怨恨
建設資材の上から俺達を見下ろしていた男は特異な風貌をしていた。
それは深々と被ったベレー帽や戦闘服などではなく、右目を覆い隠すように斜めに包帯を巻きつけていたからだ。
刺すような鋭い眼光と威圧感……奴がただ者ではない事は俺にも分かった。
……相沢を睨みつけながら不敵に笑っているところを見ると、奴と相沢は知り合いなのか……?
「……俺に気配を感じさせねぇとは、随分と「かくれんぼ」が上手くなったじゃねぇか。元カラーズ「緑の猫」【グリーンキャット】のコードネームを持つガーランド・コーツさんよ」
……以前、相沢が話してくれたカラーズ3原色の緑の猫とはコイツの事か。
しかし、気になるのは「元」と言った事だ。
「ククク……Merci。俺の自己紹介をしてくれて助かるぜ」
男は紳士ように丁寧にお辞儀をした。
「……元と言う事は、今はライオットカンパニーの人間ではないのか?」
「あぁ……数々の背信行為を繰り返して会社を解雇された。クビになった決め手は同僚への殺人未遂だ。ま……俺を殺そうとしたんだけどな。少し昔話をしてやるよ」
コーツは酷く相沢を嫌っていたらしい。
それまで奴は近接戦闘においては隊の中でも自分がトップである事を自負していたが、その分野では専門家である相沢が入隊し、2番手に甘んじた事を恨んでいたとの事だ。
そして……ある日、訓練の最中に相沢を殺害しようとして会社を強制的に解雇された、と言うわけだ。
「ククク……解雇になった俺に米国はコンタクトをとってきた。特殊部隊の隊長として迎え入れるとな。断る理由なんかないだろう?」
「へっ……米国に渡ったとは噂で聞いていたが。まさかパラベラムにいたとはな。笑いながら子供をなぶり殺しにするサイコ野郎を雇う気が知れねぇぜ」
コーツは呆れながら首を横に振った。
「Oh lala、勘違いするなよ。なぶり殺すのは有色人種だけだ。白人の子供は苦しませず殺るのが主義でね。俺は殺害対象への敬意と礼儀を忘れた事はない」
……サディストに加えて差別主義者か。相沢が毛嫌いするのも分かるな。
「相変わらずのクソ野郎で俺は安心したぜ。パラベラムの狙いは相馬のZEウィルスだろ?……違うか?」
「C'est ça……と言いたいところだがな。そんな事は……「ついで」だよ。俺の目的はテメェを殺す事だっ!!!」
コーツは頭に被っていたベレー帽を投げ飛ばし、右目を隠すように巻いていた包帯を手解きだした。
厳つい機械が右目の箇所に装着されているのが見える……その容姿は映画に出てくる改造人間のようだった。
「オヤオヤ……俺がエグり取った「おめめ」が立派になってるじゃねぇの。ブサイクなテメーの面もチッとはマシに見えるぜ?」
「ククク……へらず口は相変わらずのようだな。安心したぜ……そうでなくちゃ殺りがいがねぇっ!」
懐から「注射器」のような器具を取り出したコーツは、自分の首筋に迷いなく打ち込んだ。
「眼球装置を作動させるとなぁ~痛ぇんだよっ!目ん玉と脳ミソを針でグチュグチュかき混ぜられたようになぁーっ!いっーっ!イテェーーんだよっ!ヒャーーハッハッハッ!!!」
奴は何らかの薬物を使用したようだ……異常な変貌に背筋がゾクッとする。
使用した器具が俺達の目の前に転がり落ちてきた。
「こいつは「オーバードライヴ」だな……昔、米国が発案し非人道的すぎるって事で中止になった「強化人間計画」で使われた「お薬」だ……かなりヤバイ代物だぜ」
強化人間計画……右目の異様な機械は、その計画の産物って事か。
「パ……パーティーを……お互い楽しもうぜっ!周りを見てみろぉーーっ!アイザワぁーーっ!!!」
発狂している奴の叫び声と同時に、死んだはずの兵士達が次々と起き上がり始めた。
「オイオイ……コレってまさか……」
「……俺のゼロが反応している。兵士達はゾンビと化しているぞ」
奴は恍惚な表情で俺達に語った。
俺を拘束する作戦前に部隊全員にゼロが入った特殊なカプセルを騙して飲ませた……と。
全てはこの時の為……相沢が自分の部隊の全員を殺る事は予想済みであり、俺達に絶望を与えるのが目的だった。
「どうやら無理くりパーティーに招待されちまったようだな……相馬、はしゃぎすぎるなよ?」
「……」
俺達は同時に銃を構えた。




