会議
避難民を連れて脱出する策をメンバーと話し合う前に、俺と相沢は世界規模で行われるファントムミサイルによる都市部への「攻撃」及び選民者の避難先である「楽園」……そして人間がゾンビとなってしまう原因である鉱物生命体【ゼロ】について話した。
メンバーは征龍会の小野・千月・警視庁生活安全課の刑事である笹本……そして、飛び入り参加をしてきた弟の正平と政治家の金目鯛だ。
征龍会の2人と金目鯛は「この事」を事前に知っていたのか、眉1つ動かさず話を聞いていたが……
……俺もゼロに感染し、変異型である【ゼロイーター】を発現した事を伝えると、小野は驚いた顔を隠すように被っていた帽子を目深に被り直し……千月は悲しそうな表情を見せた。
「言葉が出てこんよ……警察は市民を街ごと焼き払う為に足止めする「捨て駒」とされていたのか。無念だ……知らぬとはいえ、本来なら市民を助ける警察が「虐殺」の手伝いをしていたとは……」
人一倍に正義感と使命感が強かった笹本さんには許せない事実だったのだろう。内から涌き出てくる怒りを抑え込み、あたかも苦虫を噛み締めたような表情を見せた。
「しかしナメてるよなぁ~。上の連中はサッサとトンズラこきやがって。マジに気合い入れてよぉ~ゾンビと戦えばいいじゃねーか。そうは思わねぇ? 金目鯛のオッサン」
馴れ馴れしく肩を叩かれながら同意を求められた金目鯛は、明らかに不快感を露にして邪険に弟の手を払いのけた。
「馬鹿者がっ! 都市部に何万の人間がいると思っとるんだ。自衛隊や警察などで奴等を抑えられる訳がないだろうっ! ファントムミサイルによる都市への「熱処理攻撃」は政府として合理的な判断だっ!」
「へへっ……んなこた言ってもよぉ~。ここでチンタラしてたらアンタもソレに巻き添えくっちまうんだぜぇ~? 丸焼きっ♪丸焼きってなぁ~♪ ハハハ」
人を食ったような弟の態度と言動に苛立った金目鯛は、顔を真っ赤にして癇癪を起こした。
「……何を笑っとるっ! 「丸焼き」になるのは、お前も一緒ではないかっ!? 他人事のように言うんじゃない!お前……ちょっと頭が弱いのかっ!?」
2人の言い争いになりそうな雰囲気を察した相沢は、即座に大きな柏手をして場を締めた。
「はいはーい。それまでっ! 俺達は「お喋り」しに集まったわけじゃないのよ。横道にそれないそれない……それじゃ小野さん、とりあえず話し合う前に施設にある戦力を説明してくれないかな?」
要請を受けた小野は淡々と現状の戦力を語った。
銃火器は小野が所持している9ミリパラベラム弾を使用するオートマチック拳銃2丁と千月が持つポンプアクション式の散弾銃が1丁。
ここにある残弾は9ミリ弾が30発少々・ショットシェルが15発あると言う。
笹本さんも支給された警察用拳銃を所持しているが、弾は道中で使い切ってしまったらしい。
一方、俺達の方は拳銃の弾が各々1マガジン分を所持している……だいたい2人合わせて30発くらいか。
そうなると拳銃の弾が60発程・ショットシェルが15発ある事になる。高火力であった突撃銃WSAR-8の弾を使いきってしまったのが悔やまれるところだ。
「……およ? 千月ちゃんのショッティー(※ショットガン)よく見ると味なカスタムしてるねぇー。チョビッと銃身を短めにして取り回しを良くしてるのは室内戦の為かな?」
これ見よがしに千月に急接近した相沢……やれやれ、また奴の悪い癖が出たようだ。
「そ……そうです。グリップも専用の物に交換しています。あの……すみませんが、もう少し離れて会話しませんか……? ちょっと距離が近すぎるので」
千月にチョッカイを出す相沢に腹が立ったのか、弟はすぐさま暴言に近い言葉を吐いた。
「ウゼー絡みを見せつけてんじゃねーゼ!このエロオヤジっ! 場をわきまえろや変態野郎っ!」
「ほ……ほほぉ~、スケベとエロオヤジのダブルときたか。この相沢君に対して生意気に言ってくれんじゃねーか。君には【情熱的な指導】が必要のようだね……あ、先に言っとくけど、後でゴメンナサイは通用しないよ」
喧嘩の合図のように両手拳の骨を鳴らす相沢の仕草に弟は呼応した。
「……あぁっ!? 上等じゃねーかよ~! ブチのめしてやんぜぇ~っ!」
やれやれ……自分で横道にそれないようにと言っておきながらコレだ。相沢と正平が睨み合う中、今度は小野が場を締める。
「……相沢君、進行役の君がそれでは困る。これでは話が一向に進まない。私が進行役を引き受けよう……異存はあるかね?」
凄味を帯びた小野の言葉に、相沢は2つ返事で了承した……最初からそうしていれば、と思うのは俺だけだろうか?
とはいえ、小野が進行役になっても施設脱出に関しての策は難航した。下水道を通って施設から脱出する案も出ていたが、俺達が思っていた以上に下水道は不衛生な環境で危険な状態である為、却下された。
あとは持てる火力を集中させ、全員を連れて突破するか……少数精鋭でゾンビ達の包囲網をくぐり抜け、俺達が乗ってきた装甲車を使ってマリアが待つ施設まで避難民を輸送する方法だが……
「俺達が乗ってきた装甲車には、どうがんばっても10人チョイ位しか乗せられねぇ。そうなると1台での輸送は無理だ。マリアの研究施設に輸送に使える車両があればいいんだが……まぁ、それは後で聞いてみてだな」
この施設には俺達を含めて25人の人間がいる。
1台の装甲車で研究所と施設を往復すればギリギリ輸送できる人数ではあるが、それには危険がともなう。
往復する以上、初回で入口のバリケードを取り外す事は出来ない……ゆえに避難民の輸送作業は施設外で行われる事になる。だが、装甲車のディーゼルエンジンのうるさい音がゾンビ達を呼び寄せてしまうのが悩みどころだ。
それならば、手持ちの火力を集めた少人数で装甲車まで何とか辿り着き、研究所から車両と銃火器を借りて施設まで再び戻り、避難民の輸送を1回で済ませてしまった方が危険は少なくてすむ。
研究所側に輸送車両がある事が大前提な話であり、策としての煮詰まりは甘いが……おおむね、この案に皆は賛同した。
ふと窓の外を見ると夜も更けてきた事が分かる。
小野も策の大筋が決まったと感じ、とりあえずは解散する事を提案した。
別れ際、千月が申し訳なさそうな顔つきで話しかけてきた。
「相馬……さん。この後、少しお時間を頂いても宜しいですか?
……俺がゼロに感染した件についてだろうか?
「……かまわないが。一体、何の話だ?」
「……貴方様のお父上、刃様についてです。お時間はとらせません。どうか……聞いて頂きたい事があります」
小野について、何を言おうが俺の気持ちは動かないが、真剣な顔つきで訴える千月を無下にするのも気が引ける。
正直あまり気乗りはしないが、落ち着いた場所で話がしたい、との事で施設で唯一酒を提供出来る店へと足を運ぶ事となった。




