仇
「……Bienvenue。ここが最終ステージだ。丁重に御迎えするぜ」
「へっ……鉄骨に囲まれて「ご臨終」したいとはなぁ。随分と風変わりな場所を死に場所として選んだもんだぜ。「お祈り」はもう済んだのかよ?」
奴が選んだ「決着の場」は、施設の建設を途中で放棄したと思われる、剥き出しの鉄骨のみが組まれた場所だった。
組まれた鉄骨の高さはビルの3階相当、上階に登る為の仮設階段はあるが……作業用の足場が気持ち程度に作られているだけで、吹きさらしの上階での移動は鉄骨の上を歩く他ないだろう。
だが、何故こんな場所を奴は選んだのか?
俺達のアサルトライフルの一斉掃射を受けたら身を隠す場所は無い……奴は一貫の終わりだ。
「相沢……これ以上、奴の奇策に付き合う必要はない。この場所では圧倒的に俺達が有利だ。さっさとカタをつけよう」
「あぁ……そうだな。野郎に鉛弾をブチこんで終了とするか」
有無を言わさず銃を構えた俺達を嘲笑うかのように、奴は上階の足場へと軽やかに移動した。
「ククク……アイザワ。1つ聞いていいか?お前の右腕に巻き付けている黒い迷彩の布……そいつは「アレックス」のお気に入りだったバンダナか?」
バンダナ……? たしかに相沢の右腕には、いつも黒い布が巻き付けてられてはいたが……
「あぁ……そうだ。だから何だってんだっ!てめぇには関係のない事だろうがっ!」
あきらかにイラついた声で相沢は答えた。
カラーズのアレックス・ガルシア……コードネームは「ブラウンベアー」。こと重火器の扱いにおいては隊の中でも右に出る者はいない。
新米だった相沢に戦場での戦い方を教えた師であり、無二の親友だった男。
だが、中南米での作戦の際に戦死したと相沢から聞いていたが……
「ククク……ハーッハッハッハッ!まんざら関係なくはねぇさ。例の作戦でのテメーらの回収地点を政府軍に流したのは、この俺なんだからなぁっ!」
「…………っ!?」
途端に相沢の表情が変わった……
背筋が凍るような殺気と溢れんばかりの怒気を発している。
気の弱い一般人であれば、その場で腰を抜かすほどの凄味を感じた。
「米国に入る前にチョイと小耳に挟んだもんでなぁ~。お前とアレックスが南米の紛争地帯に行くってよ。ちとサーバーにハッキングして作戦計画書を拝借したってワケだ。ククク……」
「テメェ……あの作戦で何人死んだと思ってやがるっ!」
怒る相沢とは対象に、奴は薄気味悪い表情を見せていた。
「ククク……生き残ったのはアイザワ。お前だけだったよなぁ?可愛そうに……あの黒豚野郎はグチャグチャに殺されちまったってなぁ~。遺体は家族が見ても分からねぇくらいによ……ハーッハッハッハッ!」
遂に怒りが頂点に達したのか、相沢は大声で叫びながら銃を奴に向けて乱射した。
だが、素人の俺から見ても雑に感じるほど照準が定まっていない……ただ怒りに身を任かせて撃っているだけだった。
奴はスーツの力を存分に使いながら余裕を持って銃弾を避けていた。
「相沢……奴は心理戦を仕掛けているんだ。アンタを怒らせ、冷静さを失わせて優位に立とうとしている。この状況では奴は俺達に勝てない事を知っているからだ」
相沢は所持していたアサルトライフルを地面に投げ捨て、先ほど拾ったダマスカスナイフを手に取った。
「すまねぇ……相馬。まんまと野郎の術中にハマっちまったよ……奴はコレを見越して「この場」に俺達を誘いこんだんだ。俺とサシで殺り合う為にな」
歯ぎしりをしながら見上げる相沢に奴は見下ろしながら答えた。
「猿にしては「お利口」になったじゃないか……その餓鬼にチャチな横槍は入れられたくはないからな。もっとも親友の仇をとるのに他人を頼る事なんかしないよなぁ……ククク」
コイツ……最初から相沢と勝負する為だけに策を仕掛けていたのか。パラベラムとミストの兵士達をゾンビにしたのも相沢との勝負に邪魔だから、と言う事か。
「これは護衛任務とは違う個人的な私闘だ。だが、奴だけは……」
「相沢……」
俺は、それ以上何も言わずに相沢の肩に手を置いた。
「アレックス……お前の無念、俺が晴らしてみせるぜ」
相沢は右腕に巻いていた黒色バンダナを手解き、頭に巻き付けた。
これから始まるカラーズ同士の戦い……
結果がどうであれ、俺は見守る事とした。




