ファントム
マリアが名付けた「ZEウィルス」が何であれ、弟の正平を探す為に利用出来るのは確かだろう。
少なくとも俺は感染者に対し、とりあえずだが有利な立場になったのだから……
あの医者との戦闘の事を話し、後に治癒能力が発現した事を伝えると、相沢は笑いながら冗談を言ってきた。
「オイオイ……どこまで反則を上乗せする気だよ。しまいには空を飛んだり、手から「あったかいビーム」なんか出さないだろうな?」
「……少しは真面目にやってくれないか?ZEウィルスが暴走する可能性もある。あの時……俺の意識を奪ってサイコヘッドの体をバラバラにして喰ったのも俺の中のゼロなんだ」
ZEウィルスの事を知った今、疑問に思う事がある……何故あの時、サイコヘッドとなった奴の肉体を喰らう必要があったのか。
単純に奴を殺るだけならZEを体内に流し込めば済む事だ。
1つ……俺には心当たりがある。
ZEが感染者を喰らうのは「栄養補給」ではないか?と言う事だ。
感染してから日数が経つにつれて、俺は食事を取る量が極端に少なくなった。
今も空腹感がない……水分を多少とれば丸1日動いても平気なくらいだ。
というより……感染前に食べていた食品自体に「興味」を持たなくなってきている。
たとえ、この場に肉汁たっぷりのステーキや有名店のラーメンがあっても「食欲」を刺激する事はないだろう。
これは、俺の中でZEウィルスの侵食が進んでいると見ていい。
俺の食欲を刺激する対象が、いずれ「人間」にならない事を願うばかりだ。
相沢は黙って考え込んでいた俺に「これから」について話してきた。
「さっき伝えたのは、お前さんの身体についてだが……これからの活動について、悪いニュースと良いニュースが2つある。先にどっちが聞きたいのか選ばせてやるよ」
「……良いニュースの方から頼む」
「実はな……世界各国の政府要人や著名な学者、金持ち野郎どもは、楽園と言われてる隔離された地域に避難済みなんだ。楽園に「選ばれた人間」は、今頃楽しく暮らしているってわけさ」
なるほど、生存者である俺達は切り捨てられたわけか……「選ばれた人間達」が考えそうな事だ。
大方、ゼロによる感染拡大の為に、あらかじめ用意された地域なのだろう。
「つまり、これから政府や軍の助けは一切無いと考えた方が良いって事だ」
「……相沢。俺は良いニュースの方からと言ったはずだが?」
「今のが良いニュースだ。悪い方はな……簡単にいえば時間制限があるって事だ」
時間制限……? 嫌な予感がするが。
「細菌兵器ってヤツは、処理する際に高熱で焼き払うのが定石なんだわ。ゼロを細菌兵器と同じように扱うのは正直どうかと思うが……ゼロが感染拡大した際の最終手段があってな」
最終手段だと?まさか……核兵器か!? ゾンビ映画やゲームの中で描写として見た覚えがあるが、そんな事をすれば放射能汚染で地球は死の星になってしまう。
そんな事は決して許されない……
「……核を使うんじゃないだろうな?」
「オイオイ……感染者が多い大都市に対する手段なんだぜ?そんな事をすれば未来永劫、人が住めない世界になっちまう。そこまで馬鹿な事はしないさ」
では、一体何を使う気なのか……?
「俺も詳しい事は分からないんだが……なんちゃらって言うプラズマを利用した新型ミサイルを使うらしい。効果範囲にいる生物を超高熱で焼き払う「クリーン」な兵器だそうだ。そこにいる生物は亡霊のように消え去ってしまうってわけよ」
相沢は続けて言った……
そのミサイルの名は「亡霊ミサイル」だと……




