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俺様日記  作者: 清野詠一
21/39

その出会い



★4月20日(水)



いつもの朝…

そしていつも通りの道を、これまたいつも通りに、穂波と共に歩いて学校へ向かう。

だけど俺の心は、いつもと少し違っていた。


うぅ~む…

昨夜から頭の中で、何かがモヤモヤッと渦巻いている。

なんだろう、この感じは?

不安にも似た、嫌な感じだ。

姫乃ッチのトレーニングが心配だからか?

それとも、優ちゃんの具合が気になるからか?

はたまた、有り得ないけど、穂波と多嶋がどーして一緒に歩いていたのかが気になってるとか…

よもや、まどかの膝蹴りの後遺症って事はねぇーだろーなぁ…


「あ~~…なんかしっくりと来ねぇーなぁ」

俺は首を軽く回す。

ボキボキッと、頚椎が軽快な音を発した。

純粋に、疲れが溜まっているだけなのかも知れない。


「今日も洸一っちゃん、疲れた顔してるよぅ」

心配事が多い俺とは裏腹に、その日その日を太平楽に過ごしている穂波が、心配そうな演技をフェイスに施しつつ、俺を見上げてくる。

コイツは昨日、多嶋とどんな話しをしていたのか…


「洸一っちゃん。最近、忙しいみたいだね」


「…まぁな。何しろ俺は主人公様だからな。道を歩いているだけでイベントが起こるのよ」


「相変わらず、ワケが分からないよぅ」

穂波は困った顔で微笑んだ。

「あ、そう言えば洸一っちゃんは、多嶋クンと仲が良いよね?」


穂波の口から飛び出した多嶋の名に、俺は不覚にも一瞬、ドキリと動揺してしまった。

よもや穂波は、全てを知っているのではなかろうか?

多嶋が自分を好きなこと…

そして俺が、多嶋に頑張れと言ったこと…

心から、二人の仲が上手くいくように願ってしまったこと…

何だか分からんけど、バレたら終ってしまう。

人生が終わってしまう。

具体的に言うと腹を刺されてから首チョンパ。

明日の朝は天国(もしくは地獄)で迎えてしまうだろう。


「べ、別に…それほど仲が良いと言うわけではないぞよ」

お、落ち付け俺…

平静を保つのらッ!!


「ふ~ん…」


う、うぬぅ…何か変な目で見てるよぅ。

「そそ、それで……何でいきなり多嶋が出て来るんだ?何か面白いネタでもあるのか?」


「あ、それがねぇ…実は昨日、初めて多嶋クンと一緒に帰ったんだよぅ」

穂波は呆気らかんと言った。

なまじ隠されたら嫌な気分になってしまうが…

こうも堂々と言われると、それはそれで少し嫌な感じだ。


「ほ、ほぅ。あの多嶋とねぇ。でも一緒に帰ったって、どーゆー事だ?時間帯が合わないような…」


「あ、それはねぇ、私昨日、クマ部の方へ出てたの」

穂波はニコニコと嬉しそうだ。

「そうしたらね、多嶋クンも一緒に参加してて……それで一緒に帰ったの」


「…なるほど」

そう言えば前に、多嶋はバスケ部以外にもクマ部にも所属しているとか言ってたっけか…

「ふ~ん、それでアイツと一緒に帰ったと。穂波のクセに、モテモテですなッ」


「なによぅ。洸一っちゃん、もしかして妬いてるの?」


「…あん?何バカなことを…」


「…・気にならないの?」

どこか拗ねたような感じで穂波

その瞳が鈍く光っている。

危険な兆候だ。

返答を誤れば、即あの世行きだ。


「べ、別に……気にならないってワケじゃないぞ」


「ほ、本当にっ!?」


「あ、あぁ。万が一、多嶋の身に何かあったら……捜査本部は俺にも事情を聞きに来るからな。面倒はゴメンだぜ」


「っもう、洸一っちゃんったら…」


「ハッハッハッ。そ、それで多嶋と帰ってみてどうだった?」

俺はそれとな~く、ごく普通を装って聞き出してみる。


「え?う~ん……何て言うのかなぁ。多嶋クンって、少し変だよね」

物凄く変な穂波が、そんな事を言う。


「へ、変かなぁ?」

まぁ…確かに、変といえば変だろう。

何せ穂波に惚れているのだ。

尋常では無い感覚の持ち主だ。


「変だよぅ。昨日だって、いきなり年金は本当に貰えるのかどうとか……そーゆー話しかしてこないんだモン」


「……」

あ、あの馬鹿…

俺は心の中で舌打ちした。

恐らく緊張して何を話したら良いのか分からなかったとは思うけど、何で思春期の問題も解決してないのに老後問題で悩むんだ?


「でも多嶋クンって、見た目はカッコイイよね」


「……そ、そうだな」


「女の子に人気があるのが分かったよぅ」

穂波はニコニコと嬉しそうに言う。


「ふんっ、俺様の方がカッチョイイわい。他の女は見る目がないだけじゃ」


「こ、洸一っちゃん…」


「…何故そんなに憐れんだ目で俺を見つめる?」


「エヘヘヘヘ、気のせいだよぅ。私としては、洸一っちゃんの方が格好良いと思うよ♪」


「ま、まぁな。当たり前だぜ」

穂波の言葉に、何故か俺は少しだけスッキリした気分になったのだった。



学校に到着するや否や、俺は委員長への挨拶もそこそこに、そそくさと教室を飛び出した。

向かう先は優ちゃんのクラス。

まさかとは思うが…

よもや学校へ来てはいないだろうな?


「うぉらーーーーーーーッ!!」

気合い一発、力任せに扉を開け、朝のHRが始まる前の教室に俺様降臨。

1年坊主どもは目を見開き、突如として乱入してきた俺(神)を前に固まっていた。

「むふぅぅぅぅ~」

鼻息も荒く、教室を見渡す俺。

と、すぐ傍の席に、キョトンとした表情の見知った女の子が…

「――優ちゃんッ!?」


「…え?あ、あの……先輩?」


「なななな、何してるんだよぅぅぅぅぅぅッ!」


「な、何って…」

優ちゃんは困った顔で首を傾げていた。

そんな彼女の脇には、非常時には武器にも成り得る松葉杖が鎮座ましましている。


「ぬぁぁぁーーーーーッ!?」


「あ、あの……先輩?」


「そんな重傷で、何で学校に来てるんだよぅぅぅッ!!」


「え?べ、別に…それほど酷くは…」


「ダメだッ!!」

俺はズバンッと教壇に拳を打ち付けた。

「今すぐ家に……いやいやいや、それだと足に負担を掛けるから…取り合えず迎えを呼ぶから、それまで保健室で寝ていなさい。絶対安静だッ!!」


「で、でも…」


「デモもストライキも無いッ!!いいか優ちゃん、無茶をするな。休める時は徹底的に休むんだッ」


「え、えと…」


「ぬわぁぁぁーッ!!何も言うにゃッ!!」

ったく、まどかの馬鹿め…

優ちゃんは放っておくと無茶をしちゃうって分かってるんだから、強制的に入院でもさせやがれってんだ…

「担任には、俺からよ~く言っておくから……今日の所は休んでいるんだ」


「は、はい…」

と、優ちゃんが硬い表情で頷くと同時だった。

ガラリと扉が開き、それまで石化していた生徒の顔に安堵の表情が広がる。


――ムッ、何奴ッ!!


「……何をしてるんだ、神代?」

そこに立っていたのは、V禿げ改め、頭部方面が砂漠化して丸禿げになった戸塚先生だった。

相変わらず嫌味な顔で、俺を睨んでいる。


ぬぅ…

「やぁ、戸塚先生。もしかして先生がこのクラスの担任?」


「…担任は猫柳先生だが、今は体調を崩していてな。それより、お前はこんな時間に何をしているんだ?」

先生の目が険しくなる。


やれやれ…

忙しい時に、ややこやしい奴がやって来たなぁ…

「戸塚先生よぅ、俺が何の為にこのクラスへやって来たのか、今から説明しますが……その前に良いですか?」


「…なんだ?」


「先生の足元に、酒井さんがいますです」

そう嘘言った瞬間、戸塚先生は物も言わず、いきなりガシャーンと窓ガラスを突き破り、物凄い勢いで走り去って行った。


『……』

唖然とする1年坊主達。

もちろん、俺もだ。

うぅ~む、丸禿げと酒井さんの間に、一体何があったんでしょうかねぇ…


「って、そんな事よりも」

俺はジロリと教室内を見渡し、

「そこで固まってる野郎どもッ!!優ちゃんを保健室に連れて行けッ!!そーっとだぞ……って言うか、面倒だから椅子ごと持ち上げて運べぃッ!!」



一時限目が終った休み時間、俺はダッシュで保健室へと赴き、そーっと中の様子を窺うと……

優ちゃんは、静かな寝息を立てていた。

疲れが溜まっているのか、熟睡中だ。

うむ、中々に宜しい。

俺はそのまま保健室を後にし、再びダッシュで今度は3年の教室へ向かう。

そして相変わらずボォーッとしているのどかさんを見つけ、ロッテンマイヤーの爺さんを呼んで優ちゃんを家まで運んでくれるようにお願いした。

これで本作戦は終了だ。

実にまぁ、朝から洸一、大忙しの巻である。


「あ~~~ホンマに疲れた」

まだ朝なのに、妙に草臥れてしまった。

伏原の美佳心チンは、俺の事をお節介焼きとか何とか言ってたが……確かにそうなのかも知れない。

どうも困ってる女の子を見掛けると、義侠心が沸起ると言うか何と言うか…

しかしながら、男に対しては全く適用されないのが、ちと不思議だ。


「さて、取り敢えず昼までは寝るか」

そう独りごち、俺はブラブラと教室へ向かって廊下を歩いていた。

窓の外から射し込む春の陽射が、ポカポカと実に気持良い。

これなら熟睡できそうだ。

「ふぁぁぁぁぁぁあああ~~っと、ムニャムニャ…」

欠伸を溢しながら、踊り場に差掛る。

そしてふと何気に階段を見やり、俺の足は止まった。

……なんじゃアレは?

上の階から、異形の物体がヨタヨタとした足取りでゆっくりと降りてくる。

それは、ダンボールで出来た化け物だった。



「……」

俺はポケェ~と、その摩訶不思議な光景を見つめていた。

上の階から階段を降りてくる、謎の物体。

大きなダンボールを三つ重ね合わせたそれは、トーテムポールのように聳え立ちながら、ゆっくりと此方へ向かって降りて来る。

最初は、まどかさんが僕の知らない次元から呼び出した物の怪の類いだろうと思っていたのだが…

そんな心配は杞憂だったようだ。


ダンボールの下からチョコンと足が見え隠れするし、箱の縁には小さな手も見える。

どうやら誰かがダンボールを運んでいるだけのようなんじゃが……これはこれで、かなり心配だ。

何しろ、前が全く見えてない。

しかもフラついている。

さすがの俺様でも、一人で大きなダンボールを三つも運ぶと言うのは、かなり難事業のような気がするが……

「――って!?」

予感と言うか予想と言うか当たり前と言うか、案の定、階段の中腹でそれはバランスを崩した。

グラグラと、積み重なったダンボールが揺れる。

「あ、危ねぇッ!?」


「――ふぇっ!?」

それはグラッと大きく揺れた。

と同時に、ダンボールがズコココッと崩れ落ち、あろう事かそれを支えていた生徒も転がり落ちる。

「あやややーーーーーッ!?」


「洸一、ダイナマイツキャーーーーーッチ!!」

――説明しなければなるまいッ!!――

洸一ダイナマイツキャッチは、東京ドーム3個分なのだッ!!


俺は落ちてくるダンボールを弾き飛ばし、階段を転がってくる生徒のみを受け止める。

がしかし、勢いが付いていた所為か、俺はその生徒を抱き抱えたまま、思いっきり強かに床に背中を打ち付けてしまった。

「ぬぉうッ!!ちょ、ちょっとだけ痛いぜ…」


「あ、あややや……」


「って、大丈夫か?」

俺はゆっくりと起き上がり、そして暫しの間、固まってしまった。

俺が抱き締めていたのは、女の子だった。

ウチの制服を着ているが、かなり小さな女の子だ。

大きな瞳に幼い顔のかなり可愛い系の娘っ子。

ちょっぴりバラついているミドルヘアーに、可愛く結ってあるお団子が二つと言う特徴的なヘアースタイルをしている。

小学生だと言い張れば、罷り通るかも知れないぐらいの小さな女の子だった。


は、初めて見掛けるだけど……一年生かにゃ?

その女の子は、キョトンした顔で俺を見つめていた。

何が起こったのか理解出来ない、と言った様子だ。

な、なんか、不思議な感じの女の子だなぁ…

目の色も微妙に草色だし、もしかして、異人さんか?

それに頭の左右に結ってある拳大のお団子髪に、何やら宝石チックなアクセサリーが付いているし……中々のお洒落さんじゃないか。


「え~と……大丈夫?」


「……?」

女の子は、小首を傾げていた。


「怪我とかしてない?」


「……ふぇ?」

女の子は辺りに散乱しているダンボールを見やり、次に自分の体を見つめ、もう一度最後に俺に顔を向ける。

「……」

何やら思考中のようだ。


「だ、大丈夫か?頭とかぶつけてねぇーか?」


「あ…あぅぅぅぅ……しゅ、しゅみましぇん」

女の子はいきなり頭を下げた。

何度も何度も頭を下げながら、

「す、すみましぇんですぅぅぅぅ」

既に半泣きだ。


「き、気にすんなッ!!誰にでも失敗はあるッ!!何故なら俺は毎日が失敗だからだッ!!」

そう言って、俺は元気付けるように彼女の肩を叩く。

もちろん、優しい笑みは忘れないが…


「あ、あぅぅ」

女の子はまだ少しだけ、ションボリとしていた。

そんな彼女を見ていると……沸沸と、心の中で怒りが煮え滾って行く。

ぬぅぅぅ…

こんな小さな女の子に、これだけの荷物を運ばせるとは……ゆ、許せんッ!!

ててててて天誅を食らわしてくれるわッ!!



「と、取り敢えず、転がったダンボールを集めような」

言って俺は、その女の子に微笑み掛ける。


「は、はいでしゅ」

釣られて彼女も、笑みを溢す。


か、可愛いじゃねぇーか…

見ている此方も嬉しくなってしまう、天使の微笑だ。

見ただけでシッコス及びウンチョスが出ちゃいそうになる穂波の笑みとは、天と地ほどの開きがある。

しかし、こうして改めて見ると、ホンマに小さいな…


彼女の背丈は、俺の胸に届くか届かないかぐらいしかなかった。

こんな小さな体で、大きなダンボールを三つも運ぶのは、最初から無理なのだ。

彼女の規格からすれば、せいぜい一つが限度だ。


「え、えと……しょのぅ…」


「ん?どうした?」


「そ、その……ラピスと言いますでしゅ」

女の子はペコニャンと頭を下げる。


「…ラピス?」

俺様の予想通り、やはり異人さんのようだ。

しかしラピスとは、珍しい名前だなぁ…

まるで宝石のようだ。


「ハイでしゅ。片仮名3つでラピスでしゅ。正式名称はSR-MH・PP8ラピスリアン・コンパイラ・二階堂と言いますでしゅ」


「ぬぅ…」

何だか良く分からんが、実にハイカラな名前だ。

羨ましい。

何処の国の生まれかサッパリ分からんが…

「なるほど。それで略してラピスと言うのか。うむ、憶えたぞよ」

俺は脳内HDDのディレクトリィ『¥ネームリスト』に、深く彼女の名前を刻み込んだ。

これで一生、忘れる事は無い。

ちなみに男の名前は、1週間更新しないと自動的に削除されるのだ。

「あ、俺は神代だ。神代洸一。正式名称は8式26型決戦兵器:神代洸一サイコミュ搭載後期タイプだ。気さくに洸一と呼んでくれぃ。もしくはハートのキング」


「あぅ、洸一しゃんですか?」

女の子……ラピスのどこか舌っ足らずな物言いに、思わず自然と頬が緩んでしまう。


「う、うむ。その通りだ」


「ハイでしゅ」

ラピスは手を合わせ、ニコニコと嬉しそうな笑みを溢した。


うぅ~む、心が癒される……

純真無垢な微笑みと言うのか、巷で狂犬と呼ばれた俺様のハーツも、何だか和らいでしまう。

俺は一人っ子だけど、もしも妹いるとしたならば、こんな感じの女の子が良いのぅ。

まかり間違って穂波や智香みたいなデンジャラスな妹がいたならば……

クッ、お兄ちゃんはとっくに家を飛び出しているぞッ!!


「さ、さて、ダンボールを運ぶんだが……ラピスは一年生か?」


「ハイでしゅ。今日から通う事になったんでしゅ」


「なるほど…」

今日からと言うことは、転校して来たのかな?

道理で、初めて見るわけだ。

「これ、教室まで運べば良いんだろ?どの教室だ?」


「ふぇ?」


「どうしたラピス?」


「あのぅ……ラピスがやるから良いでしゅ」


「……お兄ちゃんがやってやる」


「ふぇぇ?お兄ちゃん?」


「あ、いやいや……こっちの話だ」

いかんいかん、思わず自分設定にのめり込んじゃう所だったぜ…

「あ~……なんだ、ラピスはちょっと小さいだろ?なのにこんな大きいダンボール、しかも3つは無理だ。だから俺が手伝ってやる。…分かった?」


「あやややや……も、申し訳ないでしゅ」


「ンな事はないッ。むしろ、手伝わせてくれ」

それが唯一、兄として出来ること…

「で、ラピスの教室はどこだ?」


「あぅ?あぅぅぅ……え~と……あのぅ……確か1Dでしゅ」


「1D…」

姫乃ッチのクラスか…

「なるほど。なるほどねぇ」


「あぅ?」


「クックックッ、そうかそうか…」

あのクラスは、どうもイカンと思っていたのだ。

姫乃ッチには変な渾名を付けたりとかしてるし…

今度は、こんな素直で可愛くて小さな転校生の女の子に、無理難題を押しつけている。

どうやら、徹底的に再教育をしてやる必要があるようだ。

いやむしろ、コロニーでも落としてクラスの3分の2ぐらいは消去しても許されるかもしれん。

「ふっ、1Dの糞餓鬼どもには、人としての何たるか、っちゅーのを、教えてやる必要があるようだな」


「ふ、ふぇ?」


「さてラピス。それでは行こうか?悪を成敗しにッ!!」


「ふ、ふぇぇ??」



俺はラピスを連れて、1年D組の教室の前に来ていた。

ちなみにダンボール3つは、その辺に屯していた男子生徒が運んでくれた。

普通の生徒なら、俺のお願いは無償で聞いてくれるのだ。

ま、中には聞いてくれない困ったチャンもいるのだが、そーゆー時は、熱い拳が俺の気持を代弁してくれるからノープロブレムだ。


「あ、ありがとう御座いますでしゅ、洸一しゃん」

ラピスはペコニャンと頭を下げる。

そしてニコニコと、思わず抱き締めてしまいたくなるような可愛い笑顔で俺を見上げた。

守ってやりたくなるような、無垢な笑顔……

思い起こせば、俺はこれほどステキな笑顔には、殆どお目に掛った事が無い。

つい最近では、優ちゃんの元気が出そうな笑顔が、これに匹敵するだろう。

それ以外には…

穂波の、何か得体の知れないモノが降臨した時の笑顔や、まどかの、今から俺を殴ります的な笑顔などなど……

どれも早く記憶から消去したいけど、既に深層心理にまで書き込まれちゃって、クリーンインストールしないと消せない嫌な思い出ばかりだ。

それに対してこのラピスの、見ず知らずの俺にまで向けられるピュアでクリーンでエコロジー(謎)な笑顔…

俺は今、猛烈に感動している。

笑顔と言うタイトルで作文を書けといわれたら、おそらくブリタニア大辞典より分厚くなってしまうだろう。


「……ラピス」


「ふぇ?何でしゅか洸一しゃん?」


「ちょっと……ここで待っていなさい」

俺は優しく彼女の肩に手を置いた。


「ふ、ふぇ?ラピス……待ってるんでしゅか?」


「そうだ。今からお兄ちゃん……もとい、この洸一様が、ラピスの学園生活をより豊かにする為に、ちょいとしたイニシエーションを起こしてみようかと思っちょる。だからラピスは……そこの窓から表を眺めていなさい。あと、耳は手で塞いでいるよーに」


「ふぇぇ?」


「……出来るか、ラピス?」


「は、ハイでしゅ」

ラピスは真面目な顔でコクコクと頷き、言われた通り廊下の窓から外を眺め、そして小さく愛らしい耳に手を被せた。


うむ、実に素直な女の子だ…

「さて……と」

俺はおもむろ教室の扉に向き直り、深呼吸を一回。

そして、

「うぉらぁぁーーーーーーーーーーーッ!!

雄叫びを上げ、ドゲシッ!!と扉を蹴破りながら室内に乱入。

「姫乃ッチを除く貴様ら全員、今すぐ地獄へ送ってくれるわーーーーーッ!!」

更にいきなり死刑を宣告してやったのだった。



「ちーーーーーーーーーーーっす…」

お昼休み、俺は推理小説愛好会の部室の扉を開け、顔を覗かせる。

部室内には、我が友、ダメさ加減が良い感じの金チャンこと金田が、自宅から持ってきたのか……何やらTVに機器を取り付け、それでドラマを鑑賞しながら飯を食っている最中だった。


「よぅ、洸一か」

チラリと振り返り、軽くパックのジュースを掲げる金ちゃん。

「珍しいな、お前がここに来るなんて…」


「そうかぁ?」

俺は椅子を引っ張り出し、そこに腰掛け、金チャンの頭越しにTVに目を見やる。

「BDか……また古そうな映画だなぁ」


「ん?まぁな。最近はさ、邦画にしろ洋画にしろ、純粋な推理モノの映画って少ないだろ?」


「ってか、殆ど無いな」


「だろ?推理モノかなぁ~って観てたら、何故か途中からホラーに変わったりとか…実に堪らんよ」


「そもそも探偵が主役って映画が無いしな。あるのはアニメだけだ」


「寂しい世の中だよ…」

金チャンは苦笑を溢し、リモコンを操作して流れている映像をストップさせた。

「それよりも、聞いたぞ」


「何をだ?俺が未だに、頭を洗う時はシャンプーハットが必要だと言う事か?てへっ、恥ずかしいにゃあ」

あと、リンゴちゃんお風呂セットも必需品なのだ。


「……そんな情けない事をカミングアウトされてもなぁ。そーじゃなくて、洸一。また1年の教室で大暴れしたんだって?」


「失礼な事を。俺は少しだけ、社会生活における最低限のルール、と言う奴を、未熟な一年坊主に教え諭そうとしただけだ」


「教え諭そうとして、1クラスを壊滅させたのか?」


「……誤解が広がっているようですな」

俺は溜息を吐いた。

そう……それは全くの誤解なのだ。

俺は確かに、あの1Dの生徒達に罰を与えてやろうと思い、教室に乱入したのだが…

入るや否や、いきなり姫乃ッチが

「こ、洸一さん……ダメッ!!」

と叫び、その刹那、カカッと白い閃光が走ったと思うや教室は大爆発。

俺は机と椅子とあと1年D組の生徒の半数と共に、校庭まで吹っ飛ばされたのだ。

いやはや、死者が出なくて本当に良かった。

……怪我人は少々出たけどな。


「ふ~ん……なるほどねぇ」

金ちゃんは何度も頷いていた。

「俄には信じられん話だけど……でも、お前が犯人だと言う話だぞ?」


「仕方なかろう。彼女の所為ですぅ、なーんて俺が言えるワケなかろうに」

姫乃ちゃんを守る為なら、泥だって啜るわさ。


「まぁ、洸一らしいといえば、らしいな。ところで、さっきから気になっていたんだが……お前、一体何しに来たんだ?」


「ん?あぁ、肝心なことを忘れていたわい。ちょいと生徒の資料を見せて欲しくってな」


「資料?」

金ちゃんの目が僅かに細まる。


「そうだ。推理小説愛好会が誇る、全校生徒の極秘個人情報ファイルを、見せてくれぃ」


「……あれは部外者には原則非公開なんだが……ま、洸一なら良いだろう。断わって暴れられても困るからな。で、誰の情報が欲しいんだ?」


「……二荒真咲だ」



金ちゃんは驚いた顔で、

「二荒真咲って……あの二荒真咲さんか?」

『あの』と言う言葉を強調して、瞳を瞬かせた。

その言葉に、どれだけの意味が篭められているか……俺には何となく分かる。


「そうだ。その二荒真咲だ。品揃え豊富が売りのこの倶楽部だ、当然、二荒の情報もあるんだろ?」


「別に売ってるワケじゃないんだが…」

金ちゃんはゴニョゴニョと言葉を濁した。

「洸一……お前さ、前にも伏原さんの事を尋ねてきただろ?彼女もそうだけど、高望みし過ぎだぞ?」


「……はぁ?」


「悪いことは言わないから、榊さんで我慢しとけよ。それが分相応ってヤツさ」


「何を言うてるのか勘違いも甚だしいが……二荒って、そんなに人気があるのか?」


「もちろんさ」

金ちゃんは大きく頷くと、棚から何やら鍵の付いた箱を取り出した。

中にはいっぱいのUSBメモリ。

それを幾つか確認しながら、一つを机の上のノートパソコンに差し込んだ。

そしてキーを叩きながら

「二荒さんは人気者だぞ。クールな外見にストイックな性格・・・それに後輩思いで、女の子達の憧れの女性になっている。もちろん、男子にも隠れファンがたくさんいるぞ」


「そ、そうなのか」

それは知らんかった。

てっきり俺は大魔神の如く、村人クラスメイトに恐れ崇められているのかと思ったわい。


「さて、二荒さんのデータが出たぞ。で、洸一は何を知りたいんだ?彼女のスリーサイズとか誕生日か?」


「だから、そんなんじゃねぇーよ。だいたい硬派で正義の人と呼ばれる俺様が、陰でコソコソとそんな事調べるかっちゅーの」


「そ、そうか。だったら、一体何を知りたいんだ?」


「ふっ……ズバリ、二荒の弱点だ」


「…どこに正義があるんだ?」


「う、うるせーな。こちとら、切羽詰ってるんだよ」

何しろ、優ちゃんがあの調子なのだ。

卑怯とは分かっていても、今は少しでも勝てる確率を上げなくては…


「弱点ねぇ…」

金ちゃんはやれやれと溜息を吐きながら、端末を叩いて行く。

「え~と……おっ、分かったぞ」


「ほ、本当か?」

俺は金ちゃんの背中越しに、小さなモニターを見つめた。


「あぁ。二荒さんの弱点は……昆虫だな」


「………は?」


「ゴキブリは当然だが、足の一杯生えてる虫が苦手らしい。蜘蛛とか百足とか……」


「……役に立たない情報ですなッ!!」


「な、何だよ一体…」


「そーじゃなくて、もっとこう……これだッ!!っちゅう弱点はないのか?膝に爆弾を抱えているとか、脇腹の辺りに古傷があるとか……銀の弾丸に弱いって言うのは無しだぞ」


「うぅ~ん、これと言ってはないなぁ」

端末を弄りながら、金ちゃんは唸る。

「後は……彼女は意外に家庭的だって事と……お、未確認情報だけど、どうやら二荒さんには、惚れた男がいるらしいぞ」


「惚れた男?女の子じゃなくて……男なのか?」


「らしいな」


「ふ~ん……で、誰?」


「未確認情報だと言ったぞ。そこまでは分からんよ」


「ぬぅ、そっか。惚れた弱みに突け込む作戦は使えないか」

うむぅ、なかなか尻尾を出しませんねぇ……


「何を企んでいるだか知らんが、本当に正義の欠片も無いなぁ……洸一は」


「ふっ、勝つ為には、あらゆる手段を惜しまない男だからな、俺様は」


「その生き様を認めて良いのか悪いのか分からんけど……しかし二荒さんの惚れた男って、どんなヤツなんだろうな」

金ちゃんは端末の電源を切りながら、そんな事を尋ねてくる。


「さぁ?」

俺は軽く肩を竦めた。

「二荒が誰を好きになろうが、俺には関係無い事だ。けど、あーゆーヤツって、意外に面食いだったりするからなぁ………って、よもや俺なんて事はッ!?」


「……」


「悪かった。そんな呆れた顔で俺を見つめないでくれよ、金ちゃん。それよりも、この倶楽部が扱ってる個人情報なんじゃが……昔のって、あるか?」


「昔?どのぐらい前のだ?」


「この学校の創立以前にあった女学院の生徒のことなんじゃが…」


「…難しいなぁ」


「もしもヒマだったら、ちょっと調べておいてくれ」


「OK。で、名前は?」


「酒井魅沙希。奇天烈探求倶楽部の初代部長だ」



金ちゃんの部室を後にした俺は、昼休みで賑わう廊下をブラブラと歩きながら、軽くやるせない溜息を吐いた。

やれやれ…

結局、有用な情報はゲット出来なかったし…

やっぱ地道に、自分で調べるしかねぇーか。


「となると、取り敢えず連絡ぐらいは入れといた方が良いかにゃ」

俺は独りごち、踵を返す。

向かう先は再び3年の教室。

のどかさんの元だ。


「……って、既にいるし」

教室に行くまでもなく、のどかさんはすぐそこにいた。

何も無い壁に向かって、独りで何やらブツブツと喋っている。

相変わらず、とても不思議な人だ。

廊下を歩く生徒達が、目を合わせないように俯きながら避けているではないか。


「……のどか先輩?」

俺はそっと声を掛けると、彼女はスローモーな動きで此方を振り向き、そしていつものポォーッと……ぶっちゃけアカン子のような表情で、

「…洸一さん。こんにちは」


「はい、こんにちは先輩」

取り敢えず挨拶を返す俺。

「ところでのどか先輩。一体、何をしてるんですか?」


「……高橋さんとお話を…」


「なるほど」

高橋さんって誰?

・・・・

その壁に付いてるの染みの事かな?


「ところでのどか先輩。実はちとお願いの儀が……」


「受け賜ります」


「え~とですねぇ、ちょいとまどかに連絡を取って欲しくて……あ、いや、やっぱ自分で言いますから、携帯かスマホを貸して下ちぃ」

俺がそうお願いすると、のどかさんはコクンと頷き、トテトテと自分の教室へ戻って行った。

うぅ~む…

のどかさんが教室に入った瞬間、室内のざわめきがピタリと収まったんじゃが……さすがだ。

見事にクラスメイトを躾てあるぞよ。

俺は感嘆の面持ちで、暫しのどかさんを待つ。

やがて彼女は音も無く教室から出てきた。


「……お待たせしました」


「あ、こりゃどうも…」

俺は戻って来たのどかさんにペコリ頭を下げるが、その視線は、彼女の手元で固まっていた。

「え、えと……携帯ってソレですか?」


「……はい」


「………ぬぅ」

のどかさんが手にしていた携帯は、レトロでモダンでどこかヨーロッパ風な固定電話だった。

しかもダイヤル式。

実に彼女らしい、気品の溢れる逸品だが、既に携帯ではない。

どうやって持ち運びしているのだろうか。


「…どうぞ、洸一さん」


「は、はぁ…」

どうぞと言われてもなぁ…

これ、本当に普通の電話なのだろうか?

いきなり霊界に繋がるとか、そーゆーのは勘弁して欲しいんじゃが…

俺は彼女に渡された固定電話を胸に抱え、受話器を手に取った。


「洸一さん。その携帯は音声ダイヤル方式です。まどかちゃんの名前を呼ぶだけで繋がります」


「そ、そうなんですか?へぇ~…そりゃ楽だ」

な、なるほど。

見た目はアレだが、色々とハイテークな技術が使われていますなぁ。

気軽に持ち運びは出来んが。


俺は言われた通り、受話器に向かって「まどかの馬鹿」と呟くと

――…プ、プルルルルル……

あっと言う間に繋がった。

うむ、実に優れものですなッ。

―プルルルル…プルルルル…――ガチャッ。

『なに、姉さん?』


ムッ、馬鹿の声が聞こえますぞ。

折角だから、ちょいとからかってやろう。

「……こんにちは、まどかちゃん」

俺は新たに会得したスキル、≪のどかさんの真似≫、を発動してみた。


『ど、どうしたのいきなり?声がちょっと変だけど…』


「…エヘン虫が」


『はぁ?』

まどかの戸惑った声が聞こえる。

実に面白いぞよ。


「まどかちゃん。今、お昼ですか?」

俺は笑いを堪えながら、尚ものどかさんの真似をしてみる。

ポイントは、音量を抑えることだ。


『そ、そうだけど……なに?姉さんから電話って、凄く珍しいじゃない』


「……実はまどかちゃんに相談が…」


『は、はい?相談って、姉さんが私に?』


「…です」


『ど、どうしたのよ姉さん。今までそんなこと、一度も無かったのに…』


「……まどかちゃん。洸一さんはステキな殿方です」


『は、はいぃぃ???な、何をいきなり…』


「洸一さんはナイスガイ。地球最後のダンディです」


『ね…姉さん?また何か変なモノに取り憑かれたの?』


またって…前にもあったのか?

「まどかちゃん。私はもう、洸一さんにメロメロです。洸一さんの為なら火の中、水の中…霊界だって行けちゃいます」


『――ね、姉さんッ!?』

まどかの悲鳴にも似た叫び声が、鼓膜を震わせた。

『あ、あのねぇ。こんなこと言うのはアレだけど……姉さんは、免疫が無いだけなのよ。分かる?』


「……分かりません」


『姉さんは、男慣れしてないのよ。だからあんなボヤッキーみたいな男でも、良く見えるわけ』


ボ、ボヤッキー???


『だいたい、あの男は……ダメよ。危険だわ』


き、危険??


『姉さんには知らないと思うけど、アイツは結構スケベな男なのよ。私と練習している時だって、イヤらしい目で胸とかお尻とか見てくるし……その上、馬鹿と来たもんだから、何を仕出かすか分からないわよ』


こ、このアマァ…

黙って聞いていれば言いたい放題、有りもしないこと言いやがってぇ…


『ね?分かるでしょ姉さん?悪いことは言わないから、もう少しマシな男にしなさいよ』


……俺は肺活量の限界に挑戦するかの如く、大きく息を吸い込んだ。

そして、

「貴様と話す事は何も無いなッ!!」

ガチャンッ!!と思いっきり受話器を叩き付けてやったのだった。



「全く、まどかのウンコ垂れが…」

俺は荒く鼻息を吐いた。

誰がボヤッキーじゃ、ボケぇ…

むしろ、ボヤッキーの何が悪い。全国女子高生のアイドルだぞ。


「…洸一さん。お電話は終りましたか?」

と、のどかさん。

相変わらず、彼女はポヤヤーンとしている。

とてもまどかの姉君とは思えないほど、優雅だ。

・・・・

何も考えてない、と見えなくもないが…


「ところで、まどかちゃんとは何のお話を?」


「何のって…」

・・・・・・・・・・・・

忘れてた。

用件を言うのを、思いっきり失念していたわい。

「ぬ、ぬぅ。もう一度、お電話お借りしますデス」

俺は再び受話器を取り、「野蛮人へ」と言うや、プルルルルル…と、速攻で繋がった。

うむぅ、あとはどんなワードで接続できるのか…


――ガチャ

『…もしもし?姉さん?』

少し警戒警戒した声。


「…フッ、俺様だ」


『…馬鹿洸一ーーーーーーーーーーッ!!』


「――ハゥァッ!?」

キーンと耳鳴りがした。

眩暈までする。

まるで音波兵器のような声だ。


『さっきの電話は、一体なんの真似よッ!!』


「や、やかましいッ!!俺様の名誉を貶めるが如く、有りもしない事を捏造しやがって…」


『ふん、本当のことじゃない。アンタは馬鹿で助平な男なの。自分の事ぐらい、ちゃんと自分で把握しときなさいッ!!』


「ぐ、ぐぬぅぅ…」


『で?一体なんの用事よ?姉さんの携帯まで使って……言っとくけどね、梅女ウチの学校は厳しいのよ。校内で携帯なんか使ってるのがバレたら……洸一、その時はちゃんと責任取ってよね』


「……わ、分かったよぅ」

ちくしょぅぅ、何だか知らんが悔しいぞ。


『それで、用件はなに?早く言いなさいよ』


「…まどか。俺……俺、お前が好きだッ!!つつつつつ付き合ってくれぃ」


『………馬鹿?』


「チッ、ノリが悪いなぁ。カミングアウトしてやったのに、少しは甘い声でも出して動揺しろ」


『あのねぇ、私はアンタと違って、ヒマじゃないの』


「ンだよぅ、もしかして便所でも我慢してるのか?それとも既に大方面の最中とか…」


『………今日と言う今日は、アンタを粉砕するわ』


粉々になっちまうのか、俺は…

「残念ながら、そうはイカの金玉タコが引っ張るだ。何故なら、本日のお前との練習はお休みだからでス」


『はぁ?何そソレ?逃げるの?根性無し…』


「誰が逃げるかボケッ!!……サボるんだったら、電話なんかせずにフケるわい」


『……ま、それもそうね。で、練習を休む理由は何よ?下らない理由だったら、引き裂くわよ』


千切れ千切れになっちまうのか、俺は…

「じ、実はよぅ、今は優ちゃんがあの調子じゃねぇーか。だからよ、今日は俺……空手部の方を見学してこようかと思ってるんだ」


『空手部?真咲のいる?』


「そうだ。昔から、敵を知れば百戦危うしからずとか何とか言うじゃねぇーか。実際、俺は二荒の空手を見た事が無ぇーし……もしかしたら弱点の一つでも掴めるかもかもッ!!と思ったんだよ。どうだ?ナイス、アイディーアだろ?」


『ふ~ん……確かに、洸一にしては悪くない考えね。真咲の練習を見るのも、勉強になるかもね』


「だろ?もっと褒め称えろ」


『……馬鹿はすぐ調子に乗るんだから』


「なにぉうッ!!」


『うるさいわねぇ。大きい声出さないでよ』


「く、くぬぅ…」


『それで?話しはそれだけなの?だったら切るわよ?』


「……いや、もう一つ大事な話しがあるんだ」


『なによ……早く言いなさいよ。もうすぐお昼が終っちゃうじゃないの』


「………俺、お前が好きだ」


『………はぁ?』


「今度はマジだ。マジノラインよりもマジな感じだ。俺と付き合ってくれぃ」


『あ、あのねぇ。そーゆー冗談は、本気でムカつくんだけど…』


「マジだと言ったぞ。俺と、つつつつつつ付き合ってくれぃ」


『……』


「付き合ってくれ付き合ってくれ付き合ってくれ付き合ってくれ付き合ってくれ…」


『ちょ、ちょっと。そそ、そーゆー事はさぁ、電話じゃなくて……その…直接会って言った方が…』


「嘘だバーカ」

俺は速攻で電話を切ってやった。

うむ、復讐は終了した…

電話の向うで猛り狂っている馬鹿まどかの姿が目に浮かぶようじゃわい。

わははははは、良い気味じゃッ!!



あっと言う間に放課後。

正確には、あっと言う間ではなくて、寝て起きたら放課後だったワケなんじゃが…


「ここか…」

俺は武練場と呼ばれる第2体育館にやって来ていた。

この中規模の建物の中では、空手部を始め、剣道部に柔道部等の武道系のクラブが、それぞれに練習を行っている。


さて、いっちょ気を引き締めて行くとしますかねぇ…

俺は大きく深呼吸をし、そして空手部が使ってる道場の扉を開けた。

「たの、もぅーーーーーーーーーーッ!!」


『………』

準備運動を始めていた真っ白な胴着に身を包んだ生徒達が、一斉に俺に視線を向けた。


おおぅ、板張りの床に汗の匂い…

如何にも武道場って感じですねぇ…


「え、え~と……君は確か、神代君?」

トコトコっと白帯を着けたモヤシっ子が、オドオドしながら俺に近付いてきた。

男子空手部だ。

我が校で、鉄道研究会より人数が少なく手芸クラブより弱いとされる最弱のクラブだ。


「……ほぁぁぁぁぁ~~」

俺は無警戒に近付いてきたそいつに向かってゆっくりと大きく足を掲げ、

「チャギッ!!」

思いっきり脳天に、踵落しを極めてやった。

「ふん、白帯しかいない男子空手部に用などないわッ!!」

言って俺は、何やらヒソヒソと囁き合ってる女子空手部に目を向けた。

その中で、キラークイーン二荒だけは俺を睨んでいるが…

「……部長はいるか?」


「…何か用か?」

近付いてきたのは、見目麗しい戦乙女だった。

確か……3年の御子柴さんだ。

名のある格闘一家の長女らしい。

以前、吉沢に教えてもらった事がある。


「見学させてくれ」

俺は単刀直入に切り出した。


「見学?」

御子柴部長の目が、僅かに細まる。

「男のお前が、女子空手部を見学するのか?」


「ワケあってな」


「………断わる」


「ありゃま」


「どんな理由があるか知らんが、問題児のお前を道場に入れるワケにはいかん。即刻、立ち去れぃッ!!」


「……」

うぅ~む、いきなり断わられるとは。

と、その時、俺にチャギを極められた男子空手部の部長がムクリと起き上がり、

「だ、男子空手部は……見学OKだよ?」


「…チャギッ!!」

俺はもう一度、脳天に踵を落としてやった。

やれやれ…

「なぁ、女子空手部の部長さんよぅ。俺は真面目に、見学がしたいだけなんだんよぅ。もちろん、視姦もしないし盗撮もしないよぅ」


「……断わる、と言った筈だぞ。さっさと帰れ」


ぬぅ、取り付く島も無しか…

「でも、先輩は俺の頼みを断れ無いッスよ?だって道場が火事になったら大変じゃないっスかぁ」


「……なに?」


「何しろ俺は問題児の少年Aと言う話ですからねぇ。付け加えて、俺はオカルト研究会の会員で恐怖ファミリーの一員でス。貴方の知らない世界を見せる事も出来るし……その気になれば、喜連川経由で理事方面に圧力を掛けて、女子空手部は速攻で廃部なんて事も……ふっふっふ」


「……噂とは違い、随分と卑怯な男だな」


「そりゃどうも」

ふん、優ちゃんの為だ……卑怯で結構。

「で、返答は如何に?」


「……良いだろう。ただし、静かに見学してろ」

部長は俺を一睨みし、ドスドスと床を踏み鳴らして女子達の輪の中へ戻って行った。


「では、お邪魔しますよぅ」

靴を脱ぎ、道場に上がる。

二荒と一瞬目が合ったが……何故か彼女は慌てて視線を逸らした。

さてさて、まどかの馬鹿よりも強いと言われる二荒の実力、果してどのぐらいのモノか…

俺は道場の片隅に腰を下ろす。

優ちゃんの為に、じっくりと偵察させてもらおうかのぅ。



練習が始まった。

念入りな準備運動の後、基本的な型の演舞。

それが終ると、次は自由組み手。

さすが大会で、いつも上位に食い込む女子空手部である。

内容は濃く、かなりキッツイ練習だ。

大会に参加すら出来ない男子空手部とは、レベルそのものが違う。


し、しかし……なんちゅうか……強ぇぇ…

俺は食い入るように、二荒の練習を見つめていた。

気付かない内に、握り締めた自分の手は汗でベトベトだ。

うぅ~む……ダメだこりゃ。

そうとしか表現出来ない。

今までは、頑張れば優ちゃんだって勝つことが出来る、とか思っていたけど……浅はかだった。

二荒真咲の洗練されたしなやか動き……

まさに闘姫と言った彼女の空手に比べれば、優ちゃんの格闘技は、悲しいけれどお遊戯みたいなものだ。

しかも恐ろしいことに、二荒は全然本気を出していない様に見える。


う、うぬぅ…

優ちゃんが無理をしちゃう理由が、ようやくに分かったぜ…

俺は重い溜息を吐いた。

何か弱点はなかろうかと思って見ているけど……二荒の動きを目で追うのがやっとだ。

もはや弱点を探すとかどうとか言ってる次元の話ではない。

まさに洸一、本日も役立たずの巻きである。

TEP同好会における己の存在意義すら、疑問に感じてしまう今日この頃だ。


うぅ~む、しかし、なんちゅうか、なんと言うか……

俺は二荒の動きを、一挙手一投足見逃さないように、見つめていた。

熱い眼差しで、彼女の動きを黙って見つめている。

ぬ、ぬぅぅぅぅ……び、美人だ……

金ちゃんも言ってたが、男子の中にも隠れファンがいるっていう事が、良~く分かった。

二荒真咲は、良い女だ。

凄く美人だ。

凛々しく鋭い目つきに飛び散る汗…

スポーツ系少女に萌えを感じる男ならば、間違い無く、二荒真咲さんに投票するだろう。

…投票って何の事だかサッパリだが。

ともかく、二荒は美少女のカテゴリーに分類される女の子だ。

今までは廊下で会っても、因縁を付けられるのが嫌だから目を合わせないようにしていたけど…

こうして改めてジッと見ていると…

その…

なんだ…

正直に言って…

好みだ。

凄く好みだ。

のどかさんやまどかの馬鹿も美人で可愛いけど、二荒とはタイプが違う。

彼女達は如何にも『お嬢様』と言う感じで、どこか紅茶とケーキな西洋の香りがするが、二荒の顔立ちは純和風、『米と味噌で育ちました』と言う感じで、実に着物とかが似合いそうな、大和撫子だ。

それもまた、俺様のストライクゾーンど真ん中である。

・・・・・

ちなみに穂波は、頭部へのビーンボールと言った所だ。


うぅ~む、硬派な俺様ともあろうガイが、一瞬でも心を奪われてしまうとは……修行が足りませんなッ!!

俺は頭をフルフルと横に振った。

とにかく今は、TEP同好会の一員として、二荒の動きを細かくインプットしておかないと…

イザと言う時、優ちゃんの御役に立たないとイカンからねッ。



空手部の練習が終り、道場を後にした俺は校門に佇み、群青色に染まり始めた空を見上げ、やるせない溜息を吐いた。

「……強過ぎだぜ」

二荒の練習を見て、そして優ちゃんの練習を思い起こし、俺の脳内コンピュータ『ぴゅう太mkⅢ』が弾き出した答えは、

『無理じゃけん、許してつかぁさい』

何故か広島弁だ。

「ダメだ。今の優ちゃんでは、逆立ちしたって勝てねぇ」

そもそも、逆立ちしながら勝ったヤツを見た事はないが……

ともかく、実力が違い過ぎる。

優ちゃんを零式艦上戦闘機52型に例えるなら、二荒はF22だ。

更に言うなら、優ちゃんがつぶらな瞳が可愛いトムソンガゼルなら、二荒は大怪獣バランと言った感じ。

もう、根底から違い過ぎる。


「まどかの馬鹿は6:4とか言いやがったが……俺の見た所、9:1かそれ以上だぜ」

何しろ俺の心のスカウターは二荒の戦闘数値を50万以上と弾き出したのだ。

人類では勝てないのだ。

「参ったね、どうも…」

俺は溜息混じりに、校庭を眺める。

そろそろ出て来ると思うんじゃが……

とその時、第2体育館から出て来る一団があった。

何やらワイワイと喋りながら歩いて来る、女子の一団だ。


……来たか…

お目当ては、もちろん二荒だ。

傍目からでも、彼女の存在は認識できる。

お、落ち付け俺…

同じ日本語を操る者同士、語り合えば何とかなるかもしれん。

俺は丹田に気合いを込め、彼女達の群れに近付いて行った。



普通の女子よりやや背が高い二荒は、着痩せするのか……意外に細身な感じがした。

「よぅ…」

俺は軽く手を挙げながら、彼女達の一団に近付いて行く。


『……』

女の子達の足が止まる。

しかもあからさまな警戒の目つき。

中には一年生だろうか、怯えた顔をしている者もいた。

洸一、悲しいけれどお尋ね者扱いな感じだ。


「……神代洸一」

二荒が一歩前へ出る。

「こんな所で何をしている?」


俺は軽く肩を竦めた。

「御覧の通り、二荒を待っていた。ちょいと話しがあるんだが……良いか?」


「……良かろう」

二荒は軽く頷くと、控えている女子の群れに向かって、

「悪いが、私は神代と話しがある。皆は先に帰っていてくれ」

女の子達は口々に何か言いながら、二荒に別れを告げて校門から出て行った。

中には、去り際に俺を睨んでくる女の子もいたが…

なるほど、二荒はやはり人気者のようだ。


「……それで?話と言うのはなんだ、神代洸一」

皆を見送ったあと、二荒はいきなり問い質してきた。

吊り目がちな目を細め、俺を睨んでいる。


「ま、まぁ…そう急かすな。どうだ?どこかでお茶でも飲みながら話さないか?」


「……用がある。歩きながらで構わないか?」


「OK、それじゃあ行こう…」



まさか二荒と二人、連れ立って歩く日が来るとは夢にも思わなかった。

ドキドキすると同時に、やはりビクビクとしてしまう。

うぅ~む、どうしよう?

二荒を待っていたものの……何を話したら良いのか、よく分からない。

いや、言いたい事は分かってるんだ。

ただ、何と言ったらいいのか……その考えが纏まらないのだ。


うむぅ……まさかいきなり、『優ちゃんに負けてくれぃ』とかお願いは出来ないだろうなぁ。

そんな事言った瞬間、思いッきりぶん殴られそうだ。

かと言って、このまま黙っていてもしょーがねぇーし…

俺はポツポツと明りが灯り出した街路灯を見上げるように歩きながら思案する。

すると、先に話しを切り出してきたのは意外な事に二荒の方だった。


「……神代洸一」


「ん?な、なにかな?」


「今日はどうして、空手部を見学しに来たのだ?」

氷のような眼差しにクールな物言い。

さすがの俺様も、少しだけたじろいてしまう。

なんちゅうか、まどかとは違い、軽口を叩ける雰囲気ではない。

「どうしてと言われても……ただ単に、偵察しに行っただけだ」


「偵察?私のか?」


「そ、そうだぜ、ベイベェ…」


「ふむ…」

二荒は軽く上を見上げ、何やら考え込む。

「それで……どう思った?」


「え?いや…その…ねぇ?」

何て答えたら良いんだろう?

まさか、思っていたよりも美人だった、とは言えねぇーし…

かと言って、降参しますですぅ、とも言えない。


「…どうした、神代洸一?」


「い、いやぁ~…テヘヘヘヘへ」


「……おかしなヤツだな」

二荒は僅かに微笑んだ。


あ、こんな表情も出来るんだ…

ちょっとだけ、緊張が和らぐ。


「そう言えば、優貴の具合はどうだ?」


「へ?優ちゃんが怪我したこと、知ってるのか?」


「当たり前だ」

二荒は真面目な顔で俺を見つめる。

「私は別に、優貴を憎んでいるワケではない。それに前にも言ったが、TEPの新格闘技とやらを嫌っているワケでもない」


「う、うむ…」


「神代はどうして、優貴が空手部に入る事に対し、反対するんだ?」


「お、俺?」


「……」


「そ、それは…」

……はて?なんでだろう?

「その…なんだ、俺には選択肢が無いからだ」


「選択肢?」


「そうだ。俺は格闘技に関しては新参者だし……何より、TEP同好会は優ちゃんが創ったクラブだ。部の進退は部長である優ちゃんが決めるべきこと……例え年齢的には先輩とは言え、俺が積極的に口を出して良いものではないだろう」


「……なるほど。筋は通っているな」

二荒は頷く。


「逆に尋ねるが二荒。どうしてお前は、そんなに優ちゃんを空手部に入れたがるんだ?推薦がどうとか言ってたけど……本当の所は違うんだろ?」


「ん?決ってるだろ?私は優貴強くなって欲しいからだ」



「私は、優貴に強くなって欲しいんだ」

二荒はハッキリとそう言った。


「強くなって欲しいって……逆に言えば、それは同好会では優ちゃんが強くなれない、と言う事か?」


「そうだ」

二荒の真咲さんは、アッサリと肯定した。


むぅ…

「そ、それって……やっぱTEPの格闘技が空手に劣っているとか……そーゆーこと?」


「それは違う」

今度は否定した。

僕にはもう、チンプンカンプンだ。


「私が言ってるのは、身の置き所の事だ」


「身の置き所?」


「……一人で練習して得るものなど、たかが知れている。如何なる格闘技も、一人で練習して強くなるものではない。こんな事言ってはなんだが……神代洸一、お前は素人だ」


「う、うん…」


「そのお前と二人、サンドバッグを叩いたり組手をしたり……そんな事の繰り返しで、本当に強くなれると思うのか?」


「……」


「それよりも空手部に身を置き、自分より上の者達と切磋琢磨した方が、強くなるのではないか?」


「……」


「優貴は、私の可愛い後輩だ。強くなって欲しいと願ってる。だからこそ、私は空手部と言う強くなる為の環境を、あの子に提供したいんだ」


「……ぬぅ」

二荒の言うことは完璧。

まさに正論だ。

ぶっちゃけ、俺もそう思う。

こんな何処に出しても恥ずかしい素人な俺なんかと練習するより、二荒や格上の相手と毎日練習していた方が、ずっと強くなるって言うモンだ。

何より……

二荒は俺なんかより、ずっと優ちゃんの事を気に掛けている、と言うことが良く分かった。

今回の優ちゃんの怪我だって、もう少し俺が注意して見ておけば……

いや、それよりも、あんな裏山で二人っきりと言う事なく、もっと練習に最適な環境であったならば……あんな怪我なんかしなくて済んだであろう。

身の置き所…

確かに、優ちゃんの実力から見ても、あそこが相応しい場所とは思えない。

しかし………


「…でも、決めるのは優ちゃんだ」

俺は搾り出すように言った。

「どっちが正しいとかじゃなく、あくまでも優ちゃんの気持の問題だと、俺は思う」


「ふむ…」

二荒は小さく頷いた。

「でも、孤独の中にいても決して強くなれない。……私も、そうだった」


「へ?」


「なんだ、憶えてないのか?」

二荒が不満そうな顔を向けてきた。

「私も1年の頃は、ずっと独りっきりで練習していたんだぞ。そして怪我をして…」


「も、もちろん憶えておるぞよ。あの裏山で、怪我をしたんだよな。そして偶々通り掛った俺が助けたと……」

記憶が正しければ、確かそんなイベントがあった筈だ。

……殆どうろ憶えだけどな。


「そうだ。あれから私は、皆と打ち解けたんだ…」

そう言った二荒の顔は、とても晴れ晴れしかった。


う、うぅ~む……

TEP同好会の一員として、そして己の命の為には、何とかして優ちゃんに勝って欲しいんだけど…

心情的には、少し二荒に傾きつつあるような気が…


「ところで神代洸一。私に何か、話しがあるんじゃなかったのか?」


「え?あ、あぁ……あったけど、もう良いや」


「ん?そうなのか?」


「う、うむ。それよりも二荒は、まどかの馬鹿と付き合いは古いのか?」

俺は強引に話題を変えた。


「まどか?そうだなぁ……古いと言えば、古いな。ただ、アイツは中学の頃はずっと留学してたから……」


「なるほど」

そう言えば、帰国子女とか何とか言ってたな。


「神代は、まどかに練習を付けてもらっているんだろ?どうだ?少しは上達したのか?」


「練習……と言うよりは、なんかストレス解消の道具にされているような気がするんじゃが…」

何せ素人の俺に、いきなり実戦だからなぁ…


「ふっ、アイツは少しばかり、感情的になりやすい所があるからな」


「少しじゃないような気が……」


「そうなのか?しかしアイツは……」

と、二荒が笑いながら何か言い掛けた時だった。

彼女の足がピタリと止まり、そして、

「……まどか?」


「へ?」

慌てて視線を向けると、ネオンの瞬く商店街の入り口に、もう一人の闘姫が、ニヤァ~と嫌な笑みを浮べて立っていたのだった。










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