進化
地球上の生物は環境に適応して「進化」すると言われている。
宇宙から飛来したゼロも生命体であるならば、地球の環境に適応しようと進化する可能性はある。
今のところ、地球の大気に非常に弱いゼロは、直接的な感染という方法で人間に寄生しなければ生命を維持出来ない。
感染させられた人間は脳を支配され、非感染者を追い求めるだけの屍と化す。
多少の自我を残し、自身が望む欲望に駆り立てられた者は「サイコヘッド」と呼称されているが、これは特殊な感染例と言えよう。
多くの感染者は「アクトワン」名付けられたゾンビとなって地上を徘徊する事となる。
だが、ゾンビとなった者逹にも「特徴」があった。
まずは「ウォーカー」……コイツらは音に過剰に反応し、獲物を追い求める為に昼夜問わず永遠とさまよっている。
そして「ハンター」……物音への反応は鈍く、あくまでも自分の視界に入った獲物に対してだけ襲いかかる厄介な奴等だ。
……アウトブレイクから、どれくらい経過したのか正確には分からないが、俺達はゼロの「進化」を身をもって知る事となった……
「ところで相馬……弟さんがいそうな場所の見当はついてんのか?」
まるで散歩でもしているかのように、相沢は鼻歌まじりに俺に聞いてきた。
「いや……残念ながら見当もつかない。弟の友人の家などは調べたが、全く痕跡はなかった」
……正平の故障したバイクも知り合いの修理工場に置いてあったままだった。
暴徒による略奪の被害にあった工場内で、アイツのバイクだけキレイに残っていたのは笑いが出たが……
いくら暴徒でも「攻撃的なバイク」は遠慮したいらしい。
「まぁ……気長に探すとすっかぁ~。砂漠でビー玉を探すようなもんだがなぁ~……ん?」
相沢は急に立ち止まり、指で合図を送ってきた。
前方にある一軒家の屋根の上で、何者かが俺達に向かって手製と思われる白旗を振っている。
「こいつは驚いたぜ……まだ、元気な生存者がいるとはな。前みたく変態ババアが出てこなきゃいいがなぁ~」
「……物資強奪の罠である可能性が捨てきれないが、弟の情報を持っているかもしれない……行ってみるか」
あまり乗り気ではなかった相沢だが、家に向かう事をしぶしぶ了承した。
難なく家へとたどり着いた俺達を見て、生存者は安堵の表情を浮かべる……
白旗を振っていたのは初老の男性だった。
相沢のテンションが、みるみるうちに下がっていく……
「あぁ……よかった。まだ私の他に生存者が残っていて。急いで家の扉のカギを開けます。少々お待ちください」
男性は屋根から、おぼつかない足取りで2階の窓から家へと入っていく。
「はぁ~……ババアの次はジジイかよ。日本が高齢化社会になってたのは本当だったんだなぁ~」
「相沢……頼むから本人の前で失礼な事は言わないでくれ……情報が聞き出せなくなる」
「へ~いへい……わーりやしたよ」
まったく反省の色が見えない相沢を尻目に、俺は生存者が招き入れた家の中に入った。
だが……玄関から室内に入ろうとした時、自分の心臓の高鳴りが聞こえた。
何かイヤな予感がする……俺の中の細胞が忠告しているような気がした。
この家は危険だと……




