ゼロイーター
「……相沢……煙草の灰がこぼれそうだぞ」
「ん?……おぉっ!?スマンスマン」
黙って話を聞いていた相沢は、手に持った煙草の火を消し、飲み終わった缶コーヒーの中に入れた。
「なるほどねぇ~……お前さんが街に残っていた理由が、やっとこさ分かったぜ」
相沢は窓を開けると再び煙草に火をつけた。
「信念……いや、それとも男の意地って言った方がいいかなぁ……今時、流行んねぇぜ?「一本木気質」なんて奴は」
「意地」……か。言われてみれば、たしかにそうかもしれない。
葛城家の長男として弟を探す……友の遺言を叶える為に桜を探す……そんな御大層な名目を掲げなから、俺が俺であるために……
葛城相馬として生きていきたいが為に、意地になって2人を探していたのかもしれないな。
「だけどな……俺は嫌いじゃないぜ?お前みたいな奴はよ。マリアから【お前さんの護衛の依頼】を受けたが、個人的に協力したくなったぜ」
……相沢が護衛? ありがたい話しではあるが。
ロストの社員であるマリアからの依頼となると、俺の体内にあるゼロの「経過観察」と見るべきなのだろうか? それとも……
「あとな……さっきの話しの内容だと、お前さんの弟である正平君は、マリアが探していた「適合者」の可能性があるからな」
……なるほど。こちらが「本命」と言うわけか
「ズバリ当ててやろうか?お前は自宅に戻ったが弟はいなかった……そうだろ?」
「その通りだ……正平は居なかった。お袋の遺体も無くなっていた。あれほどの致命傷を受けたにも関わらず遺体を外に運び出せるものだろうか、と疑問に思ってはいたが……」
ゾンビになったら、お袋の遺体を運び出す事などせずに部屋を徘徊していたはず……例のサイコヘッドとやらになったとしても奇妙な行動だ。
俺と同じく弟もゼロと共生している可能性はある。
「マリアが言ってたぜ……ゼロと適合しているのは、お前達の遺伝子が関係している可能性があるとさ。兄弟とはいえ、まったく遺伝子が同じなわけじゃねぇ。どっちが優性だか劣性だが……詳しい事は分かんねーがな」
遺伝子……か。
人間の遺伝子は全て解明されてはいないと聞いた事があるが……俺の遺伝子にゼロが共鳴する何かがあるのだろうか?
「それともう一つ……お前さんのゼロについて分かった事がある。これはお前にとっても「これから」の人類にとっても良いニュースだ」
「……良いニュース?」
相沢の話しによると、マリアは俺の血液を使って「ある実験」をしたそうだ。
徘徊するゾンビを1体捕獲し、俺から採取した血液を注入した所……そのゾンビは体の内側から溶けるように消滅したらしい。
まるで細胞が喰われているかのように……
「マリアは便宜上、コイツを「ゼロを喰らう者」として【ゼロイーター】と名付けた。ZEウィルスとも呼べるがな」
……ゼロイーター
ゼロを喰らうゼロ……まさに「共食い」だな




