憤怒
「……単発射撃とはいえ、これが突撃銃の反動か……これほどブレるとは」
相沢から【WSAR-8】のセレクターレバー(安全装置の解除・発射形式の選択)の場所と初弾装填の簡単な説明を受けたが、構え方や撃ち方はハッキリいって戦争映画の「見様見真似」にすぎない。
上部に装着されている光学照準器を覗き込んで、素人なりに狙いを定めてはいたが……銃本体の重さと反動で、思うように狙った場所に弾が当たらなかった。
「無理に立ちながら撃つな!片ヒザを地面に着けて銃と体を安定させろ。そうすりゃ精度は上がるぜ!」
指示通りに「片膝立ちの構え」で撃ってみた。
銃床が「立ち撃ち」の時より体に密着している為なのか、反動が軽減されて照準は正確になったようだ。
「……なるほど、これなら狙いやすい。だが、1つ問題が発生した。マガジンの再装填の仕方を教えてもらってないのだが……」
「え~と……まぁ、そこらへんに転がってる奴のライフルを拾えば弾が入ってると思うぜ……たぶん」
俺は弾切れとなったライフルを捨て、死体となった兵士のライフルを奪うという「忙しい現地調達」で対応する事となった。
外を彷徨いていた兵士達の処理を終え、プレハブハウスから続々と出てくる残りの兵士達の相手をしようとした、その時……
建設現場内を照らしていた照明が全て消えてしまった。
「……これは、奴の仕業か?」
「だろーなぁ、性格の悪いクソヤローが考えそうなクソイベントだぜ」
目の前が全く見えない……明暗順応で暫くすれば多少は見えるようになってくるだろうが、ボンヤリと光る月明かりしか無いこの状況では……まして兵士達の装備は黒色で統一されている。
暗闇に何かが蠢いているようにしか見えない。
「……ククク。余興を面白くするのは主催者としての義務だからなぁ~。せいぜい楽しんでくれよ」
暗闇の中から奴が高笑いする声が聞こえてくる……どうやら望まない余興は続くらしい。
相沢は舌打ちすると懐から幾つか筒上のような物を取り出し、火をつけて前方へと投げた。
赤い光と煙が立ち上がる……これは発炎筒か?
「へっ……久々に相沢マル秘アイテムをご披露しなきゃだぜ! 相馬、お前はフレアの光で見えた奴を狙え! 夜目が効く俺は暗闇に紛れた奴を殺る」
発炎筒を秘蔵アイテムとしてカウントするのは議論の余地があるが、フレアの光で向かってくる兵士達の姿が見えるようになった。
……光と同時に出る煙が邪魔ではあるが。
どうにかゾンビ達を全て処理し終えたが、奴は姿を見せない。
しばしの静寂の後、相沢の罵詈暴言が暗闇に響きわたった。
「オラァっ!さっさと出てこいやボケがっ!クソみたいな余興は終わったぜ。次はテメーを棺桶にキッチリと詰め込んでやるぜっ!」
「ククク……そう焦るなよ。余興をしてくれた礼にプレゼントをやろうじゃねぇか。コイツを持ってコッチに来な」
何処からともなく俺達の足元に「何か」が飛んできた。
フレアの光が消え、月明かりしかない暗闇の中でも鈍く金色に光る「ソレ」は見事に研ぎ澄まされ、妙な模様が施されたコンバットナイフだった。
相沢が拾いあげ感嘆の声を漏らす。
「オイオイ……コイツはダマスカスナイフじゃねぇか。しかも軍仕様の特注品だぜ……鋼鉄をバターにみたく切断出来るって代物だ」
「……奴にとって何か意味があるんだろう。アンタにナイフを与えたのは」
突然、会話の途中に一部の照明が点灯した。
眩しく照らされたのは、足場がある鉄骨が組み立てられた場所だった。
「なるほど……あそこで俺と決着がつけてぇっワケか。望むところだぜっ!」
俺達は奴との決着をつける為に「その場所」へと向かった。
ようやく体調が回復しました……かなり寝込んでいたので投稿が遅れました。




