入れることにする。
「君は何のために親衛隊に入ったんだ?」
幸いにも彼女の耳に届いたらしく、剣を構えながら答えてくれた。
「そりゃ勿論。派遣で紹介されたのがここだったからです」
派遣で兵士ってどうなの?と太郎は内心思う。が、彼女の行動の理由は金であることが判明し、こちらとしても対策が取りやすかった。
「所詮、金か」
「そういうことでもないですけど……」
彼女は返答に困っている。心なしか剣を握る力も緩くなっているようだ。そこで太郎は仲間に誘おうとするが良いアイデアが無かった。ベンチに座りツナギのホックを外そうかとも思ったが戦闘中にそれはないだろうと割り切り、直接話すことにする。
「こっち側なら君に負担を強いないよ。こっち側に来ないか?素敵な人生になると思うよ?給料も食事代も寝床も衣服も充実度も僕たちに任せば全部OKさ!流行にも乗り放題だよ!」
──お金は大丈夫?そんな声がアマラの方から聞こえたような気がしたが、太郎は仲間に入れることだけに集中する。
「いいですね。仲間になります!ところで、中尉さんどこへ行っちゃったんでしょうか?あと、派遣会社宛に辞表出さないと」
こうして、カルラ・バルツェルはあっさり仲間となった。太郎は我ながら良い仕事をしたと思ったがアマラがこちらを不快そうな目で見てくる。
「お金のことは戦いが終わってから考えるよ」




