包む者【上】
騙し討ちの可能性を疑い、十分に警戒をしていた俺達だったが……どうやらソレは杞憂で終わりそうだ。
愛想がいい初老の生存者は、快く俺達をリビングへと招き入れた。
家具に関しては十分な知識を持ち合わせていないが、置いてあるテーブルから椅子……食器棚から食器まで、どれもが高級品のようだった。
そして、心地よい香りが漂う……これは「香」を焚いているのだろうか?
「ほぅ~オッチャン、なかなか良い趣味してるねぇ~。アンティーク家具の収集とは、金の使い方をわかってらっしゃる」
高価そうな椅子に粗雑に座った相沢は、足を組みながらリラックスし始めた。
「……連れが無作法で申し訳ない。俺は葛城相馬、こっちが相沢直樹。この街で弟である葛城正平を探しています。何か知っていたら教えてもらいたいのですが……」
俺は正平の年齢や風貌、最後に見た時の服装などを事細かに伝えた。
「なるほど……弟さんを探していたのですか。先程のように屋根の上から助けを求めていた時に、そのような方を見かけたような気もしますが……」
「……人違いだとしても構いません。その時の情報を詳しく教えて頂けますか?」
さらに弟の情報を聞き出そうとしたところ……男性は紙に書いて詳しく説明したい、と言ってリビングの奥の部屋へ書く物を取りに行こうとした。
「よぉ……オッチャン♪1つ答えてくれや。そこの棚に飾ってある写真は家族のかい?娘さんと奥さんが写ってるようだが……」
相沢の言葉を聞くと男性は立ち止まった。
「えぇ……家内と娘です。この騒乱で行方が分かりません。今は……私1人です」
「そっかぁ~ワリィ事を聞いたね。どうも俺は詮索好きでいけねぇや」
男性は小さく頷くと奥の部屋へと消えて行った。
「どうやら、カラーズでは礼儀作法の教育が無いようだな……相沢、失礼にも程があるぞ」
「まーまー、お前も座ってゆっくりしろよ♪つっ立ってるだけじゃ「感じないモノ」もあるんだぜ?」
…………?
相沢は、俺に何を伝えたいのだろうか?
言われた通りに椅子に座った時、足元から恐ろしい程の寒気を感じた。
これは、床下からか?……全身が泡立つような感覚を覚えた。
「……気づいたか?俺は「この部屋」に入った時に分かったぜ。この椅子に腰かけた時に確信に変わったがな……」
「……いる。俺達の足元にゼロに感染している人間が1人、いや2人。カーペットを敷いて入り口を誤魔化しているようだが、床下に空間があるな」
相沢は、微かに聞こえる物音とゼロに感染した者が放つ腐臭を感じとったらしい。
「さぁて……これからトッツァンがどう出るかな?サプライズはバレたがよ」
男性は暫くして戻ってきた……お盆にコップを乗せて。
「喉が渇いていませんか?私の蓄えは十分にあります。冷めたコーヒーですが……どうぞ」
相沢は快く受け取ると、すぐさまコーヒーの匂いを嗅いで不敵に笑い……男性に突き返した。
「オッチャン♪ワリィけどコレ飲んでくれねぇか?職業がら毒味無しってのは受けつけないもんでねぇ~♪ジギタリス入りは好みじゃないんだわ」
男性の顔色が、みるみるうちに青ざめていく……愛想の良い顔は苦虫を噛み潰したような表情となった。
「タネはとっくにバレてんだよ!ジジイっ!」
相沢はテーブルを蹴り飛ばし、足元に敷かれていたカーペットをめくりあげた。
木製の床には地下室への入り口があった。
「くっ……お前たち動くなっ!撃つぞっ!手をあげろっ!!!」
男性は隠し持っていた拳銃を取り出して、俺達の前に立ちふさがった。
「おやおや……素人が無理すんじゃねーよ。安全装置が外れてねーじゃねーか」
「なにっ!?……そんなバカな!……あぁっ!」
安全装置を確認する為に男性が目をそらした瞬間……相沢の鋭い蹴りが持っていた拳銃を弾き飛ばした。
「こーゆーテンプレに引っかかるのがシロートだってんだよ!相馬……トッツァンの隠していた「お宝」を見てやろうぜ?大体は予想つくがなぁ~」
うつ伏せにさせられ、銃で後頭部を突き付けられながら男性は声を発した。
「やっ……!やめろっ!!!その扉を開けるんじゃないっ!!!」
俺は無言のまま「入り口」を開けた。
狭く……薄暗い地下室は、むせ返る程の悪臭と狂気に満ちた所行を行った痕跡があった。
次回、【新型】との戦闘になります。
お楽しみに……




