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俺様日記  作者: 清野詠一
7/39

4月前期・運命編



★4月01日(金)



神代君は…モテモテだった。

何時も彼の周りには幼馴染からお金持ちのご令嬢、更には喧嘩仲間と言うような綺麗な女の子が集まり、華やいでいた。

私はそれを、遠くから見つめているだけだった。

それだけで、満足だった。

神代君と同じクラスで、同じ時間を共有している……

ただそれだけの事なのに、それが妙に嬉しかった。


だけどある日…

私は学校を離れる事になった。

家庭の事情、と言うヤツだ。

もう二度と、神代君には会えない。

彼と同じ時間を共有出来ない…

胸が張り裂けそうな思いだった。


だけど私には、どうする事も出来ない。

神代君とまともに話すらした事が無いのに…

このままお別れなんて、絶対に嫌だよ…



……以上、突然に帰って来たお袋が何とはなしに語り出した『親父との青春・高校出会い編』と言う生臭い話でした。


「でもね、お父さんったら……そんな私に付き合ってくれたのよ」

煎餅を齧りながら、お袋は照れた様に言った。

エエ歳こいて、実に不気味だ。


「付き合ってくれたって……どーゆー意味だ?お袋、転校したんじゃねぇーのか?」


「転校と言うか……ちょっとした休学よ。それにね、お父さんが付き合ってくれたの」


「…?いまいち良く分からん話なんじゃが……そっかぁ……親父もやるじゃねーか」


「そーよ。アンタの無鉄砲さはお父さん譲りなんだから」

お袋は何故か誇らしげに言った。


「い、嫌なモンを譲られたのぅ…」


「なに言ってんのよ。お父さんは凄いんだからね」

尚もお袋は親父を褒める。


うちの親父もお袋も、余所と比べると年齢的に若いんじゃが…

高校生になる息子がいるのに、未だベタベタなのはどうよ?と言う感じだ。

しかも時々一緒に風呂に入ったりしてやがるし…

まさに珍獣だ。





…親父が帰宅した後、何となくお袋の話が気になって、真相を尋ねてみた。


親父は

「うぇッ!?」

初耳だぜベイベェ…と言うような摩訶不思議な顔した。

そして煙草を煙らせながら

「我が息子マイ・サンよ。俺はな、確かにモテモテだった。勉強はイマイチだったが、運動は出来たしな。いつの世も、スポーツマンはモテるのよ」


「…嘘臭ぇなぁ」


「黙って聞け、馬鹿息子。俺はな、そんなモテモテな高校時代で青春を謳歌していたんだが……ある日な、何の前触れもなく唐突に不幸が訪れたんだ」


「不幸?」


「…母さんに気に入られたんだ」


「…へ?」


「何だか知らんうちにな、母さんに気に入られてそのままズルズルと……」


「……お袋の話だと、当時のお袋はかなり内気な性格だったような…」

遠くから見つめているだけで良いとかヌカしていたし…


「あ~……そりゃ嘘だ」

親父はあっさりとお袋の話を否定した。

「母さんはな、俺とは違う意味でクラス……いや、学校で1番目立っていた女の子だったぞ」


「そ、そうなんか?」


「あぁ、何しろ地元で最凶と二つ名で呼ばれていたレディースのヘッドを張っていたからな」


「……」

顎が外れた。


「でだ、敵対しているグループの奴らを30人ぐらい病院送りにして……それが元でな、ついには学校を無期停学になったんだ」


「……マジか?だったら親父が付き合ったって話は…」


「…学校へ行く途中に拉致された」


「は?」


「停学でやる事がないから付き合え、と言われて…いや、威されてな。そのまま強引に……ハッハッハッ……物凄いアプローチだったなぁ」


「…」


「ま、そーゆーワケで……お前の無鉄砲さは、母さん譲りだな。ハッハッハッハ…」


「……呑気さは親父譲りだけどな」

ってゆーか俺…この先、ちゃんとした大人になれるのだろうか?

ルーツが明らかになった今、ちと未来が不安だぞよ。





★4月02日(土)



今日は特にこれと言って無し。

穂波も姿を現わさないし、平穏な日を過ごせた。


ただ、バイトの帰り道、いつもの商店街をブラついていたら、どこかで聞いたような女の子の罵り声が聞こえてきた。

気にはなったが…

君子危うきに近寄らずだ。

くんし、と読むのか、きみこ、と読むのか俺にはサッパリだが…

ともかく、危険な目はもう懲り懲りなのだ。



と言うワケで、俺はそのままスルーし、帰宅。

飯食ってアニメ見てゲームして…

実にまぁ、ダメな一日を過ごしましたとさ。





★4月03日(日)




今日もいつものようにバイトの日々。

本日は、喜連川重工業内・エレクトロニクス部門の特別研究所で、モニタリングが何たらかんたら…と言う、良く分からない仕事。

要は次世代メイドロボのソフトウェアに関する、一般高校生の身体能力及び知能を調べさせてくれや、と言う事らしい。

がしかし……何かの手違いか、バイトで採用されなかった。

何故だ?


もしかして最初のアンケートで、

『Q:貴方がメイドロボに求めるのモノは何ですか』と言う問いかけに「愛、そして萌え」と書いたのが拙かったのか?

それとも、『Q:メイドロボに必要不可欠と思われるものは何ですか?』に「ロケットパンチ」と書いたのが致命的だったのか?

はたまた、『Q:貴方の理想とする究極のメイドロボ像は、どのようなモノですか?』に「結婚ができる。つまりエッチも可」とズバリ書いてしまったのが駄目だったのか?


…良くは分からないが、電車賃は払うから帰って下さい、と神経質そうな女の研究所職員に言われた。

………

少々腹が立ったので、帰り際にトイレに行くフリをして、その辺に置いてあった端末をテキトーに弄くっていたら、

『緊急警報、緊急警報。SRMデータベースに所内より不法アクセス。セキュリティレベル4を突破されました。人格形成プログラムに異常発生。係員は速やかに所定の位置に…』

とけたたましいベルの音と共に放送が鳴り響いたので、慌てて遁走。

いやはや……ビックリしたわい。


ま、そんなこんなで急遽やる事が無くなってしまった俺は、ブラブラといつもの商店街を散策。

馴染みの本屋で漫画の新刊を買おうと思ったら……妙に熱心に立ち読みをしている小柄な少年がいた。

何やらブツブツ言いながら、堂々と立ち読みしている。


うんうん、春だからそーゆー人っているよねぇ…


等と思っていたけど、良く見ればその子は少年ではなく、以前、校門の所で二荒に因縁をつけらていた女の子ではないか。

俺はちょいと気になって、声を掛けようとしたけれど……

それよりも先に、本屋の親父が声を掛けた。

「君、申し訳無いが立ち読みは…」


が、しかし…そのベリーショートよりも更に短い髪の女の子は、全く聞いていない。

何の本を読んでいるかは知らないが、無我夢中で食い入るように読み耽っている。

実に天晴れだ。

武士もののふな立ち読みだ。


俺は少しだけ感動するものの、親父としてはもちろん商売上がったりなワケで…

苦虫をバケツ一杯食ったような顔で、

「君ッ!!立ち読みは…」


―――その瞬間だったッ!!


その女の子は

「そ、そっかぁ……こうすれば良いんだッ♪」

と、本を読みながらおもむろに右拳を突出し、それが思いっきり親父の顔面に命中。

あまつさえ、その娘は全然気付かないのか、更に蹴りまで繰出した後、

「また少し…強くなる事が出来た」

と、ブツブツ呟きながら出て行ってしまった。


一体、あの娘は何者だろう?

あまりの恐ろしさに、俺は『何も見てませんッ!!』と言わんばかりに週刊誌で顔を隠してしまったけど…

でも、結構可愛い女の子だったなぁ。

ボーイッシュと言うのか、実に闊達そうな女の子だ。

ふむ…

今度、二荒に聞いてみようかな?


ところで本屋の親父…

手足が変な方向に曲がってアートな形状になっていたけど…大丈夫かのぅ。






★4月04日(月)




春休み最終日…

明日の始業式に備え、近くの神社へ祈願。

汗水垂らして働いて得た貴重なバイト代の中から大枚千円を賽銭箱へ投げ込み、柏手打って願う事はただ一つ、

「…穂波と同じクラスになりませんよーにッ!!」


いやもぅ、心の底から願っちゃったね、俺は。

クラスが違っていた1年の時でさえ、しょっちゅうトラブルに巻き込まれていたのに…

万が一、同じクラスになった日には……一体、どのような惨劇が我が身に降り掛かるのか、想像するだに恐ろしい。

しかも高校2年生と言うのは、人生の中で最も輝ける1年だ。

高校へ入りたての緊張感も無く、また受験の煩わしさも無い、最もフリーダムな1年間。

最大のイベントである修学旅行も控えている。

そんな黄金の輝きを放つ高校二年と言う時期に、穂波と同じクラスになるなんて事は…ちょっと嫌だ。

別にアイツの事は嫌いじゃねぇーけど…

それでも俺は、高校生らしい平和でメロウでちょっぴりセクシャルな学園生活を営みたいのだ。



ま、そんなこんなで神社で熱心に祝詞まで捧げた俺は、日課の如く商店街を散策。

その途中で、不幸にも穂波とバッタリ出くわしてしまった。



「あ、洸一っちゅわん♪」


「よ、よぅ…」


「えへへへ~♪どこ行くの?」

穂波は、ついこの間の花見の事なんて既に忘却の彼方へ押しやってしまったのか、いつもの笑顔で纏わり付いてきた。


「どこって…テキトーにぶらついてるだけだ」


「ふ~ん…洸一っちゃん、ヒマなんだ…」


「微妙に失礼な感じがするが……そーゆーお前は何してるんだ?また悪巧みか?」


「っもう、洸一っちゃんの方が失礼だよぅ」

穂波は頬を膨らませ、俺の腕をペシペシと叩いた。

「私はねぇ…今、神社へ行ってお参りして来たんだよぅ」


「お参り?……頭が治りますよーにってか?」

それは神の力を以ってしても不可能だぞ。


「違うよぅ。ってゆーか、そんなに頭は悪くないよぅ」


「いや、良いとか悪いとかそんなソフトウェア的な事じゃなくて……お前の場合はハード自体に問題があるような気が…」


「…洸一っちゃんが何言ってるのか分からないけど……あのね、神社には明日の事をお願いしてきたんだよぅ」


「あ、明日ッ!?」


「そうだよぅ。明日の始業式……今年こそ洸一っちゃんと同じクラスになれますよーにって。えへへ♪」


「な、なんて事を…」


「しかもね、お賽銭も奮発して……一万円も入れたんだよぅ」


「―――ゲッ!?」

万札だとぅッ!?

コイツ……馬鹿かッ!?

ってゆーか、神を金で買収する気かッ!?

「フッ、愚かな…」

と、俺は鼻で笑ってやったが……ちと不安だ。


果して神の優先順位は、何なんだ?

先に願った方か?

はたまた金額の多い方か?

どっちだ??


……ところであそこの神社、何の神様だったっけ?






★4月05日(火)



波乱万丈の幕開け。

今日と言う日を一言で括れば、ズバリそれに尽きるだろう。



さてさて…

麗らかな小春日和の今日、狂い咲きした桜の花を愛でながら、穂波と共に本年度初の登校。

周りには、昨日の入学式を終えたばかりの新1年生どもが、どこか着こなせていない制服に身を包み、緊張した面持ちで歩いている。


ま、なんちゅうのか…

学園で一番偉大なガイは誰なのかは、今日の始業式の時に証明してやるのは良いとして…

問題は、クラス替えだ。


金一千円もはたいて願ったのだ…

もしも穂波と同じクラスになったら、あの神社……燃やしてくれるわッ!!


「えへへへ~♪洸一っちゃん。同じクラスになれると良いね♪」


「フッ…それはどうかな、穂波」

俺は意味も無くニヒルな笑みを零した。

そして途中で智香と豪太郎と合流し、4人でワイワイギャーギャー喚きながら校門を抜けて中庭へ。

クラス名簿が貼り出されている大きな掲示板の前には、既に人だかりが出来ていた。



「う~~…緊張してきたよぅ」

と穂波が言えば、智香も豪太郎も同じように頷いた。

実にしょっぱい奴らである。


俺にしてみれば、誰と同じクラスになろうが……要は友(下僕)が増える事に変わりは無い。

ま、偶には4人バラバラ何てのも、面白いかも知れないのぅ。



さて、俺様ちゃんはどのクラスかいなぁ~…

俺は目を凝らし、偉大な神代の姓を探す。


神代神代…うむ、2Aは消えたッ!!

んじゃお次は…っと、いきなり2Bに発見ッ!!

神代洸一、2年B組だッ!!


「あ、私……2Bだ」

と穂波。


「…へ?」


「あ、僕も…」

と豪太郎。


「え…え?」

二人の発言に、俺は耳と脳を疑った。


豪太郎はともかく……穂波も2B??

俺は2年B組のクラス名簿を暗記するかの如く睨み付ける。


ば、馬鹿な…俺の聞き間違いだ…今のは幻聴だ…

え~と……榊…榊穂波…


「―――ゲッ!?」

ありやがった…

あまつさえ、古河豪太郎と言う変態の名も…

………

か、神めぇーーーーーーーーーーーーーーッ!!


俺はガックリとその場に膝を着いた。

よ、よもや神様ともあろう御方が、拝金主義者だったとは…

ってゆーか…

「カムバック千円ッ!!」


「ど、どうしたの洸一っちゃん?」


「…何でもねぇ……何でもねぇさッ!!」


「ふ~ん……あ、ところで洸一っちゃんは何組?ねぇ、何組?」


「……2B」

俺は呟いた。


「え?」


「…2Bだよッ!!こんちくしょうめッ!!」


「え?え?えーーーーーーーーーーッ!?」

穂波は頭に即リーチが掛かった。

「ほ、本当に?本当に2B?嘘じゃなくて2B??夢でもなくて2B???」


「あぁ…自分で見てみろよ。ったく、これがいっそ本当に夢だったら…」


「あ、本当だ。2年B組…神代洸一…」

穂波はアホな子のように、ポカーンと口を開けて掲示板を見つめていた。

が次の瞬間、いきなり体を仰け反らせ、

「ムキョーーーーーーーーーーーーーッ!!」

奇声を発する。


「洸一っちゃんッ!!神の御加護だよッ!!!」

穂波のスタンダードな振舞いに、周りの生徒達がいきなり一歩下がった。

「洸一っちゃんっ!!同じクラスだよぅぅぅぅぅ…嬉しいよぅ…か、感激だよぅ…」


「か、感極まってるなぁ…」


「あ、当たり前だよッ!!さ、洸一っちゃんっ!!あの桜の木に登って、二人で神に感謝を捧げようよッ!!」


「断わるッ!!ま、全く…新学期早々、脳をクラッシュさせやがって…」

俺は豪太郎と共にポルカを踊っている穂波を見つめ、溜息を吐いた。


やれやれ…

一番、恐れていたサイアークな事になっちまったけど……今更言うても詮無き事か。

こんな事なら無駄に神頼み何てせずに、直接担任とかを脅し……もとい、懇願すれば良かった。

ま、退屈はしない1年になりそうなのは良いことだけど…


と、俺は苦笑を零しながら、何気にもう一度掲示板に目をやると、

「…」

智香が石仏のように固まっていた。


そう言えば、豪太郎と穂波は同じクラスだけど…

「おい智香。お前…何組だった?」


「……2C」


「あ……そ、そっか…」

うぬぅ…

神め、何て残酷な事を。


智香は人の3倍は五月蝿い奴だけど…実はそれは、寂しさを紛らわす為なのだ。

コイツは意外な事に、ウサギのように寂しがり屋さんなのだ。


「ま、まぁ……お前ならすぐに友達も出来ると思うし…元気出せ」

俺はションボリとしている智香の肩を軽く叩いた。


すると、満面の笑みを零した穂波がトテテテと近付き、

「ねぇねぇ…どうしたの?」


「あん?実は智香だけな、クラスが違うと言うか…まぁ言うんだけど…」


「え?智香……2Bじゃないの?」


「…2Cだった」


「そ、そうなんだ…」

穂波はウンウンと頷き、そして智香の肩に手を添えた。

「智香…」


「ほ、穂波…」


「…ふふ、負け犬が」


キャーーーーーーーーーーーーーーーッ!?

何を言い出したコイツはッ!?


「智香が洸一っちゃんと同じクラスになるには……すこーし経験値が足りなかったのよ」

穂波はクスクス笑いながら硬直している智香を抱き締め、

「でも大丈夫よ。智香が惨めな1年を過ごしている間に、私達は充分に楽しんじゃうから。ね?洸一っちゃん♪」


「ね?じゃねぇーーーーーーーッ!!」







やれやれ…

何だかかいきなり疲れちまったなぁ…


俺はガックリと肩を落としながら、スキップしている穂波と豪太郎に続き、2-Bの教室に入った。

窓から見える、去年とは同じようで少し違う景色に、2年生になった実感が沸いてくる。


「さて、と…」

取り敢えず出席番号順に席に着き、辺りを見渡しながらこのクラスにはどのような奴がいるのかをチェック。

穂波と豪太郎で既にお腹一杯なので、出来れば大人しそうな奴らが揃っていれば気が楽なんじゃが…


「あ、神代クン…」


「んにゃ?」

顔を上げると、そこにはトリプルナックルのリーダーである長坂が、どこかニコニコ顔で立っていた。


「よぅ…もしかして長坂も同じクラスか?」


「う、うん。そうみたい…」


「そっかぁ……一緒のクラスになるのは、中2の時以来じゃのぅ」


「そ、そうだね」

長坂はクセのある跳ね気味の長い髪を指で梳きながら、エヘヘヘと笑う。


ちょっとだけ、可愛い。

トリプルナックルの面々は、個々で活動した方が人気的にも営業的(?)にも良いような気がするんじゃが…

俺がプロデューサーだったら、絶対にソロで売り出すぞよ。


「あ~…ところでつかぬ事を聞くが、跡部と小山田は?」


「え?同じクラスだよ。ほら、あそこに…」


「……なるほど」

ぬぅ…いきなり新クラスの前途に暗雲が立ち込めて来ましたねぇ…

「しっかし、お前達3人って…いつも同じクラスになるな。…何でだ?」


「さ、さぁ?」


ま、それだけ縁が強いって事か…

………

「…つかぬ事を尋ねるが長坂。お前さぁ…跡部達と同じクラスになれますよーにって…神様にお願いしたりする?」


「え?そ、そんな事はしないよぅ」

長坂は不思議そうな顔で笑った。

「あ、でも…小山田はするかも…」


「そうなのか?」

意外だな、おい…


「うん。小山田って、ああ見えて寂しがり屋な所があるし…」


「…それは初耳だ」

ってゆーか、信じられん。


「でも、何でそんなこと聞くの?」


「いや、別に深い意味は無いけど…なんちゅうか、今の俺は神に対して不信感があるから…」


「そ、そうなんだ…」

長坂は良く分からない、と言った表情でクスクスと笑うが……不意に表情を曇らせると、

「そ、それじゃあね…」

と言葉を濁し、黒板前で屯している小山田達の元へそそくさと行ってしまった。


…はて?

俺は首を捻る。

何か気に障ることでも言ったかな?


そんな事を考えていると、隣りの席からガタタッと椅子を引く音が聞こえた。

お?ようやくにお隣りさんのご登場か…

少しだけドキドキしながら振り返ると、そこにはどこか野暮ったいツインテールお下げのメガネッ娘(しかも巨乳)が一人、腰掛けていた。


……あれ?

彼女は確か…

………

………

…忘れた。

いかん、全然に思い出せん。

図書室で会ったと言う以外、名前が思い出せん。


「…なに見てるねん?」

その女の子は眉を少しだけ吊り上げ、俺を睨み付けた。

明らかに不審者を見る目つきだ。


「へ?俺?」


「…せや」


「な、なに見てると言われてもなぁ。新しいクラスメイツはどんな女の子かにゃあ…と」

あと、おっぱいを見ていた。

もちろん、それは秘密だ。


「……はん、誰かと思えば問題児の神代クンか…」

その女の子は、独特の関西なイントネーションで、小さく鼻を鳴らした。

「どーでもエエけど、あまりウチに迷惑掛けんといてーや」


「え?掛けちゃダメなの?」


「……アホか」


「ぬぅ…」

ほとんど初対面にも関わらず、いきなりアホ呼ばわりとは…

「ちくしょぅ……こうなったら俺も、お前の事をオッパイと呼んでやるぞ」


彼女はキッと俺を睨み付けた。

「神代君…迷惑や。ウチに話し掛けんといてーや」


「え~~…別に話しぐらい良いじゃん。クラスメイツだしぃ…」


「…」

無視された。


うむぅ…なんてクールでドライな女の子なんでしょうか…

前世はもしかしてシリカゲルか?

誠に取っ付き難いと言うか、取り扱いにはニトログリセリンばりに充分な注意が必要な感じがするけど……

そこがまた、良いッ!!

なんちゅうか、今まで俺の周りにはいなかった感じの女の子で、実に新鮮だ。

メガネ、オッパイ、関西弁にドライでクールで成績も優秀…

どこを取ってもワンダフルッ!!


「――ビバッ2Bッ!!」

席を立ち、感動のあまり俺は思わず吼えてしまう。


『………』

クラス中が、いきなりシーンとなった。



いやはや…

そんなこんなで、新しい1年の始まりだ。

穂波及び小山田達と同じクラス…と言う辛い現実に些か不安を憶えるが…ま、何とかなるだろう。




PS…

最後に、今日は一つ珍事があった。

体育館で始業式を行なっていたんじゃが…

その途中で、体育館の窓ガラスが粉微塵に砕け飛び、大パニックが沸起ったのだ。

しかもその犯人は俺…

と言う事に何故かなっている。

全く以って心外だ。

捏造もいい所だ。

俺が何をしたと言うのだ?

ただ、校長の話が思いっきりつまらないから、俺は新1年生の為に学園生活の何たるかを教えてやろうと思い、マイクを奪おうとしただけじゃねぇーか…

その時に、偶然にも超常現象が起こっただけのに…

………

ってそう言えば前に街でも同じ事があったような…

うむ、摩訶不思議ですねぇ。




★4月06日(水)



これまで通り、穂波と共に学校へ向う。

校門を潜り、下履きに履き替えて教室へ。

先月までと違うのは、教室前で別れるのではなく、同じ教室に入ると言うことだけだ。


なんか…一日中監視されているようで、ちと嫌だ。



さて、そんなこんなで一時限目は、HRの時間に割り当てられた。

1年の時から引き続き担任である、卑らしい口ヒゲがトレードマークである谷岡氏は、ニコニコ顔で、

「さて、今日から皆は2年B組として1年間を過ごすワケだが……その前に、クラスが替わってお互いに知らない人もいると思う。だから先ず、軽く自己紹介から始めよう」

と、まるでNHKの体操のお兄さんの如く、爽やかに言い放った。


自己紹介ねぇ…

ふむぅ、どうしたら短い言葉で、俺の偉大さ、そしてナイス度をクラスメイツに伝える事が出来るか…

これは悩みますぞ。

うぬぅぅぅぅ…

等と頭を捻って考えている間に、何時の間にかもうすぐ穂波と言う所まで順番が回って来たようだ。


い、いかんいかん…

自分の事ばかりで、他のクラスメイツの紹介を聞きそびれたわい。


俺は背筋を伸ばし、キチンと皆の紹介に耳を傾ける。

さて、穂波は何と言うかのぅ…


『榊穂波です♪趣味はクマ関連商品の収集。よく人からちょっぴり可哀相な子とか危険人物とか言われますけど、だいたい合ってます。愛読書はムーとクマの手帳。得意な事はお料理を作る事とストーキング。信奉する神様は宇宙の帝王ザカリテです♪』


とか真実を語ってしまうのだろうか…


やがて、その穂波の番が回ってきた。

珍しく緊張しているのか、硬い表情でぎこちなく席を立つと、

「さ…榊穂波です。趣味はお料理です。皆さん、仲良くして下さい」


「――って、それだけかよッ!?」

思わず抗議の声を出してしまう俺。

穂波は夜叉のような顔で、そんな俺を睨み付けて来た。


「す…すまん。皆さん、自己紹介をお続け下さい…」


うむぅ…穂波ともあろう者が、皆の前で自己を偽るとは…

ってゆーか、どいつもこいつも当り障りの無い自己紹介ばかりしやがって…

っと、お次は豪太郎か。


「…古河豪太郎です。サッカー部に所属しています。趣味は…現在ハムスターを買っています」


…って、おいおいおい…豪太郎。お前も自己を偽ろうと言うのか?

『現代に蘇ったマイケルです。少年が好きです』って言うのを忘れているじゃねぇーか…


「…なっちょらんのぅ」

俺は口の中で呟いた。


どいつもこいつも、外面ばかり気にして、本当の自分を語ってねぇーじゃねぇーか…

クラスメイツだぞ、俺達は。

即ち、1年間共に戦う戦友なのに…最初からこんな余所余所しい感じじゃダメじゃんッ!!

もっとオープンになろうよッ!!

心を開こうよッ!!


…良し、ならば青春男爵と呼ばれたこの俺様が、皆の心を打つであろうハートフルでリアリィな自己紹介をしてやろーじゃねぇーか…

俺は独り大きく頷き、順番を待つ。

そして前の席の奴が、またしても己を隠したような量産的自己紹介の言葉を述べ終えるや、俺は勢い良く席を立った。


――今だッ!!叫べ俺ッ!!そして聞け、魂の声をッ!!


「あ~……神代はいいから、その後ろ」


「って、そりゃないぜティーチャーーーーーーーーッ!!」


「お前の自己紹介は必要無いだろ…」

谷岡先生は苦笑混じりに言った。


「ど、どう言う意味か分からないけど……俺も紹介してぇーよぅ。熱い心を聞いて欲しいよぅ」


「何を言う気だったんだ、お前は?」

先生は溜息を吐いた。

「ともかく、時間も無いから次ぎ行きなさい」



結局、俺は無視されたまま自己紹介は続けられた。

全然、納得がいかねぇ…

くそぅ、こうなったら放送室を占拠して、全校生徒に俺の熱きソウルを語ってやろうか…



「…っと」

何時の間にか、俺の隣りに順番は移っていた。

気になるあのの自己紹介だ。

うむ、聞き逃さないようにしなければ…


メガネ系関西風味の女の子は静かに席を立ち、凛とした声で、

「…伏原美佳心です。趣味は別にありません」

その自己紹介は、今までの誰よりも淡泊で、そしてどこか他者を寄せ付けないような感じがした。


そ、そうだそうだ…伏原の美佳心ちゃんだよ。

ようやくに思い出した…と言うか憶えたわい。


にしても、ドライな自己紹介だなぁ…

なんちゅうか、ソウルが感じられないよね。

ロックでブルースな感じもしないよ……意味は分からんけどな。





「さて、自己紹介も終った事だし…」


「はいッ!!」

俺は勢い良く手を挙げた。

「先生、僕の紹介が終ってません」


「…次はクラス委員長を決めたいのだが…」


「―ゲッ!?スルーかよぅ…」


「誰か……立候補はいないか?」


「はいッ!!」

俺はもっと勢い良く手を挙げた。

「ズバリッ!!俺なんてどうです?」


「…いないか。では誰か推薦を…」


「って、おぉーーーい……谷さん、耳腐ってんのか?」


「はい…」

手を挙げたのは小山田だった。

「私、委員長は伏原さんが良いと思います。1年の時も委員長だったし…」


「そうか。他にいないか?」

と谷岡先生は教室を見渡す。


「はいッ!!神代クンが良いと思いますッ!!1年の時からナイスガイだしッ!!」

俺は俺を推薦する。

もちろん、谷岡先生は笑顔で無視してくれた。

「では伏原…やってくれるか?」


「―――反対ッ!!」

と俺は拒否権を行使した。

「ってゆーか、何故に俺ではダメなのですかッ!!説明して下さいッ!!説明してくれないと、物凄い駄々をこねますよ?」


「神代……残念ながらお前は、委員長になる為の基準を満たしておらんのだよ」


「―えッ!?そんなのがあるんですかッ!?」

初耳だ…

「うぬぅ…だったら諦めるしかねぇーか…」


「と言うワケで…伏原、どうだ?」


「…はい」

伏原の美佳心チンは、全くの無表情で頷いた。


むぅ…

伏原さんが委員長か…

確かに学年TOPの才女って話だし、能力的には申し分ないような気もするけど…

適材適所…では無いような感じが…


「良し、では委員長。先ずは席順を決めたいのだが…」


「…ではクジで」

と、新委員長が言うや、何故かクラスの彼方此方からブーイングが沸き起こった。

クジは嫌とか背の順が良いとか宇宙の意志で決めたいとか…色々と勝手な事を言っている。

しかも煽っているのは、何故か伏原さんを推薦した小山田とその一党だ。

一体、あいつ等は何を考えているんだ?


やれやれ…

「やかましいーーーーーッ!!」

俺は今までの鬱憤を晴らすように、思いっきり机を蹴り上げた。

「ギャーギャー喚くんじゃねぇーッ!!委員長様がクジと言ったらクジッ!!黒と言ったら黒ッ!!そもさんと言ったらせっぱなんだよッ!!分かったかモンキーどもッ!!」


教室は一瞬にして静寂に包まれた。

あぁ…俺も委員長になりたかった。

委員長になって、権力を弄びたかったにゃあ…


「さ、委員長様……静かになりましたので、早速にクジをば…」


「お、おおきに…」



と言うワケで…クジの結果、俺の席順は後ろから2番目、そして委員長様の隣りになることが出来た。

中々にベストポジションだ。

何より、穂波から少し離れた事が嬉しい。


しかし…

委員長になる為の基準って、何だろう?






★4月07日(木)




新学期早々、いきなり遅刻のピンチだった。

穂波の馬鹿が、寝坊をしたのだ。



「うえぇぇ~ん。待ってよ洸一っちゃわぁぁぁん」


「やかましいッ!!もうちょっとシャキシャキと走れッ!!」

商店街を抜け、いつもの公園を疾走する俺と穂波。

「だいたい、何で寝坊なんかするんだよッ!!俺様専用の目覚しのクセに…」


「そ、そんな事言ったって…昨日ケーブルTVで野生のクマ特集やってたし…それに洸一っちゃんも寝坊した…」


「ゴチャゴチャ言うにゃッ!!」

全く…

穂波はともかく、この俺様……ただでさえ遅刻が多いのだ。

谷岡ティーチャーにも言われたけど、あと数回遅刻すれば、漏れなく反省文5ページのオマケが付いて来るのだ。


「ったく…先に行くぞ穂波ッ!!」


「え?え?」


「加速装置…ONッ!!」

ギュッと奥歯を噛み締めると同時に、尻に内蔵されたであろう波動エンジンが作動。

俺は亜空間に溶け込むような勢いで、瞬く間に公園を突き抜け見知らぬ御宅の庭をも横切り、あっという間に学校へ。


良い感じだ…

この走り…間違い無く自己ベストッ!!


地面擦れ擦れに上体を倒し、流れるようなターンを極めながら俺は校門へ滑り込むが、

「―――ッ!?」

突如目の前に、女性徒の後姿が現れた。


――いかんッ!?ぶつかるッ!!!


『―DANGER!!!!―』

脳内にアラートが鳴り響く。

全身、フルブレーキッ!!

緊急回避、緊急回避ッ!!

面舵いっぱぁーーーーーーーいッ!!!

総員、対ショック防御ッ!!


が、間に合わなかった。


――ズドンッ!!!


スンゴイ音と共に、俺は女性徒にぶち当たり、彼女は……30メートルぐらい吹っ飛んだ。


「Ohッ!!テリブルッ!!!」

俺は慌てて、吹っ飛ばされて校庭に転がっちゃった女の子の元へ駆け寄った。

「ソーリーソーリーごめんちゃい。お怪我は…無いですかい?」


「…」

その女の子は、倒れたままゆっくりと此方を振り向いた。


その瞬間、俺は思わず息を飲む。

その女性徒は……女神様だった。

ハッキリ言って、この神代洸一が歩んできた16年と言う歳月の中で…かつてお目に掛かった事が無い程の美人だった。


光を反射し、キラキラと輝く長い髪…

そのサイドは職人が手間暇掛けて編み込んだような三つ編みで、それを後ろへ束ねると言うお洒落な髪型。

更に透き通るような白い肌にどこか物憂げな瞳。

そして柔らかそうな薄桃色の唇…

全てにおいて、一級品。

まるでお人形さんのような女の子…

もちろん、空気で膨らます口を開けた変な人形ではなくて……そう、フランス人形だ。

彼女に比べたら、穂波なんぞはクマの置物と同じだ。


う、うわぁ…めっちゃ綺麗だ…

地上に舞い降りた女神…と言っても過言ではない。

けど、前に公園で俺に暴行を働いた奴にどことなく似ている気もするが…

でもでも、物凄く綺麗で…


―――アホか神代洸一ッ!!

現代に生きるサムライと呼ばれた貴様が、婦女子に見惚れるなど…修行が足りんぞよッ!!


「――ハッ!?まさにその通りだッ!!」

心に響く師匠の言葉に、俺は瞬時に我に返った。

……ところで師匠って誰だ?


「え、え~と…怪我、してない?」

俺は腰を屈め、その女の子を見つめる。


「…」(コクン)

彼女は小さく頷いた。

確かに、あれほど吹っ飛んだにも関わらず…彼女は何故か無傷だった。

擦り傷一つ、付いていない。

まさに奇跡。


「痛い所とか…ない?」


「…」(コクン)


「そ、そっかぁ…そりゃ良かった。え~と……ともかく、立って」

俺はそっと手を差し伸べる。


「……」

彼女は首を傾げ、ジッと差し出した俺の手を見つめていた。


な、なんだ?

「…一応は洗ってあるから綺麗な手だけど…」


「…?」


「え~とね、手を握って…立ち上がるの。…分かる?」


「………」(コクン)


「ず、随分と考えてたような気がするんじゃが…」

もしかして、日本語が通じないのかな?

確かに日本人離れした容姿だし…

え?まさか本当に女神?


俺は半ば強引に彼女の小さくて少し冷たい手を握り、ゆっくりと起き上がらせる。

「良しOK。本当に痛い所とか…無い?」


「…」(コクン)


「そっか…って、あ~あ~…泥が付いてるじゃん」

俺は彼女のスカートに付いた土埃を、軽く手で叩いて落としてやる。

その間も彼女は……何故かボォーっとしていた。


ぬぅ…

「もしかして…頭でも打った?」

実は脳震盪の真っ最中とか…


「…」(フルフル)


「…あ…って言ってみ?」


「………あ」

彼女は蚊の鳴くような小さな声で『あ』と呟いた。

うむ、言語中枢は麻痺してないみたいだ。

先ずは一安心。


「よっしゃ。まぁ…なんだ、ともかく…悪かった」

俺は素直に頭を下げた。

「次からは気を付けるから…アンタも気を付けろよ?」


「…」(コクン)


「うむ、分かれば宜しい。では、さらばだお嬢さんッ!!」






やれやれ、スッゲェ美人だったけど、微妙に変な女の子だったにゃあ…

どこか心を患っているのかな?


等と考えながら下駄箱から下履きを出していると、

「ひ、酷いよぅ…洸一っちゃん」

息を切らした穂波が、疲れた顔してフラフラとやって来た。


「よぅ…お疲れ」


「っもう…洸一っちゃんは、優しさ欠乏症だよ」

頬を膨らます穂波。

が、不意に表情を改めると、

「ところで洸一っちゃん。…喜連川先輩と知り合いなの?」


「は?喜連川先輩?」

誰それ?


「え?さっき…何か話してたじゃない」


「さっき?あ、あ~~…あの女の子かぁ。いや、初対面だ」

ふ~ん、喜連川って言うのか…

仰々しい苗字ですな。

しかも先輩って…なるほど、俺より一つ年上なのね。


「道理で、どこか大人チックに落ち付いてると思ったわい」


「しょ、初対面なのに喜連川先輩と話し込むなんて…さすが洸一っちゃんだよぅ。怖いもの知らずだよぅ」

教室に向って歩きながら、穂波はそんな事を言う。


「ま、確かに俺は怖いもの知らずのザ・冒険野郎だが……たかが先輩と話すのに、恐いも何もねぇーだろーが」


「えッ!?でも洸一っちゃん。あの人……喜連川先輩だよ?」


「それがどーした?俺は神代洸一様だぞ」


「……」


「ってか、何だその哀れんだ顔は?しかも何か全然話しが見えないんじゃが…あの先輩、もしかして有名人?ちなみに俺も有名人だがな」


「…あのね洸一っちゃん。あの人…喜連川って苗字なんだよ?分かるでしょ?」


「珍しい苗字だなぁ…公家チックだし……羨ましいぜッ!!」

俺も今日から伊集院とか有栖川とか名乗ろうかしらん。


「いや、そうじゃなくて…喜連川なんだよ?知ってるでしょ?」


「喜連川ねぇ…知っていると言えば、それが高家だったか?足利将軍の一門って事と、ほら…世界でも5本の指に入る大財閥の…」


「だからぁ、その喜連川だよぅ」


「……は?どーゆー意味?」


「洸一っちゃん、理解力無さ過ぎ」

穂波は溜息を吐きながら、教室の扉を開けた。

「だから、あの人がその喜連川財閥のお嬢様なんだよぅ」


「………マジ?」


「うん」


「そ、そりゃスゲェなぁ…」

なるほど、天下の喜連川財閥のお嬢様だったのか…

道理で、ちょいと一般ピープルとは違うと思ったわい。

すんげぇ美人だったし…

まさに遺伝子の勝利ってヤツだね。


「…ってゆーか、そんな生粋のお嬢様が、何でこんなチンケな場末の高校に通ってるんだ?この辺りだったら普通…ってか当然のように梅女の方へ通うだろうに…」


「それは…知らないよぅ」


「ふ~ん……ま、良いや。後で智香の馬鹿にでも聞いてみるか」






休み時間、俺は智香の馬鹿を呼び出し、穂波をを交えて廊下で今朝の事を話した。

そうしたら、

『――うぇッ!?』

二人は揃って驚いた顔をした。


「こ、洸一っちゃん……喜連川先輩を突き飛ばしたの?」


「失礼な。あれは純粋な事故だ」


「あ~あ~…コーイチ。あんたの人生ももこれまでねぇ…」

智香は俺の肩に手を置き、フルフルと悲しげな表情で首を横に振る。


「ど、どーゆー意味だよ…」


「だってアンタ…あの喜連川お嬢様に暴行を働いたんだよ?ま、可哀相だけど……明日の朝には海の底で海老とか蟹の餌になってるかも…」


「暴行って…失礼な事を言うにゃッ!!ちょっとぶつかっただけで、何で沈められるんだよッ!!」


「ま、そこまではしないと思うけど…でもコーイチ。あの先輩……恐い噂が一杯あるんだよ?」


「噂?…ふっ、噂なんてものは、その殆どがでっち上げだ」


「でも、火の立たない所に何とやらって言うじゃない。聞いた話しだけど、あの先輩に呪われて苦しんだって話しもあるし…」


「ま、待て待て待て。呪いってなんだよ?いきなり胡散臭いぞ?」

俺は穂波と智香を交互に見つめるが…

彼女達は、酷く真剣な顔をしていた。

なんだよ、おっかねぇ。


「…マジな話なのか?」


「当たり前よ。あの先輩だけどさぁ…魔術とか霊能とか…そーゆーオカルトな事が趣味って言うか…クラブにも入ってるし…」


「倶楽部??そんな奇怪至極な倶楽部が、この平和な学園に存在したのか?」

全然、知らんかった…

「しかし魔術とかって…もしかして、お嬢様は魔女?そして本名はサマンサ??」


「それは奥様は魔女でしょ?コーイチのネタは古過ぎるわよ…」


「すまんッ!!しっかし、そうかぁ…彼女、そんな倶楽部に入っちゃうほど、オカルティなモノに傾倒しているのか…」

なるほど、道理ですこーし、雰囲気が普通とは違うかなぁ~…と思ったわい。

かなり厨二を患っているようですねぇ…

あんなに美人なのに。


「そーよ。だからコーイチ……今朝の事を恨まれて、変な呪いとか掛けられて…」


「フッ…下らんわッ!!」

俺は一喝した。

「俺は超現実主義者だ。リアリストだ。呪いだか魔術だか知らんが……俺はこの目で見た事しか信用しんわいッ!!」


「ふ~ん…でもコーイチは幽霊も信じてるし…」


「当たり前だッ!!俺は見たんだよッ!!」


「洸一っちゃんはUFOも信じてるし…」


「当然だッ!!アレは存在するんだよッ!!見たんだよ俺はッ!!」


「…コーイチ。あんたもオカルトの素養はバッチリだわ」




しっかし…

あの美人でボヤッとした女の子が、まさかあの喜連川のお嬢様だったとは…

結局、何でウチの学校に通っているのか、智香も分からないとか言ってたし…

ふむぅ、中々どーして…この学校にはまだまだ、俺様の知らない事が多いですな。




PS

隣人である委員長様に、気さくに話し掛けたら、

「…黙っとき」

と言われた。

……

照れているのかな?










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