守護者【上】
「…………っ!? ここは……?何故こんな所に……?」
意識が戻った時、俺は自宅から遠く離れた人気の無い郊外の道をバイクで走行中だった。
……変異した母を殺し、弟がゾンビになってしまう「残酷な現実」を突きつけられた後の記憶が無い。
「俺は……「あの場所」から逃げたのか。現実を受け止める事が出来ずに……」
これほど自分を恥じた事はない……友を無残に死なせ、自分の母親を手にかけ……無意識とはいえ、守るべき弟を見捨てて俺は逃げたのだ。
「…………っ!!」
走行中に自責の念に捕らわれていた俺は、暗闇の中に突然現れた人影に気付かず、回避操作を誤り転倒した。
バイクは横滑りに転がり、空中に投げ飛ばされた俺は地面に激しく叩きつけられた。
どうにか立ち上がったが、右肩に激しい痛みを感じた……とてもじゃないが腕を動かせる状態ではない。
「……肩が……外れたか」
倒れたバイクの方に目をやると、ヘッドライトの光が、先ほどの人影の正体を照らしていた……そこには、ゾンビとなった人間が俺を凝視していた。
「……無様な人間には無様な死こそが相応しい、と言うことか……好きにしろ」
抗う事は出来た……だが、「生きる気力」を無くした俺には死を受け入れる事しか出来なかった。
全てを諦め、目をつぶろうとした……その時。
道路の脇道から人影が躍り出て、ゾンビの頭を棒状のような物で殴り倒した。
「君っ!動けるかっ!?はやく逃げるぞっ!」
俺は見知らぬ人間に腕を引っ張られながら、近くの一軒家に逃げ込んだ。
「……やれやれ、まずは一安心と言ったところか。ここの住人は、家の鍵をかけずに逃げ出したらしい。職務がら、こんな真似はしたくはないんだがなぁ……」
薄暗い家の中で目が慣れてきたのか、助けてくれた人間が徐々に見えてきた。
茶色のコートを羽織っているが見慣れた青い制服……俺を助けてくれたのは年老いた警官だった。
「貴方は……少年課の笹本さんか?」
「ん……そうだが?……っ!?お前っ!葛城相馬かっ?」
少年課の笹本……俺が中高と荒れていた時代に「お世話」になった人だ。
まさかこんな所で出会うとは……
「いやいや……お前だったとはなぁ。つくづく我々には縁があるらしい。酒でも飲みながら積もる話の1つもしたい所だが……どうにも状況がな」
「えぇ……最悪ってヤツです……ぐっ!」
右肩を痛がっていたのを気付いた笹本さんは、俺の肩に手を当てて状態を調べ始めた。
「脱臼だな……荒療治にはなるが俺が治してやろう。だが……そうとう痛いぞ?」
「お……お手柔らかに……ぐあっ!!!」
詳しくは分からないが、笹本さんは俺の肘と肩を持って「激痛」を伴う施術をほどこした。
「痛みはあるが、これで肩は大丈夫だ……しかし、たいした根性をしているな。大の大人でも激痛で転げ回るほどなんだが……さすがは「アウトサイダー」の葛城相馬ってところかな?」
笹本さんは誉めていたが、尋常ではない激痛に気を失いそうになった。
痛みに耐えられたのは警官である笹本さんに、どうしても聞かなければならない事があったからだ。
「や……やせ我慢です。それより笹本さん……教えて下さい。この街は……どうなってしまったんですか?あの化物達はどこから?」
笹本さんは、1つ溜息をつくと俺に語り始めた……




