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俺様日記  作者: 清野詠一
30/39

SugarTime


★4月24日(日)



窓から射し込む明りに、俺はガバッとベッドから跳ね起き、カーテンを広げる。

「うっ…」

突き刺すような、眩しいくらいの朝の陽射。

ピーカンじゃあ…

まさしく、デート日和じゃあ…


「ありがとう、母上様ッ!!」

俺は窓際にぶら下げておいたテルテル坊主の頭を愛しそうに撫でる。

と、枕元の目覚しが、己の使命を思い出したかのように『ピピピ…』と鳴り出した。

「…ふ、俺の勝ちだな」

ニヤリと笑い、時計のスイッチを切る。

目覚しよりも早く目覚めるなんて、何年振りの事だろうか?

それだけ今日の俺は、気合いが入っているのだ。


「何しろ、お嬢様とのデートじゃからのぅ。ま、あまりお嬢様とは言えないかもしれんが…」

兎にも角にも、今日はのどかさんとデートの日なのだ。

そもそも、デートと言うモノ自体、実に久し振りなのだ。

穂波や智香とは、しょっちゅう遊びに行くけど…それはデートじゃないし…そもそもアイツ等以外の女の子と遊びに行くなんて…去年、吉沢と映画に行ったぐらいかぁ…

それが今回は、間違まごう事無きデート。

しかも人生初の年上の女性と。

あまつさえ、それが飛びっきりの美人ときたら、弥が上にも興奮してしまうと言うものだ。


「……今度は優ちゃんや姫乃ッチも誘ってみようかのぅ」

そんな事を呟きながら、昨夜から寝押しして置いたパリッとしたジーンズとシャツを着込む。

そして階下に下り、洗面所で顔を洗い、珍しく髪まで整えた。

「うむ、我ながら惚れ惚れするほど良い男じゃわい」

これほどのナイスガイなら、のどかさんと並んで歩いていても、見劣りはしないだろう。

「さて…」

取り敢えず、簡単な朝食(生卵と牛乳)を摂りつつ、最終チェック。

ハンカチにチリ紙、財布もOK。

もちろん、貯金は殆ど下ろしてある。

普段は、少なくなったシャンプーの容器に水を足して最後まで綺麗に使い切ってしまう小市民な俺様ではあるが、ゴージャスに行く時は徹底的にゴージャスに行くのが俺の流儀。

男子足るもの、見栄を張るときは張らねばならぬのだ。


「……良しッ」

気合いを込め、玄関から表へ飛び出す。

瞳に飛び込んでくるような陽光に、俺は思わず目を細めた。

「エエ天気じゃぁ……まるで今日のデートを寿いでいるような、エエ天気じゃぁ…」

何だか分からんが、今日の俺はツイているような気がした。

出会いの女神に見守られている感じと言うか…

ともかく、良く分からんけど今日の俺はツイている。

デートは上手く行き、好感度UPは間違い無しなのだッ!!



「さて…」

俺は公園前のターミナルビルに来ていた。

今日のデートは、隣り街にある柊デュラン・パークと言う遊園地へ行くのだ。

だからここから、電車に乗るのだ。

「え~と、柊町までは260円か…」

路線図を眺め、何気に呟く俺。

そして財布から小銭取り出し、券売機でキップを買う。

と、いきなり背後から、

「あれ?洸一っちゃん?」

嫌と言うほど聞き慣れた声が響いてきた。


「くっ…穂波…か」

振り返るとそこには、認めたくはない辛い現実の象徴である幼馴染の穂波が、ニコニコとまぁ…見ているだけで俺を不安にさせる笑顔で佇んでいた。


ぬぅ…

今日の俺はツイている筈だったのに…

何故に初っ端から、こんなイベントが起きるのだ?

もしかして運とか女神とかそー言ったモノではなくて、憑いてるのは死神か悪魔か?

「よぅ、穂波。……奇遇だな」


「エヘヘ~♪洸一っちゃん、どこか行くの?」

穂波は笑顔で尋ねてくる。


ヤバイ……

のどかさんとのデートを、こ奴に知られるワケにはいかない……

何だか分からんけど、ヤバイ気がする。

「ま、まぁな。そーゆーお前は……こんなに朝早くから、何してるんだ?」


「ん?智香と待ち合わせだよぅ」

穂波は屈託の無い笑顔で答えた。

どうやら、悪事(テロを含む)を企んでいると言う事は無いようだ。


「ふ~ん…智香とどっか行くのか?」


「春物のバーゲンを見に行くんだよぅ。修学旅行に持って行く服だよぅ」


「…なるほど」

ウチの学校の修学旅行は、行きと帰りは制服なのだが、現地では私服でOKなのだ。

・・・・

面倒臭い。

どうせなら、最初から私服でもOKにすれば良いのにねぇ…


「ねぇねぇ、ところで洸一っちゃんは、どこへ行くの?」


「ど、何処って……その……テキトーにだ」


「ふ~ん…」

穂波はニコニコと笑みを絶やさず、俺の足の先から頭の天辺まで、何かサーチするような感じで、ジロジロと見つめる。

「……もしかして、デート?」


「―――ブッ!!?」


「あ、やっぱりデートなんだぁ」


「ななな、何故に分かったッ!?」


「だってぇ…洸一っちゃんが休みの日に、こんなに朝早く起きてるわけないし…それに今日はちゃんとした格好をしてるもん。髪も寝癖が付いて無いし…」


クッ、鋭い観察力だぜ…

「ま、まぁ…その…偶にはな」


「ふ~ん……で、誰と?」

穂波は笑みを絶やさず、ググイッと顔を近づけて来た。

「誰とデートするの、洸一っちゃん?」


「だ、誰って……別に誰だっていいじゃねぇーか」

言うや、穂波の手がススッと伸び、俺の胸座を掴んだ。

そしてグイッと力任せに引き寄せ、

「あ?洸一っちゃん……今、なんつった?」


「……実はのどか先輩とデートなんです」

俺は速攻で白状ゲロった。

何故なら、言わないとお仕置きがプレゼントされるからだ。

それ下手すりゃクマ三郎とか出そうだし…


「のどか先輩?のどか先輩って……もしかして喜連川の?」


「そうだけど…」


「こここここここ洸一っちゃんッ!!」

穂波の顔に、驚愕が広がる。

「ど、どーゆー事??喜連川先輩って、あの喜連川先輩でしょッ!?」


「まぁ…」


「こ、洸一っちゃん……見損なったよッ!!」


「――なんでですかッ!?」


「だって喜連川先輩はお嬢様なんだよッ!!え?なに?もしかして逆玉気取りなの?」


「な、何を言ってるんだか…」


「洸一っちゃん、分を弁えなさいッ!!洸一っちゃんと喜連川先輩じゃ、身分違いも甚だしいよッ!!愚か者だよッ!!」

穂波は絶叫した。

駅前で大勢の人がいる中で絶叫した。

だ、誰か助けて…


「あ、あのなぁ……俺は単に、のどか先輩と一緒に遊ぼうと…」


「………行かせない」


「はい?」


「いいいいいい行かせるものかッ!!ケーーーーーーーーーッ!!」


「――ひいぃぃッ!!?また狂ったーーーーッ!?」



「…つ…疲れた…」

待ち合わせ場所の柊デュラン・パークの入り口に辿り着いた時には、既に俺はバテバテのバテと言う有様だった。

追跡者である穂波を捲く為に、知力と体力の半分以上を消費してしまった。

洸一チン、既にお家に帰ってグッスリと眠りたい気分だ。

「ま、そんなワケにはいかねぇーけど…」

時計に目をやり、時間を確認。

待ち合わせまで15分前か……

のどかさんは、来ているかな?

俺は遊園地前を見渡す。

柊デュランパークは、小春日和の日曜日と言うこともあってか、家族連れにカップル等で、適度に賑わっていた。

「うぅ~む、あの中に紛れたら、俺とのどかさんは、どのように見えるのだろうか…」

恋人同士だろうか?

よもやお嬢様とその下僕と言う風には見られまいて……

そんな事をボォーッと考えていると、不意に背後から、服の裾をクイクイッと引っ張られた。

「…ん?」

振り返ると、そこには見目麗しいのどかさんが、その乏しい表情の中にもどこか微笑を浮かべて佇んでいた。

「お、おぉぉ……のどか先輩ッ!!」


「ハァ~イ、洸一♪」

のどか先輩の背後から、まどかが現れた。


「……」


「ガハハハハハハハ…小僧ッ!!」

更にその背後から、ロッテンマイヤーの爺ィが現れた。


「……」


「ニャブゥゥ」

爺ィの足元から、黒兵衛が現れた。


「……」

更に黒兵衛の背中には、酒井さんが乗っていた。

「……」

喜連川軍団、勢揃い。

俺は目の前が真っ暗になった。


「あれ?どうしたの洸一?」

と、まどかが、石像と化している俺の頬をペチペチと嫌な笑みを浮べて叩く。


「な………何で貴様らがここにいるんじゃーーーーッ!!」


「な、なによぅ。デートのお目付役に決まってるでしょ?」

まどかは憤慨する。

だが、何が決まっているのか僕にはサッパリだッ。


「ぐぬぅぅぅ……おい、爺さんッ!!どーしてアンタもここにいるんだよッ!!」


「フッ、知れたことよ、小僧。ワシはのどか御嬢様の、警護役であーーーーるッ!!」


「………いや、全然分からねぇーんだけど」

俺はガックリと肩を落とした。

生粋のお嬢様……日本を代表すると言っても過言ではない財閥の御令嬢であるのどかさんとのデートにしては、道理で簡単に話しが進んで行くと思ったけど、まさか堂々と目付役が付いて来るとは……


「フン、小僧……貴様は知らぬだろうが、今日、この遊園地で遊んでいるアベックや家族連れの大半は、のどかお嬢様の警護役を仰せつかっている特殊部隊の者だ。それを覚えておけぃッ!!」


「そ、そうなんだ…」

ちくしょうぅぅぅ、なんか悔しいぞ。

こうなったら隙を見て、絶対にのどかさんと二人っきりになってやるッ!!

「って言うか、動物は入園出来るのか?」

俺は眠そうな顔をしているのどかさんの愛猫を、キッと睨み付けてやった。


「さぁ?でも別に良いんじゃない?」

と、まどか。


「くぬぅぅ…」

ま、まぁ良い。

事、ここに至っては致し方無し。

今更喚いた所で、こやつ等が大人しく帰る事はないだろう。

のどかさん以外の余計な面々は、小煩い置物と言う事で軽やかにスルーしておくとして…

酒井さんは良いのか?

本来はガチの置物として床の間などで飾られている筈の彼女は、本当は魑魅魍魎の類いなんじゃが…


「どうしたの洸一?あ、もしかして……この人形の事?」

まどかは酒井さんを指差した。


「あ、あぁ…」


「いやぁ~、何だか知らないけど、どーしても姉さんが連れて行くって言うからさぁ…」

まどかは困った顔で笑っていた。

どうやら彼女は、酒井さんが生き人形であると言う事実を知らないようだ。

俺が思うに……のどかさんが連れて来たのではなく、きっと酒井さんが駄々を捏ねて、勝手に付いて来たのだろう。

酒井さんは、好奇心旺盛だからなぁ…


「しかし……のどか先輩、その……凄く似合ってますね」

俺は気を取り直し、いつもの如くボォーッとしているのどかさんを見つめる。

今日の彼女は、白を基調としたカジュアルなスーツに身を包んでいた。

如何にも良家の清楚なお嬢様と言う出で立ち。

凄く綺麗だ……

見惚れてしまう女の子とは、きっとのどかさんみたいな女の子の事を言うのだろう。

うぅ~む……

これで性格とか趣味が一般的だったら、トキメクどころか完璧に恋の虜になっている所なんじゃが…

俺は更に彼女を熱い眼差しで見つめる。

と、そんな少々ぶしつけな俺の視線に、のどかさんは少しだけ恥ずかしそうに俯き、いつもの小さな声で

「洸一さん……あまり見ないで…」


「え?あ、いやぁ~…良く考えたら、制服以外ののどか先輩を見るのは初めてで……ハッハッハ」


「……」

まどかがいきなり、無言で俺とのどかさんの間に割って入って来た。


「な、なんだよ…」


「……」

どこかムスッとしながら、胸を張る。

今日のまどかは、ベージュ色のアンサンブルにちょいと短目のスカートと言う、可愛い姿だった。

ハッキリ言って、のどかさんに負けず劣らず、似合っている。

かなり……いや、凶悪なほどに可愛い。

属性が極悪で無ければ、きっと俺は、心の底から彼女にメロメロ(死語)だったであろう。

だがしかし、俺の脳内にインストールされているセキュリティソフトは、まどかを危険度レベル「大」のウィルスと判断しているので、そんな心配は全くの杞憂なのだ。


「な、なんだよ、まどか…」


「別にぃ。ただ私も、普段着を見せるのは初めてなんだけどねぇ…」


何を言っておるのだ、こ奴は?

「はぁ?嘘吐け。貴様の普段着はジャージだろうが…」


「な、なによぅ…」


「それに私服なら、前に見たじゃねぇーか。俺の忘れ物を届けてくれた時とか…」


「あ……」

まどかはちょっとだけ驚いた顔で俺を見つめ、

「お、憶えてたんだ…」


「はぁ?」


「えへへへ…」

何故か嬉しそうに、はにかんだ。

全く持って理解に苦しむ。

この女は、俺が馬鹿だとでも思っているのだろうか?


「ったく、ワケの分からんことを……それよりも、さっさと行くぞまどか。さ、のどか先輩、参りましょう」


「…はい」

のどかさんコクンと小さく頷いた。

ところで…

市松人形の酒井さんも、着ている着物が物凄く綺麗なんじゃが…

アレはもしかして、余所行きなんだろうか?



柊デュランパークは、新しい遊園地と言う事もあってか、小奇麗で爽やかな感じだった。

何だかこーゆー所へやって来ると、ワクワクと言うか……童心に帰って意味も無くはしゃぎたくなってしまう。

荷物をロッカーに預けた俺達は、取り敢えず園内を散策していた。

本来なら、俺はのどかさんと共にあれこれお喋りしながら歩き、時には手が触れ合ってしまうと言うイベントもありかな?と言う、青臭くどこか背中がムズ痒くなるようなファーストデートを楽しんでいる筈だったのだが……

現実は、俺はのどかさんとまどかに挟まれ、その後方には黒兵衛を肩に乗せているロッテンマイヤーと言う、デートと言うよりは、これからどこか冒険にでも出掛けるのか?と言うパーティー構成。

しかも一番アレなのは、のどかさんは酒井さんを抱きながら歩いているのだ。

ハッキリ言って、これはかなりヤバイ。

市松人形を抱きながら歩いている清楚な感じの女の子……

凄い絵だ。

誰もが退いてしまう、そんな光景だ。

これがもし、抱いているのがフランス人形とかテディベアの類だったら、

『あぁ、ちょっと可哀相な娘なのかなぁ…』

とか思うだろう。

だが、のどかさんが大事そうに抱えているのは市松人形だ。

ちょっと可哀相と言うよりは、ちょっと刺されそう、と言う感じ。

正直、この俺様とて……街でもし、のどかさん以外に市松人形を抱いて歩いている女の子を見掛けたら、180度回頭、全速前進でその空域から離脱している事であろう。


うぅ~む……

いっそのこと、黒兵衛と酒井さんもロッカーに入れておけば良かった……

そんな事を考えながら歩いている内に、お目当てのアトラクションの一つ、遊園地の定番でもあり、これ無くしてなんのデートか、とまで言っちゃうステキなイベントが期待できるであろう『お化け屋敷』に到着していた。


「と言うワケで、これが巷で『ごっつ怖い』と、何故か関西弁で噂になっているモンスターハウス。日本語で言うとお化け屋敷だ」

俺は皆にそう言って、その建物を見上げた。

洋館をモチーフにしたその外観は見るからにどこかおどろおどろしく、まるで本当にこの中で惨劇が起きたのでは……と想像してしまいそうになる様相を呈している。

「どうですか、のどか先輩?面白そうでしょう?」


「……」

のどかさんは瞳をキラキラと輝かせ、コクコクと頷いた。

気のせいか、少しだけその鼻息も荒い。

もちろん酒井さんも、人前なので動いたり喋ったりはしないが、瞳をやたら不気味な色で輝かせ、興奮していた。


うむ、誘った甲斐があったと言うモンだ……

「良し。ではのどか先輩、早速に入りましょう。この施設をクリアーするのに必要なのは、勇気と入場券ですッ!!」


「…」

のどかさんは大きくコクンと頷くや、いきなり普段からは想像出来ないほどの機敏な動きで大ダッシュ。

酒井さんを胸に抱いたまま、瞬く間にお化け屋敷の中へと消えて行った。


「………お、お~い…」

その後に続いて、ロッテンマイヤーと黒兵衛も入って行く。

「あ、あれ?あれれれ?」

お、おかしいなぁ?

俺、デートに来ている筈なんだけど……

何だかトホホな気分だ。

のどかさんがいきなり、出さなくてもいい本領を発揮するとは……予想もしなかった。

よもや初っ端から一人ポツネンと取り残されるとは……


「……ま、しょーがねぇーか」

俺はポリポリと頭を掻きながら、お化け屋敷へと向かう。

と、いきなり背後から、

「ちょ、ちょっと待ちなさいよぅ」


「あん?って、まどかか。なんだ、まだ入ってなかったのか?」


「あ、当たり前でしょッ」


……何が当たり前なんだ??

「分かった分かった。何が分かったのか自分でも謎だけど……ほれ、行くぞまどか」

俺は何故かムゥゥ~とした顔をしている彼女を急かす。


「い、今行くわよ」

まどかはお化け屋敷を見上げていた。

そして何度も、深呼吸を繰り返す。

一体何をしてるんだ、コイツは?


「………まどか。お前もしかして、怖いのか?」


「そ、そんなワケないでしょッ!!」


「だろうな」

俺は肩を竦め、苦笑を溢した。

確かに、普通のお化け屋敷よりは怖そうだが……所詮は作り物なのだ。

一般ピープルには怖いかもしれないが、のどかさんと言う不思議少女の妹であるまどかには、全然平気だろう。

何しろ、あの人と一緒にいるだけで毎日が超常現象の繰り返しなのだ。

それに比べたら遊園地のお化け屋敷など、お笑い番組と何ら変わりは無いのだ。

ま、正真正銘、純度100%のオカルト物体である酒井さんと接している俺様も、こんなのは平気だしねぇ……って、あれ?だとしたら、のどかさんにはチト物足りないかなぁ……

「って言うか、まどか。お前少し顔色が悪いぞ?」


「そ、そう?」

まどかは何でも無いと言わんばかりに笑顔を溢すが……その笑顔も、どこかぎこちない。


「なぁ…もしかしてどこか具合でも悪いのか?」


「そ、そんなことは無いけど……」


「………あの日か?」

そう言った瞬間、ステルスちっくな蹴り(もしくはパンチ)が、俺の腹部を襲った。


「ア、アンタねぇ……思った事をそのまま口に出すなって、昨日も言ったでしょッ!!」


「あぅぅぅ…」


「全く……ほら、行くわよ洸一ッ!!」

まどかは悶絶している俺の腕を、ガシッといきなり掴んだ。

「い、いいことッ!!絶対に腕を放したらダメよッ!!」


「は、はい?」


「だ、だから……お化け屋敷の中で私を一人にするなって言う事ッ!!分かったッ!!」

まどかはそう言って、凶悪な拳を俺の眼前に突き付けてきた。

逆らったら問答無用でぶん殴られそうだ。


「わ、分かったよぅ。何だか分からねぇーけど…」

俺はコクコクと頷き、何故かコアラのように腕にしがみ付いているまどかを引き摺りながら、お化け屋敷の中へと入って行くのであった。



「ほほぅ、これは中々……」

怖いと評判のそのお化け屋敷の中へ入った瞬間、出て来た言葉はそれだった。

洋館をモチーフにした施設の門を潜るや、いきなり辺りは薄暗く、防音設備が整っているのか外界の音は全て遮断され、ただ自分達の足音だけが、無機質な空間に響いている。

うぅ~む、予想していたお化け屋敷のイメージとは、随分と違いますねぇ…

入ってすぐに狭い通路になっており、その両壁には錆と血糊に塗れた鉄格子が続いている。

まるで地下牢獄……そんなイメージだ。


「某ホラーゲームみたいじゃのぅ……中々に凝った造りじゃねぇーか」

俺は何故か腕にしがみ付いているまどかに笑い掛けるが、彼女は何故か、ジッと地面を見つめているだけだった。

「なんだ?何か落ちてるのか?」


「ベ…別に…」

入る前とは裏腹に、彼女の声には元気がない。

それにどこか、腰が引けていると言うか……へっぴり腰で歩いている。

体がくの字に曲がった婆さんのようだ。


やっぱりアノ日なのかなぁ…

そんな事を考えながら、俺はズンズンと先へ進んだ。

延々と続く、鉄格子の並んだ薄暗く肌寒い回廊。

音もしなければ、何かアクションが起こると言うことも無い。

だがそれが却って、心理的圧迫を与えていると言うのだろうか、徐々に恐怖心が煽られて行く様な気がする。

なるほどねぇ、無闇に驚かせるだけがお化け屋敷じゃないって事ですか…

「うぅ~む、ビックリさせるわけでもなく、派手な演出もなく、闇を主体に人の潜在的な恐怖を……うむうむ、その発想が素晴らしいねぇ」


「…そ……そうね」


「……お?」

俺はいきなり足を止めた。


「な、なに?」

俺の腕を掴んでいるまどかの手に、ギュッと力が加わった。

ちょっと痛い。


「いや……ほれ、あそこに…」

俺は前方を指差す。

鉄格子の中、キィーキィーと掠れた音を立て、ロッキングチェアが揺れていた。

その上には、首の取れた人形が座っている。

怖いと言うより、ちょいと嫌な光景だ。

「ここからが本番ですよ、という感じですねぇ」

俺は呟きながら、その前を通り過ぎようとするが……妙に腕が重い。

まるで子泣き爺ィにでも取り憑かれた感じだ。

「ンだよ、まどか。もっとちゃんと歩けよ…」


「わ、分かってるわよ」

まどかどこかムッとした顔で俺を見上げるが……その歩みは、やはり限り無く遅かった。


やれやれ…

と溜息を吐く俺。

その時だった、牢内で静かに揺れていたロッキングチェアが突如として大きく揺れるや、その反動で人形が飛び出し、バンッと音を立てて鉄格子にぶち当たった。

それと同時に、俺は腕に物凄い重力を感じ、思わずその場に尻餅をついてしまう。


「――ななな、なんだッ!!?」

見るとまどかが、俺の腕にしがみ付いたまま、まるで団子虫の様に小さく丸まっていた。

新しい関節技か何かだろうか?

「お、おいまどか。どうした?」


「………ダメ」


「は?なんだって?」


「もう…ダメだよぅ…」

まどかはスンスンと鼻を鳴らしながら言った。

半泣きだ。


「お、おいおいおい……そんなに体調が悪いのか?それともどこか痛いのか?」


「違う。怖いんだモン」


「………は?」


「怖いのは…嫌だよぅ…」


「……怖いって、このお化け屋敷がか?」

まどかは涙で潤んだ瞳で、コクンと頷いた。


ま、まだ入ったばかりで、なーんにも怖くないんじゃが…

「な、なんだよぅ。こーゆーのが苦手なら、最初から言えばいいのに…」

って言うか、よもやのどかさんの妹のまどかが、まさかオカルトチックな物が苦手だとは……予想だにしなかった。

この規格外なバイオレンスな女にも、こんな普通の女の子ばりな弱点があったとは……

洸一チンとしては、驚きを禁じえないぞ。

「しゃーねぇーなぁ。だったら全速で駆け抜けるぞ、まどか」


まどかはフルフルと首を横に振った。

「こ、腰が抜けて……走れない」


…ギャフン

「わ、分かった分かった。ほれ、おんぶしてやる」

俺はそう言って、苦笑を溢しながらまどかに背中を向けた。

彼女はおずおずと俺の腕を放すや、ガバッと身を預けてきた。

カタカタと、背中越しに彼女の震えが伝わってくる。

そ、そんなに怖いのか?

「準備は良いか、まどか?」


「…」

まどかはギュッと目を閉じたまま、小さく何度も頷いた。


ちょ、ちょっとだけ可愛いじゃねぇーか…

「よし…」

俺はゆっくりと立ち上がる。

まどかは思ったより、軽かった。

「ダッシュで行くからな。振り落とされるなよ?」


「…」

返事の代りに、俺の首元に回された彼女の腕に、キュッと力が加わった。


「うむ。では……いざ、出陣じゃーーーーッ!!」

俺は気合い一発、まどかを背負ったまま、お化け屋敷の出口を目指し猛然と駆け出したのだった。



「し、死ぬかと思った…」

お化け屋敷から出た俺は、既に半死状態だった。


「洸一さん。お疲れ様です」

酒井さんを胸に抱いたのどかさんが、そっと冷たいお茶のペットボトルを差し出してくる。

俺はそれを一気に飲み干し、ホッと一息吐いた。

あぁ、生きてるって、素晴らしい事だ……


「なによぅ。ちょっと走っただけで息を切らして、情け無い男ねぇ…」

まどかは元気だった。

お化け屋敷を出た途端、いつもの如く傍若無人だった。

あまりの変わり身の早さに、俺はあんぐりと口を開け、彼女を見つめる。


「あ、あのなぁ……走っただけで死に掛けるかボケッ!!」


「なによぅ…」


「ったく、何かある度にキャーキャー喚きながら俺の首を締めやがって……カルシウムが不足していたら、今頃は頚椎損傷で入院だぞ俺はッ!!」

まだ首周りがズキズキと痛むよ。


「う、うるさいわねぇ。そんな事してないわよ」

まどかは少しだけ頬を赤らめ、プイッとソッポを向く。


「くっ、感謝の言葉も無しかよ…」

本当にこの女は…

お化け屋敷の中に放置しておけば良かったわい。


「ねぇねぇ姉さん。今度はアレに乗ってみようよぅ。あの垂直に落ちるヤツ」


「しかもスルーですか?」

と言っている間にも、まどかはのどかさんの腕を引っ張りながら、絶叫系のマシーンの元へと元気一杯に駆けて行く。

「…そして僕は置いてけぼりデスか?」

お、おかしいなぁ?

俺、今日はデートに来ている筈なんですけど…


「何をグズグズしている小僧ッ!!さっさとお嬢様達を追い駆けぬかッ!!」

ロッテンマイヤーの爺さんが、俺の背中をバンッと叩いた。


「……」

何だか俺、泣きたくなった。



「あ~~う~~世界が回っているぅ…」

俺は園内に設けられた休憩用のテーブル席に座ったまま、項垂れていた。


「なによぅ。本当に情け無い男ねぇ」

お化け屋敷でベソを掻いていたまどかは、元気一杯、モリモリと焼きソバを頬張っていた。


「……俺の三半規管はノーマルなんだよ。オールドタイプなんだよ」

ったく、立て続けに絶叫マシーンを16回も乗りやがって…

普通の人間だったら、確実に心臓麻痺を起こしているぞ。

俺はヤレヤレと、テーブルの上のジュースに手を伸ばす。

「さて…と、絶叫系のマシーンは一通り乗ったし、飯を食い終ったら軽く泳ぐとしますか」

そう、この遊園地には、年中泳げる温水プールが併設されているのだ。

のどかさんの水着姿を想像するだけでチ○コが大きく…もとい、感動すると言うものだ。

「ところで、のどか先輩。水着は持ってきましたよね?」


「…はい」

彼女はコクンと頷いた。

そしてどこか恥ずかしそうに、

「新しい水着を……用意しました」


「そ、そうなんですかぁ。おニューの水着ですかぁ……嬉しいですなッ!!ガハハハハ」


「……ちなみに私も、新しい水着なんですけどぅ…」

と、まどか。


「あっそ」

やれやれ、お金が勿体無い…


「な、何でそんなに淡泊なのよぅ。私の水着姿を見たら、洸一なんか一発で悩殺されちゃうんだからね」


「それは無い」


「……なに真顔で言ってるのよ」


「安心しろ、まどか。のどか先輩がいる限り、貴様が陽の目を見ることは無いッ!!例えて言うなら、のどか先輩が豪華なお刺身なら、お前なんぞはそのツマじゃッ!!もしくはワサビ」


「くっ…アンタのその減らず口に拳を突っ込んで、歯を全部叩き潰してやろうかしら…」


「ややッ!?お化け屋敷で助けてやった恩を忘れ、お前は俺を撲殺しようと言うのか?」


「二度と喋れないようにするだけよ。ふふん、一生お粥しか食べれないかもね」


「……ごめんなさい」

俺は素直に頭を下げた。

「本当の事を言うと、まどかの水着姿にも、期待すること大であります」


「それ…本当?」


「いや、嘘だ」


「……」


「お、おや?何だか小宇宙コスモの高まりを感じるんじゃが……」



「うぅぅ、痛ぇなぁ…」

まどかに殴られた頬を擦りながら、俺は手早く更衣室で着替えを済ませる。

「しかし水着って、不思議だよなぁ」

男はトランクスかビキニパンツ…

女の子はビキニとかワンピース型とか色々あるけど、用は布切れ一枚、何ら下着と変らない。

なのに何で水着は見せたがるのに、下着は見せたがらないのだろうか…

謎だ。

全く分からない。

中には下着より際どい感じの水着もあるのだが、あーゆーのは平気なんだろうか?

そんな下らない事を考えながら、俺は施設の中へと入って行く。

「ほほぅ……」

プールはゴージャス且つ、綺麗でかなり広かった。

幾本ものくねくね曲がったブルー色のチューブが入り組んでいるウォータースライダーに、かなり高低差のあるジャンボな滑り台。

波の出るプールもあるではないか。


「もっと庶民的なプールを想像していたんじゃが……結構、弾けちゃってるじゃねぇーか」

今は春先だからそれほど泳いでいる人は多くはないが、夏場はきっと大混雑する事だろう。

「にしても、遅ぇなぁ」

どうして女と言うのは、着替えにしろ便所行くにしろ、こうも時間が掛るのだろうか…

「って言うかロッテンマイヤーの爺さんは、何処へ行ったんだか…」

俺はボヤキながら、適度に体を解す。

準備運動は大切なのだ。

何しろ先程の絶叫マシーンで、心臓がかなり弱っているからね。

と、俺が軽く屈伸運動などを繰り返していると、羞恥心と言うモノが存在しないのか、プール全体に響き渡るような大きな声で、

「おぉ~い、洸一ィ♪」

と、まどかの声。


「チッ、恥ずかしいヤツめ」

軽く舌打ちし、振り返ると………そこには女神が佇んでいた。

ホルターネック式…と言うのだろうか?

白地に所々ブルーラインが入った清楚な色合いのセパレーツタイプの水着に身を包んだのどかさんが、頬を赤らめ、恥ずかしそうに佇んでいる。

そして一方のまどかはと言うと……南国風の花柄模様をあしらった、露出面積がスク水の10倍はあろうかと思われる定番のワイヤービキニに、パレオをと言うのか、何やら腰に布キレを巻きつけている。

二人とも、モデル顔負けのスタイル…

しかも美人。

そしてお嬢様。

これ以上、何を望めば良いと言うのだろうか?


「ス…スプリング・ハズ・カムッ!!」

い、生きてて良かった…

「の、のどか先輩ッ!!スッゲー……綺麗でス」


「……」

のどかさんは俯き、モジモジとしていた。

そんな照れた仕草も、また非常に可愛い。


「ほら姉さん、そんなに恥ずかしがらないで」

まどかがのどかさんの頬を、ツンツンっと突っ突いた。

「姉さんって出不精だから、プールとかで男の裸って見たこと無いでしょ?この際だから、じっくりと見ちゃいなさいよぅ」


「……」(コクン)

のどかさんは上目遣いで、ジッと俺を見つめた。


あ…あぁん。洸一チン、見られてるぅぅ…

「って、そーじゃねぇーだろッ!?こら馬鹿まどか、のどか先輩に変な事を言うにゃッ!!」


「なによぅ…」


「うっ…」

まどかも凄く綺麗だった…

って言うか、色々と凄かった。

さすがの俺様も、目のやり場に困ってしまう。

何故ならあまり見つめていると、良からぬ妄想が涌き出て、下腹部方面隊の主力兵器がクーデターを起こしそうだからだ。


「あれ?どうしたの洸一?」


「な、何でもねぇーでゴワス。それよりも、のどか先輩。その……手にしている袋は一体、何です?」

のどかさんは、ちょっと大き目の巾着袋をぶら下げていた。

「よもや…黒兵衛が入っているって事はないですよね?さすがにそれはマズイでしょう。猫は入浴禁止ですよ。蚤とか浮くし…」


「…違います」

のどかさんはフルフルと首を横に振った。

「恥ずかしがって、あまり外に出ようとしないのです」


「は、はい?」

俺はまどかと顔を見合わせた。


「さぁ、洸一さんも気になってますから…」

のどかさんはボソボソと呟きながら、袋の口を開けた。


「―――ゲッ!?」

中から出てきたのは酒井さんだった。

しかもビキニ着用。

末世的、狂悪なインパクトを持つ光景だ。

美人姉妹のビキニ姿も、この異常以外の言葉が見つからない水着姿の市松人形を前にしては、全て一瞬で消し飛んでしまった。

きっと今日は、悪夢を見るに違いない。


「……酒井さんも、おニューの水着です」

のどかさんは嬉しそうに、ツルペタなボディにビキニを着用している市松人形を抱き抱えた。

「酒井さん曰く、他人に肌身を見せるのは初めてだそうです」


「そ、そりゃそうでしょう…」

しょっちゅう見せてたら、それだけで凄い怪談になりそうだ。


「……似合ってますか、洸一さん?」


「も…もちろんデスッ!!ですがのどか先輩、問題はそーゆー事じゃないような気が…」


「???」


「いや、何でもねぇーです…」

俺は乾いた笑いを溢しながら、酒井さんの頭を撫でてやった。



泳ぎが苦手なのどかさんに手取り足取り泳ぎを教え、腕白なまどかに強引にウォータースライダーに誘われ、何故か酒井さんと共にジャンボ滑り台などで滑ったりすること数時間……

疲れ果てた俺は、プール際へ腰掛けてボーッとしていた。

隣りにはまだまだ元気なまどかが、膝から下をプールに浸け、バシャバシャと水を跳ね飛ばしている。

ちなみにのどかさんは、酒井さんと共にプールサイドに設けられたベンチに腰掛け、まどろんでいた。


しかしまぁ、のどかさんとデートに来たって言うのに、何だかいつものように、仲間内だけで遊んでいた気がするなぁ……

・・・

ま、それはそれで、面白かったから良いけどな。

「にしても、くたびれたわい」

ガックリと項垂れ、溜息を吐く。

すると、

「年寄り臭いわねぇ。若さが足りないわよ」

隣りに座っているまどかが眉を顰めた。


「うっせーなぁ。午前中は恐怖心が麻痺するほどコースターに乗せられ、午後からは尻が擦り剥けるほどウォータースライダーだぞ。普通の人間だったら、とっくにくたばっているわい」

しかも俺は来る前に、穂波に追い駆け回されているのだ。

肉体的に、崩壊寸前なのだ。

「しかし思ったより、楽しめる遊園地じゃねぇーか…」

俺は辺りを見渡しながら何気にそう呟いた。

「今度、優ちゃんや二荒も誘ってみようかなぁ…」


「………」


「…な、なんだよ?」

まどかの嫌な視線に、些かたじろいでしまう。


「優もはともかく、何で真咲も誘おうかなぁ~って思うのよぅ」


相変わらず、この女が何を言いたいのか、僕には理解出来ない。

「はぁ?別に……これと言った理由はないっちゅーか……優ちゃんも誘うんだったら、やっぱ二荒にも声を掛けようかなぁ~と思っただけなんじゃが…」


「……ふ~ん。でも真咲は、あまりこーゆー所には来ないわよ。性格的には、一匹狼ってタイプだし…」


「…何となく、分かる気がする」


「あ、でも……洸一が誘うんだったら、来るかもね」


「…何となく、分からないぞ?」


「相変わらず、アンタは鈍いわねぇ」

まどかはそう言うと、濡れたポニテの先端を束ね、キュッと絞った。

俺はそんな何気ない仕草に、ちょいとだけドキドキとしてしまった。

性格は破綻しており、腕力は一般人を遥かに凌駕しているヤーでバンな女だが、見た目だけはさすがに血統書付きのお嬢様だ。

なんちゅうか、一般ピープルとは、遺伝子そのものが違うと言った感じがする。


「……ん?なに洸一?ジーっと見つめて……何か顔に付いてる?」


「いや、まどかって、やっぱスンゲェ美人だなぁ~って思って…」

まどかの顔が、ゆっくりと首元から朱に染まっていった。

「ななな何をいきなり言い出すのよぅ…」


「これで性格も可愛かったら、さぞモテモテだろうに…」


「わ、私は……結構、可愛い性格をしているわよ」


「…自分で言いますか」


「なによぅ。洸一は私のことを知らないだけよ」

ちょっとだけ唇を尖らせるまどか。

時々見せるこー言った子供じみた態度は、癖なんだろうか?

「と、ところでさぁ、洸一。もうすぐ、ゴールデンウィークだよね?」


「地球が滅亡しない限り、そうだな」


「何か……予定入ってる?」


「寝る」


「……」


「なんだその馬鹿を見るような顔は…」


「アンタらしいと思ったのよ。ま、それは置いとくとして……ヒ、ヒマだったらさぁ……その……どこか遊びに行かない?」


「構わんぞ」

俺はテキトーに頷いてやった。

どうせ本当にヒマだしねぇ…

「あ、それだったら、今度は優ちゃんや二荒も誘って、みんなでどこか遊びに行こうぜ」

個人的には、疲れない場所が良いのぅ…


「……」


「…って、どうしたまどか?何故にそんな驚いた顔をしている?」


「洸一って、本当に鈍いって言うか……分かってないわねぇ」

まどかはブツブツと溢していた。

一体、何が言いたいのだろうか……僕にはサッパリだ。



プール際に越し掛けている洸一とまどかを、どこかボンヤリと見つめながら、のどかは市松人形の頭を撫でていた。

「酒井さん。私の占い通りです…」


「…キ…」


「まどかちゃんと洸一さん、すっかり仲良しです」


「キ…キーー…」


「……え?私はそれで良いのかって?……大丈夫です」


「キ……」


「占いでは……私も洸一さんと、仲良くなれると出ていますから…」


「…キーーーーーーーーー…」


「…え?酒井さんも洸一さんと仲良くなりたいのですか?…困りました。強敵出現です」


「……」


「ところで……ロッテンマイヤーはどこへ行ったのでしょうか…」



「何人たりとも、ここは通さーーーーーーーーーんッ!!」

ロッテンマイヤーは更衣室からプールへと通ずる通路で、弁慶の如く仁王立ちしていた。

「無粋な輩がのどかお嬢様の肌身を見ることなぞ、言語道断ッ!!プールへ入りたければ、ワシの屍を超えて行くが良いッ!!」









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