死神の最後
決着後、映画館の銀幕がゆっくりと閉じるかのように【暗視能力】は無くなり始め、俺の視界は再び暗闇に包まれた。
ZEは、2人の決闘の結末を見届けた事に満足したのか、目の状態を「通常」に戻したようだ。
闘いの形勢は二転三転したが、相沢の勝利で終わった……正直な所、この結果に心から安堵している。
それは奴と闘ったとしても勝つ可能性は極めて低く……また、逃走すら叶わないからだ。
たしかにZEは【ゼロ】を「完全消滅させる能力」で感染者となった者を圧倒する事が出来る……だが、対人間。それも高度な戦闘訓練を受けた人間に対して圧倒的な優位があるとは思えない。
これ迄の経験からZEにはゾンビと同等以上の怪力を宿主に付与し、ある程度の傷を即座に治癒する能力がある事は分かっている。
だが……いかに人体の骨を簡単に砕く力があろうが、対象に当たらなければ意味は無く、治癒能力も致命的な損傷を受けた際、絶命する前に治してくれるのかどうか怪しい。
そして奴の能力を機械技術で進化させた【死神の目】からは、逃れる事は出来ないだろう。
想像したくもないが……俺は暗闇の中で奴に【なぶり殺し】にされ、あたかも子供が癇癪を起こして壊した人形の如く、無様に地面に転がる事になったはずだ。
そんなネガティブな想像を働かせながら、俺は【M1911A1】のウェポンライトを点灯させ、相沢のもとに歩み寄った。
相沢は俺の顔を見るや、いつもの得意げな笑顔で迎えてくれたが……その額からは大量の汗が滲んでいた。
殺しの達人同士の命のやりとり……本当なら座り込んで休みたい位に気力と体力を使いきったのだろう。
そうしないのは俺への見栄があるのかもしれない。
「ク……ククク。ま……まさか、この俺が殺気を読み違えるとはな。ラ……ラッキーな野郎だ……ぜ」
身体を動かす事が出来ないほどの致命傷を負ったコーツは、地面に伏したまま相沢に言い放った。
「読み違える? 違うな……俺がそうさせたんだよ。いいだろう、あの世へのいい土産話になる。【魔狼】のネタを教えてやるよ」
奴に致命的な一撃を与えた技、【魔狼】の極意は【殺気の出し入れ】と相沢は言った。
離れた場所でも感じるくらいに己に殺気を纏わせ、無音移動術である「狩りの領域」を使用しながら高速で対象に接近し、相手を幻惑させる技。
先程の奴のように殺気に幻惑された相手は、気配を絶った本体に死角から攻撃される、と言うわけだ。
「狩りの領域」によって足音で相沢の位置を判断出来ない以上、相手は攻撃を防ぐ事すら出来ない。
……恐ろしい技だ。
「この技は人間の感覚に訴える技だ。つまりは回避不可能……そして視覚を奪う事によって、より効果は高まる。テメーは暗闇を作り出した事で自分の殲滅領域に誘いこんだつもりだろうが、俺にとっても暗闇は殲滅領域だったって事だな」
「まんまと……して……やられたと言うわけ……か。クソッタレ……の……さ……猿野郎がっ!」
無駄口を叩く奴の息の根を止める為に、相沢は俺が持っていた拳銃をよこせ、と催促をした。
相沢に銃口を突き付けられたコーツは、勝ち誇ったかのように笑っていた。
「ク……ククク。いつだったか……テメェに……言ったよな?お前は……何も分かっちゃいねえって。こ……この「祭り」の真実を……しっ……知った時の……テメェの顔を見れ……なくて……残念だぜ」
祭りの真実だと……? こいつは何かを知ってるのか? この世界がゾンビで溢れかえった原因を。
「お……お前は……道化師なんだよ。ヒ……ヒヒヒ……じ……地獄でテメェが……苦しむ様を笑いながら見てやるぜ……ヒャヒャヒャっひゃばっ!」
狂人のような笑い声の最中、1発の銃声が暗闇の中で鳴り響き……奴の頭部に銃弾が撃ち込まれた。
「……地獄でテメェに会っても、また殺してやるから安心して待ってろ」
相沢はポツリとそう呟くと拳銃を俺に返してきた。
これがカラーズで死神と呼ばれた狂人の最後か……
だが、奴は気になる事を言った……
この世界がこうなってしまった原因があり……そして、相沢が「それ」に深く関係している?
ただの負け惜しみと思いたいところだが、いずれ真実は明らかになる事だろう。
弟を探す俺の闘いが続いているかぎり……




