最後の日
――突然ですが、現在地球に巨大な隕石が近づいているとのことが判明しました。突然ですが、現在地球に――
――凄まじいスピードで接近中であり、たった今、NASAがその存在を確認したそうです――
――その巨大隕石は、今から約二十九時間後には地球に衝突する見込みです――
地球は、大丈夫なんですか?
――その巨大隕石衝突後、地球は、地球は、消滅するそうです――
深夜のラジオ放送で、それは報じられた。勿論、日本だけでなく、全世界に報じられた。人類のタイムリミットは、あと二十九時間。
†
現実離れし過ぎていた為、最初は誰も現状を理解できずにいた。しかし、あらゆるメディアが現実を我々に提供して来るもんだから、遂に一般人も事の重大さに気付き、パニックに陥り始めたのだ。そうか、我々人類の命はあと一日しかないのか、と。何か手立てはないのかと思ったが、最早回避することは出来ないようだ。
どれだけ焦っても、一般人には何も出来やしない。それならば、我々は『最後の日』に何が出来るのかを考えた。
「今日で全てが終わりです。あなたと出会った時から私はあなたが好きでした。どうか付き合ってくれませんか?」
そう言って告白し、『最後の日』を二人で過ごそうとする者達が現れた。そこでカップル成立する者があれば、私にはあなたよりも好きな人がいるのだと、相手を受け入れずに別の人の下へ行く者もいた。告白の嵐だ。一方、家族でゆっくり過ごそうという人もいるし、美味しいものを食べようとする人、貯金を崩して好きな物を買って、それを抱えて死のうなんて考える人だっていた。
一般人にはどうすることも出来ない。どう足掻いても『最後の日』なのであれば、『最高の一日にしよう』そう考える人が多くいて当然だ。
しかしそこに、新たな思考を持った者が現れた。
どうせみんな死ぬなら、法律も何もないだろう。という考えの下、犯罪を犯す者が現れたのだ。最初は万引きから始まった。それを見た店員が警察に通報した。が、暫く立ってその店員にはその事がとても馬鹿馬鹿しいことに思えてきた。どうせ今日で終わるんだ。犯人を追い掛けるなんて時間の無駄ではないか。と。
恐ろしいことに、悪い考えはすぐ人に伝染する。秩序が崩れる時は一瞬だ。
そんな中、告白したにも関わらず、フラれてしまった者がいた。その者は遂に恐ろしい思考に到達した。私を振った彼(彼女)と今現在付き合っている彼女(彼)を殺してしまおう、と。
殺された者の家族は殺した者を殺し、そしてまた殺し・・・・・・、殺人が殺人を生む、人類史上最悪のドミノ倒しか。
そんな事が世界各地で起こった。
†
「す、すまん。全て嘘なんじゃ。これは世界規模の実験だったんじゃ。今日で世界が終わるとしたら、あなたはどうしますか? というな。わしの仮説ではみんなが積極的に好きな人に告白し、多くのカップルが生まれてくれればいいな、という思いで実験をしたんじゃ。わしが罪を犯したのは認める。だからもうやめてく・・・・・・」
「うるせぇ! 何訳の分からないこと言ってんだ糞ジジイ!」
またどこかで、誰かが誰かを殺した。
そして遂に、地球から人類はいなくなった。しかし、あのラジオ放送から二十九時間経っても、地球に巨大隕石が訪れることはなかった。