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俺様日記  作者: 清野詠一
10/39

それさえも平穏な日々



★4月12日(火)



今日も今日とて、俺は朝から机に突っ伏し、惰眠を貪っていた。

だって眠いのだから仕方が無い。

それになんちゅうか…

昨日の喜連川先輩のこともあり、精神的にも肉体的にも、ちとお疲れなのだ。



…にしても、うるせーなぁ…

目を閉じ眠っている俺は、微かに唸り声を上げる。


教室は、やかましかった。

自習を良い事に、皆テキトーに騒いでいる。


ったく、俺様が寝ていると言うのに…

あまり五月蝿いと、隣りのクラスから苦情が来るぞ…


俺は二の腕で耳を塞ぐ様にして、机の上で寝返りを打つ。

と、すぐ近くから、

『ちょっと伏原さん』

一般ピープルを不安な気持ちにさせるような、凄くアウトローな声が響いてきた。


この声は、小山田か…

夢現のなか、俺は声を聞いて場面を想像する。


『あんた委員長なんだから、少しは注意とかしなさいよ』


ほぅ、小山田にしては中々に良い意見だな。

俺様も賛同しちゃうぞよ


『…ちょっと、なにシカトしてんのよ』


…ぬぅ、機嫌の悪そうな小山田の顔が思い浮ぶぜ…


『……聞いてるの、伏原さん』


『…アンタが静かにさせたらエエやん』


おっ、やっと委員長様が口を開いたか…


『…それ、どーゆー意味よ?委員長はアンタでしょ?』


『…ウチを推薦したのはアンタやろ?だったら、ウチの命令や。小山田さん、みんなを静かにさせーや』


……なるほど。凄い理論だ


『な、なんで私が…』


『委員長命令や』


う~む、あの小山田に対して面と向ってそこまで言っちゃうとは…

中々どうして、伏原の美佳心ちゃんも、強気な性格してるんだなぁ…

あ~~…俺も委員長になりたかったにゃあ…


そんな事を考えながら、俺はウツラウツラと夢と現実の挟間を往来しているが…

ちょいと待て?

一つ疑問が沸起ってきた。

小山田と美佳心ちゃんは、もしかして仲が悪いのではないか?

だってこの前も、俺に伏原さんとあまり仲良くするなとか言って来るし…

だとしたら、何で小山田は美佳心ちゃんを委員長に推薦なんかしたのだろうか?

………

どうも辻褄が合わない。

クラスの代表、つまり軍隊で例えると中隊長である委員長様と言うのは、それなりに実力とか尊敬とか……そーゆー事で選ぶのではないかい?

……

ってゆーか、どうして誰も俺様を推薦してくれなかったのだろうか…

甚だ疑問だ。


…にしても、些か五月蝿過ぎるのぅ…


クラスの中は、依然ザワついていた。

如何に戦友…クラスメイツとは言え、俺様の安眠を妨害するとなると……話しは別だ。

普段はまるで雄大な富士山のように、神々しくクラスの皆を見守っている俺でも…怒る時は怒る。

富士山だって休んでいるだけで火山なのだ。

爆発する時もあるのだ。


ったく…ここは一つ、クラスの守護者である俺様がビシッと言ってやらんと…


そんな事を考えながら、緩やかに意識を覚醒させていると、

『み、みんな少しは静かにしないと…』

『あまり五月蝿くしないで…』

等などクラスの女子達が、どこかオドオドとした感じで注意してるのが聞こえてきた。

中には『静かにして下さいッ!!』と敬語でキレている女の子もいる。

…良く聞いたらそれは穂波だったが…


しかしながら、喧騒は止む気配が無かった。

新クラスになったばかりで、クラスメイツの名前と顔があまり一致しないが…

俺様を除く男どもの大半が、ケタケタ笑いながら騒いでいるようだ。

静かなのは、どうやら1年の時に俺様と同じクラスだった奴らか…俺を知っている奴らだろう。


……やれやれ、小煩いモンキーどもが……

今の内に少し躾けておいてやるか…


覚醒完了した俺は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

そして寝惚け眼でフラフラと黒板前まで歩いて行く。

クラスを一つ纏めるには、勉強が出来るとか運動が出来るとか……

そーゆー綺麗ごとだけではダメなのだ。

時には血を見るような暴力バイオレンスも必要なのだ。

……多分。


俺は教壇の前に立ち、いきなり拳で黒板を叩き付けた。

―――バンッ!!!

凄まじい音に、一瞬でクラス内に静寂が甦る。

皆は皆、何事かと俺を注視していた。


「……次に喋った奴はお仕置きだべぇ」

俺はそう呟き、再びフラフラしながら自分の席へと戻った。


やれやれ、これで安眠できるわい…


だがしかし、やはり新クラスと言う事もあってか、俺様と言う人間を理解していない奴もいるわけで…

俺が静かなる太平の眠りに就こうとしたその瞬間、喋り出した馬鹿が数人いた。

もちろん、お仕置き決定である。

やれやれ……





「神代よ…」

生徒指導室の中、目の前に座っている担任の谷岡先生は、重い溜息を吐きながらガックリと項垂れていた。

「あまり色々と問題を起こすな…」


「別に起こしてねぇーです」


「あのなぁ、クラスを静かにさせようとしたって事は、別に問題ない。むしろ良いことだ。ただ、やり方がなぁ…」


「フッ…俺は、俺の警告を無視した馬鹿どもに軽くお仕置きしてやっただけでごわす」


「…裸に引ん剥いて転がして置くのが、お前のお仕置きなのか?」


「放置プレイの刑でごわす」


「あのなぁ…」

先生は軽くこめかみを押さえた。

「クラスメイトに永遠のトラウマを刻み込んで、お前はそれで良いと思ってるのか?」


「罰ですから。それになんです、自分でも気付かなかった性癖に覚醒しっちゃたりする可能性もあるわけで……それはそれでエエんでないかい?」

何せ女子連中にキャーキャー言われていたからのぅ…

裸で放置と言うマニアックなプレイに、新たな喜びを見出すかも知れないではないか。

……

ま、そのお陰でクラスは余計に騒がしくなったんだけどね。


「神代。昨日言っただろ?次に問題を起こしたら、どうなるか…」


「僕チンは何もしてませんよ?ただ、俺様の命に服しなかった愚か者どもを処罰しただけです。これが軍隊なら軍法会議で下手すり独房行きですよ?それを俺は穏便に済ませてやったんですよぅ……わはははは」


「…取り敢えず、3日間の自宅謹慎だ」


「――マンボッ!?ち、ちょいと待ってくだせェ。冗談きついぜ谷さん」


「冗談じゃないぞ」

谷岡先生は机の上で腕を組み直し、ジッと俺を見つめると、

「正直な話……職員会議で色々とあってな。私がフォロー出来るにも、限度があるんだよ…」


「ふ~ん…ま、頑張ってくれ谷岡チン」


「あ、あのなぁ…」

と、ティーチャー谷岡が、本日何度目かの疲れた溜息を吐いていると、指導室の扉がガラリと開き、隣りのクラスの若い先生が入って来るや、ミスター谷岡に何事かを耳打ちをした。


はて?なんでしょう?

……

よもや自宅謹慎どころか、いきなり無期停学とかかにゃあ?

ま、それでも俺は普通に学校へ通って来るんだけど…


「あ~~…神代よ」


「なんでげす?」


「……自宅謹慎は取り止めだ」

谷岡先生は頭を掻きながらそう言った。


「取り止め?それって…まさか何のお咎めも無しって事ですか?」


「………そうだ」


「え?マジ?それってつまり…ようやくに俺の無実が証明されたって事ですか?」


「お前の何処が無実なんだ?」


「何処って……全てがですよ。何故なら俺は、愛と誠を旗印に慈愛の心と正義を説く永遠のブッダですからねぇ……ハッハッハ」


「……」


「……で、実際の所は何で不起訴なんです?」


「ん?それは…ま、色々とあったようだな」


「は?」


「私も詳しい事は知らん」

谷岡先生はゆっくりと椅子から立ち上がり、軽く腰を叩く。

「ただ…色んな先生達にな、上から圧力が掛かったみたいだ」


「……へ?上?」


「…神代。お前……3年の喜連川クンとは知り合いなのか?」


「喜連川クンって……もしかして喜連川のどか先輩ですか?」


「そうだ」


「知り合いも何も……昨日、友達になったばかりです」

実際は、主従関係を結んだ、と言った所だけどな。

「で、それが何か?」


「……喜連川クンの家は、この学校の理事とかにも絡んでいてなぁ……分かるだろ?」


「…まぁ、何となく」


「だから……そーゆー事なんだよ」





「うぅ~む…」

生徒指導室を後にした俺は、ブラブラと歩きながら独り唸っていた。

何時の間にか休み時間になっており、廊下は生徒達でワイワイと賑わっている。


なるほど…

谷岡先生の言わんとした事は、何となくだが分かった。

つまり今回、俺様に対して何も処分が下されなかったのは…

喜連川先輩を通して職員側に圧力が掛かった……と言う事らしい。


どうして先輩が、俺の瑣末な不祥事の事を知ったのかは謎だが…

「あ~~…参ったなぁ」

これで一つ、先輩に借りが出来てしまった。

…正直な話…

俺はオカルト研究会に仮入部したワケなんだが、そのまま幽霊部員を決め込んで、ごく自然にフェードアウトしようかと思っていた。

だがしかし、恩を受けたとあっては、そうも行くまい。

この洸一、鎌倉武士ばりに御恩と奉公を大事にする男なのだ。


「しゃーねぇーなぁ…」

俺は頭を掻きながら苦笑いを一つ。

ま、暫らくはあの美人だけどちょっぴり怖い先輩に付き合ってやるとするか。


そんな事を考えていると、不意に聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。

キーンと耳につんざく笑い声。

お馬鹿の智香の声だ。

教室の入り口の所で、何やら友達と駄弁ってるらしい。


やれやれ…

相変わらず、かしましい女だぜ…


と、俺はそのままスルーして自分の教室に向おうとするが、

『え?私の付き合ってる男?』


「……」

面白そうな話だったので、俺は思わず足を止め、聞き耳をそばだてるのだった。





俺様クラスの隣室、2-Cの教室の前、俺の足はブロンズ像のように固まっていた。

扉のすぐ近くから聞こえる、智香とその他の女の子の声。

何やら面白げな会話をしておりますぞ。

俺は何気を装い、壁に寄り掛る。

もちろん両の耳は、智香達の会話に集中だ。


『付き合ってる男って……何の事?』

珍しく戸惑っている智香の声が響いてきた。


『え?風早さんって…付き合ってる人とかいるんでしょ?』

見知らぬ女Aが言えば、

『そうだよねぇ。風早さんって美人だし、当然いるわよねぇ』

と見知らぬ女Bが断定する。


ふむ…付き合ってる男か。

そう言えば不思議と、智香のそんな話は聞いた事が無いのぅ…

アイツはいつも、他人の恋路ばかり話しているし…


『い、いないわよ。私はフリーよ』


うぅ~む、智香も黙ってる分には可愛いんだけどなぁ…

あの独特の片目隠しヘアーも、見ようによってはちょっとお洒落だし…

ただ、口を開くとダメッぷりが発揮されてしまうからのぅ…それが大きなマイナスだな。


『え~~…それ本当?』

と、見知らぬ女C。


『ほ、本当よ。生憎とこの智香ちゃんは、お目がねに適うステッキーな男とは出会った事がないのよ』


……お前は何様だ?

と言うツッコミは置いておくとして…

智香に相応しい野郎か…

・・・・・・

あの馬鹿の話を一日中黙って怒らずに聞いてやれる懺悔室の神父のような男が、この世に存在するのか?

いるとしたら、そいつは銅像か何かだぞ。


『え?でも風早さんって……隣りのクラスの古河君と親しいじゃない。だからてっきり…』


『へ?古河……クン?』


古河?ん?誰だ?


『……あ、豪太郎のクンの事かぁ』


豪太郎かよッ!?


『あははは、豪太郎クンはただの友達。同じ中学だったしね』


『え~~、それ本当かなぁ?』


…見知らぬ女Aよ…

それは俺様が保証してやる。

例えだ、仮に智香にその気があったとしても…

豪太郎の方には無い。

何しろ豪太郎の好物は『美少年』だからのぅ…


『でもさぁ、古河クンってカッコイイよねぇ』


――ブッ!!


『え?そ、そう…かなぁ?』

智香の戸惑った声。


『そーよ。風早さんはずっと近くにいるから、気付かないんじゃないの?』

『だよねぇ。古河クンってさ、スポーツも勉強も出来るし、何よりカッコイイじゃない。女の子に対して凄くストイックって言うか、クールだし…』


クール?ストイック?あれは単に、女に興味が無いだけなんだが…

しかしまぁ、確かに豪太郎は女どもに人気があるよなぁ。

・・・・・・

奴は人の皮を被ったマイケルなのにな。


『そう言えば風早さんは、あの神代クンとも仲が良いわよね?』


……俺?

しかも、「あの」って…どーゆー意味?


『神代クンって……コーイチのこと?』


『そーよ。あの神代クンよ』

『ねぇねぇ、どうして風早さん…あの神代クンと仲が良いの?』


『へ?どうしてって言われても…』


『だって神代クンってさぁ……かなりアレじゃない』


アレってなんだ?


『かなり…怖いよね』


怖い?

俺のどこが怖いんだ?

・・・・

もしかして、下腹部にある自慢のハイパー兵器(我が愚息)のことか?

確かに、自分で言うのも何だが……頼もし過ぎて少し怖いよな。


『そうかなぁ?ま、確かにコーイチは少し性格的に変だけど…全然恐くないよ?』


『え?そうなの?』

『でもさ、さっきもいきなり指導室へ呼ばれてたみたいだよ』

『聞いた話だと、何でもクラスメイトを数人半殺しにしたって…』


し、してねぇーよッ!?

言う事を聞かない馬鹿どもに、ちょびっとお仕置きしてやっただけだよッ!!


『うぅ~ん、その情報はまだ未確認だけど……コーイチは理由も無しに、そんな事しないわよ』


……智香……


『…そうだな。風早智香の言う通りだな』


……誰?


『あ、二荒さん…』


二荒ッ!?二荒って……あの二荒真咲?


『私は風早智香ほど、あの男の事を知らないが……アイツは、悪い事をする男ではない。ただ結果的に、悪く見えてしまうだけだ』


二荒…

あの二荒が、俺様を弁護してくれている…

・・・・・・

とても昨日、俺を成層圏まで吹っ飛ばしてくれた女の子には思えないぞ?


『二荒さんの言う通りよ。って言うか……二荒さん。コーイチと知り合いなの?』


『えッ!?い、いや…知り合いと言うか……少し…話をした事があるだけと言うか…』


…あれ?俺に2回ほど地獄を見せてやったとは言わないのか?


『ふ~ん…それは初耳』


『…風早智香。手帳を取り出して何を書いている?』


『いや、別に……あはははは』


ぬぅ…

智香の馬鹿、また変な噂を立てる気じゃねぇーだろーなぁ…

・・・・

にしても、智香や二荒はともかく、俺は一般女性徒から、少し危険人物と見られていたのか…

・・・・

ちょっとショックだ。

道理でナイスガイで正義の人である俺様が、今少しモテない…と言うか、時々変な目で見られている理由が少し分かったわい。

これからは、ちょっと行動を改めてみるかにゃ?





教室に戻るや、真っ先に駈け付けてきたのは、意外な事に小山田達トリプルナックルの面々だった。


「神代……どうだった?やっぱり停学?」

とツインテール小山田が言えば、長坂は心配げな表情で、

「先生に…怒られた?」

そして跡部は

「神代くぅ~ん、100円貸して。購買の自販機でジュース買いたいけど、小銭がないの」

相変わらずマイペースだ。


「いや、まぁ…別に怒られはしなかったぞ。もちろん停学も無い」


「そ、そうなの?」

と長坂。


「まぁな。なんちゅうか、無罪放免だ」

俺はやれやれと肩を竦めてみせる。


すると小山田は些か驚いたような顔で、

「え?なんで?それって…おかしいじゃない?あんな酷い事して大騒ぎしたのに……てっきり私は、軽くて無期停学だと思っていたんだけど…」

酷い事を言ってくれます。


「まぁ、政治的圧力が働いたというか……正義はな、必ず最後には勝つんだよ」


「…あんたのどこが正義なワケ?」


「ふっ、悪党の貴様には分かるまい」


「…」


「…そんな目で睨むから悪党なんだよ。それよりも、俺様がお仕置きしてやった馬鹿どもはどこだ?」


「え?あの人達なら泣きながら早退して行ったわよ。明日、学校へ来るかどうか……」

長坂が少しだけ憐れんだ顔で言った。

「それにしても神代クン。いきなりキレるんだもん…少しビックリしたよ」


「俺はキレてなどいないぞ?むしろマシーンのように冷静沈着に対処した方だ」

そもそも俺が本当にキレたら、教室は半壊だ。


「そ、そうなんだ…」


「でもまぁ、何も無かったのは少し拍子抜けね」

と小山田。

「あんたが停学とかになったら、あの野郎を糾弾してやろうと思ってたのに…」


「は?あの野郎って?」

早退した男子の事か?


「伏原よ」


「ん?委員長のことか?」


「そーよ」

小山田はさも当然と言った具合に唇を尖らせると、相も変わらず一般ピープルを慄かせるような低い声色で、

「そもそも、全ての元凶はあの女にあるんですからね。いつか絶対、キャンと言わせてやる…」


「お、おいおい…委員長は別に何も悪くないと思うんじゃが…」


「どこがよッ!!」


「―キャンッ!?」


「あの女が皆にちゃんと注意していれば、神代だって指導室に呼ばれる事はなかったじゃないの。違う?アイツは委員長なのに…職務怠慢よッ」


う~む…

確かに、小山田の言う事にも一理あるような気もするけど…

何か少し違うと言うか…どーしてそこまで感情的になるのだろう?


「まぁ、俺は別に怒られてもいないし……そんなにムキになるな。同じクラスメイツじゃないか…仲良くやって行こうぜ」


「……」

「……」

「神代くぅ~ん、100円…」


「…ほらよ」

俺はポケットから200円を取り出し、跡部に手渡す。

「ついでに、俺にも何か買って来てくれ」

そう言い残し、俺は小山田達の元を離れ、友人と駄弁ってる穂波の所へと行った。


「あ、洸一っちゃん…」


「よぅ」


「その顔は…無罪だったみたいだね♪」

穂波はニコニコと笑顔で言った。

さすがに付き合いが長いだけあって、既にこの程度の事で心配はしないようだ。


「当たり前だ。一体俺が何をしたと言うのか…」


「裸にするのはやり過ぎだよぅ」


「そうかぁ?ま、確かに……一人はちょっとやり過ぎたと思うが…」

俺様に逆らったのは3人だった。

だから俺は正義の拳で以って彼奴らを調伏してやり、裸に引ん剥いて晒し者にしてやったのだが…

その内の一人は、出来る男の必需品である、アレの皮を自然にアレして本物の男になれると言う特殊なパンツを着用していたのだ。

さすがの俺様も、彼だけは見逃せば良かったと……ちょっと後悔だ。


「ま、それはさておき……穂波、ちょっと良いか?」


「うん、なぁに?」


俺は穂波のお友達に、ちょいと席を外せや的な視線を走らせると、小声で

「穂波。お前さ、委員長様と1年の時…同じクラスだったよな?」


「へ?委員長様って…伏原さんのこと?」


「そうだ。伏原の美佳心ちゃんのことだ」


「うん、一緒だったけど……それがどうかしたの?」


「いや、なに……伏原ちゃんってさぁ、1年の時から小山田達と仲が悪かったのか?」


「うん、そうだよ」


「…物凄くアッサリだな、おい」


「だって本当の事だもん」

穂波はそう言うと、フゥ~と溜息を吐きながら、

「何が原因なのか分からないけど……気が付いたら、小山田さん達が伏原さんにちょっかいを出してたの。だからね、私も伏原さんをそれとなく庇おうとしたけど…」


「当の本人に無視された……ってところか?」


「う、うん…」


「なるほどねぇ…」


「……光一っチャン。また首を突っ込むの?」


「あん?」


「洸一っちゃんって、昔から面倒臭がり屋のクセに、苛めとかそーゆーのを見ると、放って置けないって言うか……」


「…和を尊ぶ男だからな、俺は」


「でも大抵、下手に首突っ込んで余計にグチャグチャになっちゃうんだけど…」


「クッ…」


「光一っちゃん。あまり余計な事はしない方が良いよ?ウザいって言われるよ?」


「…心配するな穂波。俺は別になにもしねぇーよ。ただちょっと……少し気になっただけだ」





お昼休み…

教室は賑わっていた。

机を移動させながら、和気藹々とお弁当を広げている者達…

だがしかし、そこに委員長の姿はなかった。

お弁当を持って、ふらりと何処かへ行ってしまったのだ。


どこに行ったんじゃろう?

他のクラスに仲の良い友達でも居て…そこに行ったのだろうか?


「…さて、俺もボチボチと飯にするか」

独りごち、教室を出て向う先は食堂。

本日の昼飯は何にしようか?

いつもの定食にするか…

それとも購買でパンでも買うか……むむ、これは実に難しき問題だ。

・・・・・・

いや、別に難しくはないけどな。





購買でパンを買った俺は、ブラブラと中庭を歩いていた。

何故に今日はパンにしたのか…

それは定食コーナーより購買の方が空いていたからだ。

そして何故に中庭にいるのか…

それは廊下を歩いていたら、ベンチに腰掛けている先輩を発見したからだ。


「…と言うワケで喜連川ののどか先輩。今日も良い天気でゲスなぁ~……ハッハッハ」

俺は中庭の奥まった所にあるベンチに腰掛け、独りぽつねんとお弁当を食べている喜連川先輩の元へ駆け寄り、そう声を掛けた。

「ところで先輩は、独りですか?」


「…」(コクン)


「一緒に飯食っても良いですか?」


「…」(コクン)


「では遠慮なく」

俺は先輩の横へ腰掛けた。

何だか少し、風に乗って彼女の良い匂いが漂ってくる。

「いやぁ~……しかしなんちゅうか、如何にも春って感じの爽やかな日和ですねぇ。こういう日は、外で食べるのが何よりですね」


「…です」


「っと、そう言えば先輩。先程はどうもありがとう御座いました」

俺は紙袋の中から昼飯である惣菜パンを取り出しながら、軽く頭を下げた。


「…?」


「いや、そんな不思議そうな顔をされても……ほら、午前中、俺が問題を起こした時、それとなくカバーしてくれたでしょ?」


「……」


「…先輩?」


「……」(コクンコクン)

先輩はやっと思い出したかのように何度も頷き、微かに照れた声で

「洸一さんは、大事なお友達ですから…」


あ、可愛い…

「ハッハッハッ、それはどうもありがとう御座います。にしても、よく俺が指導室へ呼ばれているとか分かりましたねぇ」


「…酒井さんが教えてくれました」


「は?酒井さん?」


「オカルト研究会の酒井さんです」

先輩は相変わらずの無表情でそう言った。


「そ、そうなんですかぁ…」

いや、酒井さんって誰よ?

どんな人なんでしょうか…


「……オカルト研究会は、ファミリーです」


「は?」


「契りの契約を交したその瞬間から、皆さん、いつも洸一さんを見守ってくれています」


「な、なるほど。何だかマフィアと言うかフレンチコネクションと言うか…言葉の意味は良く分かりませんが、少し恐いですなッ!!」


「?」


「…何でもないです。独り言っス」

俺はパンを齧りながら呟いた。

「ところで先輩、本日の部活動は…」


「…あります」


「あ、やっぱり…」


「今日は洸一さんに、本物の魔法を御覧になっていただこうかと…」


本物の魔法?

な、なんだろう?

って言うか、偽の魔法ってあるのか?


「そうですかぁ。それは楽しみですなッ」


「はい…」

のどか先輩は無表情に頷くが、その瞳は実に嬉しそうな色を湛えていた。





あっと言う間に放課後…

俺は昨日に引き続き、新校舎にあるオカルト研究会の部室に来ていた。


「ち、ちわぁーっす…」

酒屋の御用聞きのような口調で扉を開けると、そこはもう、泣く子も引き付けを起すトラウマ必至の異次元世界。

一歩足を踏み入れた瞬間から、言い様の無い冷気が体を包み込む。


「ありゃ?のどか先輩は…まだですかい」

部室の中に、彼女の姿は無かった。


ふむ…

俺はポリポリと頭を掻きながら、折畳みのパイプ椅子を取り出して腰掛ける。

さすがに、昨日の今日では、まだまだこの不思議空間には慣れない。

実に落ち付かないと言うか、やっぱり恐い。

既に少しだけオシッコ的なモノをチビッてる状態だ。


「……見てるし」

顔を上げると、例のガラスケースに入った市松人形と目が合ってしまった。

気のせいか…いや気のせいでは無く、明らかに俺をジッと見つめている。

俺は俯き、ポリポリと痒くも無い頭を掻く。


ぬぅ…

日本人形って、やっぱ少し恐ぇよなぁ…

なんちゅうか、魂が宿ってる感じがするよ。


もう一度、チラリと人形に視線を走らすと…市松人形は『…クスクスクス』と笑っていた。

「…」

更に尿が出た。

嫌な汗も額に浮ぶ。


この部室の中は、実に不思議が一杯だ。

御高齢の方や心臓に持病のある方にはお勧め出来ない、バリアフリーのバの字も無い部室だ。


ワラ人形ジュリエッタは動くし、この市松人形は奇声を上げるし…

最初は、何かトリックがあるだろうと思っていた。

もちろん、今でも少しはそう思っているが……何が真実かを確かめる気にはなれない。

万が一、何も仕掛けがなかったら…

俺のアイデンティティは崩壊してしまうだろう。

あと確実にチビる。

しかも大の方をだ。


…お、恐れるな神代洸一…

あの人形の中には、きっと小型のスピーカーとかが内蔵されているのだ。

そうに違いないッ!!

そうであってくれッ!!


「…」

唾を飲み込み、再び市松人形を見やる。


『…』


「…」


『…』


「…やっぱり…喋らねぇーよな?幻聴とかだよな?」


『…キーーーー』


「…」

俺はサッと面を伏せた。

おパンツは既に、オムツ必須なレベルでしっとり状態だ。


の、のどかさん……早く来てくれッ!!

お、俺…俺はもう…


―――カチャリ…


扉の開く小さな音に、思わずビクンッと心臓と体を震わせながら振り返るが…

そこには誰もいなかった。


「…のどか先輩?」

呼び掛けながら、廊下を確認。

…誰もいない。


「…か、風で扉が開いたのかにゃ?」

扉を閉め、元の場所に戻るが、

「椅子、無くなってるし…」


『…クスクス…』


「…もしかして俺、イヂメられてる?」





廊下で佇むこと数十分…

トテトテと上履きの音を響かせ、のどか先輩さんが、のんびりと歩いてくるのが目に入った。


「…先輩」


「…あ、洸一さん…」

ちょっとだけ小走りになる先輩。

「…待たせてしまいました」


「いやぁ~…全然、待ってないですよぅ」


「…部室の中でお待ちしていれば宜しかったのに…」


「い、いやぁ~…廊下の方が気が休まると言うか…ここが安全地帯と言うか…」


「??」


「それよりも、ささッ、のどか先輩…お先にどうぞ」

俺は部室の扉を開け、先輩を誘う。

のどかさんは不思議そうな顔をしながら部室へと入るが、突然、何を思ったのか小走りに棚に近付くと、例の市松人形の入ったガラスケースの戸を開けた。


「せ、先輩?」


そして大事そうに市松人形を抱いた先輩は、俺の元へ戻って来るや

「洸一さん。彼女が酒井さんです」


「――ブッ!?」

鼻水が零れた。


「洸一さんのピンチを、報告してくれました」


「そ、そうなんですかぁ…」


「…はい。洸一さん、酒井さんにお礼を…」

そう言ってのどかさんは、俺に呪われた市松人形を押し付ける。


ぬぅ…

俺は恐る恐る、その人形……と言うか酒井さんを胸に抱いた。

お、恐れるな洸一…

これは全部、トリックだ。

ドッキリに違いないのだッ!!


「あ~~…酒井さん、今日はドウモアリガトウ…」

俺はぎこちなく、少し震える手で人形の頭を撫でる。

その瞬間、酒井さんは『キィーーーッ!!』と奇声を発し、あろう事か俺の首筋に抱き付いて来たのだった…



…今日、この日…

僕は16年間生きてきて、初めて心の底から絶叫した。





「…酒井さんは、悪戯好きなのです」

のどかさんは飄々とした顔で、どこか楽しげにそんな事を言う。

「でも本当に気に入った人にしか、話し掛けません。洸一さんは、酒井さんのお気に入りです」


「そ、それは…どうも」


「…どうかしましたか、洸一さん?顔が…少し蒼いです」


「いや、どうもこうも…さっきから、心臓のドキドキが治まらなくて…はは…」

俺は額に浮かぶ嫌な汗を拭った。

「ところでのどか先輩。今日は一体、どこへ行こうと言うんです?」


「…屋上です」


「屋上?」


「はい…」

のどかさんはコクンと頷き、手にした大きくて古めかしい辞書のような本を胸に抱きながら、

「今日は洸一さんに…お昼にも言いましたが、先ずは簡単な魔法を御覧になっていただきます」


「ま、魔法ですか…」

僕は既に酒井さんでお腹一杯なんだけどなぁ…

「ど、どんな魔法なのかにゃあ。少し楽しみですなぁ」


「フフ…秘密です」

先輩は嬉しそうに微笑んだ。





屋上は、実に爽やかであった。

先程の事が夢であるかの如く、涼やかな風が俺の頬を撫で、ここが現実世界だと実感させてくれる。


「先輩、屋上へ着きましたけど…一体、何をやらかそうと言うんです?」

屋上には、チラホラと人影があった。

文科系クラブの面々や、特に予定の無いヒマな奴。

更には部活をサボってる運動系の面々が、何するワケでもなく屯している。

彼等に被害が及ばない事を、心から願おう。


「今日は、お天気を操る魔法をお見せします」


「天気を…操る?」

ウェザー系の魔法か…

ゲーム的に言えば、ドルイド系の魔法かな?


「はい。今から雨を降らせます」


「雨をッ!?」

俺は空を見上げた。

…ピーカンだ。

雲一つ無い、これでもかッ!!と言うぐらい杉花粉が舞っている…そんなステキなお天気だ。

降水確率は、確実に0%だろう。

「ほ、本当に…そんな事が出来るんですか?」


「…出来ます」

先輩は珍しく、強気な表情で頷いた。

「この命に代えましても…」


「いや、命まで懸ける必要は全くないんですが…」


「では、早速始めましょう」

先輩は手にしていた大きな本を俺に手渡し、やおらポケットからチョークを取り出すと、屋上の床に何やら大きな図形を書き込んでいく。

いわゆる、魔方陣と言う奴だ。

生まれて初めてリアルで見た。

実に手馴れた手つきで、丸やら三角やら未知の文字やらを、どんどんと書き込んで行く。


うぅ~む、見事なものですなぁ…

俺は感嘆の息を漏らした。

この喜連川先輩は、色んな事を知っている。

凄い人だ。

心から、尊敬してしまう。

・・・・・

もっとも、一般社会では全く役に立たないと言うか…

取り敢えず、履歴書には書けない特技の宝庫なのが悲しいが。


「…出来ました」

何時の間にか彼女の足元には、小さいけれどやたらゴチャゴチャとした魔方陣が描かれていた。

「ではこれより、呪文を詠唱します」


「ど、どうぞ…」


「洸一さんはそこで、雨が降りますようにとお祈りして下さい」


「了解でゲス」

俺は言われた通り、手を合わせ、心の中で『雨降れ雨降れ』と呪詛のように繰り返した。

そして先輩はと言うと…

魔方陣の中央で本を見開き、指を天に翳しながら何やらブツブツと唱えている。


雨降れ雨降れ…

雨降れ雨降れ…

雨降れ雨降れ…


…冷静に考えると、凄く異様な光景だと思う。

ブツブツと祈る俺に、これまたブツブツと呪文を詠唱している、のどかさん。

気のせいか…いや、気のせいではなく、物凄く恥ずかしい。

屋上に屯している見知らぬ面々も、遠巻きに俺達を見つめ、何やらヒソヒソと囁き合っているではないか。


うぬぅ…

ダンディ…もしくはクールガイと呼ばれた俺様が、何でこんなトンチキな事を…

だが、チラリと先輩に目をやると……彼女は真剣だった。

マジで雨を降らそうと…

俺に魔法を見せようと…そんな気迫が伝わってくる。


い、いかんいかん…俺もちゃんと祈らなければ…

考えるな洸一ッ!!感じるんだッ!!!

・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・

何を?





「まぁ、そんなにしょげないで下さいよぅ」

靴に履き替え、校庭へ出た俺は、ションボリと肩を落としている先輩に、頭を掻きながら慰めの言葉を掛けていた。

「なんちゅうか、雨は降りませんでしたけど…気迫と言うか…そーゆーのは伝わってきましたから。いや、マジで俺は、魔法と言う存在を信じているッス」


そう…先輩、のどかさんの魔法は、成功しなかった。

空は雨どころか、雲一つない良いお天気のままだった。

のどかさんは、魔方陣の書き方を少し間違えました…

とか言っていたけど、それは本当だろうか?

もう少し、俺が真剣に祈っていれば…成功したのではないだろうか?

彼女の落ち込んだ横顔を見るたび、とてつもなく心が痛む。


うぬぅ…

「の、のどかさんッ!」


「…」


「どうです?いっちょ景気付けに、バーガー屋でシェイクの一気飲みでもしませんか?ちょうど今、期間限定のシェイク、竹の子味が出てるんですが…」


「…すみません。寄り道は…出来ないんです」

のどか先輩は、更にションボリショボショボと言った様になった。


「あ、そうですかぁ…やっぱお迎えを待ってないと、ダメなんですか?」


「…」(コクン)


そうだよなぁ…

変な趣味に傾倒しているとは言え、先輩は正真正銘、全開バリバリのお嬢様だモンなぁ…

何処に出しても恥ずかしい庶民な俺とは、やはり住む世界が違うか…


「今日は…お家に帰って、自己批判をします」


「…は?自己批判?」


「…です」


「せ、先輩。もっと気楽に行きましょうよぅ♪」

俺はどこかぎこちない笑みで、そっと彼女の肩に手を添えながら、

「今回は、見ることは出来なかったですけど…俺は全面的に魔法を信じているッス。だからそんな…落ち込んだり自分を責めるような真似は、止めましょうよ」


「…」(フルフル)


「へ?違います…ですか?」


「私は、とんでも無い事をしてしまいました」


「な、何をしたんですか?」


「…私の魔法は…強力なんです。凄いんです。戦闘力に換算すると、一億以上なんです」


「は、はぁ…」

な、なんか良く分からんけど、本当に凄そうだなぁ…


「でも…今日は洸一さんにお見せしようと…少し気負い過ぎてしまいました。魔法は…繊細なのです。しかも要である魔方陣を書き損じるなんて…」


「いや、でもそのぐらいの失敗は…」


「ダメです」

のどか先輩さんは珍しく声を荒げ、俺をジッと見つめた。

「少しの失敗が、取り返しのつかない事態を招く事もあるのです」


「は、はぁ…」

なるほど…

のどかさんにしてみれば、俺に魔法を見せる事が出来なかった…

と言うよりは、失敗して他にどのような悪影響が出てしまうのか、と言う事を心配して、落ち込んでいるのか…

「で、でもでも…万が一にも、魔法そのものが失敗していると言う場合もあるワケでして、そんなに心配することは…」


「……失敗?私の魔法が……失敗?」


「え?いや、その…」


「……」


「…ゴメンナサイ。失言でした」

俺は素直に頭を下げた。

何だか良く分からないが、のどかさんの魔法そのものを疑うと、後でキッツイ呪いを掛けられそうな…そんな気がした。


「…分かってくれれば宜しいです」

のどかさん慈愛の表情で、俺の頭をナデナデしてくれる。

あぁ…何だかとても怖い。


「と、ところでのどか先輩。今日はあのジジィ…遅いですね」


「ジジィ……ロッテンマイヤーですか?」


「そうですそうです。、昨日俺様に喧嘩を売ってきた、あのゴリラとマントヒヒを足してシェイクした悪魔超人ばりなムキムキ爺ィですよぅ。一体、あの野郎は何なんですか?いきなり人間様に襲い掛かって来るなんて……調教が足りませんなッ」


「すみません…」


「いや、先輩が謝る事じゃねぇーですけど…」


「ロッテマイヤーは、喜連川の執事長で私専属の警護役…」


「警護役…ねぇ」


「…です。少し心配性なのです」


「うぬぅ…そーゆー問題じゃないような気がしますが…」

と、俺は頭を掻きながら、何気に校門に視線を走らせると

「ゲッ…」

そこには何時からいたのか、あのジジィが肩を怒ら突っ立っていた。

のどかさんと親しげに話している俺を、親の仇を見るような目で睨み付けている。


「…のどか先輩。あのジジィ…来ましたよ」


「…(コクン)。では洸一さん、参りましょう…」


「え?あ、いや…今日の所は、ここで失礼します」


「…?」


「ハッハッハ…ささ、のどか先輩。あのジジィが待ってますんで、早く…」


「……分かりました。では洸一さん、ご機嫌よぅ…」

のどかさんはペコリとお辞儀をすると、そのままトテトテと妖怪変化のようなジジィの待つ校門まで歩いて行き、あの馬鹿でかいリムジンにへと吸い込まれて行った。

そして彼女を乗せたリムジンは、ブルルルンと鈍く短い排気音を響かせ、滑る様にして黄昏の街へと消えて行く。

俺はただ、それを黙って見送っていた。

去り際に、ジジィが物凄い一瞥をくれたのには、かなりムカついたが…


「魔法使いのお嬢様、か…」

趣味も思考も、住む世界さえ違うと言うのに…

何故か妙に、先輩の事が気になってしまうのは、どうしてなんだろう?

・・・・・

恐怖心からだろうか?



帰宅後、飯を食いながら何気にニュースを見ていると…

中国北東部で、突発的に発生した大豪雨により、数万人規模の被害者が出た…と報道されていた。

・・・・

ふと、これはもしかたら…のどかさんの魔法の失敗が原因では…

と、考えてしまったが、そんな事はないだろう。

・・・・

絶対に無いッ!!

と断言出来ないのが、ちと恐ろしいが…










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