襲撃
……この街で俺達以外に、どれほどの生存者がいるのか分からないが、「選ばれた人間逹」は感染者ごと全てを焼き払ってしまえ、と決断したわけだ。
自分達は安全な場所で「効果」を見届け、生き残ったゼロをゆるりと排除すればいい。
実に合理的な方法ではあるが、選定から漏れた大多数の人間を産業廃棄物扱いするやり方は、怒りを覚えるな。
「まぁ、そんな湿気た顔をしなさんな。ファントムは、ま~だ調整段階だ。完成したら俺かマリアに報告が入るようになってるからよ。いつの間にか爆撃されて燃えカスになってた、なんて事にはならんよ」
なるほど……ファントムによる「焼却」のタイミングが分かるのはありがたい。
とはいえ……今までの話からすると、楽園とやらに逃げ込んだ「選民達」は、一刻も早くファントムを都市部に撃ち込みたがってるだろう。
遅ければ遅いほどゼロによる被害が大きくなっていく。
「どうやら弟を探す時間が、あまり残されてはいないようだ……準備が整い次第、出発したいのだが?」
相沢は笑顔を見せると、何かを詰め込んだと思われるリュックサックを俺に手渡してきた。
「そう言うだろうと思ってよ……お前が今までの事を話してくれた間に準備しといたぜ?中には、当面の食料と弾丸が入っている。輸送係ぐらいは手伝ってもらうぜ」
「……仕事が早いな。流石と言うべきか」
「フフフ♪強くてハンサムな男が仕事も出来るのは当たり前だろう?」
相沢が、ナイスガイかどうかは知らんが……まぁ、そういう事にしておくか。
リュックを手にして立ち上がろうとしたその時、相沢の無線機から受信音が鳴り響いた。
「なんだぁ?……マリアからの緊急無線じゃねぇか。何かあったのか?」
無線をとった相沢が応答する。
「ナオキ……彼は……相馬君は無事?こちらは少し厄介な状況になってしまったわ。私達のいた公民館が襲撃されたの。ゾンビじゃなく人間にね」
桜がいる公民館が襲撃された?
ゾンビではなく人間にだと?一体、誰がそんな事を……
「オイオイ……公民館に配備されている兵士は、俺が直々に鍛え上げた狼犬部隊だぜ。素人相手なら秒で殲滅出来る……マリア、相手はプロか?」
相沢とマリアの無線のやり取りを聞いたところ、公民館を襲撃したのは日本の特殊戦略部隊ミストと米軍の特殊部隊パラベラムの混成部隊らしい。
目的は…………俺の血液サンプルの強奪
「私といたロストの研究員の1人が楽園の誰かに密告したようなの。おそらくアフターゼロの世界で自国の優位性を保つ為にとった行動だと推測出来るわ」
「かぁ~!腐ったバケモンどもが世界中であふれかえっているのに、もう金儲けに走ってるのかよ。あの欲ボケ野郎達は……呆れを通り越して感心するぜ」
どうやら、俺のZEウィルスは政治家にとって非常に魅力的なものらしい。
マリアの所属している機関ロストは、ZEウィルスをこれからゼロと戦う人類の武器として研究しようとしていたが……
楽園いる「上級市民」は、アフターゼロの世界……つまり、ファントムで焼き払った後の世界での「政治の道具」として活用したいらしい。
「相馬君……安心して。桜ちゃんは無事よ。これから拠点を移す事になるけど、私が責任を持って守るわ。ナオキ……相馬君をお願いね。貴方がいれば大丈夫だとは思うけど……」
「任せとけ……地上最強の相沢君がキッチリ護衛してるからよ。また何かあったら連絡してくれ……じゃあな」
無線の会話が終わると、俺達も急いで出発する事となった。
補給物質が入ったコンテナを受けとった場所が、公民館を襲撃した部隊にバレている可能性があるからだ。
俺が相沢と行動をともにしているのも分かっているだろう。
とんだ災難だ……まさか俺が日本政府と米国に狙われる事になるとは。
ゼロには「意思」があると、かつてマリアは言った。
俺の中にいるゼロは、この思い上がった人間逹の行動に対して、どう思うのだろうか?
人間とは愚かな生物だな、と見下すのか……それとも……
自分の身体の中にいるゼロに問いたい、と思ったのは初めてだ。
だが、いずれゼロは答えてくれるだろう
その答えが人類にとって脅威となるか希望となるかは分からないが……




