思惑
戦闘後、大量のゾンビ達に取り囲まれた一軒家から脱出するのは容易な事ではなかった……
あれだけ派手に戦えば、家の周囲のゾンビ達を呼び寄せてしまうのは仕方のない事だろう。
今後の対策として、所持している銃に消音機を装着してはどうか?と相沢に提案したが……本体の重量増に加えて、素人には扱いづらくなる、との事で却下された。
よく考えてみれば、諸外国と違って日本の家は天井が低く……狭い家が多い。
狭い室内での戦闘をメインと想定するのであれば、ワザワザ取り回しが悪くなる装備をつける必要がないかも知れない。
発砲して敵を処理した際には、その場から迅速に離脱する必要はあるが……
一軒家を離れたのち、変異体の攻撃を受けた左腕は、何事も無かったかのように治癒していた。
上腕骨に損傷が入っていても不思議では無かったのだが……ゼロの治癒力には毎度、驚かされる。
ようやく安全なセーフハウスを見つけた俺達は、先の出来事をマリアに無線で報告をした。
「つーワケだ。奴はゼロが進化したんじゃねーか、と俺は疑っている。無論、相馬も同様にな」
「進化……ね。変異した状況を聞くかぎり、私は進化と同時にゼロに「感情」が芽生えた、と感じたわ」
マリアは1つの仮説を立てた。ゼロは寄生した人間と近い遺伝子を持つ者を「目の前で殺害」された場合、同族を殺されたと認識し、報復行動に出たのではないかと……
これは、ゼロが寄生した人間の遺伝子を読み取っている事が前提の話ではあるが……あの変異体の声?の内容からして、あながちマリアの推測は間違っていない、と思えた。
「オイオイ……今後はゾンビのパパやママがいない事をイチイチ確認しろってのかぁ?そんな悠長な事できっこねーぜ……なぁ、相馬?」
マリアは、相沢の軽口を半ば無視しながら無線で俺に警告をしてきた。
「相馬君……今後、ゼロとの戦闘の際にZEに全てを委ねるのは止めた方がいいわ。貴方の体内にいるゼロがどのような副作用を起こすか予想がつかないからね……」
「……それは俺を使っての実験のデータが今後取れなくなるから、と解釈していいんですね?」
この際だ……今の内にハッキリさせた方がいい。
何故、感染した俺を一度拘束したにもかかわらず無条件で解放し、相沢を護衛につけさせたのか?
その理由を……
「……察しの良い貴方なら気付くとは思っていたわ。そうね……私がZEウィルスの「データ収集」をナオキに依頼したわ」
マリアは続けて話した……ZEウィルスは、いわばゼロが異端に進化した特異体。
閉ざされた実験室の中ではなく、混沌の中で生まれた産物であれば、さらなる進化を遂げるのは混沌の中でしかないと……
相沢は「それ」を見届ける監視役……と同時に、俺がゼロに完全支配されてしまった時の「処刑人」と言う訳だ。
「ゼロストーム作戦……有事の際にゼロに対しての抗体を持った人間をピックアップする作戦。まさにゼロと言う暴風の中から抗体を探す……無茶な作戦だけどね」
「以前、相沢が話していました……完璧な抗体を持つ人間を探していると。もし弟が生きていれば……そちらが探している人間である可能性が高い、と……?」
「そう……だからこそ、ナオキに護衛を依頼したわ。抗体を持つ人間を探しつつ、ゼロを滅ぼす特異ウィルスの進化の観察をする為にね」
思惑を隠していた事を、マリアは謝罪をした。
とはいえ、これについては互いにメリットがある話だとも伝えられた。
相沢とマリアは弟を探しだす為に、これからも協力を惜しまない、と言う事。
この街から脱出する為の手段も用意する、と約束した。
「実験体と聞かされて、いい気分にはなれないとは思うけど……私は貴方のZEウィルスが、これからの人類の危機を救う可能性を秘めている、と考えているわ……あまり無理はしないでね」
マリアとの交信は終了した……隣で聞いていた相沢は、いつもの調子で話しかけてくる。
「まぁ、あの女のヨタ話は話半分で聞いておいた方がいいぜ。人類を救うなんて御大層な使命を背負ってるなんて思い込まんこった。肩の力を抜いて気楽にな♪」
相沢の言う通りかもしれない……人類を救う等と言う使命は俺には重すぎる。
まずは弟の正平を探し出す事……これが何よりも最優先される事柄だ。
相沢は次の目標地点を提案してきた。
どうやらライオットカンパニーから最後の補給物資が投下されるらしい……相沢は、その場所を地図を広げながら説明してきた。
物資や弾丸は、いくらあっても足りない……俺達は準備を整えると急ぎセーフハウスを発った。




