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介入者


 「……とてもじゃないが賢明な判断をしているとはいいがたいな」


 想定外の出来事が連続で起きた事が原因だとは思うが、先ほどからの思慮が欠けた行動や誤った判断をしている自分に呆れるばかりだ。

 対応は後手に回り、その場しのぎの思いつきが目立つ……決断力が低下しているのだ。 


 この施設の中に探し続けた弟がいるかもしれない。


 それは俺にとって暗黒の空間に燦然と輝く「希望」と言う名の光。その一筋の光にすがる「焦り」が度重なる判断ミスを起こしたのか?



 …………いや、違う。



 俺は早く「結果」を知りたかったんだ。


 この施設内に弟がいれば何も問題はない、だが……この場所にいなければ?


 そう……俺は全てを諦められる。


 【精一杯頑張った……もう十分だ。そうやって自分を納得させるだけの理由(いいわけ)を手に入れられる】


 地獄の釜の蓋を開けたような街で、自分の命と精神をすり減らし「弟を探す」という終わりが見えない旅に終止符を打ちたがっていたのだ。


 だからこそ、事前に練った策が失敗した後も無謀にも立ち止まり、身の危険を冒してまで説得を試みようとした。 

 あの場では速やかに退却し、ひとまず安全な場所で次の策を練るべきだったのだ。


 ……あの時、状況判断をするのが相沢だったら、俺のような選択をせず即座に退却していたはずだ。

 全ては俺の責……間違った判断であると分かっていても何も言わなかった相沢には迷惑をかけてしまった。   


 そんな自責の念に捕らえながら、目前まで迫って来ていた少数のゾンビ達の喉笛をナイフで切り裂いていた時……頭上から1発の銃声が鳴り響いた。


 「…………っ!?」


 見上げたがロープに相沢の姿はない……3階にたどり着いた相沢が【あの男】とトラブルになったのか? 

 

 急いで垂れ下がったロープに手を掛け、よじ登ろうとしたが……ふと脳裏によぎったモノがあった。

 

 もし、俺が登っている最中に大勢のゾンビ達が、このロープにしがみついてきたらどうなるのか……?

 

 耐久力という点では、いささか不安が残るこのロープでは過重に耐えきれず、呆気なく切れてしまうのではないのか? 

 

 安全を図るのであれば、不本意ながら俺のZE(ゼロイーター)を発現させ、ひとまず周辺のゾンビ達を一掃した方がいいのではないか……と。


 「……発現して戦っているところを施設の誰かに見られでもしたら弁明のしようがないが……最悪の展開を避ける為だ」


 俺は両手の手袋を外し、ZE(ゼロイーター)を発現する準備をした。



 「…………待てっ!」



 俺の行動を制止する声と共に上空から「何か大きな物」が目の前に降ってきた。


 いや……「降ってきた」は正しい言い方ではない。正確には「落ちてきた」と言うべきだろう。


 何故なら、それは「人」だからだ。


 では、どこから「落ちてきた」のか……?


 相沢と【あの男】がいる3階から? それとも施設の屋上から「ダイブ」してきたのか……?


 そんな事は、さして重要な事ではない。


 重要なのは目の前にいる「人」が「感染者(ゾンビ)」である事だ。

 俺の中にいるZE(ゼロイーター)が警告している……コイツが危険な存在である事を。

  


 俺に背を向けながら、ゆっくりと立ち上がった「ソイツ」は高所からの着地の衝撃をものともせず、次々と俺に迫って来ていた大量のゾンビ達を薙ぎ倒していった。


 その動きは、まさに電光石火。本気になった相沢と同等以上の速度で、ゾンビ達をあっという間に駆逐していった。


 襲いかかってくるゾンビ達の頭部を「回し蹴り」や「掌底突き」などの格闘術を駆使しながら正確に破壊していく様は「現実感」を失った。

 まるでプレイヤーに無双を魅せつける3Dアクションゲームの主人公を「現実」に送り出したかのような感覚を覚えた。


 だが、ゾンビ相手に無双をしていた「ソイツ」も車を両手で弾き飛ばしながら進んでくる「包む者」が目前まで迫ってきた時にはピタリと動きが止まった。


 当然だ……(カヴァー)には弾丸も刃物も効かない。ましてや素手で何とかなる相手ではない。


 だが、「ソイツ」は慌てる事なく駐車場によくある【A型バリケード】を手に取ると、難なく鉄製のフレームをねじ切って2本のパイプ棒を作った。

 続けて作り終えたパイプを両手に各々持ち、二刀流のような構えをしながら果敢に「包む者」へ突撃を敢行した。


 猛烈な勢いで「包む者」の中心部分に体当たりをすると、凄まじい衝撃が波紋のようにゼリー状の表皮に伝わる。

 

 あまりの衝撃によって固い表皮が柔らかくなったのか、それとも中心部分のゼリー状の体液が押し退けられたのか、「ソイツ」の突き刺した2本のパイプは「包む者」の弱点である本体に届き、瞬く間に絶命させた。


 「……なんなんだコイツは。あの化物をアッサリと()りやがった」


 「包む者」の身体の上に立っていた「ソイツ」は俺の方に振り向くと、人差し指で施設を指差した。


 「……俺のために時間を稼いでくれると言うのか?」


 奴が本当に味方かどうか分からないが、ご厚意には甘えさせてもらおう。

 

 俺はロープを手に取り、3階の非常用侵入口へと登っていった。 

 

 

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