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喧嘩


 燃え盛る炎のような闘志を身体から発している弟とは対照的に、俺の方は雲を写している穏やかな湖面のように、一切の乱れがなく落ち着いていた。

 

 体内のZE(ゼロイーター)も、敵意を剥き出しにしている弟に反応して発現しようとする気配はない。

 むしろ、街で古い友人に偶然出会った時のような「懐かしさによる喜び」を感じているようだった。


 これはZE(ゼロイーター)が弟と共生しているゼロとの「再会」を喜んでいるのだろうか?


 ふと気になった事がある……


 俺のZEは他のゼロを喰い尽くし【完全消滅】させる能力だ……では、弟のゼロはどんな「能力」を持っているのか……?


 気性の荒い弟によく似た「超攻撃的な能力」である可能性は高いが……  

 

 「へっ……兄ぃとよぉ~。真剣(マジ)()りあうのはイツ以来かなぁ~。俺が(アウトサイダー)跡目(あとめ)を継ごうとした時かぁ?」


 不敵な笑みを浮かべながら、弟は俺に問いかけてきた。


 「そうだ……あの時は交機(※警察の交通機動隊)の連中も来て大変だったな。身体を張って俺達の喧嘩を止めてくれたのは安全課の笹本さんだったが……」


 柔道の有段者である笹本さんに本気で技を掛けられて悶絶したのを今でも覚えている。

 俺が「一本背負い」、弟が「大外刈り」だったか……公園の土がイヤに冷たく感じたな。


 「あんときはジッチャンに止められたがよ。今度はトコトン()らせてもらうぜぇーーーっ!!! うらあぁーーーっ!」


 防御をする事など一切考えず、弟は猪のように一直線に俺に向かってくる。

 そして左右の拳による鋭い拳打(コンビネーション)を放ってきた……だが、大振りで予備動作(モーション)が大きく、拳の軌道が手に取るように分かる。

 

 この施設にたどり着くまでの道中、相沢によって接近戦の訓練を受けてきた俺には、さして脅威になる攻撃ではなかった。

 逆に俺が放ったカウンターの一撃を顔面に喰らった弟は、苦痛に顔を歪めながら仰け反る事になった。


 「へへ……これよ。ヤッパリ、兄ぃの(こぶし)はメチャクチャ効くぜぇ~。なんせ、俺や関東中の不良が憧れた人間の(こぶし)だからなぁ~」


 俺への憧れか……弟は今でもそう思っているようだ。


 ならば………… 


 俺は頭部を防御(ガード)するために上段に構えていた両手を下げ、衝撃で体が仰け反らないよう踏ん張る為に腰を少し落とし、ワイドスタンスのように右足と左足の間隔を肩幅より大きくとった。


 「オイオイ……相馬。もしかして我慢比べをするつもりかよ? マジで大丈夫かぁ~?」


 「わ……若っ! い、いえ……相馬君っ!何故、そのような事をなさるのですっ!?」


 意図を察したのか、相沢と千月(ちづき)が心配して声をかけてくる。


 2人が心配するのは分かる……これは「防御を捨てた殴り合い」の合図に他ならない。

 

 だが、弟が納得する決着の方法はコレしかないだろう。

 俺は少し勘違いをしていた……この喧嘩(たたかい)は弟に「俺の強さ」を魅せつければ良いものではない。


 この喧嘩に勝つだけなら簡単な事だ……大振りの弟の拳を上手く避けてカウンターを合わせればいい。

 そうすれば、被弾せずに倒す事も不可能ではないだろう。


 だが、それは弟の拳から逃げた事になる。


 弟の正平は、残酷な現実に耐えきれず情けなく逃げ出した俺を許せないのだ。

 どんな敵にも逃げずに戦い、打ち倒してきた「兄」を兄弟という近い場所から、いつも見ていたからだ。

 

 「へへ……流石だよなぁ~。ビシバシと心を踊らせてくれるぜぇ。やっぱ漢が漢に惚れるってのはよぉ~、こういう行動なんだよなぁ~」


 「察したようだな……ここからは小手先の技は無しだ。全力で打ってこいっ!」


 打倒する事が出来る必殺の間合いに入り、俺達は無防備に打ち合った。



 「……………………がはっ!?」



 幾度と打ち込まれた(こぶし)により、互いの肉と骨が悲鳴を上げている壮絶な打ち合いの最中、急に弟の拳が重たくなった。


 殴られた拳の衝撃で肋骨が軋み、頭蓋が割れそうになる。

 

 明らかに人間の範疇を超えている拳の威力だ。

 まさか……弟に共生しているゼロが発現したのか?


 「へ……へへ。なんだか急によぉ~、体の痛みが無くなって調子よくなったぜぇ。オラオラぁーーーっ!」


 間違いない…………弟の瞳が赤く染まっている。


 体の痛みが無くなったのは、ゼロの発現によって「無痛状態(ペインキラー)」になっている為だ。

 分が悪すぎる……俺の方はZE(ゼロイーター)を発現するわけにはいかない。

 

 生身の状態でゼロを発現した人間に素手で打ち合って勝てるのか……?

 


 いや、勝たなくてはならない……勝つんだっ!



 満身創痍の体で、俺は渾身の右アッパーを放った。


 狙いは弟の顎の先端……右拳は顎を切るように貫く。

 そして、返す刀のように今度は左アッパーを放った。

 左拳も鋭く顎を貫き、弟の頭はピンボールのように左右に振られて動いた。


 「へ……へへ。それがどうしたよぉっ!? まったく痛くねぇぜぇーーーあ、あれぇ…………?」


 弟は膝から崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。


 「マジで……た……立てねぇ。な……なんでだぁ? 効いてねぇハズなのによぉ~……」


 ……以前、相沢から聞いていた。

 

 人間は顎の先端を打たれると一時的に「脳震盪」を起こして立てなくなると。

  正直、ゼロを発現している人間に通用するかどうかは賭けだったが……


 俺が思い描いていた「正面から正々堂々と打ち倒す」事ではなく、相沢に教えてもらった戦闘技術(スキル)に助けられた形になってしまったが。

 ……まあいいだろう。ゼロを発現した人間にボロ雑巾のような状態で勝つにはコレしか方法は無かった。


 「カンカンカーン♪ 弟さんはノックアウツっ! 勝者は…………葛城相馬ぁーっ!」


 ボクシングのレフェリーのように俺達の前に割って入ってきた相沢が、俺の勝利を告げた。

 立ち上がる事が出来ずにポカンと呆気に取られていた弟は、フッと笑うと大の字になって地面に寝そべった。



 「だぁーーーーっ! 負けだ負けだぁーーっ! やっぱ強ぇぜぇーー兄ぃはよぉっ! チキショー~~っ!」



 ボロボロの状態で勝者とは思えない姿になってしまったが、葛城家の兄弟喧嘩は俺の勝利で終わった。


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