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俺様日記  作者: 清野詠一
13/39

洸一、走る




★4月15日(金)



朝、起きた時から体中が痛かった。

筋は強張り、骨が軋む。

ま、世間一般で言う所の筋肉痛と言うヤツだ。

昨日、普段全く使っていない筋肉を酷使したのが祟ったのだろう。

…我ながら、かなり情け無い。



さて、そんなこんなでヒィヒィ言いながら痛む体で学校に何とか到着し、殆ど日課と化した、朝の軽やかな挨拶→委員長に無視される、と言う悲しいイベントをこなした次の休み時間、俺は喉が乾いたので、食堂に続くスロープ脇にある自販機でジュースを買っていると…

「…何してるんだろう?」

不思議な光景を目の当りにしてしまった。


躑躅やら紫陽花やらその他の名も知れぬ草花や木々が生い茂る植え込みの中、世界的大財閥の御令嬢であり、また現代に甦った魔女でもあるのどかさんが、制服が汚れるのも厭わずに四ツん這いになりながら、何やらモゾモゾと動き回っているではないか。


……新しい儀式か何かか?それとも狐にでも憑かれた?

ちょいと、と言うか、かなり気になった俺は、パックジュース片手に彼女に近付いた。

「のどか先輩?そんな所で…何をやってるんスか?」


彼女はゆっくりと立ち上がった。

そしていつものどこか魂ここに在らず的なヌボォーっとした不思議な表情で、

「洸一さん。おはようございます」


「はい、おはようです。って、挨拶はどーでも良くて…何をしてるんです?」


「猫…」


「は?」

相変わらず、のどかさんのお言葉は謎に満ちている。

「あのぅ、猫がどうかしましたか?」


「ここに居ました。…探してます」


「あ、そうなんですか。って、その猫は……のどかさんの猫ですか?」


「…」(フルフル)


「…野良猫?」


「…」(コクン)


「なるほど…」

天下の大財閥の御令嬢が、制服を汚しながら迷い猫を探しているなんて…

何だか微笑ましいのぅ。

「あ、だったら俺も探すのを手伝いますよ。良いですか?」


「…」(コクン)


「で、どーゆー猫なんです、そいつ」


「黒猫…」


「ほぅ、黒猫ねぇ…」


「…贄に最適」


「……は?今何て仰いました?」


「…贄」


「にえ?贄ってなんです?」


「…生贄。供物です」


「――ブッ!!!?」

鼻水が零れた。

「の、のどか先輩。何て事を言うんですかッ」


「??」


「いや、そんな首を傾げられても……」

やっぱちっとも微笑ましくねぇーなぁ、このお嬢様は。

「だいたい、生贄って事は……その猫、殺しちゃうんでしょ?」


「…」(コクン)


「だーかーらぁ、そーゆーのを動物虐待って言うんですよ。今の御時世、そーゆーのはヤバいですよ。せいぜい、団子虫に接着剤を垂らすだけにしておきなさい」


「……でも」

と、のどかさんが困った顔をした時だった。

彼女の足元の草むらから、自ら犠牲になりに来たのか、黒猫がひょいと顔を出し、

「ナァブゥゥゥゥ」

と演歌歌手ばりの、やたらこぶしの利いた鳴声を発した。


「発見…」

のどかさんは黒猫をそっと抱き上げる。

その猫は……かなりみすぼらしかった。

垢に塗れた体毛に痩せこけた体。

まさに生まれも育ちも先祖代々野良以外の何者でもない、全国野良猫品評会なら間違いなく上位入賞が出来るであろう程の、何処に出しても恥ずかしいレゲェ風味満点のアウトローな猫だった。


うぅ~む、見ているだけで臭ってきそうな猫じゃのぅ…


「…可愛い」


「――はぁ?か、可愛いッ!?この猫と言うよりは妖怪の類いに分類されるじゃなかろうかと思うこの猫が、可愛い?」


「…です」


「ぬぅ…」

のどかさんの美的感覚は、どうやらその趣味と相俟って、常人とは少し違うようだ。

「か、可愛いねぇ。可愛さとは対極にある存在だと思うんですが…」

と、俺が彼女の胸に抱かれているその黒猫の頭を撫でようとしたその瞬間、

「ナブゥッ!!」

前足が一閃、ザクッとその爪が俺の手の甲を切り裂いた。


「――痛ぇッ!?こここ、この馬鹿猫……破傷風になったらどーすんだッ!!」


「フゥゥゥゥッ!!」

黒猫は牙を剥き出し、やる気マンマンだ。


「こ、この野郎……慈悲深い俺様が助けてやろうとしたのに……のどか先輩ッ」


「…はい?」


「即刻、この野郎を生贄として捧げましょうッ!!」

くそぅ、どのようにしてやろうか…

背中にジッポのオイルつけて火でも点けてやろうかのぅッ!!


「洸一さん……酷いです」


「…は?何を言うてるんですか?」


「…可哀相です」


「か、可哀相って……のどか先輩が生贄にするって言い出したような…」

むしろ引っ掻かれた俺の方が可哀相だぞ。


「…飼います」


「か、飼います?って、そのスープの出汁にもならねぇ保健所だって引き取らないような猫を……飼うんですか?」


「…です」


「ぬぅ…」


「名前は……アレクサンドル」


「―ブッ!?ア、アレクサンドル?なんて位負けしそうな名前を……こんなミイラのような馬鹿猫は、黒兵衛で充分ですよ。又の名をジャングル」


「フゥゥゥゥゥッ!!」


「な、なんだよ黒兵衛。その不満タラタラな表情はッ!!」


「ナブゥッ!!」


「じょ、上等だ。尻の穴に唐辛子突っ込んで真っ直ぐ走らせるぞコルラァッ!!」


「洸一さん、酷いです」

のどかさんキュッと、そのクソ猫を抱き締める。

「苛めては、ダメです」


「ぐ、ぐぬぅ」


「ナブゥゥゥゥ」

彼女の胸に抱かれた馬鹿猫は、ニヤリと笑った……ような気がした。





昨日の晩飯の残りを詰めただけの悲しい弁当を速攻で食い終わり、俺は教室を飛び出した。

向かう先は生徒会室。

この洸一チン、ちょいと直談判しに行くのだ。


「……っと」

ふと窓の外に目をやると、中庭のいつものベンチで、昼食を摂っているのどかさんの姿を発見した。

膝の上には、先ほど拾い上げたあの汚ぇ猫が丸くなっており、彼女の隣りには優ちゃんが腰掛けていた。


「………良し」

暫らく彼女達の様子を眺めた後、俺は決意も新たに廊下を駆ける。

と、その途中、不意に横合いから『よ、洸一』と声を掛けられた。

「あん?」

立ち止まり、振り返ると、

「なんだ、金チャンか」


「なんだは酷いなぁ」

クセのある長髪を掻き上げ、金ちゃんこと金田一かねだはじめは苦笑を零した。

彼は推理小説愛好会と言う倶楽部の主宰者で、学校で殺人事件でも起きねぇかなぁ、と言うのが口癖の、ちょっぴりアナーキー且つパープリンな男であり、俺の数少ない、心から友と呼べる漢の一人だ。


「で、どうしたんだ金チャン?いきなり呼び止めて…俺様はちと野暮用があるんじゃが」


「ん?あぁ…ほら、この間洸一が言っていた、伏原さんに関する資料をまとめたんだが…」

と、金ちゃんは制服のポケットから、数枚のレポート用紙を取り出し、俺に手渡した。

彼の調査報告書は、俺様情報部である智香の100倍は信頼がおけるのだ。


「お、悪ぃなわざわざ…」

俺はレポート用紙をパラパラと捲る。

「…なんか…ヤケにあっさりなんじゃが……これ、最深度調査か?」


「いや、時間がなくてな。取り敢えず信憑性がありそうな噂話しだけをピックアップしてみた。何せ彼女は、放課後から夜遅くまで行動しているからなぁ……ちょうどその時間に、名探偵ホームズ(アニ版)が再放送しているから、俺としてはそっちを優先したい」


「ぬぅ…」


「それにしても、珍しいじゃないか」


「何がだ?」

俺はレポート用紙をポケットに仕舞い込みながら、金ちゃんに尋ね返す。


「何がって…硬派を気取ってる洸一が、その伏原さんって女の子の事を知りたがるなんて……でも、少し不思議な感性だと思うぞ。遠目から彼女を観察したけど……中々に地味な子って言うか……洸一は、あーゆーヲタ系眼鏡ッ娘が好みなのか?」


「そーゆーのじゃねぇーよ…」

俺はぶっきらぼうに言った。

「ただ…ちょっとな、色々と気になるって言うか……本当に色々とあるんだよ」

特に苛め問題とかね。


「……ま、あまり詮索はしないけど……深みには嵌るなよ」

金ちゃんは頭を掻きながら、俺の肩を軽く小突く。

「彼女は地味な感じだけど、学園始まって以来の才女だって、先生達も言っている。正直、お前の手に負える女の子じゃないと思うぞ」


「だから、そーゆーのじゃねぇーんだけど…」


「…やれやれ。洸一はぶっきら棒な割には、意外にお節介な所があるからなぁ。でもな好意の押し付けは、人によっては逆にマイナスになることもあるぞ」


「……分かってるよ。でもしょーがねぇーだろ。何しろ伏原の美佳チンは隣りの席なんだからな。少しでも打ち解けないと……息が詰まるんだよ」

毎日無言のプレッシャーとか冷やかな視線とかに晒されてみろ…

少しは仲良くなっておかないと、さすがの俺も精神的に参ってしまうぜ。


「ま、何はともあれ、ありがとうな金ちゃん」


「なに、また何か調べものがあったら、遠慮なく言ってくれ」


「おう、だったらよぅ…」


「って、まだあるのかよ?」





「……ここか」

金ちゃんと一頻り喋った後、俺は学園の表側を支配している生徒会長とその手下どもがいる、生徒会室の前へ来ていた。

この時間、彼奴らはここで飯を食いながら何やら会議などをしている筈だ。


さて…

俺は大きく息を吸い込み、軽く扉をノック。

そして返事を待たずに足で強引に扉を蹴破りながら室内へと突入した。

「オルラァッ!!俺様参上じゃーーーーいッ!!」


生徒会室には、男女合わせて4名がいた。

どいつもこいつも、勉強は出来るけど社会生活は営めません、と言う様な、うらなりびょうたんばかりであった。

弁当箱を片手に、突如闖入してきた俺を、怯えた顔で見つめている。


「…ふんっ」

俺は椅子を引き出し、ズカズカと生徒会長らしきヤツの前にドカッと腰を下ろした。

「よぅ、お初にお目に掛かるぜ、先輩」


「き、君は確……2年の神代クン」

いかにも生徒会長と言うべき、キッチリ分けた七三の髪がどこか神々しくもあるその先輩は、銀縁メガネのフレームを神経質そうにクイッと指で持ち上げながら

「なにか生徒会に用かね?」


「当たり前だ。用がなけりゃこんな辛気臭い場所に来るかってんだ」


「ぐっ……それで?用と言うのは…」


「……余分な前置きは無しに、単刀直入に言うが……TEP同好会に、部室と練習スペースをくれ。と言うか、寄越せ」


「TEP同好会…」

生徒会長は微かに眉根を寄せると

「……あ、あぁ。確か今年の新入生が立ち上げた同好会の…」


「それだ。なぁ会長さんよぅ…別に俺は、野球やサッカーのように、大きなグラウンドを寄越せと言ってるワケじゃないんだ。ほんの少し、畳6畳分ぐらいのスペースと、更衣室を使わせてくれと頼んでるんだ。……それぐらい出来るだろ?」

そうなのだ…

昨日、初めてTEP同好会の練習に参加した俺様なんだが…

あまりの不憫さに、思わず涙が零れてしまった。

人気ひとけの全く無い、限り無く寂しい裏山(通称:オサビシ山)での練習。

あまつさえ、年頃少女の優ちゃんは、林の中で着替えているのだ。

彼女は、部室が無いから仕方ないですよ、とあっけらかんとしていたが…

俺には我慢出来ない。

同じ学園生なのに、あまりに酷い差別だ。

今はまだ良いが、寒い季節になったら……

あの裏山は、何故か局地的に背丈ほども雪が積もるんだぞ。


俺は口をへの字に曲げ、生徒会長に目で訴えるが……彼奴は溜息を吐きながら、

「わ、悪いが……それは出来ない」


「にゃにッ!?この俺様が頼んでいると言うのに……出来ないだとぅ?おぅおぅおぅ、エエ根性しとるやないけ、ワレ……」


「決りだ」

生徒会長はアイ・オブ・ザ・タイガーと呼ばれた俺の瞳を見つめ返し、キッパリと言い切った。

「部として正式に認められていない以上、学園の設備を使う事も敷地内での活動も、認められない。これは規則だ。一回でも規則を破れば、次に他の同好会も破るようになる。それがどう言う結果を招くか……聡明な君なら分かるだろ、神代クン?」


「ぐ、ぬぅ…」

理論武装されると、さすがの俺様とてそう無茶な事は言えない。

何より、こいつの言っていることは筋が通っている。

この学園には、TEP同好会以外にも、有象無象のワケの分からん同好会がひしめいておるのだ。

確かにTEP同好会だけ贔屓されるワケには、いかんだろう…


「だ、だったら……正式な部になれば、学園内で活動しても良いんだな?」


「それは…許可しよう」

生徒会長は頷いた。


「OK。ところで正式な部になるには、どうすりゃ良いんだ?」


「5名以上の部員を集め、顧問の先生を見つけることだ。ただし、先生に関しては他の部との掛け持ちでも良いが、部員はダメだ」


「ぬぅ…」

と言うことは、オカルト研究会所属の俺は、数には入れる事は出来んと言うことか…

「って、ちょいと待て。正式な部は5人以上とか言ったな?おかしいじゃねぇーか。だったらオカルト研究会は、どーなんだよぅ」


「オ、オカルト研究会か…」

生徒会長は目に見えて動揺した。

そしてすぐ後ろの棚から、何やら日に焼けて黄色くなった古い紙の束を引っ張り出すと、それをパラパラと捲りながら、

「オカルト研究会は……部員はちゃんと揃っている。現在の部長である喜連川さん以外にも………酒井さんにジュリエッタさん、伊ェ門君にミトラス君にバエル君にラ・リョローナさんに…」


「ま、待てーーーいッ!?どう考えても、ウチの学校の生徒じゃねぇーだろッ!!」

そもそも人間ではない。


「ま、まぁ……落ち付きたまえ神代君。その……オカルト研究会は、特別なんだ」


「何が特別なんだよッ」

理由は何となく分かるけど…


「先ず第一に、この学校の土地は喜連川さんの所から借りている借地であると言う事だ。知っていたかね?」


「…初耳だ」


「第二に、オカルト研究会はこの学校で一番古く、伝統あるクラブなんだ。創部は確か……大正十年頃だったかな?」


「――古ッ!?100年近くも前なのかよッ!?」

それも知らんかった…

そんなに伝統と格式のあるクラブだったとは…

「って、ちょいと待ていッ!?この学校……出来たのは昭和の中頃だったんじゃねぇーか?」


「その通りだ。この場所は、以前は喜連川の私有地で……その前が旧帝國女学院だ。その頃から、あの場所にオカルト研究会はある……と、この資料には記されている」

生徒会長はそう言って、手にした古めかしい紙の束を俺に見せつけた。

それにはモノクロの写真も貼られてある。


「……随分と古い写真だねぇ。何だこりゃ?」


「オカルト研究会……創部時は、奇天烈探求倶楽部、の設立した当時の写真だそうだ」


「ほぅ……」

俺は紙に貼られた骨董的写真を見つめた。

木造校舎をバックに、いかにも大正浪漫的、はいからさんが通るな女の子達が、どこか固い笑顔で写っている。

「う~む、あのオカルト研究会に、こんな歴史があったとはねぇ」

てっきり俺は、のどかさんが趣味で始めたと思っていたんじゃが…

「…うん?」


「…ど、どうしたんだね神代君?まだ何か文句……いや、疑問でも?」


「いや、なに……この写真の真ん中に写っている女の子……どこかで見たような……見た事がないような……」


「あ~…それはだ」

と、生徒会長は資料をペラペラと捲り、

「え~と……倶楽部の創部者で、初代部長さんだそうだ」


「初代?この女の子が初代の部長?」


「名前は確か……ほら、ここに書いてある。え~と……酒井魅沙希さんと言うそうだ」


「――さ、酒井ッ!?」

俺はもう一度、食い入る様に写真を見つめた。

「さ、酒井さん?いや、そんな馬鹿な……でも……何となく似ている気が……」


「どうかしたのかね?」


「……ちょっと眩暈が」

俺は資料を生徒会長に返した。

「と、ともかく…部を作るには5人集めれば良いんだな?」


「まぁ、そうだ」


「OK。だったらこの俺様が、何とかしてやろうじゃねぇーか。ハッハッハッ…」

しかし格闘技同好会より、今は酒井さんの事が少し気になるのぅ…





生徒会室を後にした俺は、ダッシュで教室へと戻る。

正式な倶楽部へ昇格する為には、5名以上の部員を集めなければならない。

つまり、掛け持ちしている俺を除外するとして…最低でもあと4名か。

ハッキリ言って、余裕だ。

憧れの君、と呼ばれたこのダンディ洸一が、一声掛ければあっという間に人は集まるだろう。

待ってろよ優ちゃん…

この俺が、部にとって最適な環境を構築してやるからな。


「…っと」

教室の前、屯って話している穂波と智香を発見した。

こやつ等に格闘技は務まりそうにない……と言うか、そんなモン習われたら俺の寿命が縮まってしまうが、取り敢えず、頭数を揃える上でも協力してもらわなくては。


「よぅ、こんな所でなに話し込んでるんだ?」

俺は気さくに声を掛けた。


「あ、コーイチ…」

「洸一っちゅわん♪」

智香と穂波が、ニコニコッと、普通の人には楽しげな笑顔、俺に取っては心を不安にさせる笑顔を向けて来た。


「な、なんだよ。何か面白い話しでもしてたのか?」


「面白いって言うか、今度のゴールデンウィークにさ、どこか遊びに行こうって話しをしてるのよ」

と智香。


「ゴールデンウィークねぇ…」

どこへ行っても人だらけでウンザリしちゃうと思うが…

「それよりも智香、アーンド穂波よ……一つ、俺の頼みを聞いちゃくれまいか?」


「なに?なになになに?」

穂波がググイッと顔を近づけてきた。

「もしかして光一っちゃん。私と二人っきりで、どこか遊びに行きたいの?」


「なんで俺がそんな無謀で恐ろしい事を頼む?俺がお前達に頼みたいのは、ズバリ言って、名前を貸せ」


「は?」

「名前って……何のこと、コーイチ?」


「まぁ、智香も穂波から話しを聞いて既に知っていると思うが……俺は昨日から、故あってTEP同好会に身を置く事となった」


「そうなんだよねぇ。私があれほど止めたのに、洸一っちゃんは可愛い子の頼みだと、頭よりも下半身で考えて行動しちゃうんだから……今度去勢してやろうかしらん」

「コーイチが格闘技ねぇ。ゴロ寝が趣味のアンタには、荷が重いと思うんだけど…」


「黙って聞けぃッ!!」

俺はピーチクパーチク囀る馬鹿どもを一喝した。

「でだ、そのTEP同好会だが……今はまだ、正式なクラブではない。何しろ部員が俺しかいないんだからな。そこでだ、俺は何としても同好会を正式なクラブに昇格させたいのだ。あわよくば、学校で一番大きなクラブにしたいのだ。……それが俺の野望だ」


「や、野望って言われても…」

「格闘技で強くなりたいって言うのが普通だと思うんだけど…」


「…ま、それは置いといてだ。ともかく、正式なクラブとして生徒会に認めさせるには、あと4名の協力が必要なのだ。そこで貴様らの出番です。ぐだぐだ言わず、名前を貸せぃ」


智香と穂波はお互いを見つめ、溜息を吐いた。

「コーイチ……それは無理ね」

と智香。


「……この王である俺が頭を下げて頼んでいると言うのにか?」


「いつ下げたのか分からないけど……私、もう名前を貸してるもん。新聞部に」


「……使えねぇ女だな、貴様はッ!!」

俺は吐き捨て、穂波に向き直った。

「お前は、フリーだよな?」


「うぅん」

穂波は笑顔で首を横に振った。

「私もクラブへ名前を貸してるし、掛け持ちで同好会にも入ってるもん」


「…初耳だぞ」


「本当だよぅ。活動してないけど『料理研究会』に入っているし、あと掛け持ちで『アトランティス友の会』に『チャクラを開く有志連合』に、それと『クマ部』に入ってるモン」


「……料理研究会以外、サッパリなんじゃが……」

特にクマ部ってなに?

「しかし、そっか……既に他クラブへ在籍しているのか…」


これは予想外だった。

でもまぁ、他の小さなクラブも、部員集めに必死になっていると聞くし…

この俺も1年の頃、色んなクラブから名前を貸せとお願いされてきたので、何となくだが分かる。


「う、うん。ゴメンね洸一っちゃん。名前だけなら貸しても良いけど……正式なクラブは、掛け持ちの人は数に入らないんだよね?」


「その通りだ」

俺はガックリな溜息を吐いた。

仕方ねぇ…

穂波と智香は諦めるとするか。





やれやれと言った感じで教室に戻った俺は、真っ先に豪太郎の元へと歩いて行く。

相変わらず彼奴は、ソドムの男のくせに女の子達に取り囲まれていた。


「よぅ、豪太郎。ちょっと良いか?」


「あ、洸一…」

豪太郎は見ているだけで背中に悪寒が走るような笑みを零し、プリプリと尻を振りながら、俺の傍へと走って来る。

それとは対称的に、彼奴の周りに居た女どもが、俺を見て波が引くように下がって行くのが気になるが…

「ね、どうしたの洸一?僕に何か用?」


「…豪太郎。貴様、確かサッカー部だったな?」


「うん、そうだけど…」


「それも今日限りだ」


「…は?」


「本日を以って貴様はサッカー部を退部し、TEP同好会に入るのだ」


「……え~と……洸一が何を言っているのか、良く分からないんだけど……」


「えぇーい、ゴチャゴチャ言わずにTEP同好会に入れッ!!と俺は言ってるんだ。貴様も漢なら、友である俺の頼みぐらい、黙って聞けぃッ!!」


「うん、良いよ」

豪太郎は俺が驚くぐらい、あっさりと頷いた。

「洸一の頼みだもん。僕に出来る事なら何でも聞くよ」


「そ、そうか…」

ぬぅ…

豪太郎は確か、サッカー部のレギュラーで、かなり貴重な戦力だと言う話なんじゃが…


「でも洸一。僕も頼みを聞くんだから、洸一も僕のお願いを聞いてよぅ」


「願い?なんだ……言ってみろよ」


「う、うん…」

豪太郎は何故か頬を赤らめ、自分のズボンをキュッと摘みながらモジモジと俺を上目遣いで見やると、

「その……ぼぼぼ、僕と………僕とね、いいい一緒に………」


「君と話す余地は無いなッ!!」

俺は豪太郎の言葉を遮った。

この変態野郎め、何を言い出すつもりだったんだか…





お尻の穴に少々危険を感じた俺は、豪太郎の勧誘を諦め、教室内を獲物を狙う鷹の目で見渡す。

誰か名前だけでも貸してくれそうなヒマなヤツはいないかのぅ……って、いやがった。

俺は教室の後ろで屯している女の子達に近付いて行った。


「よ~ぅ…」


「あ、神代…」

「神代君」

「えへッ♪えへへへ…」

ご存知、小山田・長坂・跡部で構成される、トリプルナックルの御参方だ。


「ちょっと話しがあるんだが…今、良いか?」


「話し?」

「は、話?」

「えへへへへ~、お話ぃ?」

3人は互いの顔を見合わせ、その内のリーダー格である長坂が首を傾げながら

「は、話って……なにかな?」


「別に大した事じゃねぇーんだけど…その前に、一つだけ聞かせてくれぃ。お前達、何かクラブに入っているかね?」


「クラブ?」

「クラブ…?」

「クラブゥゥゥゥ…ウヒッ♪ウヒヒヒヒ…」


「そ、そうだ、クラブだ。またの名を部活動とも言うが……何か入ってるか?入ってねぇーよなぁ…」


「失礼ね、ちゃんと入ってるわよ」

と、目つきの悪さとツインテールが決戦兵器の小山田が、唇を尖らせた。

「言っとくけど、私はこれでもテニス部に入ってるのよ」


「……ペ○ス部?」

今時のアホ中学生でも言わない事を言うと、小山田は物凄い速さで俺の胸座を掴み

「テニス部よッ!!ふざけた事言ってると……本気で泣かすわよ」


「…もう言いません」


「ったく…」

小山田は制服から手を離し、目を細めて俺を睨み付ける。

相変わらず、この女は怖い。

目つきの悪さとそれに倍する性格の極悪さえ除けば、それなりに見れる女の子なんじゃが…

実に残念だ。

…何が残念なのかは未知だが。


「し、しかし…そうかぁ、小山田はテニス部に入っているのか…」

これは予想外だった。

よもや和を乱す事に生き甲斐を感じている真性イヂメッ娘である小山田が、体育会系クラブに所属しているとはねぇ…

・・・

コイツの事だ、きっと他の部員のシューズの中に、画鋲とか入れて悦に入っておるのだろう。


「だったら、長坂はどうだ?何かクラブに入っているのか?」


「う、うん。私、天文部に在籍してるんだけど…」


「天文部?天文部って…アレか?星を観察したりするやつ…」


「そうだけど…」


「ぬぅ…」

これもまた、予想外だ。

長坂までもが部活に入っているとは…

そもそも、天文部なんてウチの学校にあったのか?

うぅ~む…

この大人しそうな顔して、実はトリプルナックルのリーダーを努めている長坂のことだ…

星の観察と称して、実は望遠鏡で皆の弱点を覗き見ているに違いない。

そしてそれをネタに、相手を強請るのだ。

うむ、恐ろしい事じゃのぅ…


「あ~…だったら跡部は?お前は色んな意味でフリーだろ?」


「どーゆー意味ぃ?ウヒッ、ウヒヒヒヒ…」

おっとり風味の可愛い顔した跡部は、脳味噌が蕩けてシェイクされたような笑みを零しながら、

「私も、ちゃんと入っているよぅ」


「――なにぃぃッ!?お前も…入っているのか?ってゆーか、お前を入部させてくれる度量の広いクラブがあったとは…」


「神代君は、微妙に酷いことを言ってます」


「気にすんな。で跡部よ……お前は何のクラブへ入ってるんだ?」


「…クマ部」


――ブッ!?

「く、クマ部ッ!?」

クマ部って…あの穂波がさっき言っていた、謎のベールに包まれたクラブだよな?

………ぬぅ。

恐るべし、穂波ネットワーク…

恐るべし、クマ部。

・・・・

近い将来、TEP同好会の前に立ちはだかる、最強のクラブになるかもしれんッ!!

……良く分からんがな。





トリプルナックルの面々をTEP同好会に勧誘する計画は、誘う前に頓挫してしまった。

よもやあいつ等も部活動に勤しんでいるとは…


「あ~~~意外と、集まらないもんだねぇ」

俺は机に突っ伏し、溜息を吐く。

なるほど…

優ちゃんが頑張っても、中々に部員が集まらなかったのが、少しだけ分かったぜぃ…


「…ん?」

ふと、隣りの席に目をやると…

相変わらずオッパイが大きくてけしからん(謎)委員長様が、一人黙々と、何やら参考書らしきモノを読んでいた。

……ダメ元で、誘ってみるか?

「なぁ委員長」


「…」


「委員長様?」


「…」


「…伏原さん?」


「…」


「……美佳心ちゃん?」


「…」


「……ミカチン?」

と言った瞬間、委員長は読んでいた参考書をバンッと音を立てながら閉じ、キッと俺を睨み付ける。


「…なんや?何か用か?」


「う、うん。実はそのぅ……委員長、お前さぁ……何かクラブに入ってる?」


「…クラブ?…はんっ、何でウチがそない下らんモンに…」


「入ってないんだな?」

俺は委員長に向き直り、ググッと迫った。

「だったら是非、俺の入っているクラブへ入ってくれぃ。いや、入れとは言わないから、名前だけでも貸してくれぃ」


「……お断りや」

委員長様はクールに断わった。

「ウチは名前を貸すほど、アンタを信用しとらん」

しかもちょっと酷い。


「ぐ、ぐぬぅ…」


「……ふんっ」

委員長は再び、参考書を開く。


どうして彼女は、いつもこんな感じなのだろうか?

無理矢理に外界との交流を遮断して、自己の世界に入ってしまう。

孤高を保ってると言えば、聞こえは良いけど…

なにかこう、彼女の場合は少し違うと思う。

……もしかして、関西弁だからコンプレックスを感じているとか……

・・・・

いや、そんなワケはないか。

うむぅ、分からん。

全然に、分からん。

・・・・・

委員長は転校してきたって聞いたけど、前の学校でもこんな感じだったのだろうか?

・・・・・

何とかして、その辺りの事も聞きたいなぁ…・・

こうも無言を貫かれると、さしもの俺も胃が痛くなってくるからのぅ。





五時限目と六時限目の挟間の時間、俺は頭を抱え、唸っていた。


うぬぅ…全く人が集まらんッ!!

せっかく先輩として優ちゃんを喜ばせてやろうと思っていたんじゃが…

TEP同好会に、誰も入ってくれない。

ま、みんなそれぞれ既にクラブに入っていたり名前を貸してるヤツばかりだから、仕方がないと言えば仕方無いのだが…

・・・・・

・・・・・

そう言えば、同じクラスにいる多嶋…

バスケ部に所属している、学年でも3番目にモテる男なんじゃが(ちなみに2番は豪太郎で1番は言わずもがなだ)この野郎にダメ元で勧誘したら、

「俺、バスケ部とクマ部に入ってるから」

と言って断わってきやがった。

バスケ部は良いとして、またもやクマ部だ。

…凄く気になる。

それどころか、俺も少し入りたくなってしまった。

……やるな、クマ部。


そんな事を考えていると、教室の外から

「おぉ~い、コーイチー」

と、俺を呼ぶ声。

見ると智香が手招きしていた。


「ンだよ…」

俺は廊下に出た。

「どうした智香?この俺様を呼びつけるとは……一体、何事だ?特別に発言を許すぞよ」


「相変わらずアンタは高飛車と言うか生意気と言うかアホと言うか…」

智香はヤレヤレと手を広げ、アメ公のようなジェスチャーする。

「…ま、良いわ。ところでコーイチ、アンタさぁ…色々と同好会に皆を勧誘しているみたいだけど…誰か入ってくれた?」


「……その件に付きましては、ノーコメントとさせていただきます」


「あ、まだ誰も入ってくれないんだ。そっか……うん、可哀相だね」


「クッ…全然同情して無いくせに、同情めいた台詞を吐きやがって……」

果てしなくムカつきますぞ。


「あ~…でもさコーイチ。あんた、何で2年ばかり誘ってるのよ?普通は1年生を勧誘するモンじゃないの?」


「い、色々とワケがあるんだよ」

それは当然、俺も考えたさ。

だがしかし…

教師達が俺様の事を悪く言い触らしている影響か、一年生の殆どは、俺の姿を見るなり逃げて行ってしまうのだ。

既に勧誘どころではないのだ。

「それに……なんだ、一年坊主とはあまりと言うか全然面識が無ぇーし……いきなり声を掛けるとか、ちょっいと恥ずかちぃ」


「何を言ってるんだか…」

智香はそう言って、ポケットからいつもの黒革の手帳を取り出すと、

「そう思ってさ。この私が、ちょっと気になる一年生の情報を仕入れてあげたからさ……この子を誘ってみなさいよ」


「気になる一年生?」


「そ。前に話したでしょ?例の不思議ちゃんの事よ」

智香は何故か小声でそう言うと、ウホウホとゴリラのように笑った。


「……貴様、恩着せがましく言っておいて……その実、俺がその子に対して何らかのアクションを起こすことを期待しているな?」


「ありゃ?分かった?」


「分かるわボケッ!!」

全く、俺様を使って情報の信憑性を確かめようって腹かよ……

「で、その不思議ちゃんってどんな子だ?」


「え?聞きたいの?」


「まぁな。貴様の手の上で踊るつもりは無いが、それでもその子は一年生なんだろ?上手くいけば、名前だけでも貸してくれるかも知れんからな」


「OK、ちょっと待ってて…」

智香は嬉しそうに手帳を捲ると、

「え~とねぇ…名前は水住姫乃みずすみひめの。1年D組の女の子で、出身中学は不明。何でも北海道から転校して来たらしいわよ」


「……表向きの情報はいい。裏の情報を話せ」


「はいはいっと…」

智香は小さく俺を手招きし、耳に顔を近づけながら、

「あのねぇ……彼女、ともかく不思議なのよ」


「……俺の周りはいつも不思議が一杯だ。大抵の事には驚かんぞ」


「え~とねぇ、色々と噂が広がってるけど……一つだけ確実に言えるのは、彼女は不幸を呼ぶ使者って事なの」


「…不幸?」


「そ。彼女に近付く者は、みんな不幸な目に遭うんだって。何て言うのか……心霊現象みたいな事を体験したって子も、大勢いるみたいなの」


「ふむ、良く分からんが…」


「何でもさぁ、彼女は何かに祟られているんじゃないかって言う噂もあってさ…彼女の周りだけ、ポルターガイスト現象とかも起こってるそーよ」


「ぬぅ…」


「中には、実は彼女は米国が遺伝子操作で開発したサイキックソルジャーだ、と言う噂もあるし……ともかく、彼女の周りではいつも不可思議な現象が起こっちゃうのよ」


「うむぅ…」

ポルターガイスト現象に、サイキックねぇ…

なんちゅうか、TEP同好会に誘うよりは、オカルト研究会に誘うべき女の子のような気がするが…

・・・・

・・・・

いかんいかんいかんッ!!

そんな逸材を、あののどかさんが黙って見ているワケねぇーだろぅ…

いつ何時、『解剖したいです』とか言い出すかもしれんからな。


「そっか。何だか全然分からんが、その水住さんって言う子が、特別だと言うのは良く分かった」

そんな噂が出るぐらいだ…

きっとクラスでも浮いておるのだろう。

……可哀相に。

まだ入学したてなのになぁ…


「…ところで智香よ。一つ尋ねるが………その子、可愛いか?」


「は?」


「答えろ。最重要ポイントだ」


「え、え~と……まぁ……普通より、かなり可愛い方じゃないかなぁ~…と思うけど」


「良しッ!!」

俺は小さくガッツポーズを決めた。


「…ちょっとコーイチ。何いきなりやる気出してんのよぅ」


「あん?当たり前だろーが。その不思議ちゃんがだ、例えば人知を超えた抽象派の芸術っぽい造詣の女の子だったら、さすがの俺様も遠くから頑張れと励ますしか手は無いが……可愛いとなれば話しは別だ」

何しろ、TEP同好会は体操服着用なのだ。

優ちゃんとその水住さんって娘が、ブルマ姿で頑張ってしまうのだ。

そりゃアンタ、いくら紳士な俺様とて、やはりそこは年頃なわけなのよ。

目に優しい部活動を期待して、何が悪いッ!!


「コーイチ。アンタ少し、Hな目をしてるんだけど…」


「あん?気のせいだ気のせいッ!!ぐぅふっふっふ…」


「うわ、最悪な笑い方。穂波に知れたら、アンタお仕置きを受けるよ?」


「……ふっ、ならばその娘の情報を教えた貴様も同罪だな。一蓮托生だ」


「う…」


「心配するな智香。俺は必ず……遣り遂げてみせるぞッ!!」


「……何を?」





放課後、俺は智香から情報を得た例の不思議少女、水住姫乃チャンなる娘のクラスへ行こうとしたが……良く考えたら、本日も教室の掃除当番なのだ。

ま、今までの俺様であったならば、掃除なんてモンはちゃんちゃらおかしくてやってられないぜッ!!と言うか、下々の者が『神代さんは掃除やらなくて良いです。終らないから』と良く分からない事を言って免除されてたワケなんじゃが……新クラスになり、そうもいかなくなった。

何しろ俺は、あの委員長様と同じ掃除グループになっちゃったりしているのだ。

サボるわけにはいかない。

いや、別にサボっても、あの委員長の事だ…クールな感じで、

『好きにしたらエエ』

とか言うに違いない。

もっとも、そうしたらそうしたで、好感度パラメーターは大幅に下落するだろう。

それどころか、彼女攻略のフラグすら立たないかもしれない。

・・・

自分でも何を言ってるのかチンプンカンプンだが…

ともかく、ただでさえ委員長様には一方的に無視されているのだ。

クラスの和を大事にする俺様としては、これ以上彼女の心証を悪くする事は出来ないのだ。


さてさて、掃除如きとっとと片付けて、水住さんとやらのクラスに行って…それから裏山で練習して……今日の晩飯は何にしようかのぅ…

放課後の行動スケジュールを脳内で纏めつつ、教室の隅に溜まった埃を箒で掃いていると、

「ちょっと、そーゆー言い方ないんじゃないの」

心を脅かす聞き慣れた声が響いてきた。


――な、なんじゃ?


それまでザワついていた室内に、ピーンと緊張が走った。

真面目に掃除をしていた生徒達も手を休め、何事かと視線を向ける。

もちろん、俺もだ。


あ、やっぱり小山田かよ…

って、委員長様を怖い目で睨んでおるぞよ。


トリプルナックルの突撃隊長であるツインテール小山田が、瞳に憎悪の炎を燃え上がらせ、取り敢えず『悪』としか表現出来ないような目つきで委員長を睨みつけていた。

その後ろで、長坂もどこか不満そうな顔で委員長を睨んでいる。

跡部は跡部で、何故か窓から空を眺めてエヘラエヘラと薄気味悪い笑みを浮べているが…

ちなみに一方の委員長様はと言うと、実にまぁ涼やかな表情で、彼女達を見つめ返していた。


うぬぅ、何だか見たくもないイベントに遭遇してしまったような気がするにゃあ…


俺はガッカリな溜息を吐いた。

何しろ、あの学年首席でパッと見はオッパイを除けば地味だけど実は眼鏡を外せば可愛い子ちゃんに変身する事も可能……かも知れないクールでドライな委員長様と、泣く子に更に追い込みを掛ける究極のイヂメッ娘である小山田が、互いにメンチを切り合っておるのだ。

周りの生徒達も、僕は何も見てません、という感じで、近付こうとしないではないか。

これではアカン、と思う。

同じクラスメイツ同士、もっとフレンドリィーに行こうよッ!!

そしてそれ……彼女達を仲裁出来るのは、学園の守護天使である俺様だけなのだ。


やれやれ、仕方のない奴らじゃのぅ…


俺は微苦笑を零しながら、二人の間に割って入るように、

「おぉ~い、どうしたんだ一体?二人とも、手が止まってるじゃねぇーか……さっさと掃除をしろーい」


「……神代」


「な、なんだよ小山田…」


「…黙れ」


「……」

隊長、怖いでありますッ!!

脳内兵士Aが怯えた声で報告してくる。


お、おいおいおい、小山田の奴、めっちゃ殺気立ってるじゃねぇーか…

冗談とかで和ます雰囲気じゃねぇーぞ…

俺はゴクリと唾を飲み込み、対峙する二人を交互に見つめる。

動の小山田に静の伏原…

二つの相反する殺気が、教室内の重力負荷を増大させていた。


ぬ、ぬぅぅぅ…ど、どうしよう?


オロオロしている俺を余所に、先陣を切ったのは小山田だった。

眉を吊り上げ、細い目を更に細めて委員長を睨むと、

「だいたいねぇ……アンタはいつも、少し生意気なのよっ」


「…」

委員長様は相変わらず、涼やかな顔をしていた。

全くの無視だ。

もちろんはそれは、小山田の闘争心に余計に油を注ぐ事になるのだが…


「…ちょっと。何か言いなさいよ伏原ッ!!」

ズズイッと詰め寄る小山田。


だが、委員長様である伏原ちゃんは、どこか小馬鹿にしたようにフンッと鼻を鳴らすと

「…アンタみたいなしょーもない女と、話す事なんてあらへん」

俺でも言えない物凄い事を言いましたッ!!


「な、何ですってッ!!」


――い、いかんッ!?血の嵐が吹荒れるぞよッ!!

「あ~……取り敢えず、落ち付けぃ」

俺は二人を引き離すように、その間に強引に体を滑り込ませた。


「な、なによ神代ッ!?アンタには関係ないでしょッ!!」


ウキャッ!!怖いよぅ…

「……落ち付け、小山田。……俺を本気で怒らすな」


「う゛っ…」


「…で、委員長。一体、この騒ぎの原因は何なんだ?」


「…アンタには関係あらへん」


ありゃま?

「そ、そっか。だったら小山田。どうしてこんな騒ぎを起こしているのか……最初から話してみろ」


「…フンッ、悪いのは伏原よ」


「い、いやだからその理由を…」


「…別に……大した理由はないわよ」

小山田は憎々しげにそう言うと、キッと委員長を睨みつけ、

「ただ、いい加減……この女にはムカついているのよッ!!いっつも人を小馬鹿にしたような目で見て……一体、自分を何様だと思っているのかしらッ!!」


いや、彼女は委員長様なんだが…

しかも学年主席ですぞ。


俺はポリポリと頭を掻きながら、美佳心ちゃんに視線を走らせるが…

彼女は、全く気にも止めていない様子だった。

いつものクールな表情で、まさに馬耳東風と言った感じだ。

うぅ~む、小山田に面と向かってあんな事言われているのに、表情一つ変えないこの冷静さ…

俺も少しは見習いたいのぅ。


「そ、その無視するような態度が気に食わないのよッ!!言いたい事があるのなら、言い返しなさいよッ!!」

激昂した小山田は、ましらの如く委員長に飛び掛ろうとする。


「うわッ!?落ち付け小山田ッ!!ここは教室で御座るぞッ!!」


「ど、退きなさいよ神代ッ!!――って、アンタどこ触ってるのよッ!!」

俺の両の手は、しっかりと正面から小山田の胸を鷲掴んでいた。


あ、見た目通り……全然ねぇなぁ……

「わ、悪ぃ悪ぃ…」


「…」

小山田は胸を隠すように押さえながら、一歩退く。

その顔は羞恥と怒りの為か、少し赤らんでいた。


「え、え~と……ま、なんだ、小山田も伏原さんも、同じクラスメイツだ。喧嘩は止めれ」


「ふ、ふんっ、喧嘩なんかしてないわよ…」

と小山田が言えば、委員長は富士山の頂上から見下ろすように、

「…アホと争うような事はせーへん」


「……なんですって?」


「アホと争うような事はせーへんと言ったんや」


……お、おいおい……


「ア、アホって……アンタねぇ……一体何様なのよッ!!少しぐらい勉強が出来るからって…」


「少し?ふっ、アホな事言うなや。アンタとウチの差が少しなワケあらへんやろーが…」


――う、うわぁぁぁ…

委員長も、言う時は言いますねぇ…――って、いかんッ!?


俺は慌てて、拳を固めた小山田の肩を掴み

「お、落ち付け。取り敢えず、落ち付け。先ずは深呼吸だ」


「グ、グギィィィ…」

小山田は物凄い音で歯を軋ませながら、涼しい顔の委員長を睨み付けていた。


あららら…

こりゃ仲良くさせる事は、未来永劫不可能かも知れませんね…


「と、ともかく、父と子と精霊と俺様が命じる。汝ら、争うなかれ」


「な、なによ神代。アンタがでしゃばらないでよッ!!」

「…神代クン。アンタ少し、エエ気になってへんか?」


う、うわぁーん、今度は矛先が俺に向けられているよぅぅぅぅぅ…

「も、もう一度言うが……争うな。ってゆーか、さっさと掃除をしてくれ。俺はこの後、色々と忙しいんだからな」

俺はゆっくりと息を吐き、二人を交互に睨みつけながら、

「……俺をあんまり本気で怒らすな。女だからと言って、容赦はしないぞよ。ん?」


「…」

「…」


「……OK。では、掃除の続きをしよう」


やれやれ…

前から疑問に感じていたけど、やっぱ小山田は、委員長の事が嫌いらしい。

何故だろう?

・・・

まぁ、なんとなーく分かるような気もする。

確かに委員長は、どこが悪いと言うワケでも無いけど…

その殆ど無視するような冷静な態度に、この俺でも時々、本気でムカついてしまう事がある。

でもなぁ…

他人の性格についてあれこれ言う程、俺は完璧な人間じゃねぇーし…

伏原チンにも色々と……そう、俺の知らない色んな事があるのだろう。

その辺りの事に思いを馳せれば、怒る理由なんて無くなるのにねぇ…

・・・

ま、どちらかと言うと直情型の小山田には、無理な芸当か。


「…にしても、クラスの雰囲気が悪くなるのは、勘弁だよなぁ…」

俺は箒で床をハキハキしながら、小さく溜息を吐くのだった。





予想外に掃除が長引いてしまった俺は、ダッシュで智香から情報を得た水住さんの居る教室へと向かうが、案の定と言うか……既に教室は、もぬけの空であった。


ちぇっ、やっぱ帰っちまったか…

俺は軽く溜息を吐き、今度はダッシュで裏山へと向かう。

素早く靴に履き替え、校門を全速で駆け抜け、そして裏山の社へと続く急な階段で早くも挫折。


「あ、相変わらず……この階段は急と言うか何と言うか……こんな所から落ちたら、魂が入れ替わっちまうぜ……女の子となッ」

そんなワケの分からない事を呟きながら、俺はゼーゼーと息を切らし、階段を登り切ると……境内の奥の方から、ズドバンッ!!と大地を揺るがす衝撃音が響いてきた。

どうやら優ちゃんは、既に練習を始めているらしい。


「さて、と…」

俺は朽ち掛けた社の前で手早く学校ジャージに着替え、境内の奥へと入って行く。

街の喧騒から離れ、静寂の支配する林の中、優ちゃんは木の枝からぶら下がっているサンドバッグに、素早いパンチを何度も叩き込んでいた。


う、うぅ~む…

なんちゅうか、キレのあるパンチですねぇ…


この洸一、正直な話……喧嘩には自信がある。

腕白だった餓鬼の頃から、街の平和を守る為、何度も悪い奴やイヂメッ子などを成敗してきたが…

一度たりとも、負けた事が無かった。

がしかし…

万が一、この優チャンとタイマンを張る事があるとしたならば…

俺は多分、負けるだろう。

彼女のパンチはそれほど素早く、そして力強いのだ。


…う、うむぅ…年下の女の子に恐れを抱くとは…俺様もまだまだじゃのぅ……

ちなみに今現在、俺が本気で闘うとして、勝てる自信が全く無い人間がもう一人いる。

言わずと知れた、学園の仁王様こと、二荒真咲さんだ。


アレはまぁ、色々と規格外だから……

「よぅ、優ちゃん。今日も良い音出してるね」


「ハァハァ……あ、先輩♪」

額に汗を光らせた彼女は、見ているだけで嬉しくなってしまう…そんな気持ちの良い笑顔を向けた。


「はは…悪ぃ悪ぃ。掃除が長引いて少し遅れちまった」


「い、いえ全然、気にしてないですッ。それよりも先輩、準備運動は…」


「ん?今からするぜよ」

言いながら俺は軽く屈伸運動を繰り返すが、

「あ、私もお手伝いします」

優ちゃんが駆け寄ってきた。

昨日知ったばかりだが、打撃系格闘技は、準備運動が大切なのだそうだ。

ストレッチで筋や関節を柔らかくしておかないと、怪我をする恐れがあると言う事らしい。


「では先輩、行きますよ」

地べたに足を投げ出して座っている俺の背中に、彼女の火照った手の平が添えられ、そしてそのままリズム良く押してくる。


「ぐ、む……ぬぅ」

つま先を揃えたままの前屈運動。

腰がギシギシと軋むようだ。


「先輩は少し、体が固いですね」


「ぐ、ぬ…そ、そう?む……ぬ……あ、あぅぅぅ」

確かに、少し固いかも知れない。

優ちゃんは、胸と膝がくっ付くほど体を曲げる事が出来るけど……

俺の場合は、まだまだ天と地ぐらいの開きがあるのだ。


「でも毎日続けていれば、すぐに柔らかくなりますよ」


「そ…そうか。む、ぬぅ……ちょっと…腰が痛いかな」


「あ、はい。では次は腕の筋を伸ばしましょう」

優ちゃんはそう言って、俺の二の腕を掴む。

そしてペタリと、彼女の引き締まった体が、俺の背中に密着。

体操服を通して彼女の熱い体温が伝わってくる。


「では先輩、体ををゆっくりと倒しますよ…」


「う、うん…」

俺はドキドキしていた。

何と言うか…汗の混じった若い女の子の匂いが鼻腔を擽り、頭の中がポワーンとしてくる。

今まであまり嗅いだ事のない、芳しい香りだ。

なんちゅうか…これが青春の香り?と言う感じ。

今日は必死になって部員を集めてみたけど…

優チャンと二人っきりで練習と言うのも、悪くないような気がする。


「いちっに、いちっに、いっちに……はいっ先輩。準備終了です♪」


「お、おう……サンキュー」

俺は立ち上がり、腕を回す。

なるほど、軽く感じられるな。


「では先輩、今日はステップ2です」


「おうよッ」

俺は優ちゃんに渡された、TEP公式の、拳をガードしただけで指は自由に動く特殊なグローブを装着しながら頷いた。


「昨日はジャブ系のパンチを教えましたけど、今日はそれに、ストレート系のパンチを組み合わせた、コンビネーションを教えます」


「宜しく頼むで御座る」


「では先ず、サンドバッグの前で構えて下さい」


「り、了解」

俺は言われた通り、黒光するサンドバッグの前で、昨日教わったオーソドックスな構えを取った。

右足を半歩後ろへ下げ、右拳は顎をガードするように、左拳はやや前に突出すように目線の高さ、即ち、基本的なボクサーのファイティングスタイルだ。


「ストレートは、ジャブと違って腰で打ちます。軸足……左ですね、そのつま先に体重を乗せながら、腰から体を回す様にして、右の拳を繰出すのです」


「う、うむぅ…なるほど」


「では先輩、先ずは一回打ってみてください」

優ちゃんはニコニコと笑顔で、サンドバッグを支える。


「よ、良し。そりでは行くぞよ」

え~と、体重を軸足に移動させながら……腰を回す様にして、打つべしッ!!

――バンッ

思ったより軽い音が鳴り響いた。


「あ、先輩。拳を繰出す時は、腕を内側へ捻る様にすると良いです」


「なるほど…」

内側へ捻る様に……打つべしッ!!

――ズバンッ

さっきより、ちょっとだけ良い音がした。


「グッドです先輩♪」


「そ、そう?」


「はい♪初めてにしては、上出来です♪」


「あ、ありがと…」

なんか、かなりお世辞っぽい気もするけど…

それでも、褒められるとやはり嬉しい。

成り行きで始めてしまった格闘技だが…

やるからには、頂点を目指してみたい。

・・・

・・・

優ちゃんの強さを見ていると、俺には無理っぽい気がするけどな。





茜色に染まりつつある空の下、ズンズンババンッと、軽快な音が境内に響き渡る。

ジャブジャブ、そしてストレートッ!!

中々に良い感じだ。

リズム良く、ジャブの引き際にタイミングを合わせてストレートを放つと……どうやら威力が増す様だ。

うむ、また一つ奥義を発見したなり。


「ハァハァ……よ、良し、今日はこんな所で勘弁してやるかなッ!!ハァハァ……」


「お疲れ様です、先輩♪」

優ちゃんがタオル手渡してくれる。

「上達の速さが、並ではありません。さすが先輩です♪」


「よ、よせやい。煽てたって何も出ないぞよ。グワッハッハッ…」

お世辞と分かっていても、やっぱ気分が良いのぅ。

「よっしゃ。ンだば交替だ優ちゃん」

俺は汗を拭きながら、サンドバッグの後ろに回り込み、それを両の手で支える。

「さぁ優ちゃん。いっちょズドンと来いッ!!」


「はいっ♪」

優ちゃんは嬉しそうな顔で頷くが、構えを取った瞬間、その表情は真剣そのもの、格闘家の顔になった。

フーと呼吸を整え、トントントンっと小刻みなジャンプでフットワークを使い出す。

「では……行きます先輩」


「うむ、全力で打ち込んでくるが良いぞよ」


「―――シッ!!」

短い掛け声と共に、優ちゃんの体がステップイン。

――ズバンッ!!

彼女の素早いジャブに、サンドバッグが大きな音を立てる。

「―シッ!!」

―ズバンズバンッ…ドゴンッ!!


「ぬぅ…」

俺はサンドバッグを支えるだけで精一杯だった。


「――ハッ!!」

―バンバンバンバンッズドンッ!!!


「くっ…」

は、速ぇ…

しかも凄いパワーだ。

気を抜くと、サンドバッグごと体が吹っ飛びそうだぜぃ。


「ハッ!!!」

―ズドバンッ!!!


「くぅぅぅぅ」

わ、分からねぇ…

体格からして、スピードがあるのは理解出来るけど…

何であんな細くてちっこい体で、こんなパワがー出せるんだ?

俺様のパンチより、全然力強いじゃねぇーか…


「――シッ!!!」

―ズバンッ!!


「ぬ…」

しかも…パンチの質が、俺とは全く違う…

なんちゅうか、衝撃がサンドバッグを通り越して俺まで伝わって来ると言うか、突き抜けると言うか…

一体僕チャンとは、基本的に何が違うんだろうか…


「ハァァァァ…ハッ!!」

優ちゃんは力を込め、渾身の蹴りを放つ。

――スドバンッ!!

サンドバッグはそれまでに無いほど大きな音を立て、そして俺は…

「う、うわーーーーーーーん…」

思いっきり反動で吹っ飛ばされた。


ぬぅぅ、格闘技は奥が深いぜよ…






茜色に染まっていた空に、仄かに群青色の帳が降り始める頃、今日の練習は終った。

俺はタオルで汗を拭い、制服に着替える。


「つ、疲れた…」

体を動かした後の気持ちの良い疲労感ではあるが…

それでも、かなり疲れた。

ま、今日でまだ練習は2日目だ。

暫らく真面目にこなしていれば、そのうち体も慣れてくることだろう。


「しっかし、汗で体がベトベトして気持ち悪いなぁ…」

やはりせめて、シャワー室ぐらいは使いたいものだ。

男の俺でもそう思うのだから……女の子な優ちゃんは、もっと使いたい事だろう。

今はまだ良いが、夏になったら辛いぞこれは…


「…さて、優ちゃんは……着替え終ったかにゃ?」

俺は鞄を担ぎながら、社の奥にある林の中へ入って行く。

どうしてかは謎だが、ここは取り敢えず忍び足だ。


……まだ着替えの途中だったら……ちょっとアレだけど……

でもまぁ、そーゆーイベントの一つぐらい、あっても良いよね?ご褒美だよね?


「って、誰に尋ねてるんだかなぁ…ハッハッハ」

俺の足はそこで止まった。

林の中の少し開けた場所……そこに優ちゃんはいた。

真新しい制服に身を包んだ小柄な優ちゃんは、何故か分からないが、スカートの端を摘んで持ち上げ、パタパタと太股を叩くようにして扇いでいる。


「ぬぅ…」

細く締まった、健康そうな腿たん。

張りのある肌は、まさに年頃少女のものだ。

しかもその太腿の奥にあるシークレットゾーンから、チラホラと白い物が見え隠れしているではないか。

なんと言う扇情的光景であろう…

もうそれだけで、格闘技同好会に入って心から良かったと思ってしまう。


…って、覗き見みしてる場合じゃねーやなぁ…

「あ~~、優ちゃん?」


「…へ?」

優ちゃんはどこかキョトンとした可愛い顔を向けた。

両の指は、まだスカートの端を掴んで持ち上げたままだ。

「あ、せ、先輩ッ!?」

慌ててスカートを押さえ込む彼女。

「みみ、見てたんですか?」


「そんなには見てないッ!!」

嘘である。

「だから安心しろ」

何がだ?


「そ、そうですか…」

優ちゃんは頬を赤らめ、困った顔で俯いてしまった。


うぬぅ、声を掛けない方が良かったかにゃ?

「ははは…それよりも、何をしてたんだ?俺の知らない儀式か何かかい?」


「え?そ、それはその……あの…あ、暑くって……」


「………あ、なるほど」

俺はポンッと手を打った。

「ブルマ穿いてると、蒸れちゃうモンなぁ」


「~」

優ちゃんは更に赤くなって俯いてしまう。


ちくしょぅぅ、可愛いなぁ、この娘はッ!!

もうなんちゅうか、照れてる様に、洸一チンとしてはドキドキだ。

穂波と智香なんか、下手すりゃ強引に見せてくるかもしれんと言うのに…

しかもその後で責任取れとか言うだろうし…

そう言えば以前、公園で出会ったあのパンツ女は……見物料を請求してきやがった。

それに比べて優ちゃんは、ごく普通の女の子で…

もう僕は、それだけで嬉しくて涙が出そうだッ!!


「はは、悪ぃ悪ぃ。それよりも練習で喉乾いただろ?見ちゃったお詫びに角店でジュースでも奢るからさ……行こうぜ」


「は、はい」

優ちゃんは恥ずかしいのか、目を合わせないように頷いた。


う~む…

彼女のおパンチュ見てしまったのは悪かったけど…

問題は、もっと根本的な事だ。

やはりシャワー室ぐらいは、使わせてやりたいなぁ…

でも、部員が集まらないし…

・・・

何とかこの場所に、設置出来ねぇーかのぅ…





東の空が薄暗くなり、ゆっくりと夜陰に包まれ始めた黄昏時、俺は角店で買ったジュース(優ちゃんはスポーツ飲料で俺は乳酸飲料だ)を飲みながら、彼女と二人、取り止めの無い話しながらブラブラと商店街を歩いていた。


「え?先輩は…独り暮しなんですか?」

優ちゃんは驚いた顔で俺を見上げる。


「まぁな。なんちゅうか……良く言えば放任主義、悪く言えば見捨てられているんだよぅ。全く、よくもあんな環境で真っ直ぐに育ったもんだぜ、と我ながら感心しちゃうね」

極端な事を言えば、グレるにも…多少のお金は必要なのだ。

多額の小遣いを貰って身を持ち崩す芸能人の馬鹿息子などが良い例だ。

ただ、あの元レディースのヘッドを張っていたお袋はその辺の事が分かっているのか、毎月、必要最低限の生活費しか寄越さねーから……

グレる気力も無くなると言うもんだ。


「す、凄いです先輩」


「そ、そうかぁ?別になーんにも凄くないぞ?むしろ哀れだと思うんじゃが…」


「そんな事ありませんよ」

優ちゃんはフルフルと首を横に振った。

そしてどこか尊敬チックな瞳で、

「先輩、一年生の頃から独り暮しなんですよね?凄いですよぅ。私なんて、全然、そんな事出来そうにないし……毎日の食事だって、作れるかどうか……」


「まぁ、それは慣れだよ、慣れ」

俺は苦笑を零しながら、ジュースの紙パックを潰し、ゴミ箱に放り投げる。

「飯なんて、俺も最初の頃は戸惑ったさ。何しろそれまで満足に米すら炊いた事はないんだからな。それに与えられた食費の使い方も最初は大雑把でよぅ……いっつも月末になると苦しくてなぁ。1週間ぐらい、殆ど水だけで生活した事もあったわい」

いやはや…

あの頃は、本当に辛かった。

もうなんちゅうか…俺に比べたら、公園の鳩の方がメシ食ってる、って言う状況だったモンなぁ…

ま、そのお陰で、今では特売品の帝王とかタイムサービスの鬼と言われるほど、買い物が上手になったんだがね。


「でも先輩、寂しくはないんですか?」


「ない」

俺は即答した。

「飯とか風呂とか、そーいった面倒な事を省けば、むしろ気楽だ」

何しろ、僕チンも思春期じゃからのぅ…

気兼ね無く、プライベートなタイムを謳歌出来ると言うものじゃわい。


「なるほど、そういうものですか…」

優ちゃんは妙に感心したように、ウンウンと頷いていた。


何だか面白い娘だなぁ…

そんなに感心することかのぅ。

俺はそんな彼女を微笑ましく見つめながら歩いていると、その彼女の頭越しに、見知った顔を発見した。

「ありゃ?あそこにおわすは……のどか先輩じゃありませんか」

彼女は、商店街の外れにある小汚い古本屋の中にいた。

相変わらず外界との交流を全てシャットダウンしてるが如きヌボォーっとした表情で、何やら本を読み耽っている。

何を読んでるんじゃろう?

ってゆーか、世界有数の財閥のお嬢様が立ち読みと言うのも、何だかなぁ……と言う感じですねぇ。


「どれ、ちょいと挨拶でもしてくるか…」

俺は優ちゃんと共に、のどかさんのいる本屋に向かって歩き出そうとするが…

「…ありゃ?」

不意に目の前が真っ暗になった。

何だか知らんが、いきなり目の前に壁が出来たような…

恐る恐る、顔を上げる俺。

するとそこには、

「小僧ーーーーッ!!」

あのジジジが塗り壁の如く、真正面に立ち塞がっていた。


「小僧ッ!!貴様は……あれほど忠告したにも関わらず、まだお嬢様に近付く気かッ!!」

クワッと目を見開き、仁王のような形相で俺を見下ろして吼える。

何を食ったらそんな風になったのか…

分厚い胸板が、服の下でピクピクと動いていた。


「うっさいジジィじゃのぅ…」

俺は手の平をヒラヒラと振った。

「のどか先輩の執事だか警護役だか知らねぇーが…この神代洸一様が通るんだ。そこを退けぃッ!!」


「ふっ、相変わらず度胸だけはあるようだな……小僧」

ジジィはニヤリと笑った。

小さな片眼鏡の奥の瞳が、キュピーンと光ってる。

「だが、実力の伴わない勇気は、ただの蛮勇と言う。お嬢様に近付きたくば、ワシを倒してみろッ!!」


何を言ってるのでしょうか、この爺さんは?

「さ、優ちゃん。ボケた爺さんは放置しておいて、行こう」


「小僧ーーーッ!!」


「な、なんだよ。もしかして爺さん、寂びしン坊か?」

俺はヤレヤレな溜息を吐いた。

「あのなぁ、アンタが仕事熱心なのは分かるけど…俺は単に、部活の先輩であり、友達でもあるのどか先輩に、挨拶をしたいだけなんだよ。それが礼儀ってモンだろ?」


俺がそう言うと、ジジィはいきなり豪快に笑い出した。

そして表情を改めると

「……笑止ッ!!」


「な、何を言ってるのかサッパリなんじゃが…」


「小僧。貴様が如きがお嬢様の友達などと……戯言をヌカすなッ!!」


「ムッ…」


「お嬢様の寵愛を受けし者ならば、何かしらの宝物ほうもつを御下賜いただいた筈っ!!このワシのモノクルのようになっ!!小僧……貴様にそれがあるかッ!!」


「な、なんだと……」

のどかさんからプレゼントだと…

少し羨ましいじゃねぇーかっ!!


「どうやら、何も頂戴していないようだな?ふふふ……小僧、哀れよのぅ」


ぐぬぅ…

何だか良く分からんけど、めっちゃ腹立つのぅ…

ならばここは、のどかさんを呼んで、直接おねだりしてみようか。

俺は大きく息を吸い込み、そして立ち読みに夢中なのどかさんに向かって、

「ぬぉーーい、せんぱぁーーーーーーーーーーーいッ!!カム・ヒヤッ!!」

と吼えた。


「……」


「……あ、全然聞いてねぇ」


「無駄だ小僧」

ジジィがしてやったりな笑みを零す。

「のどかお嬢様が一度ひとたび集中しだせば、下々の声は届かぬわッ!!分かったのなら、この場から早々と立ち去れぃッ!!」


「くっ…」

ならば心の声を届けるまでよッ!!

俺は両の手を合わせ、精神を集中。

コーイチ ハツ

アテ ノドカセンパイ

コチラ ヲ ムイテ チョーダイ

届けッ!!心のメールよッ!!


「…?」

のどかさんは、いきなりこちらを振り向いた。

そして本を閉じ、トテテテテと駆け寄って来る。


「ば…馬鹿な…」

ジジィは『うぬぅ』と唸り、半歩後ずさり。


のどかさんはどこか嬉しそうな顔で

「洸一さん。それに葉室さん。こんばんは」

いつもの様にご挨拶をした。


うぅ~む、本当に届くとは…

我ながら、かなりビックリじゃわい。

「はい、のどか先輩こんばんは。ってゆーか、ちょいと聞いて下さいよぅ」


「…承ります」


「いや、あのジジィがね、先輩から何か宝物的な物を貰ってないと、友達じゃないとかヌカすんでよぅ。酷い差別ですよぅ。ですからここは一つ、僕に何か下ちぃ。もちろん、飲み掛けのジュースでも良いです。むしろそれは至宝ですから」


のどかさんはコクンと小さく頷き、ややあって

「では特別に酒井さんを…」


――ブッ!!

「いや、それは……結構です。ってか、酒井さんものどか先輩のお友達じゃないですかぁ」


「…そうです。心の友です」


「でしょ?心の友を貰っても、逆に僕ちゃんとしてはどうしたら良いのやら……」


「…洸一さん」


「…はい?」


「既に洸一さんには、私の大事な物を渡してあります」

のどかさんはそう言って、ふふ…と笑みを溢し、そして何故か満足そうに何度も頷いた。


「だ、大事なもの…ですか?」

はて?俺は何か貰ったか?

呪い、とか?


「…心」


「…は?」


「私の心…」


「…へ?」

ど、どーゆー意味だろう?

心って…

魂って意味かな?

何が何だか、僕にはチト分かりませんぞ?





帰宅後…

今日は非常に疲れたので、テキトーに飯を作って(野菜炒めと冷凍フライ)それを食べ、のんびり風呂に入ってゴロゴロとTVを眺めながら

「……腹、減ったなぁ」

俺は独りごちた。


運動をした所為だろうか…

なんとなーく、夕飯だけでは物足りない。

夜食が欲しい気分だ。


「…」

壁に掛かった時計に目をやると、21時ちょいと前だった。


うぅ~む、寝るまでまだ間があるけど…夜遅く食うと、太っちまう恐れがあるからなぁ…

とは言え、そこはそれ、僕チャンも育ち盛りの年頃なワケだし…

しゃーねぇ、ちょいと散歩がてらに、コンビニでも行って来ますかねぇ…

寝間着代りに着ているスウェットの上に薄手のジャケットを羽織り、財布片手に俺は家を出た。

さすがにこの辺りは住宅街と言う事だけあってか、この時間、辺りに人影はなかった。

微かに浮ぶ星々の瞬きの下、ポツンポツンと等間隔で並ぶ街路灯が、寂しげな夜道を照らしている。


俺は鼻歌混じりにいつもの通学路を通り、そして既に明かりの消えた商店街の脇にあるコンビニに入った。

そこで少しだけ立ち読みをした後、オニギリ2個とポテチとウーロン茶を買う。

夜は長い…

何かDVDでも借りて来ようかのぅ…

高校生なのに、宿題をやる、と言う発想が全く出て来ないのが非常に謎ではあるが、俺はそのまま足を伸ばし、駅前にあるレンタルショップへと向かった。

さすがにこの辺りになると、大学生からサラリーマン、そして俺と同じような歳の学生が、少なからずチラホラといたりする。


「さてさて、何か新作はあるかいなぁ…」

と、馴染みであるレンタルショップへ入ろうとした時だった。

その店の窓に写る人影に、俺は思わず足を止め、慌てて振り返る。

「い、委員長閣下…?」

片側一車線の小さな道路の向こう側を、彼女は歩いていた。

制服姿だ。

そしてその隣りには、白を基調とした、隣り街にある白龍大付属の制服を着た男が一人、委員長と並ぶ様にして歩いていた。


「お、おいおい……マジでごわすか?」

思わず呆然と、独りごちてしまう。


だってもう、21時半を回ってるじゃねぇーか…

こんな時間に、なんでこんな所を歩いているんだ?

しかも隣りの男……まさか……彼氏?


俺は自分でも気付かない内に、彼女達の後を尾けていた。

頭の中に、金チャンからのレポートや小山田達の言っていた黒い噂が渦巻く。

伏原さんは夜遅くまで出歩いている…

援交していると言う話も…


いや、そんな馬鹿な…

単なる噂だ。

がしかし…現実に、委員長は俺の目の前を歩いている。

分からねぇ…

こんな時間まで、一体何を…

そして隣りの野郎は……誰だ?

何だか親しげに話し掛けておるが……委員長は相変わらず無視しているような…

うぬぅ…


好奇心と共に、何だか言い様の無いモヤモヤ感が沸き起こってくる。

気になる…

色々と、凄く気になるッ!!

…どうしてかは分かんねぇーけど…

キャラメルコーンの中に入ってるピーナッツの存在意義ぐらい、気になるんじゃッ!!

やがて委員長は別れの挨拶も無しに男と別れ、駅の中へと吸い込まれて行った。


見ている限り、彼氏、ってワケではなさそうだが…

俺は軽く肩を竦め、踵を返して男の後を更に尾ける。

プライベートな事に首を突っ込むなんて、実に俺らしくねぇーとは思うけど…

それでも、あの噂の信憑性を少しでも確かめないと…

事は我が愛すべきクラス、2年B組全体の問題なのだ。

・・・

良く分からんけど、そう言う事にするッ!!


やがて人通りが途絶えた所で、俺を意を決し、その男に話しかけてみる事にした。

もちろん、威したりしてはダメだ。

万が一にも、委員長様の彼氏かもしれないし…

何より俺は、平和主義者(自称)なのだ。


俺は腰を低くし、どこか揉み手で小走りに彼に近付くと、

「も、もし、そこのお人…」

静かにゆっくりと声を掛けた。


「…ん?」

男はいきなり声を掛けられ驚いたのか、目を丸くして振り返った。

間近で見ると、それなりに良い男だ。

勉強もスポーツも出来ます、と言いたげな爽やかな顔をしている。

俺を100点とするならば、こいつは80点と言った所だろう。

委員長様の隣りを歩くには、それなりに申し分無い顔立ちだ。


「…何か?」

その男は、どこか神経質そうな声でそう言うと、ジロジロと訝しげな視線を俺に投げつけて来る。

誠に無礼である。

速くて赤いアンチクショウ、と近隣の街まで鳴り響いたこの俺様としては、今すぐこの場で再教育してやろうかと思ったが……ここは我慢我慢だ。


「え、えへへへ~」

俺は愛想笑いを浮べ、更に腰を低くして

「いやぁ~、実はですねぇ……少しお尋ねしたい事があって……良いですか?」


「……なんですか?」


「い、いやぁ~あのですねぇ~……ついさっき一緒に歩いていた、ちょいと地味目なお下げのメガネッ娘の事ですが……ぶっちゃけ、こんな時間まで何をしていたのかなぁ~~と思いまして…」


「…・はぁぁ?何でそんな事を聞くんです?」

男はあからさまに眉を顰ませると、

「アンタ……一体、誰なんです?何の権利があってそう言う事を尋ねてくるんです?」


「え、え~と……それはそのぅ…」

どうも苦手だなぁ…

こういう偏差値が高そうな野郎は。

「と、ともかく、別に変な意味はないですよぅ。ただ少し気になって……」


「……教える事は無いです」

男はキッパリと言い切った。

そして目を細め、

「アンタが誰なのかは知りませんが……他人のプライベートを詮索するのは、どうかと思いますよ」

ごもっともな意見だ。

だけどね、それで『ハイ、そうですね』と言える程……僕チンは人間が出来てるワケじゃないのよ。

何より、クラスでも広がりつつある委員長の良からぬ噂を否定する為にも……

俺は真実を知る義務があるのですよ。

……多分。


「……おい、兄ちゃん」

俺は背筋をピンと伸ばし、表情と口調を戦闘モードに改めた。

「生な事は相手を見て言うもんだぞ?俺が本気で怒る前に、全部話せ」


「な゛っ…何ですかいきなり…」


「……あん?」


「…え、え~と…」


「…」


「…言います」


男は一睨みで落ちた。

さすが、タイガーと呼ばれた俺様の眼力じゃわい。


帰宅後、コンビニで買ったオニギリを食いながら……委員長の事に思いを馳せた。

あの野郎は、色んな事を教えてくれた。

何でもアイツと委員長は、同じ予備校に通っているらしい。

彼としては委員長に気があるのだが、いつも無視されているとの事だ。

うむ、可哀相なり。

しかしなるほど……

委員長があんな時間まで出歩いているのは、予備校に通っているからなのか…

これで悪い噂の殆どは、消滅したと言っても良いだろう。

だけど何で委員長は、そんな事ぐらい誰にも言わないのだろうか?

彼女も、自分の悪い噂を少しは知っていると思うのだが…

否定しないと、どんどんと広がっていってしまうぞ?

・・・・

それでも、別に構わない……とか思っているのだろうか?

どうにも分からない。

学校でもあんな調子だし…

どうやら予備校でも、それは同じみたいだ。

友達がいなくて、寂しくはないのだろうか?

それとももしかして…

彼女は関西から引っ越して来たのだけど……この街が嫌いなのだろうか?

だとしたら、この街を愛する俺様としては少し哀しいぞよ。













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