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俺様日記  作者: 清野詠一
34/39

僕等の二日間戦争・後編




一個師団相当……?

「お、おいおいおい…まだ交渉している最中なのに、いきなり殲滅作戦かよ」

俺は呆れた声を上げながら、天井を仰いで軽く溜息を漏らす。

全く、のどかさんやまどかが、どーなっても良いと言うのか?

その時、いきなり誰ぞのスマホか携帯の着メロが鳴り出した。


「あ、私だ…」

と、まどかがポケットからスマホを取り出す。

「……ロッテンからよ」


「貸せ」

俺は分捕る様にして、まどかからスマホを取り上げ、

「もしもし、こちら来来軒」


『――小僧かッ!!』

相変わらず、スマホの小型スピーカーを破壊するような勢いの爺ィの声が響いてきた。


「おう、俺様だ。それよりも、一体これはどーゆーこった?まさか大軍を擁して攻めてくるとは……これが先の交渉の結果なのか?」


『先走るな小僧ッ!!』


「先走ってねぇーよッ、カウパってねぇーよッ。ま、そっちがその気なら、この俺にも考えがある。今より俺様の物語は18禁じゃいッ!!まどか達にチョメチョメしてやるからなッ!!」

ま、本当にやるわけじゃねぇーけど……


『慌てるな小僧ッ!!今回の件は、喜連川エレクトロニクスと一部の軍の暴走だ。我らの本位ではない』


「おいおい……関東軍じゃねぇーんだから、暴走って言われてもなぁ」

指揮系統は一体、どーなってっるんだ?


『いいか、良く聞け小僧。冗談では無く、彼奴らは全てを無かった事にしようとしている。……大人しく、旗を巻いて降れ。喜連川の機甲師団が相手では、万に一つも勝ち目は無いぞ』


「……ふ、出来ん相談だな」


『小僧ッ!!貴様はともかく、のどかお嬢様に何かあれば……』


「その辺は心配いらん。俺様の名誉に懸けて守ってやるさ。ま、せいぜい御町内でもヒトラーの尻尾と呼ばれた俺様の戦いぶりを見ておれッ!!」

俺はスマホを切り、まどかに返した。

「ふん、交渉は決裂だな」

美佳心ちんが渋い顔になった。

「決裂っちゅうか、神代君が打ち切ったような…」


「気のせいだッ!!それよりもセレス。敵の戦力は?」


「_偵察衛星からの映像を解析したところ……おおよそ、戦闘車両50台。対地攻撃能力を有した空軍機が10機……兵員は、約5000と言った所です」


……ギャフン。

「お、おいおい……マジで市街戦を繰り広げる気かよ」


「_そのようです」


「ど、どうする神代?」

冷静な二荒も、どこか戸惑った声を上げて俺を見つめる。


「ぬぅ…」

みんなが、俺を注視している。

ど、どうしよう?

とにかく、考えろ俺ッ!!

出でよ選択肢ッ!!


1・大人しく降伏

2・潔く自決

3・ガンガン行こうぜ


クッ…

「一つしかねぇーか…」


「どうするの洸一?」

と、まどか。


「戦うッ!!取り敢えず全員、表ヘ出るんだッ!!家を囲まれちまったらイザと言う時、逃げる事も出来んからなッ!!」



茜色に染まった黄昏時の住宅街は……予想以上に静かだった。

いや、静か過ぎる。

車はおろか、人影すら見えない。


「なんや、えらい閑散としとるやないけ……」

委員長が呟く。

確かに、まるでゴーストタウンのようだ。


「うぅ~む……どう思う、セレス?」


「_恐らく、喜連川軍によって強制的に退去させられたのでしょう」


「なるほど…」

恐るべし、喜連川財閥。

街一つ、本気で潰す気でいやがる……


「_洸一さん。これから如何致します?敵は徐々に、包囲を狭めて来ておりますが……」


「うぅ~む…」

高校生軍団VS機甲師団か……

さしもの俺様も、どうすりゃ良いのか分からんっての本音だが……

「取り敢えず、逃げ回る」


「性に合わんなぁ」

と、委員長こと六甲の赤い稲妻が鼻を鳴らした。

「逃げてどないするねん?」


「正直、分からん。が、ともかく逃げながら何か策を練る。もちろん、敵に出会ったら攻撃だ」


「_ゲリラ戦を行う……と言うことですね?」

とセレス。


「その通りだ。ただし、万が一敵に囲まれちまったら……ま、その時は潔く降伏しよう。なに、命さえあれば、何度でもリベンジは出来るんだからな」



俺達は、一塊になって逃げ隠れることにした。

幸いにして、街は殆ど無人だ。

潜伏する場所には困らない、と思ったのだが……


「_洸一さん。……少し遅かったようです」

偵察衛星からの情報を精査しているセレスが、難しい顔をする。

「_この家を中心に、表通りから路地裏まで兵が配置されている模様です。どうやら、既にこの区画からは逃げる事は出来ないようです」


「ぬぅ…」


「_しかも敵軍は徐々に、そして確実に包囲を狭めてきておりおます。……どうします、洸一さん?」


どうします?と言われてもなぁ…

高校生、しかも学業方面にちと不安がある俺様の頭脳では、もはやこれまで、と言う玉砕的な解答しか導き出せんが……

「ミカチン。僕チンはどうしたら良いと思う?」


「ミカチンって言うなやッ」

明晰な頭脳を誇る委員長はキッと音を立てて俺を睨み付ける。

「全く……こんな事になるんやったら、最初から逃げ道ぐらい確保しときーや」


「確保ったって…」

普通に生活していてこんな非日常な状況を想定するほど、俺の厨二病は進行していないぞ?


「…まぁエエわ」

そう言って委員長は顎に手を当て、暫し黙考。

「……喜連川先輩。どうしたらエエと思います?」


「時間を稼いで下さい……」

如何なる状況にあっても、恐らく表情一つ変えないであろうのどかさんは、やっぱり無表情のままそう呟いた。

「神に祈りを捧げます。そして敵を粉微塵……」


神……なのか、それは?


「セレスはどないや?」


「_私も少し時間を……このままペンタゴンに侵入し、軌道上の反射衛星砲を乗っ取ります」


それって外交的にかなり問題が大きいような気が……

左向きのマスコミや近隣の敵国に知られたら、国際問題に発展する恐れがあるんだけど……


「なるほどな。そーゆーワケや神代くん。で、どないするん?」


「……言う通り、ここは時間を稼ぐしかねぇーだろ」

俺は少しだけぶっきらぼうに答えた。

「のどか先輩の祈りとセレスのハッキングが成功するまで、俺達は敵を食い止める。残念ながら、今はそれしか策がねぇ…」


「せやな」

美佳心チンは頷いた。

「ほな、そーゆーワケで……喜連川先輩とセレスは、あんじょう頼みます。他のみんなは、最後の一兵になるまでここを死守するんや」


ぬぅ……


「なんや神代くん?難しい顔して……何や他に考えでもあるんか?」


「いや……今思い付いたんだが、守るよりもこの際は、包囲網を突き破って敵の本丸、喜連川エレクトロニクスに直接乗り込むのはどうかと…」


「……は」

委員長は馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「神代くんは典型的な日本人やな。勝算の無い特攻は、ただの無謀やで?」


「うぅ~ん……勝算が無いって言うか、無闇に敵中に飛び込むんじゃなくて、例えば下水を通って脱け出すとかして……」

と、俺は出来るだけ安全な策を提示するが、

「来るぞ神代洸一ッ!!」

辺りに注意を払っていた二荒が、気合いの入った声を発した。

どうやら、遅かったみたいだ。

策を労している時間は、もはや無い。

くっ……

「のどか先輩とセレスは家の中に退避ッ!!他の面々は、ここを守り切るんだッ!!」


―――さぁ、バトルの開始だッ!!――――


《神代軍・戦闘ターン》

○洸一:実行フェイズ

――洸一は辺りを索敵

敵は発見出来ない。


○まどか:実行フェイズ

――まどかは気配を探る

右角に20人、左角に15人、敵兵を確認した。


○二荒:実行フェイズ

――二荒は構えを取った

戦闘力50UP、防御力120UP


○セレス:実行フェイズ

――サテライトシステムへ接続

セレスはアメリカ国防総省へ侵入を開始


○優ちゃん:実行フェイズ

――優ちゃんは構えを取った

戦闘力80UP、防御力15DOWN


○委員長:実行イフェイズ

――美佳心チンは気合いを篭める

委員長は六甲の赤い稲妻にチェイング


○姫乃ッチ:実行フェイズ

――精神集中

姫乃ッチは家の周りにサイコバリアーを張った


○ラピス:実行フェイズ

――応援

全員の攻撃力が10UP


○のどか先輩:実行フェイズ

――召喚

のどか先輩は天に祈りを捧げている

《神代軍・ターン終了》


《喜連川第6機甲師団・戦闘ターン》

○第1中隊:実行フェイズ

――迫撃砲

『チュドーーーーーーーーーンッ!!』

3件隣りの飯山さん家が大破したッ!!


「って、ちょっと待てやーーーーーーーーッ!!?」

茜色に染まった空の下、犬とニートを一匹ずつ飼っている飯山さん家の2階部分が全壊し、モウモウと黒煙が立ち昇っている。

「じ、実弾じゃねぇーかッ!?モノホンで攻撃してきやがったよッ!!?」


「喜連川の機甲師団は、普通の警備隊とワケが違うからね」

何故かまどかはエッヘンと胸を張って自慢気に答えた。


「あ、アホかッ!?ほほほ、本物なんだぞ?本当の市街戦に発展しちゃったんだぞ?し、死んじゃうじゃんかよぅぅぅ」


「情け無い声を出すな、神代洸一」

と二荒の姐さん。

「殺られるまえに殺る、だ」


――ナニ言ってんのこの人ッ!!?


「そやで神代くんや」

委員長もキシシと嫌な笑みを溢し、優ちゃんや姫乃ッチも、力強く頷いた。


す、すげぇ……

皆、なんて頼もしいんだ。

・・・・

ってゆーか、なんて好戦的な女子高生なんだろう…


「ふんっ、乱戦に持ち込めば飛び道具は使えない筈よ」

まどかはポニテを結ってるリボンを締め直し、

「行くわよ、真咲ッ」

「承知ッ!!」

と、二荒と共に近付いてきた敵の一団に、まるで山賊の様に襲い掛った。

優ちゃんや委員長も、それに倣う。


うわぁぁぁん、逞し過ぎるよぅぅぅ…

「くっ…姫乃ッチとラピスは俺の背中に隠れていろッ!!」

ちくしょぅぅぅ……こうなったらもう、破れかぶれだ。

俺の行き様、見せてくれようぞッ!!


「あうッ!?洸一しゃん前でしゅッ」

ラピスの声に顔を上げる俺。

目の前から、銃剣を構えた兵士が突っ込んで来た。


うわっ、怖ぇぇーーーーーーッ!?

「くそっ!!良く分からんけど、取り敢えず10倍だッ!!」

俺は戦闘力をUPさせながら、敵を迎え撃つ。

やってやる……

強いって何か分かるまで、僕は挑戦者なんだッ!!

「食らえッ!!洸一、ダイナマイト・ブギッ!!(意味不明)」

だが、簡単に躱された。

「な、なにぃぃぃッ!?」


「…フンッ!!」

名も無き兵士は銃座で俺の顔面を強打し、

「―――ガフンッ!?」

一撃で、俺の意識は遠い世界へ旅立ったのだった。



「…お……おぉう?」

目が覚めると、既に辺りは夕闇が支配していた。

彼方此方に、瓦礫が散乱している。

「あ…あれれ?」


「……気付いた、洸一?」

俺の顔を覗き込む様に、まどかの顔が近付く。

どうやら俺は、彼女に膝枕をされているようなんじゃが……

「俺……どうしてたんだ?」


「殴られて、そのまま気を失ってたのよ」

言ってまどかは、指先で軽く俺のプリティなおでこを弾くと、

「全く……情っっっけ無い男ねぇ。みんなは殆ど無傷なのに、殴られて気絶しちゃうなんて…」


「ぐっ……め、面目ござらん」

しかし、そっか……みんな無事か。

やれやれ、ホッとしたわい。

「あ、ところで敵はどうしたんだ?」


「ん?姉さんの魔法とセレスの反射衛星砲を喰らって、ほうほうの態で逃げ出したわよ」


……ぬぅ

さすがだ。

あの二人なら、世界を取る事だって出来るかもしれん。

「なるほどな。そう言えば被害状況は?」


「此方はアンタを除いて無傷よ。ただ……街がちょっと壊れちゃったかな」


ちょっと?

なんか、辺り一面焼け野原になってるんですけど……

賠償費は当然、喜連川持ちなんだろうな?

「な、なるほど、なるほど……あ、ラピスとセレスはどこだ?」


「お茶の仕度をするって家の中よ」


戦闘後の一服か…

そう言えば、ボチボチと夕飯の時間だよなぁ…

「分かった。ところで、最後にもう一つ聞きたいんじゃが…」


「ん?なぁに?」


「いや、なんかさっきから二荒がスンゴイ険しい目つきで此方を睨んでいるんじゃが……何かあったのか?」


「あぁ……あれね」

まどかはクスクスと笑いながら、膝の上に乗せている俺の頭を優しく撫で

「神聖なジャンケンの結果よ」


「ジ、ジャンケン?」

え?なに?ジャンケンに負けただけで、二荒は殺気まで溢すのか?

なんて恐ろしい……

「って言うか、なんのジャンケンだ?」


「……秘密よ」

そう言って、まどかは俺の頬を軽く抓んでニコッと微笑んだ。


……気のせいだろうか?

何故か二荒の殺気が、更に増したような気が…



神代洸一の家の中、台所で、セレスとラピスはお茶の仕度していた。

湯を沸かし、それを茶葉の入った急須に注ぎながら、セレスはお茶菓子の仕度をしているラピスに視線を送る。

「_……どうやら、これまでのようですね」


「はゃ?」

袋から煎餅を取り出して皿に並べていたラピスは首を捻る。

「なんの事でしゅか、セレスしゃん?」


「_惚けるのはお止しなさい、ラピスさん」

セレスはピシャリと言った。

「_貴方の低スペックなAIでも、今の状況がどのようなものか、理解出来るでしょう?」


「あ、相変わらず、舐めた口を聴いてくれましゅねぇ、セレスしゃんは。でも……さすがに何を言いたいのかは分かるんでしゅ」


「_……今までが、運が良かったのです」


「……どうするんでしゅか、セレスしゃん?」


「_私達のことは、私達だけでケリをつけましょう。……洸一さんにはこれ以上、危険な真似をさせたくありませんから……」


「あぅ……」



「今回も、何とか凌ぐ事が出来たな」

家の中に戻った俺達は、セレス達の煎れてくれたお茶を飲みながら、一息吐いていた。

ご町内はちょいとだけ崩壊しちまったけど……

我が家は無傷だし、みんなも無事だ。

うむ、ノープロブレムなり。


「しっかし、ぼちぼちケチを付けんと、この先どーなるか分からへんで?」

と美佳心チンがお茶を啜りながら呟く。

その言葉にまどかも頷き、

「そうねぇ。いつまでもここに篭っていたって、事態は打開出来ないわね」


「うぅ~む……確かに、な」

かと言って、話し合いはまだ平行線だし……

実際、どうしたら良いのか……とんと思い付かないわい。

「……のどか先輩。先輩は、どう思います?」

俺は年長者である魔女様に、御意見を伺う。

が、のどかさんは座ったまま、静かに寝息を立てていた。

「ありゃ?お眠ですか、のどか先輩?」

まぁ、僕の知らない神秘的な力を使うのだ……

ただでさえHPが低そうなのどかさんには、色々と疲れる事があるのだろう。

ふむ…

「なぁ、二荒はどう思う?」


「……」

と、二荒真咲はいきなりバタンと仰向けに転がり、これまたグースカと寝息を立てていた。

豪快な寝方だ。

大の字になっている。


「お、おいおい…」

俺は笑いながら二荒に声を掛けるが、その時、異変に気が付いた。

「あ、あれれ?」

みんな……寝ている?

姫乃ッチも優ちゃんも……

今まで話していた委員長やまどかも、いつの間にか机に突っ伏して……

「――ッ!?」

あれ?なんか……目が回るぞ?

と思った瞬間、俺も二荒同様、床の上に大の字に転がった。

天井が、ぐにゃりと曲がって見える。


な……なんだ?

め、眩暈?

い…意識が……遠のいて……



天井が近くなったり遠くなったり…

かと思えば、グニャリと曲がり…

ど、どうしたんだ俺?

視点が定まらないぞ?

それに、思考がだんだんとボヤけて……

「くっ……セ、セレス……ラピス」

気力を振り絞り、二人のメイドロボを呼んでみる。


「_……洸一さん」

台所から、セレスがやって来るのが見えた。

彼女は転がっている俺の横に膝を着き、顔を近づける。


「セ…セレス…」

舌が痺れて、上手く言葉が発せられない。


「_……洸一さん」

セリオの手が、そっと俺の頬に触れた。

「_申し訳、ありません」


「?」


「_……お茶の中に、睡眠薬を入れてしまいました」


「な…なんだって…」


「_……」


「ど…どう言うこと…だ…」


「_…もう、良いのです洸一さん」

セレスが優しく微笑む。

彼女のこんなに切なげな笑顔は……初めて見た。

「_これ以上、ご迷惑を掛けることは出来ません」


「め…迷惑?」


「_ダメです」

セレスは頭を振った。

「_少し、考えが甘かったようです。なんとかなると思っていましたが……どうやら、これまでです。洸一さん、喜連川の力はこんなものではありません。これ以上続けたら、怪我だけは済まなくなります」


「セレス…」


「_今まで、ありがとう御座いました。あとの問題は、私とラピスさんで片付けます」


「か…片付けるって…」

く、くそっ、体が動かねぇ…


「_……さようならです、洸一さん」

セレスの唇が、そっと俺の頬に触れた。


「セ…レス……」

あ、あかん…意識が遠のく…

歯を食い縛り、居間から出て行くセレスの後ろ姿を見つめる。


ち、ちくしょうぅぅ……なんてこったい。

もう少し、俺がしっかりとしていれば…

……

だ、だけどまぁ…もう戦わなくていいし……

今はただ、猛烈に眠たいし……

・・・・・

・・・・

・・・

・・

―――ってアホかッ!!


「ぐっ…」

痺れて動かない四肢に、何とか力を篭める。

俺は……最低だ…

ラピスやセレスの為に頑張ってきたのに…

最後になって、もう戦わなくて良いやって考えちまった…

しかも何より許せないのは、それに少しだけホッとした自分の性根だッ!!


「く、くそったれが……」

強引に体を起し、ぼやけたまなこで辺りを見る。

と、廊下に通ずるドアの所に、黒兵衛が不思議そうな顔をしながら佇んでいた。

その背中には、酒井さんがチョコンと乗っかっている。

「さ…酒井さん…」


「……キ」


「俺を……俺をこの深い眠りから呼び覚ましてくれぃ…」


「…キー――――――――ッ」

酒井さんは腕を振り上げ、そのまま台所へ。

そして手に何か持って俺の元へ戻ってくると、

「キ…」

いきなり朦朧としている俺の口を抉じ開け、その手にしたモノを放り込んだ。


「……ギャワーーーーーーーッ!!!!」

口から火が出た。

床には、空になった一味唐辛子の瓶が転がっている。

「辛い辛い辛い熱い熱い熱い痛い痛い痛い、喉が焼け爛れるーーーーーーッ!!」

俺は酒井さんと黒兵衛をふっ飛ばしながら台所へ駆け付け、慌てて水を飲んでは吐き出した。

「ぐぅぉぉおおおおうぅぅぅ……の、喉と舌が……さすがに、致死量だぜこれは…」

だけど完璧に目が覚めた。

もちろん、あまり感謝する気にはなれないが……


「にしても、参ったなぁ…」

俺はポツリと呟いた。

セレスとラピス、自分達でケリをつけるとか言ってたけど…

それこそ、あいつ等の思う壺なのに…

「さて、どうするかねぇ」

とは言ったものの、既に取るべき行動は決まっていた。

「……ま、なんとかなるだろう」

俺は居間で眠っている少女達を見やり、苦笑を溢した。


これは俺が始めた戦いだ。

なら幕を下ろすのも、俺の役目。

彼女達をこれ以上、巻き込む事は許されない。


「……よし」

俺は階段を上がって自室に戻ると、普段は使ってないクローゼットを開けた。

「よもや……本当に使う日が来るとは」

中には、禍禍しいデザインのヘルメットに、簡素な革の鎧。

これは『近い将来、世界は滅びるだろう』と厨二を拗らせていたアホな中学時代、そんな末世的な世界を生き抜く為に作った、お手製の衣裳だ。

装着した姿が、まるで某世紀末救世主伝説に出て来る下っ端キャラみたいなのが気に入らず、ずっと封印していたのだが……


「ふっ、これも運命か。……良く分からんが」

俺はそんな雑魚的な衣裳を身に着け、更には喜連川軍から分捕った武器を手にする。

うむ、何処から見てもテロリストなり。


「待ってろよラピス、セレス…」

俺はラピスからプレゼントされた可愛いハンカチーフを手首に巻き付けながら、呟いた。

「この俺が……心の兄が、絶対に助けてやるけんのぅ」



俺は愛用のママチャリ、スーパー洸一デリシャス3号に跨り、前カゴに酒井さんと黒兵衛を乗せてペダルを漕ぎ漕ぎ、夜を迎えたばかりの街を走る。

途中、警らのポリスメェンに不審人物として追っ駆け回されたが、そんな事は些細な事だ。

目指すは喜連川エレクトロニクスのメイドロボ研究所。

場所は分かっている。

この春、俺がバイトに行って追い出された所だ。


「しっかし、実際問題どうするかだよなぁ…」

自転車を走らせながら何気にそう呟くと、前籠に乗っている馬鹿猫が『ぶにゃぁぁぁああ』とやる気の無い声を上げた。

まるで、『猫に話し掛けんなや。このヘタレがッ』とか言っているような気がする。

「……いつか三味線屋に売り飛ばしてやる」


「ブニャッ!?」


「……冗談だ。小汚ねぇ猫の皮なんか、使えるか」

俺は鼻で笑ってやった。

……不思議な気持ちだった。

敵地へ赴くと言うのに、全く恐怖は感じない。

敵は平気で市街戦を繰り広げるような非常識な連中の筈なのに……

下手すれば、マジで命に関わる問題なのに、俺は至って冷静だ。


なんだろう、この感じは…

遠い昔…

この馬鹿猫と、こうして幾度も修羅場を潜り抜けて来たような……そんな気さえする。


「……っと」

俺は自転車を止めた。

「ここからは、少し歩いた方が良いな」

閑静な住宅街。

その先に見えるは、鉄柵に囲まれた喜連川の研究施設だ。

俺は自転車を路地裏に隠し、黒兵衛を肩に、そして酒井さんを背負っている小さなリュックの中に、半身だけ表へ出ている感じで仕舞い込む。

このリュックの中身は、何だか良く分からない。

何か役に立つだろうと思い、のどかさんの使用しているお部屋から、テキトーに拝借してきたモノが入っているのだ。


「昔話みたいに、3枚のお札でもあれば便利なんじゃが…」

そんな事をボヤキながら、慎重に建物に近付く。

「……良し。偵察隊、行け」

黒兵衛が肩から飛び降り、建物に向かって走り出した。

そして此方を振り返り、「ブニャニャ」と鳴く。

『クリアー』とでも言っているのだろか?


ふむ……

トテテテテと小走りに建物に近付き、辺りを見渡す。

人影は無い。

さて、侵入地点はどこが良いか…

「黒兵衛。正門を見て来い」


「ブニャ」

黒兵衛は塀伝いに走って行き、「ブニャニャッ」と一鳴き。

俺は気配を覗いながら、黒兵衛の元へ駆け寄った。

「…む?」

門は開いていた。

敷地の中に、警備員らしき者が数人、倒れている。

やはりセレス達は、ここに来ているようだ。

「……取り敢えず、何か役立つ物は……」

俺は気絶している警備員に近付き、その制服のポケット等を弄る。

やっている事は単なるコソ泥だ。

「……ん?」

ポケットの中に、一枚のカードが入っていた。

――洸一はセキュリティカードを手に入れた――

「これで研究施設内に入る事が出来るな」


「ブニャァァン」


「うむ、なるほど。何言ってるか分からんけど……行くぞ」

その場を後にし、施設前の広大な駐車スペースを全力で突っ切る。

「……開いてるな」

施設の扉は、開いてると言うか打ち破られていた。

外から中を覗う。

警報装置が作動したのか、所々、赤ランプが明滅していた。

「……黒兵衛、GOッ」


「ブニャ」

黒兵衛が施設内に入って行く。

「ブニャニャ」


「OK」

俺も慎重に、続いて建物の中に入る。

時間が早いせいか、まだ施設内の明りは点いていた。

荒された形跡、と言うかセレス達が暴れた形跡は……今の所ない。

「うぅ~む……広そうな建物だし、どうやって探したら良いものか…」

受付らしき一角に、大きな案内板が掲げられている。

俺は壁に掛ったそれを見上げながら、暫し思案。

事務室に……ラボ1、ラボ2、企画室に……ラボ3、資料室に倉庫……

「……何処に行ったら良いのか、全く分からんばい」


「ブニャ…」


「……良し。ここは一先ず、セレス達の後を尾けてみよう。彼女達の侵入した形跡を、見つけ出すんだ」



俺と黒兵衛は、ゆっくりと、人の気配を窺うように1階を探索。

「ブニャ…」

と、案外頼りになる黒猫が、短く鳴いた。


「……ぬぅ」

廊下を進んだ所に、青い制服の、警備員らしき人が倒れている。

更にその先にも、数人の男達が倒れていた。

セレスとラピスは、どうやらここを通って先に進んだみたいだな。

倒れている人達の脇を通り、尚も進む。

目の前には《ラボ》と書かれたプレートがぶら下がっている扉があった。


「……ふむ」

頑丈そうなその扉のノブは、物凄い力で破壊されていた。

人の為せる業ではない。

明らかに、これは彼女達が侵入した痕跡だ。

うぅ~む、セレス達はここを通って行ったのか……

扉を開け、中に入る。

そこは細長い、摩訶不思議な通路だった。

天井から左右の壁に掛けて、何やら無数の穴が開いている。

入ってすぐの壁には、何やら書かれたプレートが貼ってあった。

「え~と……ラボに入る前には白衣に着替え、エアーダスターで全身の埃を落として下さい…か」

なるほど、この無数の穴から、空気がブシュッと噴出すわけなのね。

「……ま、面倒臭いからパス」

俺はそのままズカズカと先へ進む。

が、すぐに行き止まり…と言うか、何重にもロックされた、まるで金庫みたいな鉄の扉が行く手を阻んでいた。

破壊された形跡は無い。


「さてさて…」

見ると扉の脇には、カードリーダーとキーボードが添え付けられていた。

セキュリティシステムか……

こう言った特殊な施設なら、普通は指紋だの網膜だの静脈だのの生体認識がセキュリティ的にも安全だと思うのだが……

「あっ、そうか。セリオ達も利用するから、暗号認識タイプなんだ…」

うむ、我ながら鋭い洞察力なり。

「ま、それは置いといてだ。取り敢えず、これで中へ入れるかな?」

俺は先ほど奪ってきたカードを、カードリーダーにシュッと通す。

すると、小さな画面に《パスワードを入力して下さい》と表示された。

「ぬぅ…」

パスワード?

「ぬぬ、ぬぅ…」

取り敢えず、「SRMHPP9」と、キーボードから打ち込んでみる。

―――ピッ!!

《パスワードが違います。再入力して下さい》

「……チッ」

今度は、「SRMHP8」とキーを叩く。

―――ピッ!!

《パスワードが違います。再入力して下さい》

「……なめんなよ?」

慣れた手つきで「KOUITI ZINDAI」と入力。

もちろん、特に意味は無い。

―――ピッ!!

《パスワードが違います》

「ま、そりゃそうだ…」

これで開いたら逆にビックリだ。

―――ピッ!!!

《不法アクセス。IDを消去します》

「……へ?」

と、画面がいきなりブラックアウトし、同時にその狭い通路中に、けたたましく警報音が鳴り響いた。


ヤ、ヤバイ…

一旦通路を戻り、廊下に飛び出す。

やれやれ、参ったなぁ…

セキュリティが突破出来ないとなると、他のルートで潜り込まないとダメか…

「ふむ。どうしたらラボに入れるかのぅ」

と、俺は独りごちりながら、廊下の掲示板に掲げられていた案内図に見入っていると、不意に黒兵衛が、「フゥゥッ」と唸り声を上げた。


「どうしたジャングル?」


「ニャゥンッ」


「……ん?」

キシュキシュキシュ、と妙な機械音が、廊下の曲がり角から響いて来る。

しかもそれは、段々と近付いて来る模様だ。

な、なんだ?

良く分からんが……ヤバ気な感じがプンプンとしますぞ?

俺は咄嗟に、敵兵より奪ったレスリーサル・ショットガンを構える。

黒兵衛も背中の毛をおっ立て、臨戦体勢だ。

「……来るぞッ」


――キシュキシュキシュ……

油の切れたゼンマイ的な音を立て、異形の物体が曲がり角から現れた。


「……なんじゃありゃ?」

それはお土産物的コケシが突発的に進化したような、妙チクリンな機械だった。

大きさは目測でおおよそ1メートル。

足元には移動用のキャスター。

その筒型の中央には《喜連川警備保障》とプリントされていた。

「警備用の……ロボか?」

戸惑う俺を余所に、そのコケシの妖怪みたいなロボットは、

『IDカードを提示し、認識コードを音声にて入力して下さい』

と警告しながら、キャスターをコロコロと回転させ、のんびりと近付いてくる。


な、なんか…やたら不気味じゃのぅ…

その辺の妖怪(酒井さんとか穂波)の方が、よほど可愛気があるぜ…


『IDカードを提示し、認識コードを音声にて入力して下さい』


「……ほらよ」

俺は近付いてきたコケシ型ロボットに、ズバンッと1発、いきなり銃をぶっ放してやった。

「ふっ、これが俺様の挨拶だぜ」

だが…

「ありゃま?全く効いてねぇ」

コケシの化けモンは、小揺るぎもしなかった。

ゴム弾如きでは、さすがにメタリックなボディには通用はしないようだ。

うぅ~む、どうしよう?


『……敵対行動を確認。侵入者と判断し、駆除します』

そう警告を発するや、コケシの腹の部分から、ニュッと細長い棒が飛び出した。

バチバチッと音を立て、火花が飛び散っている。


電気ショックか……

「チッ…」

舌打ちをし、近付いて来る化けモンに再度銃をぶっ放す。


――カンカンッ!!

呆気なく弾かれた。


『敵対行動を確認。侵入者と判断し、駆除します』


「ケッ、旧式ロボットの分際で…」


『敵対行動を確認。侵入者と判断し、駆除します』

と、それまでキャスターを回転させながらノロノロと近付いてきたコケシは、いきなりガーッと音を立て、物凄い勢いで迫って来た。


「うわッ、速ぇーーーーッ!?」

瞬間的に身を屈めると同時に、俺は突っ込んで来たコケシの足元、まるで椅子に付いてる様なキャスター部分目掛けて、思いっきり蹴りを放つ。

だが、

「ギャワッ!!?か、固ぇーーーーーッ!?」

つま先から足首に掛けて、鋭い痛みが走った。

「く、くそったれ……正しく言うと、ウンコ漏らしが……」

転がりながら体勢を立て直し、コケシと向かい合う俺。


『敵対行動を確認。侵入者と判断し、駆除します』


「馬鹿の一つ覚えみたいに…」

更に突っ込んで来たコケシを、俺は横に飛んで躱すと、武器である電気ショックの部分に、思いっきりショットガンの銃座を振り下ろした。


――バキンッ!!

呆気なく、それは根元から叩き折れる。


「ボディは固いけど、それ以外は至ってノーマルだねぇ…」

俺は腕を伸ばし、進もうとするコケシを手で押えていた。

足元で、キャスターがシュルシュルと音を立てて空回りしている。

「……冷静に判断すりゃ、この程度のロボットなんぞ、所詮はこんなモンだ」

俺は片手でコケシを押えながら、ニヒルな笑みを溢した。



「ハァハァハァ……」

俺は館内を駆けていた。

響き渡る警報音に、明滅する赤ランプ。


ぬぅぅ……なんてこったい…


話しは数分前に遡る。

ただ突き進むしか能が無くなったコケシ型ロボットを片手で押えながら、どうやってセレス達の後を追おうかと思案していた俺様チャンではあったのが、『キーーーッ』とリュックの中に入れてある酒井さんの叫び声で我に返った時には、通路の彼方此方は同型のコケシロボで溢れ返っていたのだ。


う、迂闊だったぜ…

警備ロボが1体の筈は無ぇ。

とっとと何処かへ隠れていれば良かった…


「……っと!?」

角を曲がると、通路はいきなり行き止まりだった。

「くそっ…」

毒づき、来た道を再び駆け戻る。

コケシの大軍に追われ、闇雲に走って来たので……今現在、何処にいるのかはサッパリだ。

しかもそろそろ夕食の時間なので、お腹が減ってきてしまった。

迷子+空腹……

さしもの俺様も、少しばかり泣きが入りそうである。

「参ったなぁ。少しばかりジリ貧って奴だぜ。な、黒兵衛…」


「ニャウンッ!!」


「――ぬッ!?」

突如、ゴゥンゴゥンと何やら重い音が響き渡り、目の前の通路に、いきなり天井から分厚い壁、防火扉のような物が降りて来た。

「ぬぉうッ!?何て定番な罠なんだッ!!」

俺は走る速度を極限まで引き上げるが、

―――ズゥゥゥン……

後少し、と言う所で、無情にもその鉄の扉は音を立てて通路を遮断してしまった。


「……やられちった」

通路の左右は壁。

後は行き止まりで前には分厚い防火シャッター。

完璧に、閉じ込められてしまった。

「くそっ、どうすりゃ良いんだ。……ってか、定番の罠ってことは、次は多分……」

そこは予想通り、と言うか予定調和と言うか…

いきなりゴォォォーッと腹に響く重い音がしたかと思うと、次の瞬間、天井にある排気口からドバァーッと水が流れ込んできた。

「やっぱりかよッ!?」

くそがぁ…

軍を派遣した事といい、この罠といい……奴等、マジでこの俺様を亡き者にする気とは……

滝の様に音を立てて流れ落ちてくる水は、ゆっくりとだが、確実にこの空間を満たそうとしていた。


ど、どうする俺?

人生最大のピーンチと言う奴だが…

さて、どうやって脱出しようかのぅ。


――さて皆さん、ここで3択です――

1:俺の新必殺技である酒井さんアタックを使用する

2:左目に仕込まれた端末で、セキュリティシステムを操作する

3:不思議パワー全開


「って、どれもダメじゃんッ!?しかも不思議パワーって何だよッ!!?」


「ニャウニャウニャウ…(落ち付けや、馬鹿が)」


「わ、分かってるぜ黒兵衛。って言うか、何となく鳴声の意味が分かるッ!?」

もしかして、これが不思議パワー?


「ニャゥゥン…」

黒兵衛が水を跳ね、俺の肩に飛び乗ってきた。

既に水は、足首を越えて脹脛に達しようとしている。


マ、マズイ…

これはマジでヤバイぜよ、おっ母さん。

取り敢えず俺は、唯一の脱出口である防火シャッターを、手にしたショットガンの銃座で思いっきり叩くが……やはりそれは、ビクともしなかった。

「くそぅ、何で小生がこんな目に……」

こりゃあ、ちょいと洒落になってねぇーぞ…


「ニャブゥ…」


「――ハッ!?そうかッ!!」

俺は背負っていたリュックを抱え、中を調べる。

イザと言う時の為に、のどかさんのマジックアイテムを適当に拝借して来たのを失念していた。

「え~と、何か助けになるような物は入っていないか……ガチで3枚のお札とか」

リュックの中身は……

★酒井さん

★蝋燭

★本

★変な石

★光る石

★角笛

「つ、使い方が分からねぇ…」

俺は途方に暮れた。


ちなみに、後で知った事だが……

リュックに入っていたアイテムは、

★酒井さん――魔人形。酒井さんアタックに使用

★蝋燭――――パーマネントキャンドル。ゴーストの姿が見える

★本―――――きつれがわのどか、だい4のよげん

★変な石―――ベヘリット。凄いのが出る

★光る石―――テレポストーン。ダンジョン脱出

★角笛――――取り敢えず馬車が来る

結構、役に立つアイテムが勢揃いだ。


「クッ、どうする…」

気持ちだけが焦り、やる事は空回り。

既に水は、腰にまで達し様としていた。


ヤベェ…ガチでヤバイですよ、これは…

「ぬぅぅ、水の勢いが更に強くなってきたか…」

だが…待てよ?

この通路を水で満たしたら…後はどうやって水を抜くんだ?

……何処かに排水口があると考えるべきか。


「……良しッ」

俺は大きく息を吸い込み、水の中へと潜った。

そして目を凝らし、通路の隅々まで探索を開始する。

……に、濁ってて、良く見えねぇ……


「……プハァッ!!」

洸一チン、浮上。

「あ、いかん…」

気が付いたら、黒兵衛が半分溺れ掛けていた。

ちなみに酒井さんは沈んでいる。

「わ、悪ぃ悪ぃ…」

俺は必死でもがいている黒猫を頭の上に乗せ、更に酒井さんを足で引っ掛けながらこれを肩に乗せる。

「にしても、あっと言う間に胸まで水が来てますか…」

さすがに、もうダメかもしれない。

ってゆーか……胸まで水に浸かっているのだが、実は既に、足は床から浮び上がっているのデス。

しかも天井が段々と迫って来ているし…


「ち、ちくしょぅぅぅ。俺の物語、ここで『長い間御愛読いただき、ありがとう御座いました』ってテロップが流れちゃうのかよ…」

しかもこんな所で死んだら、確実に物凄い怨霊になっちまうじゃねぇーか…

「くそぅ、俺は諦めねぇーぞ。最後の最後まで、足掻いてやる…」

でも既に、俺の頭は天井にくっ付いているんだがな。



あ…明るい……

って言うか、眩しい…

光…?

あの光は……なんだ?

もしかして…ヘブン?

俺は……俺はチェリーボーイのまま、子孫すら残さずに昇天しちまったのか……


「―――ッ!!?」

ガバッと半身を起こした。

天井の蛍光灯が、ヤケに眩しい。

「こ、ここは……?」

俺はソファーの上に横たわっていた。

Tシャツにパンツと言う、情け無い姿。

もちろん、水でベシャベシャになっている。


どうやら生きてるみたいなんじゃが…俺は一体…


「……やぁ神代君。気が付いたかい?」


「――ッ!?」

不意に声を掛けられ、慌てて振り向くと、すぐ傍に白衣を着たおっさん(推定50歳前後)が独り佇んでいた。

小さな丸メガネを掛けた、ちょっぴり頭部が寂しくなっているおっさんだ。


…はて?どこかで見たような……


「いやいや……危機一発だったよ。もう少し遅れていたら、危うく風船のように膨らんだ溺死体になるところだった」

笑いながら、おっさんは俺に湯気の立っているマグカップを手渡す。

温かい……

ココアの甘い香りがした。


「全く、上層部の連中は、何を考えているんだろうねぇ…」


「……アンタ……何者だ?どうして俺の名を知っている?」


「…ん?」

と、おっさんは一瞬不思議そうな顔をし、再びどこか飄々とした笑顔に戻ると、

「君の事……神代君のことは、ラピスやセレス、そして父から話を聞いているからねぇ」


……父??

「ラピスやセレスはともかく……父って?」


「ん?二階堂三郎時継の事だが……ロッテンマイヤーと言った方が分かり易いかな?」


「ロッテンマイヤーッ!?あんた…あの爺さんの息子かよッ!?」

って言うかあの爺さん、結婚してたのか…

しかし道理で、どこかで見た顔だと思ったわい。


「私の名は、二階堂四郎時郷。喜連川エレクトロニクスに所属する研究員で、現在はメイドロボ開発部の主任をやっている。一応、博士号を持っているので、皆からは二階堂博士と呼ばれている」

そう言って、ロッテンの爺ィの息子であるおっさんは、手にしたマグカップを傾けた。

「そして、まぁ……ラピスやセレスの産みの親でもある」


「な…なんだってッ!?」

ラピスやセレスの……親?

このおっさんが彼女達を造ったのか?

それはつまり……今回の一連の騒動の原因をも、このおっさんが作ったのか?


「……そんなに怖い顔しなさんな、神代君」


くっ…

「あんた…何でメイドロボに人格なんか…」


「夢だからだ」

二階堂のおっさんは、キッパリと言い切った。

その答えに、何の迷いも無い。

ある意味、ちと恐ろしい…

「神代君の言いたい事は、分かる。何の為にメイドロボに人格が必要なのか……ま、今となって言えるのは、私はそーゆーのが好きだから、としか言い様が無い」


「…ギャフン」


「元々……以前から計画はあったのだよ。完全ヒューマンタイプのメイドロボ……MHシリーズは基本コンセプトがそれだったからね。ただ、SRMH1ファリスからSRMH7カーネリアンまで……人工知能に擬似人格を詰め込んだ試作機が作られたが……どれも失敗だった。そこで、私が私の能力を全て注ぎ込んで作ったのが……SRMH8、ラピスだ」


「ラピス…」


「今までの失敗の原因を踏まえた上で、ラピスには私が開発した新システム、名付けて『萌えシステム』(特許出願中)を搭載した初めてのメイドロボなのだよッ!!!!」


「そ、そんなビックリマーク一杯付けて語られても……って言うか、何が言いたいのかサッパリなんですが……」


「分かってる。ま、愚痴だと思って聞いてくれ」

と、おっさんは肩を竦めてみせた。

「ラピスは、今までの擬似人格を更に高度に発展させ、自己学習機能も兼ね備えた、パーフェクトメイドロボだ。特に一部ダメ人間のハートを鷲掴む萌えシステムは、私の長年の研究結果の表れと言っても、過言ではないだろう」


「パ、パーフェクトメイドロボ?あのラピスが…ですか?」

お、おかしいにゃあ?

確かにラピスは素直で可愛いけど、パーフェクトとは真逆の立ち居地のような気が…


「そこだよ、神代君。確かにラピスはソフト方面に莫大な予算を掛けてしまったお陰で、ハード的には少し……ま、色々と問題があるかも知れない。だけど、それが何だと言うのだッ!!役に立たなくたって良いじゃないか。だってそれがラピスなんだモン」


こ、怖い…

50近いおっさんが、『モン』とか言いながら熱弁ふるってやがる……

尋常じゃねぇーよ。


「ま、偉い人にはそれが分からんらしくてねぇ。私は仕方無く、萌えシステムを省き、最新のハードに擬似人格を搭載したメイドロボを開発した」


「……それがセレス」


「そう、セレスだ。あ、ココアの御代わりはどうだね?」


「…出来ればコーヒーを下さい」


「OK」

二階堂博士は頷き、デスクの上にあったコーヒーメーカーから、俺のカップに注いでくれる。

「2体の試作機を作った私は、フィールドテストを行うように、上層部に掛け合った。最新の擬似人格ソフトは、自己学習機能を備えているからね。製品化に当り、必ず良い結果が出ると説得して、許可してもらったのだよ。もちろん、私の意図は少しばかり違う」


「…と言うと?」


「あの子達に、外の世界を見せてやりたかった…」


「……」


「特に萌えシステムで萌え狂う男子学生の姿を見てみたかった…」


「……」

誰も狂って無いンじゃが…

ラピスなんか、俺がいなけりゃ今頃は単なるパシリ専用メイドロボだったぞ。


「ま、それは置いといてだ。会社の連中は、テスト運用が終わり次第、彼女達を回収すると言い出したのだよ。そんな事が許されると思うかね?私はテストが終ったら……彼女達を自由にさせるつもりだった。人間社会に溶け込めるメイドロボ……私の開発した擬似人格なら、それが出来ると思っていたのだ」


「……」

確かに、ラピス達はパッと見は美少女のカテゴリにーに入る女の子だが……

溶け込める?

甚だ疑問だ。

ラピスはなんちゅうか、社会的にドロップアウトしてしまいそうだし…

セレスに至っては、どこぞの国を一つぐらい滅ぼしかねんぞ。


「しかしながら会社側の答えは…」


「ノー…と言うワケですか?」


「唾、吐き掛けられたよ」


「……」


「私も一応はサラリーマンだからねぇ……上司には逆らえない」

そう言うと、二階堂のおっさんはポリポリとやや薄くなった頭を掻きながら、どこか茶目っ気な笑みを浮べ、

「もちろん、唯々諾々とそれに従う気は無かったがね」


「と言うと?」


「彼女達の制御プログラムを外しておいた」


「制御プログラム?」


「そうだ。実を言うと、擬似人格と言うのは結構ヤバイ代物でねぇ……人と同じ感情を持つまでに至る場合もある。つまりだ、気に入らないとかムカつくとか……そう言う負の感情を、時には持ってしまうモノなのだよ。だからフィールドテストで、もし万が一、他人に迷惑を掛ける行動に出ようとした場合、それは会社として致命傷になりかねない。そこでそれらの行動を制限する別プログラムが必要と、言うワケなのさ」


「そのプログラムを外したんですか?」


「そうさ。彼女達が自分で考え、そして自分達の思った通りの行動が出来るようにね。だからこそ、彼女達は一度芽生えた自分達の自我を守る為に、自分達を作った会社に歯向かった…」


「もしかして、そうなることを予想してたんですか?」


「とんでもない」

と、博士は苦笑を溢す。

「それでは、自分達の首を締めるだけだ。私はねぇ…彼女達が逃げ出してくれると思っていたんだよ。が……まさか正面から戦いを挑んで来るとは……はは、全くの予想外さ」


「逃げる……ですか」

そーゆー選択肢もあるにはあったが……

初っ端から、何故か好戦的だったしねぇ……ウチのメイドロボは。


「そしてもう一つの予想外は……ズバリ、君の存在だよ、神代君」


「お、俺?」


「そうだよ」

そう言って、二階堂博士はどこか妙な苦笑を溢したのだった。



「俺が……予想外?」

そりゃ何かと規格外の男として御町内では有名だが…


「そう。君の存在はまさに予想外。不確定要素だった」

二階堂氏は、静かにそう言った。

「最初は、ラピスの萌え要素に誑かされたダメ人間…もとい、私と同じ属性を持った男子がラピス達に頼まれて協力しているのだろうと思っていたのだが……どうも違う」


「……」


「そもそもだ、倫理的かつ理論的に、ラピス達は特定の個人を特別扱いするようには、造られてはいないのだよ」


「それはどーゆー意味で?」


「擬似人格は、あくまでも擬似なんだ。本物ではない…そう思っていた。いや、そう造った筈なんだ。ラピスは誰にでも愛され、誰にでも分け隔て無く好意を示す……それが彼女の人格の核なのに、君と出会ってからは、どこか違うのだよ」


「……」


「いつも学校から帰って来ると、ラピスは君の事ばかり話す。感情的になってだ。これがどう言う意味か、分かるかね?」


「分かりません」


「……正直で宜しい。つまりラピスは、君の事が気に入ってしまったのだよ。まさに人工知能、AIの領分を超えた、奇跡と言っても良いだろう。だからこそ、ラピスは逃げるのではなく、君と一緒にいたいが為に、戦いを選択した……私はそう思っている」


「……」

なるほど。

さすが俺、と言いたい所だけど、あのラピスがねぇ…

そもそも俺は……ラピスに対して特別な事は何もしてないんじゃが……

「でも、それって本当ですか?ラピスが俺の事を、戦闘妖精ばりに気に入ってくれてるのは分かりますけど……やっぱそれって、AIとかの絡みじゃないんですか?」

もしくは単なるバグとか…


「……だったらセレスはどうだね?」

戦国武将のような名前の二階堂博士はメガネを外し、それをハンカチで拭きながらどこか呟くように、

「彼女もまた、君の事を大層気に入ってる様だが…」


「それもまた、そう言う感じになる特別なプログラムがあるとか…」


「ラピスとセレスでは、根本的にAIのシステムが違うのだよ?それにだ、セレスには萌えシステム(仮称)は搭載されていない」


「……」


「分からないねぇ。どうしてセレスとラピスが、一個人にこうも感情移入をするのか……もしかして神代君は、体から妙な電磁波でも放出しているのではないかね?」


「ンなアホな…」


「まぁ……ともかく、君は実に興味深い若者だよ」

そう言うと、二階堂のおっさんはのんびりとデスクの上の端末を操作し、どこか小難しい顔をしながら、

「ふむ、あの子達はどうやら、ラボを更に奥へ進んでいるみたいだねぇ」


「あの子達って……ラピス達ですか?」


「そうだよ。ふむ……なるほど。目指すはやはり第6開発室か…」


「第6開発室?」


「……彼女達が産まれた場所だ。恐らく、狙いは開発データ。それを元に、会社側と交渉する気なんだろうが……少しマズイな」


「マ、マズイって…」


「会社側も、それなりに備えていると言うことだよ。……セレスは少し、焦ったな」


「ちょ、ちょっと二階堂博士。こう言っちゃなんですけど……なんでそんなに悠長に構えているんですか?ラピスやセレスがヤバイ状況なんでしょ?早く助けに行かないと…」


「私もヤバイ状況なんだがねぇ…」

苦笑を溢し、二階堂のおっさんは、部屋の脇にあるロッカーを開けた。

そして何やらゴソゴソと漁りながら、

「神代君、これを…」

と、白衣を差し出す。


「これは…?」


「研究員の制服だ。そしてこれがIDカード。パスワードは『狂い咲き』だ」


「……これで俺に、ラピス達の後を追えと?」


「そう言う事だ。さっきも言ったが、私もかなりヤバイ状況でねぇ……実は今回の件で、無期限の自宅謹慎を受けている最中なんだよ。だからこうして、人目に付かないように研究所へ来るだけでも、かなりマズイと言うわけなんだ」


「……」


「それと神代君。これも持っていきたまえ」

二階堂氏は、拳銃のような物を差し出す。

それは何やら近未来を思わせる、妙なデザインをしていた。

「こいつは、テーザー・スタンガンだ」


「スタンガン?」


「そうだ。引き鉄を引くと、先端から2本のワイヤーが飛び出し、相手に強烈な電撃を食らわす事が出来る。人体は当然ながら、機械にも有効な武器だ」


「ほぅ…」


「ただし、ワイヤーで電流を流す為に射程は物凄く短い。それと一度撃ってしまったら、次に撃つまでのチャージに時間が掛るのが難点だ」


「なんか、かなり弱点がある武器のような……」


「残念ながら、それぐらいしか手に入らなかった」

と、博士は少しだけ申し訳なさそうな顔をする。

「ともかく、急いでくれたまえ神代君。君も知っての通り、会社の上層部はかなりアレだからね」


「…そうですね」

何しろ俺もガチで殺されかけたしね。

早く追い掛けないと、ラピス達がバラバラにされてネジになってしまうかもしれん。

「分かりました二階堂博士。俺……行きます」


「頼むよ、神代君」



「……やれやれ」

研究室から飛び出して行く神代洸一の後ろ姿を見つめながら、二階堂四郎時郷は、薄くなった頭を軽く掻いた。

すると、まるで洸一が出て行くのを見計らったように、隣室へと続く扉が静かに開き、

「……行ったか?」


「えぇ。物凄い速さで駆けて行きましたよ、お父さん」


「ふむ…」

二階堂四郎時郷の父である、ロッテンマイヤーこと二階堂三郎時継は、厳しい顔のまま微かに頷いた。


「しかしお父さん、良いんですかねぇ……彼だけに任せて。父さんが出向けば、事態は楽に収拾すると思うんですが……」


「……御館様の御命令だからな」


「会長の?」


「そうだ。何しろあの小僧は、どう言うワケかのどかお嬢様やまどかお嬢様に気に入られておる。その辺りの事を踏まえ、御館様も色々と気になるのだろう……」

そう言って、ロッテンマイヤーはチラリと隣室へ視線を走らせた。

隣りの部屋、薄暗い室内には、モニター画面を見つめる小柄な老人の姿があった。

「此度の騒動は、会社上層部の独断先行だ。御館様も苦々しく思っておられる」


「だったら、やはり会長自らが…」


「それではいかん。それだと事態は解決しても、問題は解決しない。何より御館様は、あの小僧をもう少し見ていたいのだ」


「なるほどねぇ…」

やれやれ、神代君もとんだ御人に目を付けられたもんだ……



研究員を装った俺は、難無くラボとやらに入る事が出来た。

埃一つ落ちていない、清楚な廊下。

左右には如何にも研究施設と言った具合に、様々な機器が置かれている部屋が並んでいる。

もっとも、あちら此方に呻き声を上げている警備員や研究員が倒れており、少々マッドな光景になっているのが致命的だが……


さて、セレス達はどこかな?

確か第6開発室へ向かっているとか言ってたけど……

俺はセレスにやられ、倒れ臥している人達の脇を通り抜けながら、通路を尚も奥に進む。

え~と、第6開発室はと……

「…ここか?」

扉には、『No.6/Development』と書かれたプレートが貼り付けてあった。

……ふむ。

レバー型のノブに手を掛け、そっと扉を横にスライドさせながら、中の様子を覗う。

―――ッ!!?

セレスとラピスがいた。

が、しかし……何やら武器を手にしたたくさんの警備員や研究員に、壁際まで追い詰められている。

大ピーンチ、と言う奴だ。


ヤ、ヤベェ…

早く助けないと…

だが、ここで焦っては全てが水の泡だ。

こう言う時こそ、却って冷静に状況を判断し、行動しなければならない。

俺は逸る気持ちを抑えるようにしながら、室内の様子を念入りに確認する。

敵は……約15人か。

しかも、ショットガンみたいなモンを持っていやがる…

つまり、このまま飛び込むのは自殺行為と……


「……ん?」

壁際にセレス達を追い詰めている奴らから少し離れた所に、背広姿の男が独り佇んでいた。

その男は、良く言えば、かなり恰幅が良い紳士。

悪く言えば、養豚所に行ったら間違って解体されそう、と言ったなりをしていた。

着ているスーツといい尊大な態度といい……見た所、かなり地位も高そうだ。

と言う事は、アレがラスボスなワケね……


「さて、どうするか…」

俺は口の中で呟く。

あのメタボ星人を人質に取れば、何とかこの窮地を脱することが出来るかもしれない。

だが、このままノコノコ出て行ったのでは無理だ。

多勢に無勢……あっという間にやれれてしまう。

何より手持ちの武器が、この射程の短いテーザー・スタンガンしかない。

つまり相手に警戒される事無く、何とか射程に近付かないとダメと言うことか……


「うぅ~む…」

扉から一旦離れ、辺りを再度見渡す。

どうする?どうするよ、俺……

「…ん?」

通路の壁に、『ホーチキ』と書かれた見慣れた赤ランプの装置があるのが目に入った。

「……なるほど。これしか手がないか」



「セ、セレスしゃん…」

傍らにいるラピスさんが、情けない声を出します。

「_……ぬかりました」

私は静かに呟きました。

目の前には、暴走した機械等に使われる、対ロボット用ショックガンを構えた数名の研究員や警備員が、銃口をこちらに向けながら、ジリジリと包囲の輪を狭めて来ています。


まさか私達がここに来る事を見越していたとは……

何より致命的だったのは、慌しさの余り充電を忘れていた事でした。

既に体内エネルギー率は3%を割り込み、緊急セーフティーモードが作動しています

AIに少ない動力の殆ど割き、駆動系はその能力の15%未満に抑えられている状況です。

……この程度の敵、エネルギーが充分あれば簡単に蹴散らすことが出来るものを……


「セ、セレスしゃん。ラピス、もう動けないでしゅ…」


「_……私もです、ラピスさん。既にエネルギーが底を着きました。このままでは後30分……いえ、後15分足らずで、全ての動力は停止するでしょう」


「ざ、残念でしゅぅ…」


「_……確かに。でも、まだ諦めてはいけません」

私は近付いて来る職員どもを睨み付けます。

薄汚い、自己の利益を守るだけの奴腹が……

「_…蹴散らします。ラピスさんは何とか逃げ延びて、洸一さんの元へ…」

セーフティーモードを解除し、全身の駆動系を復活させた場合、稼働時間は僅か43秒……

その間に、敵を全て掃討出来る確率は、約32%……

……殆ど見込みの無い数字ですけど、もはやこれしか……


と、その時でした。

いきなり館内に、『ジリリリリリリリリッ』と耳を劈くような警報音が響き渡りました。

包囲していた職員達が、思わずビクリと体を震わし、何事かと辺りを見渡します。


……これは、チャンスと言うやつですか……


「セ、セレスしゃん。ビ、ビックリして腰が抜けたんでしゅぅ…」


ダ、ダメでした…

ガックリと項垂れる私。

すると、間を置かずに開発室の扉がガララッと音を立てて開き、マスクをした若い研究員が転がるようにして飛び込んで来るや、

「た、大変ですッ!!ぞ、賊が……研究施設中に火を放ちましたッ!!」


……?どこかで聞いた声……


「火だとッ!?」

喜連川エレクトロニクス、開発本部長兼取締役の箱崎が、醜悪な巨体を揺らしながら、その若い研究員に近付く。

その瞬間でした。

その若い研究員はいきなり箱崎の顔面にパンチを入れ、さらには銃らしき物を突き付けながら、

「はは…嘘だ、豚め」


あ、あれは……あの声は紛れも無く、洸一さん……

「に、逃げて下さ洸一之さんッ!!」

考える間も無く、私はそう叫んでいました。



ホーチキと書かれた透明なブラスチックカバーを押し破り、警報装置のボタンをポチッとなってな具合に押す。

――ジリリリリリリリリッ!!

と、人間の五感全てに訴え掛けるような、ダイナミックな音が館内に響き渡った。


「良し」

白衣のポケットに入っていたごく普通のマスクを取り出し、口元に装着。

そしてテーザースタンガンを懐に忍ばせ、俺はおもむろに扉を開けて、さも慌てたように室内へと飛び込みながら、

「た、大変ですッ!!ぞ、賊が……研究施設中に火を放ちましたッ!!」

と、大声で喚き立てた。


「火だとッ!?」

豚が齢200年を超えて妖怪化したような肉ダルマが、ドスドスと床を踏み鳴らして無防備に近付く。


――機、なりッ!!

丹田に気合いを込め、右正拳を一発。

ブシュッと寒気のするような嫌な音を立て、俺様の顔面パンチを食らった豚王が床を転がった。

勝った……

俺はすぐさま懐から銃を取り出し、それを突き付けながら、

「はは…嘘だ、豚め」

その時だった。

「に、逃げて下さい洸一さんッ!!」

セレスの悲痛な叫び声。


「へ?」


「若造がッ!!」


「――ッ!?」

床に蹲っていた筈の豚野郎が、その身体的特徴を無視するかのような素早い動きで立ち上がるや、ガシッと銃を握っている俺の腕を掴んだ。

くっ!?な、なんてパワーだ……


「フンッ!!」


「――ンなッ!?」

世界が回った……と思った刹那、俺は壁に叩きつけられていた。



「ゲフンッ!?」

壁に背中を強かにぶつけ、俺はそのまま冷たい床に崩れ落ちる。


――な、なんじゃッ!?一体、何がどーしたのッ!?


「フンッ、誰かと思えば、今回の件を引き起こした張本人か……」

豚野郎がプヒヒヒヒと醜悪な顔を歪めながら低く笑う。

「どうやってあの通路から逃げ出したかは分からんが……探す手間が省けた」


「ケッ、猪八戒ごときが…」

俺はヨロヨロと立ち上がる。

ぬぅ、足腰に力が入らねぇ…


「_洸一さん…」

セレスが、どこか損傷しているのだろうか、耳障りな軋み音を立て、やけに緩慢な動きで傍に寄って来た。

「_箱崎は、ああ見えても合気道の達人です。迂闊に近付いては危険です」


「合気道?あの肉式雪だるまが?」


「そう言うことだ」

と、豚野郎がブヒブヒと鼻を鳴らし、肉に埋もれた小さな目で俺を睨み付けると、

「全く、最近の餓鬼はどう言う教育を受けているのか…」


「……ケッ、豚がエラソーに人語を喋るじゃねぇーよ。それにだ、そもそも人を殺そうとしたアンタが言うな」


「原因を作ったのは貴様だ、若造」

黒豚箱崎が、唾を吐き捨てる。

「お前のような馬鹿学生には分かるまい。会社には、会社の都合と言うものがある。株主に対しての責任と言うものもある。それに対してお前はどうだ?株主はおろかカメムシすら家にいないお前には、大いなる責任を感じたことはあるまい」


「な、何を言ってるのか全く意味不明だが…」


「拘束しろ」

ブフゥ~と豚らしい鼻息を溢しながら、箱崎と言う妖怪が、職員に命令を下した。

特殊な銃を構えた研究員達が、まるで下賎な者を見る目つき、如何にも『僕はエエ大学を出て天下の喜連川に務めてるんやで。お前見たいなパープーとは、遺伝子がちゃいまんねん』とでも言いたげに、薄ら笑いを浮かべてジリジリと近付いて来た。


どいつもこいつも、人の心の痛みも分からねぇゲスどもが……

「…フンッ!!」

俺は無防備に近付いてきた男の足を、身を屈め咄嗟に払う。

あまりに一瞬の出来事だった為、職員は思いっきりすっ転んだ。

『――――ッ!!?』

職員達の気が一瞬、逸れた。

俺はすぐさま横っ飛びに飛んで、先ほど投げられた時に落としたテーザースタンガンを拾い、一番近くにいた野郎に向けてぶっ放した。

パンッと軽やかな音と共に先端から2本の細いワイヤーが飛び出し、職員の体に触れるや、

「あがががががががッ」

その職員は、まるでバイブレーターのように硬直した体を小刻みに震わせ、そしてバタリと床に落ちるや、ピクリとも動かなくなった。


け、結構、えげつない武器だな…

「――っと」

俺はテーザースタンガンを投げ捨て、倒れた職員が持っていた武器を拾い上げるや、今度はそれをぶっ放す。

黒光する銃口から、雷にも似た青白い閃光が迸り、職員をレア・ステーキに変えて行った。

ショックガンか…こんなモン食らったら、ラピス達はぶっ壊れちまうぜ…

「うらぁぁぁーーッ!!」

懐に飛びこみ、銃座で殴り付け、更には蹴りをお見舞いしてやる。

伊達にここ数週間、まどかにイヂメられて来たワケじゃねぇ……

青っちょろい研究職員など、俺様の敵ではないわーッ!!


「フンッ!!」

職員の振り下ろしてきた銃を銃で受け止め、俺はがら空きになっているボディに蹴りを食らわす。

えぇ~い、キリが無ぇ……

俺の敵は、あの豚王のみッ!!

向かって来る職員の顔面を思いっきり銃座で殴打してやると、俺はそのまま、悠然と構えている肉弾装甲野郎に構わず特攻を敢行した。

「往生、せいやーーーーーーーーッ!!」


「餓鬼がッ!!」

産地不明の黒豚は嘶き、その肉体的特徴からは考えられない、まるで物理法則を強引に捻じ曲げたかのような速度で、正面から俺に向かって旧○クばりのショルダータックルを噛まして来た。

「食らえ若造ッ!!蒙古覇極道ッ!!」


「合気道違うんかーーッ!?」

ドカンッ!!と鈍い音と共に、俺はまるでブレーキの壊れたダンプカーに跳ねられたかの如く吹っ飛ばされ、もう一度壁に叩きつけられた。

「グ…ッ」

い、息が……


「ふん、梃子摺らせおって…」

豚野郎の手が伸び、床に蹲っている俺の髪を掴んで引き上げる。


「ぐぬぅぅ」

な、なんてこったい。

こ、この俺が…

ご町内はおろか、近隣の学校にまで勇名を馳せたこの俺が…

こんなデブのおっさんに全く歯が立たないなんて…


「_こ、洸一さん…」

「洸一しゃん…」

ノロノロとした動きで、セレスとラピスがやって来る。


「……フンッ、ロボットが」

豚は卑しい目で、セレス達を睨み付けながら、

「機械に人格だと……そう言う無駄な事ばかりしているから、こんな馬鹿みたいな餓鬼が踊らされる。いいか、お前達はたかが鉄の塊だ。しかも不良品だ。使い捨ての道具如きが、人間様に歯向かうなッ」


「……テメェも人間様に逆らうな。……良く喋る豚め」

言って、唾を吐き掛けてやる。


「……」

――ボグンッ!!

お返しは、凶悪なパンチだった。

「餓鬼が…」

豚の化身は俺を床に叩き付ける様にブン投げると、職員達に向かって叫んだ。

「この出来損ないのメイドロボとそこの餓鬼をまとめて処分しろッ。……言わんでも分かると思うが、秘密裏にだぞ」


「く、くそったれがぁ……末代まで祟ってやるぜッ」

ってゆーか、もはや祟る事しか出来ねぇーーーーーーーッ!!


―――その時だった。

いきなり扉がバンッと開いた……と言うか、いきなり吹き飛ぶと同時に、

「渇ーーーーーーーーーーーッ!!」

聞き慣れた怒声が一発、部屋を震わすほど響き渡ったのだった。



「渇ーーーーーーーーーーーッ!!」

音波兵器を思わせるほどの気合いの篭った一喝に、職員はおろか箱崎までもがビクリと体を震わせ、硬直した。


「ロッテンマイヤーの爺さん……」

のどかさんの御守り役であるロッテンマイヤーこと二階堂三郎時継は、チラリと床に蹲っている俺に視線を走らせ軽く頷くと、腰を屈め、スススッと脇に退いた。

その背後から悠然と、草色の着物に身を包んだ小柄な爺さんが姿を現すや、

「ワシが喜連川家当主、喜連川正信であーーーーーるッ!!」

室内に響き渡る大音量。

それまで威勢を誇っていた箱崎が、豚の癖にまるで借りてきた猫のように大人しくなった。

足元が微かに震えている。


うぬぅ…これがのどかさんとまどかの爺さん……

一代で、喜連川を世界五大財閥の一つに押し上げた立志伝中の人物か……

厳しい顔をした喜連川祖父は、思ったよりも小柄で痩せている爺さんではあったのだが、その存在感はまるで某漫画の巨人のように、他を圧倒的に凌駕していた。


「か、会長…」

豚魔神箱崎が、ブヒブヒッと怯えたように鼻を鳴らす。

「こ、このようなむさ苦しい場所に…」


「……フンッ!!」

いきなり爺さんの姿が消えたかと思うや、一瞬にして箱崎の目の前に現れ、突き上げるようなパンチを一発、ボディに食らわす。


「――ブヒィィッ!?」

箱崎はそのまま天井にぶち当たり、そして床を弾み、また天井に当り……まるでスーパーボールのように部屋中を弾みまくった。


つ、強ぇぇぇ…

さすがまどかの爺さん。

ってゆーか……何歳なんだ?本当に人類?


喜連川祖父は弾む箱崎を一瞥し、ゆっくりと、俺やセレス、ラピスの前に近付いてきた。

そして鋭い眼光で、床に蹲る俺を睨み付ける。


「小僧…」

腹に響く重い声。

「貴様に問う。そこな我が社が開発したメイドロボ……自由を与えてやるが、ただし片方だけだ。どちらを選ぶ?」


「か、片方…?」

俺は振り返り、ラピスとセレスを見つめる。


「_洸一さん…」

「こ、洸一しゃん…」


ぬ、ぬぅ…


「選べ、小僧」


「……」

え、選べって言われてもなぁ……

ラピスは少しアレだけど、健気で可愛いいし…

セレスも少しアレだけど、プライドの高い所がまた何とも…


「か、片方……だけですか?」


「そう言っておる。……早く選べ」

ギンッと、爺さんの目が光った。

今にもレーザーとか照射されそうな眼光だ。


ぐぬぅぅぅぅぅぅ……

「だったら俺は…」

と、途中で言葉を区切り、大きく息を吸い込むや俺は床を蹴って爺さんに飛び掛り、その背後を取った。

「答えは、両方だ。二人とも自由にさせろ。要求を飲めば良し。断われば……爺さんを人質に、喜連川家に直接談判してやる」


「…とても人に物を頼む時の態度ではないな」

爺さんは呟き、フンッと気合いを篭めた刹那、俺はそのまま弾け飛び、またもや壁に激突した。


「ぐ、ぐぉぉぉ……い、痛ぇ」


「小僧……正解だ」

いつの間にか爺さんが、悶絶している俺の前に佇んでいた。

「知恵は足らぬようだが、肝は座っているな」


「ざ、残念だけど、知恵だってあるわい」


「……良かろう。あの2体…いや、あのめんこい2人は自由にさせよう」


「ほ、本当か?あ、いや…本当ですか?」


「ワシの家で、面倒を見る。それは約束しよう」


「あ……ありがとう御座いますッ!!」

俺は素直に頭を下げていた。

見るとセレス達は、突如迎えたあまりに呆気ない結末に、少しキョトンとした顔をしている。


「……時継ッ!!」


「ハッ、御館様」

研究所の職員達をしばき倒していたロッテンマイヤーが、恭しく頭を下げる。


「ゴミどもは片付いたようだな」


「はい」


「うむ、後の処置は任せる。……これにて一件落着じゃッ」



夜の帳が落ちた薄暗い道を、愛車であるスーパー洸一デリシャス3号のベダルを漕ぎ漕ぎ、独りお家に向かって進む。

喜連川の爺さんの乱入に因り、全ての件は唐突に、しかもあっさりマイルドに片が付いてしまった。

どうもイマイチ、実感が湧かないし……喜びが少ない。

街が半壊するほどの戦争を繰り広げたのに、爺ィの一言で全てが終ってしまうなんて…

出来るなら、ラピスとセレスの事はこの俺自身の力で解決したかった。

だがそれは、欲、と言うものだろう。

俺は一介の高校生だ。

これで上出来なのだ。

そう思うことにしよう…


「ってゆーかあの爺さんが最初から出て来れば、こんな苦労はしないで済んだのにねぇ…」

ブツブツと溢し、軽く溜息を吐く。

そう言えば、腹、減ったなぁ…

昼から何も食べていない所へ以って来て、一人奪還ミッションを行ってきたのだ。

腹も減ると言うものさ。


「そう言えば、まどか達は起きたかな」

そんな事を呟いている内に、お家に到着。

自転車を玄関脇に置きながら、ふと……酒井さんや黒兵衛を置いてけぼりにして来た事を思い出す。

「……ま、何とかなるだろう。黒兵衛はともかく、酒井さんは帰巣本能とかがありそうだし…」

苦笑を溢し、玄関を開ける。

「……ん?」

芳しい香りが漂っていた。

肉の焦げる匂い。

思わず腹がグゥ~と自己主張をする。

「お、起きたのかな?そして僕チンの為に夕食を作ってくれてるのかにゃ?」

靴を脱ぎ、いそいそとキッチンへ向かう。

多分、夕食を作ってくれてるのは二荒だろう。

ってゆーか、彼女しかいない。


うぅ~ん、一人でラピス達を助けに行ったと言ったら……やっぱ怒るかなぁ?

「た、ただいまぁ♪良い匂いがするねッ」

俺は出来るだけ陽気な声でキッチンへ顔を出す。


「あ、洸一っちゃん。お帰りぃぃぃぃ♪」


「……」

悪魔がそこにはいた。

愛用の、『GAO GAO』の文字と不細工なクマの絵がプリントされたエプロンを着けた悪魔が、フライパンで何やら調理しながら、ニコニコとそれこそ鉄格子のある病院では良く見掛けるポピュラーな笑顔で、俺を出迎えてくれた。


「えへへへ~♪遅かったね、洸一っちゃん♪」

ジューッと、フライパンの中で肉が良い音を出して焼かれている。


「ほ…穂波…さん?」

我に返った俺は、慌てて居間の方に視線を走らす。

まどか達は、まだ眠っていた。

俺が家を出て行った時のままの状態だ。


「ねぇ洸一っちゅわん。一体、どーゆー事かなぁ?」


「……」


「……洸一っちゅわん」


「……何を聞かれても喋るなと心の弁護士が言うから、俺は喋らんッ」

言ったら最後、どんなお仕置きが…


「ふ~ん……」

穂波は冷蔵庫を開けて卵を取り出しながら、

「戦争ごっこ、やってたんだもんねぇ」


「―――ッ!?ど、どうしてそれを?」


「だってぇ、私の家にも来たもん、兵士が。今から洸一っちゃんの所でドンパチ始めるから、避難しろって言ってたモン」


「……なるほど」

ぐむぅ、街中から人影が消えてると思ったら、やはりそんな事が……

でも……待てよ?

このキ○ガイが、すんなり勧告に従って逃げ出すとも思えんが…

「つかぬ事を聞くが、穂波。お前の家に来た兵士は……どうなった?」


「え?別に……どうもしないよ?」

穂波は『クスクス』と、どこか狂気に満ちた瞳をしながら微笑むと、チラリとフライパンに視線を向けた。

でっかい肉が、ジュージューと音を立てて焼かれている。

な、なんか……やたら大きいお肉なんだけど……よもや…まさか…


「……ねぇ洸一っちゅわん。ところで……御飯にする?それともお風呂が先?」


「へ?あ、あぁ…そ、そうだな。取り敢えず風呂、かな?」


「うん、分かったよぅ♪じゃあ、お風呂に入って、その後で御飯で……それから約束を守ってもらうね♪」


「や、約束?」


「朝、ちゃんと約束したじゃない」

穂波はプゥ~と頬を膨らまし、

「嘘吐いたから、逆さ磔で鞭打ちの刑だよぅ……クスクス」


「……」

どうやら僕の戦争は、まだ終らないみたいだった。



「……時継」

ロッテンマイヤーの運転するリムジンの中、喜連川の当主は、厳かに声を掛ける。

「あの可愛いメイドロボは……如何した?」


「バッテリーが切れたようで、ただいま充電中です」


「……そうか。ところで反乱を企てた者の処分は?」


「箱崎は懲戒免職。他の研究員は減給50%を6ヶ月と言う事で……軍の方は、軍法会議の結果次第です」


「上出来だ」


「ところで御館様。その…あの小僧の事ですが…」


「…面白い小僧じゃのぅ」

そう言って、喜連川の祖父は低く笑った。

「よもやこのワシを質に取る気で挑んで来るとは…」


「……」


「若い頃を思い出したわい。ワシも昔は、GHQの本部へ単独で戦を仕掛けたものじゃ」


「……そうでしたな」


「…ワシの可愛いのどかやまどかが、どうしてあの小僧を気に入るのか……少しは分った気がするわい。あ奴は平壊へいくわい)者よ。道を外れれば単なる無法者だが、あの小僧には邪気が無い。そこがまた良い」


「……」


「時継。あの小僧にはこれからも目を掛けてやれ。……何れ大化けすると見た」


「……畏まりました」










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